■ 第1章:仕組まれたフィッティング ■
神楽坂 怜奈「えっ……あの、このドレスですか?」
神楽坂 怜奈は、ハーフアップにまとめた艶やかな漆黒の髪を揺らし、濡れた長い睫毛の奥にある、怯えたように潤んだ瞳で目の前の布地を見つめた。
上品なレースがあしらわれた、清楚な純白のワンピース。
その上からでも隠しきれない、しなやかで華奢な身体のラインが、緊張で小さく強張る。
彼女の白く細い指先が、差し出された漆黒のシルクドレスの、滑らかな生地に恐る恐る触れた。
室井 誠治「ええ。お客様のその透き通るような白い肌には、この深い黒が間違いなく映えます」
仕立ての良いシャツを着こなし、黒縁メガネの奥にある切れ長な瞳を細めて、誠治は極めて紳士的な笑みを浮かべた。
神楽坂 怜奈「でも、背中がこんなに開いているなんて、私には少し……」
室井 誠治「とてもよくお似合いですよ。お客様の秘められた美しさを引き出すのが、私の役目ですから」
低く、チェロの低音のように響く誠治の甘い声が、怜奈の耳朶を優しく撫でる。
怜奈は彼の放つ独特の威圧感に押し切られるように、促されるまま、重厚なベロアのカーテンの向こうへと足を踏み入れた。
薄暗い個室の中には、どこか甘く重い、彼が身にまとっているものと同じ白檀の香水が微かに漂っている。
狭い空間。切り取られた光。
呼吸をするたびに、彼の香りが肺の奥まで染み込んでくる。
怜奈は震える手で白いワンピースのファスナーを下げ、そっと床へ滑り落とした。
下着姿になった華奢な身体が、冷えた空気に晒されて小さく震える。
漆黒のドレスに腕を通し、背中を大きく露出させたまま、背後のファスナーに手を伸ばした。
しかし、指先は無情にも空を切り、冷たい金属の引き手に届かない。
トクン……トクン、と、心臓が大きく跳ねた。 ♥
カーテンの向こう側から、呼吸の音さえもしない、不自然なほど静かな、しかし確かに存在する強烈な気配を感じる。
……近すぎる。すぐそこに、誰かが立っている?
神楽坂 怜奈「あの、どなたですか……? そこにいるのは……」
返事はない。ただ、密閉された空間の外側で、衣服が擦れる微かな音が、鼓膜に直接滑り込んできた。
冷や汗が首筋を伝う。
逃げ道は、そのカーテンの向こう側しかない。
背中を大きく晒した無防備な姿のまま、怜奈は身を硬くして立ち尽くした。
室井 誠治「お困りのようですね。お背中、お手伝いしましょう」
スッとカーテンが僅かに開いた。
差し込んできた薄暗い店舗の光の中に、誠治の背の高い影が、音もなく滑り込んでくる。
神楽坂 怜奈「あっ……だめ、です、まだ着替えて……!」
室井 誠治「大丈夫ですよ。誰も見ていませんから」
彼の冷たい指先が、剥き出しになった怜奈の柔らかいうなじを、羽毛のようにかすめた。
瞬時に、肌にゾクゾクとした粟が立つ。 ♥
避ける間もなく、華奢な肩を彼の大きな手がしっかりと、しかし極めて優しく掴み、逃げられない力強さで固定した。
鏡の中に映る、恥じらいで頬を染めて乱れた自分の姿と、その背後にぴったりと張り付く誠治の大きな体躯。
彼の指先がゆっくりと、ドレスの冷たいファスナーを上へと引き上げていく。
金属の冷たさと、彼の指が放つ熱が、交互に背筋を焦がすように這い上がる。
室井 誠治「いつも木曜日、大学の帰りに寄ってくださる。紅茶はアッサムがお好きですね?」
神楽坂 怜奈「え……? なんで、それを……」
全身の血が、一瞬で凍りつく。
彼には一度も、自分の私生活はおろか、好みの紅茶のことなど話した覚えはなかった。
室井 誠治「ピアノの練習、いつも夜の八時まで頑張っていらっしゃる。あの部屋の窓から見える夕日は、本当に綺麗でしょう」
神楽坂 怜奈「あ、あ、ああ……っ!」
奈落の底へ真っ逆さまに突き落とされるような、目眩を伴う感覚。
目の前の男は、自分のすべてを、呼吸の回数すらも数えているかのように、把握していた。
逃げられない。この薄暗い試着室の、彼の手の届く範囲から。
■ 第2章:甘い侵食と鏡の中の自分 ■
神楽坂 怜奈「あ、あなたが……私をずっと、見ていたんですか……?」


怜奈は鏡に映る誠治の冷徹な笑みを見つめ、歯の根を合わずに震わせた。
ハーフアップにまとめた黒髪が不規則に揺れ、露わになった白い首筋に冷や汗が伝う。
室井 誠治「人聞きが悪いですね。私はただ、不届き者から貴女を保護していただけです」
誠治は怜奈の耳元に唇を寄せ、熱い吐息をその繊細な耳裏に吹きかけた。
ドクン、ドクンと、怜奈の心臓が早鐘を打つ。 ♥
室井 誠治「貴女の部屋を覗き見ていた卑劣な男がいたでしょう? 彼を排除したのは、この私ですよ」
神楽坂 怜奈「えっ……あの、つきまとっていた人、を……?」
あの恐ろしい影から、この人が私を救ってくれた……?
