108回死んだ俺は、最愛の君に殺される悪役を演じる

108回死んだ俺は、最愛の君に殺される悪役を演じる

主な登場人物

アルス・ヴァンガード
アルス・ヴァンガード
19歳 / 男性
色素の薄い銀髪に、虚無を宿したような氷のように冷たい金眼。黒を基調とした軍服のようなコートを羽織り、首元にはかつてルナから贈られた銀のペンダントを肌身離さず隠し持っている。痩せこけており、常に疲労の色が濃い。
ルナ・セレスティア
ルナ・セレスティア
18歳 / 女性
波打つような長い金髪と、強い意志を秘めた碧眼。白と青を基調とした神聖な騎士装束。常に背筋を伸ばし、凛とした空気を纏うが、その眼差しには深い悲しみが隠されている。
ゼクス・オブシディアン
ゼクス・オブシディアン
21歳 / 男性
燃えるような赤髪をオールバックにし、鋭い三白眼の黒瞳。豪奢な装飾が施された深紅の軍服を着崩している。口元には常に不敵で挑発的な笑みを浮かべている。
シオン・ブレイブ
シオン・ブレイブ
19歳 / 男性
短く刈り込んだ茶髪と、真っ直ぐな琥珀色の瞳。無骨だが動きやすい革鎧を身に纏う。右腕は精巧な鋼鉄の義手になっている。

相関図

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第1章:108回目の終焉

Scene Image

肺を内側から焼くような熱気が、王都の空を舐め回している。

舞い散る火の粉が頬の皮膚を焦がし、焼け焦げた肉と鉄の匂いが鼻腔の奥へべっとりと張り付いた。

色素の薄い銀髪が、吹き荒れる熱風に煽られて荒々しく揺れる。

アルス・ヴァンガードは黒を基調とした軍服のコートを翻し、足元の石畳を濡らす赤黒い水溜まりを冷徹に見下ろした。

[A:ルナ・セレスティア:絶望][Tremble]「なぜ……アルス……どうして……」[/Tremble][/A]

波打つような長い金髪は泥と血に塗れ、白と青の神聖な騎士装束は無惨に引き裂かれている。

アルスの手にある漆黒の魔剣が、彼女の胸の奥深く、心臓を避けた急所を正確に貫いていた。

ゴボリ。

ルナの桜色の唇から、泡立った紅い飛沫が零れ落ちる。

アルスは虚無を宿した氷のような金眼で彼女を見据え、刃をわずかに捻った。

[A:アルス・ヴァンガード:冷静]「お前たちの命など、俺の盤上の一齣に過ぎない。用済みの駒は捨てる、それだけだ」[/A]

平坦で、温度を持たない声。

傍らでは、かつての親友であるシオンが、右腕を肩から斬り落とされて血の海に沈んでいる。

[Pulse]ドクン、ドクン。[/Pulse]

アルスの心臓が、肋骨を内側から叩き割るほどの勢いで跳ねた。

コートの襟元に隠した銀のペンダント——かつてルナから贈られたそれが、皮膚に冷たく食い込む。

[System]『条件達成:対象者を世界の破滅から隔離しました。仮死状態の封印へ移行します』[/System]

アルスの視界の端にだけ、無機質なシステム音声が鳴り響く。

彼らを殺したのではない。やがて訪れる確定された破滅から逃がすため、仮死の術式を施した。

直後、天蓋がガラスのように割れた。

世界を喰らい尽くす『虚無の王』の厄災の炎が、地を埋め尽くすように降り注ぐ。

[Impact]熱。圧倒的な痛み。[/Impact]

自らの皮膚が急速に炭化し、血管内の血液が沸騰し、骨髄が灰へと変わっていく。

喉が裂けるまで絶叫したくなる激痛の中、アルスは薄れゆく意識でただ天を仰ぐ。

[Think]……108回目。また、駄目だった。[/Think]

[Think]今度こそ、俺だけが悪役になって、すべてを……[/Think]

