第一章: 剥がれ落ちる虚栄
[A:エリス:怒り]「あなたのような気味の悪い男、もう限界ですわ! 生理的に無理なのよ!」[/A]
甲高い叫びがステンドグラスを震わす。大聖堂の冷たい大理石の床。そこに吸い込まれていく拒絶の残響。
血と泥でべったりと薄汚れた、サイズ違いのブカブカの白衣。その襟元から覗く細い首筋から手首の先まで、無数の黒い縫い目がミミズのように這い回る。光を一切反射しない漆黒の三白眼。瞬きひとつせず、ただ穏やかな笑みを口元に貼り付けるシオン。
[A:クレイン:怒り]「エリスの言う通りだ! 俺は選ばれた勇者だぞ! お前みたいな底辺の解体術士と一緒にいると、こっちまでスラムの腐臭が移るんだよ!」[/A]
踏み出すクレイン。輝く純銀の鎧が擦れ合う金属音。だが、剣の柄を握る彼の左腕だけが、不自然に丸太のように肥大化し、皮膚の下で蠢く黒い血管。
[A:シオン:冷静]「そう。僕の手術の跡が、そんなに嫌だったんだね」[/A]
[A:エリス:怒り]「気安く私に触れないで、この寄生虫が! 傷を治すのに他人の肉を継ぎ接ぎするなんて、吐き気がしますわ!」[/A]
陽光を弾く金色の巻き髪と、仕立ての良い純白の法衣。鼻先をハンカチで覆うエリス。だが、彼女の首筋の一部だけが、爬虫類の鱗のように不自然なツヤを帯びていることに、彼女自身は気づいていない。
シオンの喉仏が、ゆっくりと上下する。
[Think]見捨てられる。また、独りぼっちだ。[/Think]
鼻腔を突くのは、高価な香水の甘ったるい匂いと、微かに混じる防腐剤の鋭い臭気。
踵を返すシオン。足を引きずるような、間延びした足音が遠ざかる。
[A:シオン:冷静]「わかったよ。今までありがとう。気をつけてね」[/A]
あっけない別離。彼らの嘲笑が背中に突き刺さる。
だが、予定調和の舞台は、わずか三日後に音を立てて崩れ去った。
王都、白亜の塔。
鏡台の前に座るエリスの指先。小刻みな痙攣。
[Tremble]カチャ、カチャカチャカチャ。[/Tremble]
床に滑り落ちた銀のクシ。
美しいはずの頬。その中心に浮き出たどす黒い染み。
指で触れた瞬間、ズルリ。
熟れすぎた果実のように、彼女の顔半分の皮膚が滑り落ちる。
[A:エリス:驚き]「あ……え……?」[/A]
鏡の中で収縮する、剥き出しになった赤い筋肉の繊維。
同時刻。修練場にいたクレインは、自身の左腕から噴き出す緑色の体液を浴びていた。
パンッ、と弾ける破裂音。誇り高き剛腕の筋肉が、内側からボロボロと崩れ落ちていく。
[Impact]彼らの圧倒的な力と美貌は、シオンの「生体維持」がなければ即座に腐る、劣悪な借り物。[/Impact]
[A:クレイン:絶望]「なんだこれ……嘘だろぉぉぉ!?」[/A]
[A:エリス:狂気]「いやああああっ! 私の、私の顔がぁぁぁ!!」[/A]
[Glitch]崩壊のカウントダウンが、今、最悪の形で幕を開けた。[/Glitch]
◇◇◇
第二章: 死の森と腐肉の行進
分厚い雲が月を隠す、死の森。
腐葉土の湿った匂いと、新鮮な血の鉄の味が空気に溶け込む。
[A:ガロ:喜び]「アゥウゥゥゥ……」[/A]
巨大な狼の胴体。そこから不規則に生えた五本の人間の腕が、シオンの白衣の裾を不器用に掴む。背中で蠢く濡れた黒い翼。その歪な首元に巻かれた、不釣り合いな白い花飾り。
[A:シオン:愛情]「いい子だね、ガロ。痛いのは最初だけだから。これで僕たちは家族だよ」[/A]
シオンの冷たい指先。毛皮と人間の皮膚の境目にある粗い縫い目を撫でる。
ゴロゴロと、ガロの喉が甘えるような音を鳴らした。
[Think]裏切らない。捨てない。絶対服従の愛おしい肉の塊。[/Think]
一方、王都の城門を這い出る二つの影。
かつての栄光は、見る影もない。
[A:クレイン:絶望]「痛ぇ、痛ぇよぉ……! 肉が、骨から剥がれるっ!」[/A]
