第一章: 灰降る温室の目覚め
泥のような灰。硝子の天井を滑り落ちる、世界の残骸。
ひんやりと冷たい大理石の床。散らばる艶やかな黒髪。琥珀色の瞳が、ただ虚ろに空間を彷徨う。
純白の布地が、身体のラインを無慈悲に浮き彫りにする。白く華奢な肌に深く食い込む、拘束具の冷酷な革。
結衣「ここは……どこ、ですか……?」
乾いた唇。そこから微かな声がこぼれ落ちる。
冴木「目覚めたか、大罪人」
鼓膜を直接撫でるような、低く冷徹なバリトン。
銀の混じる黒髪。感情を根こそぎ削ぎ落とした、氷のような瞳。見下ろすのは、隙のない純黒に身を包んだ男。
結衣「あなたは……私は、何を……」
冴木「君の罪が、世界を焼いた」
黒い革手袋に包まれた指先。空中のコンソールを、ひっそりと弾く。
シューッ。無機質な音。
直後。肺の奥底まで絡みつくような、むせ返るほど甘い薔薇の腐臭。
ドクン、ドクン
結衣「あっ……な、に、これ……!」
喉の奥が焼け焦げる。熱い。
指一本触れられていない。それなのに、下腹部の奥底からドロドロとした熱が湧き上がる。痙攣する太ももの内側。純白の股間部分が、じわりと生ぬるい湿りを帯びる。
冴木「贖罪の時間だ。君には、私の視線と吐息だけで狂ってもらう」
「ひっ……あ、ああっ……!」
氷色の瞳。見つめられている、ただそれだけ。全身の産毛が粟立ち、秘所がギュンと収縮する。
結衣「やめ……見ないで……そんな目で、私を……っ!」
擦り合わせようとする両脚。だが、大理石に固定された拘束具がそれを赦さない。
冴木「見せつけろ。君の醜い本性を」
あと少し。あと少しで、その先へ届く。熱く張り詰める真珠の粒。白濁した甘い蜜が、太ももを伝い落ちる。
だが、男はふいと視線を逸らす。
結衣「あ……うそ、待って……」
急速に引いていく波。取り残された熱。ひび割れそうな焦燥。
未知の渇き。それは理性の防壁に、深々とヒビを入れる。
どうして。触れられてもいないのに、どうしてこんなに……欲しいの?
震える両脚の間。そこに残された熱い雫が、彼女の脳髄をゆっくりと溶かし始める。
第二章: 見えざる指先と電流
ジジッ……!
結衣「ああっ! いや、ごめんな、さい……っ!」
首輪から流れる微弱な電流。
床に這いつくばる結衣の背中。弓なりに反り返る華奢な身体。焦げた皮膚の微かな臭気が、鼻腔を突く。
冴木「私の許可なく声を出すなと言ったはずだ」
スピーカーから響き渡る、冷酷なトーン。
ここは逃げ場のない箱庭。男は決して姿を見せない。監視カメラの向こう側から、完璧な遠隔支配を行っている。
結衣「お願い、もう許して……これ以上は、頭がおかしくなってしまいます……」
冴木「なら、どうして欲しい? 君の口で言え」
カチリ、とスイッチの音。
首の後ろ、耳の裏。結衣の敏感な部分だけを的確に狙い撃つ。特殊な周波数の音波が空間を震わせる。
結衣「あぁぁっ……! だめ、それ、だめぇっ!」
♥ドクン、ドクン、ドクン[/Heart]
熱く濡れた洞窟。見えない指で掻き回されている錯覚。
白目を剥き、よだれが口端からだらだらと糸を引く。
極限の絶頂。それが喉元まで迫る。だが、カチリと音が止む。
結衣「あ……ぁ……」
またしても、寸止め。
浅くなる呼吸。視界が白く明滅する。口の中に広がる血の鉄の味。
冴木「己の口で懇願しろ。私にすべてを委ねると」
結衣「あ……どうか、私を……」
琥珀色の瞳。そこから大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
結衣「どうか、私を壊してください……っ! あなたの、おもちゃに……っ!」
カチン。
脳の奥深く。道徳観と尊厳が、根元からへし折れる音。
第三章: 扉の先の冷笑
灰色の作業服をだらしなく着崩した男。茶髪の無造作な髪型。どこか濁った瞳。
汗と埃の混じった酸っぱい匂いが、鼻腔を突く。
桐谷「結衣ちゃん、俺が助けてやるよ。あんなイカれた野郎より、俺の方がずっと優しいぜ?」
清掃員として出入りする元同僚、桐谷。
壁の死角。監視カメラの首が回るわずかな隙。
結衣「桐谷さん……本当、に……?」
桐谷「裏口のパスコードをハッキングした。一緒に行こう、ここから抜け出すんだ」
まだ、外の世界がある。まともな人間に戻れる。
差し伸べられた汗ばんだ手。結衣は震えながら、それを握り返す。
重厚な金属の扉。電子音と共に、ロックが解除される。
プシュウゥゥ……
顔を打つ冷たい外気。
だが、その先に待つものは希望ではない。
冴木「予定より三十秒遅いな、桐谷」
純黒の軍服。黒い革手袋。氷色の瞳が、這い蹲る虫けらを見るように二人を見下ろしている。
結衣「え……?」
膝から抜ける力。冷たい鉄格子の床に崩れ落ちる身体。
桐谷の口端。それが三日月のように不気味に歪む。
桐谷「へへっ……どうっすか、ご主人様。極上の絶望顔っすよ」
結衣「桐谷さん……? なにを……」
冴木「ご苦労だった。役目は終わりだ」
冴木の指先が僅かに動く。
その瞬間。桐谷が己の両手の親指を、自身の濁った眼球へと深く突き立てる。
ブチュウゥゥゥッ!!