仕組まれた言葉の毒が、恐怖に怯える怜奈の思考を急速に侵食していく。
誠治の手先が、ドレスの開いた背中からうなじへと、ねっとりと這い上がった。
神楽坂 怜奈「あ、んっ……だめ、冷たい、です……っ」
室井 誠治「こんなに震えて。可哀想に、もう何も怖がる必要はありません。私の腕の中だけが、貴女の安全な檻です」
吸い付くような指先が、最も敏感なうなじのくぼみを深く撫で上げる。
ぞくりとした甘い痺れが、怜奈の背筋を電流のように駆け抜けた。 ♥
頭の芯が急激に熱を持ち、目の前が明滅するような錯覚に囚われる。
恐怖が、彼の与える甘美な刺激によって、ドロドロとした依存の快感へとすり替わっていく。
神楽坂 怜奈「はぁ、ぁ……室井、さん……わたし、どう、して……っ」
室井 誠治「素直な身体だ。このまま私にすべてを預ければ、もっと気持ちよくなれますよ」
彼の指が怜奈の耳裏に触れ、細かく円を描くように優しく、執拗に刺激を伝えていく。
神楽坂 怜奈「ん、んぅ……あっ、は、あぁ……っ!」
鏡の中の自分は、頬を朱に染め、だらしなく唇を開けて熱い息を吐き出している。
清楚だったはずのワンピース姿の面影はなく、淫らなドレスに身を包まれている。
拒絶しなければいけないのに、彼の腕から離れたら、またあの闇に放り出されてしまう。
神楽坂 怜奈「お願い、です……私を、ひとりに、しないで……」
室井 誠治「ええ、決して離しません。貴女がそう望むのなら」
誠治の瞳に、獲物を完全に捕らえた確信の光が宿る。
怜奈はみずから、彼が差し伸べた甘い拘束に、深く首をうずめた。
■ 第3章:完全なる屈服と檻の完成 ■
室井 誠治「ほら、鏡をよく見てください。こんなに乱れた顔をして、私の腕にしがみついている」
誠治の長い指が、怜奈の濡れた顎を強引に上向かせ、目の前の巨大な三面鏡へと固定した。
鏡の中には、ハーフアップの黒髪を崩し、露わになった肩を赤く染めて喘ぐ、自分の姿が映し出されている。
清楚な白のワンピースは足元に無残に脱ぎ捨てられ、今は背中が大胆に開いた黒いシルクドレスだけが、辛うじて彼女の身体を覆っていた。
神楽坂 怜奈「あ、あう……これ、は……わたし、じゃ、ない……っ」
室井 誠治「いいえ、これこそが本当の貴女だ。私に暴かれ、愛されるために生まれてきた、従順な小鳥ですよ」
誠治の手が、ドレスの薄い生地越しに怜奈の豊かな胸の膨らみを包み込み、ゆっくりと揉みほぐしていく。
ドク、ドク、ドクと、重なり合う二人の鼓動が、狭い試着室の空気を震わせた。 ♥
彼の指先が、ドレスの隙間から滑り込み、熱を帯びた脇腹から柔らかな内腿へと変幻自在に這い下りていく。
神楽坂 怜奈「んぁ、ぁ、はぁっ……! む、室井、さん……そこ、は、だめ、ぇ……っ!」
室井 誠治「だめではありません。貴女をこんなに熱くして、守ってあげられるのは私だけなのですから」
耳裏を這う熱い舌先と、秘められた柔らかな花弁の奥へと近づく指先の愛撫が、怜奈の最後の理性を激しく揺さぶる。
脳の芯がとろけていくような快楽の波が、全身の感覚を支配し、拒絶の言葉をすべて吐息へと変えていく。
この人はストーカーだった。私を監視していた。でも……私を、これほどまでに必要としてくれる人は、世界に他にはいない。
神楽坂 怜奈「は、ぅ……あ、ああ……っ! お、お願い、もっと、壊して……わたしを、全部、あなたの、ものにして……っ!」
完全に壊れた檻。
怜奈は自ら誠治の首にしがみつき、彼の胸に顔を埋めて、もっと深く貫かれるような密着を求めた。
彼の持つ異常なまでの独占欲も、狂気的な監視も、今や彼女にとっては極上のスパイスであり、絶対的な愛の証明。
狭い試着室の床に崩れ落ちながらも、絡み合う二人の影は、二度と引き剥がせないほどに溶け合っていく。
室井 誠治「もう、私の目以外には何も映らなくていいんですよ、怜奈」
神楽坂 怜奈「はい……私、室井さん、の……お人形、に、なります……」
首筋に優しく刻まれる痛みに身を委ねながら、怜奈は甘い痺れのなかで、かつてないほどの至福の微笑みを浮かべた。