赤黒く錆びついたクレインの銀の鎧。自らの身体から滲み出る腐敗液のせいだ。肥大化していた左腕は萎縮し、骨が皮膚を突き破って空気に晒されている。息を吸うたびに、肺の中で弾ける血の泡。
[A:エリス:悲しみ]「嫌……こんなの、私がこんな醜いなんて……シオン、シオンはどこですの……!」[/A]
純白の法衣は、膿と泥でどろどろに汚濁。抜け落ちた金色の髪。半分崩れた顔には、無数の小さな肉芽が蠢く。
他者を見下すことでしか息ができなかった傲慢な聖女。
己の才能を過信していた卑屈な勇者。
彼らの尊厳は、極限の絶痛によって完全に粉砕されていた。
[Pulse]ドクン、ドクン、ドクン。[/Pulse]
命を繋ぐためには、虫けらのように蔑んだあの男に縋るしかない。
泥水に顔を突っ込みながら、ずるずると死の森へ体を引きずる二人。
プライドも、正義も、すべてが痛覚の前にひれ伏す。
暗闇の奥深く。獲物を待つ蜘蛛のように冷たい光を宿すシオンの三白眼が、彼らの到来を待っている。
◇◇◇
第三章: 予定調和の破壊
森の最奥。腐った大樹の根元。
雲の隙間から差し込む月光。白衣の少年を青白く照らし出す。
[A:クレイン:狂気]「シオン!! そこにいるんだろ! 早く俺たちを治せぇぇぇ!!」[/A]
木々の間から転がり出てきたのは、もはや人間と呼ぶのもおぞましい肉の塊。
残された右腕で剣を振り上げるクレイン。恐怖と屈辱が、彼の理性を限界まで焼き切る。
[A:エリス:狂気]「生け捕りにしなさい! その気味の悪い両腕を切り落としてでも、術を吐かせるのよ!」[/A]
エリスの残った片目。血走って大きく見開かれる。
[Shout]「死ねぇぇぇ!!」[/Shout]
刃がシオンの首筋に迫る。
しかし。
[Impact]ガキンッ![/Impact]
響き渡る鈍い金属音。
一歩も動かないシオン。剣は、彼の首の数センチ手前で、見えない壁に阻まれたようにピタリと止まっている。
いや、違う。
完全に硬直していたのは、クレインの腕そのもの。
[A:クレイン:驚き]「な、なんだ……!? 腕が、動か……」[/A]
[A:シオン:冷静]「おかえり。二人とも、ずいぶんと醜くなっちゃったね」[/A]
三日月のように吊り上がるシオンの唇の端。
ゆっくりと歩み寄る彼。クレインの震える頬を優しく撫でた。氷結するような冷たさが、クレインの背筋を駆け上がる。
[A:エリス:恐怖]「な、なにをしたの……魔法が、神聖魔法が発動しないっ……!」[/A]
印を結ぼうとするエリス。だが、指先からこぼれるはずの光は一切生じない。
小首を傾げるシオン。甘ったるい声で囁く。
[A:シオン:冷静]「魔法? 剛力? 神に選ばれた才能?」[/A]
[Whisper]クスクス、クスクスクス。[/Whisper]
森の静寂を切り裂く、抑えきれない笑い声。
[A:シオン:狂気]「ねえ、どうして自分たちの力だなんて、勘違いしちゃったの?」[/A]
限界まで開くシオンの瞳孔。異常に膨張する黒目の面積。
[A:シオン:狂気]「君たちの心臓も、脳の髄も、とうの昔に僕が作った魔物の臓器とすり替えてあるんだよ」[/A]
[Flash]脳の髄まで、魔物の臓器。[/Flash]
止まるエリスの呼吸。膝から力が抜け、湿った土の上に崩れ落ちるクレイン。
彼らは勇者でも聖女でもない。
最初から、シオンという狂気の水槽で泳がされていた、ただの実験動物。
世界の前提が、根底から裏返る音がした。
◇◇◇
第四章: 鮮血のパズル
[Sensual]
[A:エリス:狂気]「いやあああああ!! 嘘よ、嘘よ嘘よ嘘よぉぉぉ!!」[/A]
自我が崩壊する絶叫。
頭を掻き毟るエリス。だが、その両腕は突如として彼女自身の意志から完全に独立し、蛇のように彼女の細い首をギリギリと締め上げ始めた。