[Flash]視界が激しい光の明滅に飲まれる。[/Flash]

全身の感覚が吹き飛び、激痛と共に見開いた目は、見慣れた木造の天井を映し出していた。

第2章:泥を啜る道化

Scene Image

窓から差し込む朝の陽光が、白いシーツを眩しく照らしている。

ここは3年前。士官学園の学生寮の一室。

アルスはベッドから這い出し、這うようにして洗面台の鏡を見た。

そこには、頬が痩せこけ、目の下にドス黒い隈を作った19歳の己の顔がある。

これまでの107回。共に手を取り合い、強大な敵に立ち向かう道を選んできた。

その度に、ルナの首が宙を舞い、シオンの胴体が両断される光景を眼球に焼き付けてきた。

胃の奥から酸っぱい胃液がせり上がる。

洗面台の縁に両手を強く押し当て、アルスは何度も激しい乾嘔を繰り返した。

喉の奥が焼け、涙が滲む。

蛇口を捻り、彼は氷のように冷たい水を頭から被った。

[A:アルス・ヴァンガード:狂気]「……変える。全部、根底から」[/A]

水滴が滴る顔を上げ、鏡の中の自分を睨みつける。

もう、誰も信じない。誰にも頼らない。

数日後、学園の裏手にある訓練場に、[Shout]血みどろの絶叫[/Shout]が響き渡った。

[A:シオン・ブレイブ:絶望][Shout]「が、ああああぁぁっ!!」[/Shout][/A]

無骨な革鎧を着たシオンが、大量の血を噴き出す右腕の断面を押さえ、地面をのたうち回っていた。

土煙が舞い、血の匂いが立ち込める。

アルスの手にある訓練用の剣は、いつの間にか真剣にすり替えられており、

その切っ先から、ぽたぽたと赤黒い雫が落ちる。

[A:アルス・ヴァンガード:冷静]「隙だらけだ、シオン。そんな腕前で戦場に出るつもりか」[/A]

見下ろすアルスの瞳には、一切の感情が浮かんでいない。

[A:シオン・ブレイブ:怒り][Tremble]「目を覚ませ、アルス! お前はこんな外道じゃなかったはずだ!」[/Tremble][/A]

血走った琥珀色の瞳が、激しい怒りと共にアルスを睨みつける。

これは、後の死の呪いを回避するための計画的な切断。あのまま右腕を残せば、シオンは一年後に呪毒に侵されて死ぬ。

だが、真実を語る口は持たない。

アルスは剣の血糊を払い、無言で踵を返した。

その日の夜、アルスはルナの故郷である辺境の村を訪れていた。

すでに村のあちこちから火の手が上がり、夜空を赤く染めている。

これは、地下に巣食う魔物の大群が地上へ溢れ出す前に、村人たちを秘密裏に避難させ、巣窟ごと焼き払うための偽装工作。

燃え盛る炎を背に、アルスはどしゃ降りの雨の中を独り歩く。

[A:ゼクス・オブシディアン:興奮]「傑作だな。お前、世界で一番イカれた道化だよ」[/A]

雨音を裂いて、闇の中から声が響いた。

燃えるような赤髪をオールバックにした男。敵対国である帝国の皇子、ゼクス・オブシディアン。

豪奢な装飾が施された深紅の軍服を着崩し、鋭い三白眼を三日月のように細めている。

アルスはぬかるんだ土の上で立ち止まり、剣の柄に静かに手をかけた。

[A:ゼクス・オブシディアン:冷静]「殺気立つなよ。俺はただの観客だ。……だが、お前、本当はなにを護っている?」[/A]

雨の冷たさが、アルスの体温を容赦なく奪っていく。

誰にも理解されない暗黒の道を、彼は一人で歩み始めた。

第3章:刃に宿る怨念

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聖都の礼拝堂。

ステンドグラスから差し込む色鮮やかな光が、冷たい石の床に歪な影を落とす。

ルナ・セレスティアは、巨大な女神の像の前に膝をついていた。

白と青の騎士装束を身に纏い、凛とした空気を漂わせているが、組まれた指先は白くなるほど強く握りしめられている。

[A:ルナ・セレスティア:悲しみ][Tremble]「どうして……どうして、彼が……」[/Tremble][/A]