「あぎゃあああああああ!! これでいいですか、ご主人様ぁぁぁ!!」
血飛沫。純白のドレスに散る、生々しい赤い斑点。
結衣「ああ……ああああ……っ!」
眼球を潰し、狂ったように笑い転げる桐谷。冷笑を浮かべる冴木。
喉の奥で詰まった嗚咽。それは声にならず、冷たい空間へ溶けていく。
第四章: 軍靴にすがる花弁
扉の向こう側。そこには、ただ無限に続く死の灰の砂漠。
鉛色に淀む空。生命の息吹は、どこにもない。
冴木「現実を見ろ。君の帰る場所など、最初から存在しない」
足元でピクピクと痙攣する、かつての同僚だった肉塊。
私が逃げようとしたから。私のせいで、彼をこんな姿に。
結衣「あ……あぁ……」
ガチガチと歯の根が合わない。
息をするたびに、肺が千切れるように痛む。
押し潰されそうな孤独。頭をかきむしりたくなるほどの自責の念。
ここから逃れる方法。それは、たった一つしかない。
四つん這いになる結衣。純黒の軍靴へと這い寄る。
泥と血にまみれた床に額を擦りつける。革のブーツの先端に、震える唇を落とす。冷たい革の匂いが鼻を掠める。
結衣「私から、すべてを奪って……」
冴木「聞こえないな」
結衣「私を……あなたの所有物にしてください。思考を、心を、すべて空っぽにして……っ!」
黒い革手袋が、艶やかな黒髪を乱暴に鷲掴みにする。
強引に上を向かされる顔。氷色の瞳と視線が絡み合う。
冴木「君には思考など必要ない。ただ私の与える快楽に溺れ、啼いていればいい」
ドクンッ!!
視線が貫いた瞬間。脳髄の奥底で、何かが致命的に弾け飛ぶ。
「あ、あぁぁぁぁぁぁっ!! だめ、壊れる、真っ白になるぅっ!」
全身の筋肉が痙攣する。熱く火照った花芯から、とめどなく愛の蜜が噴き出す。
底なしの甘い泥沼。それが彼女のすべてを飲み込んでいく。
第五章: 永遠の朝焼け
朝焼けの光。ステンドグラスを透過し、七色の模様を大理石の床に描く。
無音の温室。美しい幾何学模様を描くように配置された拘束具の中央。
純白の布地はすでにボロボロの切れ端と化し、剥き出しの白い肌が朝の光を乱反射する。
結衣「ご主人様……見て、いますか……?」
琥珀色の瞳。そこには、もはや一切の濁りがない。澄み切った虚無。
監視カメラの赤いランプ。ゆっくりと点滅する。
冴木「美しい。完璧な人形だ」
スピーカー越しの吐息。ただ、それだけで。
結衣「あっ……はぁっ……!」
結衣の背中が跳ねる。
見えない指先。それが敏感に尖った突起を撫で上げる。濡れそぼった洞窟の最奥を、容赦なく抉る錯覚。
♥ドクン、ドクン、ドクン[/Heart]
結衣「あぁっ、ご主人様の……視線だけで、私、おかしくなるぅ……っ!」
誰にも触れられていない。ただカメラに見つめられているだけ。
それなのに。彼女の身体は極限の絶頂を迎え、ガクガクと激しく震えながら白濁した生命の飛沫を空中に散らす。
冴木「永遠に、私の檻の中で啼き続けろ」
「はい……私、幸せ、です……っ。あ、ああっ、あぁぁぁっ……!」
倫理もない。尊厳もない。
だが、そこには一切の迷いなどなかった。
灰の雪が降り積もる、滅びゆく世界。
狂った支配と服従。それだけが、二人を繋ぐ唯一の愛の証明。