[Tremble]「がっ……あ、あ、はなっ……!」[/Tremble]
剥き出しの白目。だらりと飛び出す舌。
[A:クレイン:恐怖]「やめろぉぉぉ!! 悪かった、俺が悪かった! 助けてくれ、死にたくねぇぇぇ!!」[/A]
土下座し、額を泥に擦りつけるクレイン。かつての傲岸不遜な姿は微塵もない。
静かにメスを取り出すシオン。冷たい月光を反射する銀色の刃。
[A:シオン:悲しみ]「どうして僕を捨てたの? あんなに、こんなに完璧にしてあげたのに」[/A]
ポロポロと。
シオンの三白眼から溢れ落ちる透き通った涙。それは純粋な悲哀。倫理観が完全に欠落した、底なしの孤独。
泣きながら、クレインの胸元に優しく刃を滑らせる。
[Impact]「ぎゃああああああああっ!!」[/Impact]
麻酔などない。生きたままの解体。
裂ける皮膚。露出する黄色い脂肪層。その奥で、どす黒い魔物の心臓が不規則なビートを刻んでいるのが見える。
むせ返るような臓物の臭気。口の中に広がる生温かい血の鉄の味。
[A:シオン:愛情]「大丈夫、痛いのは最初だけだから。ほら、君の心臓、こんなに綺麗に動いてるよ」[/A]
[A:ガロ:喜び]「ギルルルル……!」[/A]
涎を垂らしながら、クレインの切り落とされた右足に噛み付くガロ。肉が千切れる生々しい破裂音。
[A:エリス:絶望]「ひぃっ、あ……あぁぁ……」[/A]
首を絞められながら、涙と恐怖で歪むエリスの視界。
神聖な美少女の肉体。それがただの醜悪な肉の部品へと無惨に還元されていく。
内臓を引きずり出され、骨を砕かれながら、骨の髄まで思い知る二人。
自分たちが踏みにじった男の、異常な執着と狂気の深さを。
[/Sensual]
[Blur]視界が、赤く、赤く染まりきっていく。[/Blur]
◇◇◇
第五章: 永遠の接ぎ木
[Sensual]
血の海と化した森の中心。
そこには、バラバラにされたエリスとクレインの肉片が、パズルのピースのように美しく並べられていた。
まだピクピクと痙攣する筋肉。瞬きを繰り返すだけの目玉。
[A:シオン:愛情]「もう二度と離れないようにしてあげる。ずっと、ずっと一緒だよ」[/A]
血だらけの白衣を脱ぎ捨てるシオン。
そして、彼自身の首元の縫い目に指をかけ、一気に引き裂いた。
[Impact]ブチブチブチッ!![/Impact]
めくれ上がるシオン自身の皮膚。外気を浴びる内側の組織。
自らの肉体を解きほぐし、エリスの金髪がこびりついた頭蓋、クレインの剛腕、そしてガロの巨大な狼の胴体へと、自らの血管と神経を直接繋ぎ合わせていく。
[A:シオン:興奮]「あぁ……温かい……みんなの鼓動が、僕の中に流れ込んでくる……」[/A]
[A:ガロ:喜び]「アゥ、ウゥゥ……」[/A]
[A:エリス:絶望]「……ァ……」[/A]
[A:クレイン:絶望]「……ゥ……」[/A]
完全に消失する個人の意思。
残ったのは、幾本もの腕が絡み合い、複数の顔が表面に埋め込まれた、巨大で醜悪なひとつの肉塊。
森の冷たい空気の中、その化け物からはもうもうと白い熱気が立ち上る。
[Pulse]ドクン、ドクン、ドクン。[/Pulse]
エリスの口が、クレインの肺が、シオンの心臓が、ひとつの生命体として完璧な同期を始める。
世界から見れば、それは冒涜の極みであり、おぞましい怪物の誕生に他ならない。
だが。
[A:シオン:愛情]「……やっと、一つになれたね……」[/A]
肉塊の表面に浮かび上がったシオンの顔。そこには、この上なく穏やかで、満ち足りた微笑みが浮かんでいた。
究極の孤独からの解放。
歪みきった、しかし彼にとってはあまりにも純粋な救済の結末。
夜明けの光が木漏れ日となり、血塗られた肉塊を神々しく照らし出す。
彼らはもう、永遠に離れることはない。
[/Sensual]