絞り出すような声が、広大な堂内に虚しく吸い込まれていく。

初恋の相手だった。誰よりも優しく、不器用で、夜には星空を眺めるのが好きだった少年。

それが今や、大陸中を恐怖に陥れる「裏切りの魔導騎士」として悪名を轟かせている。

故郷を理不尽に焼かれ、親友の腕を奪われた事実が、彼女の胸を八つ裂きにしていた。

[A:シオン・ブレイブ:怒り]「ルナ。行くぜ、準備はできた」[/A]

重い足音が響き、背後から声がかかる。

短く刈り込んだ茶髪のシオンが立っていた。

失った右腕には精巧な鋼鉄の義手が装着され、鈍い機械音を立てながら光を放っていた。

琥珀色の瞳には、かつての友への激しい憎悪が燃え盛る。

[A:シオン・ブレイブ:怒り][Impact]「あいつは俺たちが斬る。……絶対にだ」[/Impact][/A]

[A:ルナ・セレスティア:冷静]「……はい。彼の罪は、私がこの手で断ち切ります。……かつて愛したアルス自身の、魂の救済のために」[/A]

細剣の柄を強く握り締め、ルナはゆっくりと立ち上がった。

二人が率いる討伐軍が、堂外で地を揺るがすような出陣の鬨を上げる。

その頃、世界の裏側。

アルスは暗く湿った地下室の魔法陣の中央で、真っ黒な泥のような『呪い』を自らの血管へと直接流し込んでいた。

[A:アルス・ヴァンガード:狂気][Glitch]「ごふっ……げ、は……っ」[/Glitch][/A]

黒い血と吐瀉物を床にぶち撒ける。

肉が腐り落ち、骨が軋みを上げる激痛。

世界の破滅を担う『虚無の王』の因子を、少しずつ己の肉体に取り込むための儀式。

命の灯火が削り取られていく感覚に耐えながら、彼は血まみれの口元で自嘲気味に嗤う。

[Think]……あと少しだ。これで、あいつらは生き残れる。[/Think]

第4章:歪な共犯者

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アルスの居城、最上階の執務室。

蝋燭の火が揺れる薄暗い部屋で、チェスの駒が盤上を滑る硬質な音が響いた。

[A:ゼクス・オブシディアン:興奮]「チェックメイトだ。……で、いつまで一人で泥を被るつもりだ?」[/A]

ゼクスは黒のナイトを指先で器用に転がしながら、挑発的な笑みを浮かべる。

アルスは喉元まで込み上げた血の味を無理やり飲み込み、盤面から視線を上げない。

[A:アルス・ヴァンガード:冷静]「何の話だ」[/A]

[A:ゼクス・オブシディアン:狂気]「とぼけるなよ。お前のその異常な先読み、自傷すら厭わない動き。……時間を繰り返してるな?」[/A]

[Pulse]場の空気が凍りついた。[/Pulse]

ゼクスは椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、アルスの顔を覗き込むように身を乗り出す。

[A:ゼクス・オブシディアン:興奮]「世界の裏に潜む『虚無の王』。お前はそれを自分の身に宿し、ルナたちに殺されるつもりだろ? 彼女たちを限界まで憎悪で強化して、自分ごと厄災を斬らせるために」[/A]

図星だった。

107回の死の果てに見つけた、唯一の打開策。

己を絶対悪として君臨させ、彼らの剣の錆となること。

ゼクスは腹を抱え、狂ったように大笑いし始めた。

[A:ゼクス・オブシディアン:狂気][Shout]「あははははっ! 最高だ! お前、本当に世界で一番イカれた道化だよ!」[/Shout][/A]

[A:アルス・ヴァンガード:冷静]「笑いたければ笑え。だが、盤面は俺の思い通りだ。……手伝うか、ゼクス」[/A]

金眼が、赤髪の皇子を真っ直ぐに射抜く。

[A:ゼクス・オブシディアン:興奮]「乗ったぜ。この退屈な世界で、お前のその狂った舞台ほど面白いものはねぇからな」[/A]

二人の視線が交差する。

善悪の概念を持たない観測者と、すべてを捨てる覚悟を決めた魔王。

歪な共犯関係が成立した瞬間だった。

城の外から、地響きのような鬨の声が聞こえてくる。

討伐軍が、ついに城の正門を突破したのだ。

第5章:血塗られた玉座

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[Impact]ガアアアァァン!![/Impact]

玉座の間の巨大な扉が、鋼鉄の義手による一撃で粉々に吹き飛ばされた。

舞い上がる土煙の中、ルナとシオンが殺気を纏って姿を現す。

[A:シオン・ブレイブ:怒り][Shout]「アルスゥゥゥッ!!」[/Shout][/A]

獣のような咆哮と共に、シオンが身の丈ほどある大剣を振り下ろす。

アルスは玉座からゆっくりと立ち上がり、黒いコートを翻してその一撃を片手で受け止めた。

激しい火花が散り、足元の石畳が蜘蛛の巣状に砕け散る。

[A:アルス・ヴァンガード:冷静]「遅い。その程度の力で、俺の首を取るつもりか」[/A]

[A:ルナ・セレスティア:怒り]「はぁぁぁっ!」[/A]

シオンの死角から、ルナの細剣が目にも留まらぬ速度で迫る。

[Flash]銀の軌跡が空を裂く。[/Flash]

アルスは体を捻り、刃を紙一重で躱しながら、彼女の重心のズレを剣の峰で軽く弾き飛ばす。

[Think]……いいぞ。速くなった。前のループよりも、遥かに洗練されている。[/Think]

彼が放つ剣撃は、すべてが緻密な計算の上に成り立ち、致命傷を避けていた。

防戦に見せかけた、苛烈極まる戦闘指導。

限界を超え、極限状態に置かれた二人の潜在能力を、アルス自身の残された命を削って引き出していく。

[A:シオン・ブレイブ:怒り]「舐めるなよ……俺のすべては、お前を殺すためにッ!」[/A]

鋼鉄の義手から高圧の蒸気が噴き出す。

シオンの渾身の横薙ぎが、アルスの展開した多重防壁を紙屑のように粉砕した。

アルスの体勢が、ほんのわずかに崩れる。

そこに、神聖な光を極限まで圧縮したルナの剣が、流星のように迫った。

[A:ルナ・セレスティア:悲しみ][Impact]「これで終わりです、アルス!」[/Impact][/A]

[Pulse]ドシュッ、と。[/Pulse]

肉を裂き、骨を砕く鈍い音が玉座の間に響き渡る。

ルナの放った刃が、アルスの胸を深々と貫いていた。

第6章:記憶の濁流

Scene Image

時間が、完全に凍りついたように感じられた。

アルスの口から大量の血が溢れ、大理石の床に真っ赤な染みを広げていく。

魔剣から手を離したルナが、荒い息を吐きながら彼を見上げる。

その瞬間だった。

[Flash]カッ! と眩い光が弾ける。[/Flash]

アルスの肉体に溜め込まれていた『107回分の記憶』が、触れたルナとシオンの脳髄へと濁流のように流れ込んだ。

[Glitch]ルナの首が跳ね飛ぶ光景。[/Glitch]

[Glitch]シオンの胴体が無惨に引き裂かれる光景。[/Glitch]

[Glitch]血肉の塊を抱きしめ、喉を枯らして絶叫するアルスの姿。[/Glitch]

[Glitch]そして108回目、嫌われるために自らの心を殺し、血の涙を流しながら一人暗闇を歩く背中。[/Glitch]

[A:ルナ・セレスティア:絶望][Tremble]「あ……え……? なに、これ……」[/Tremble][/A]

ルナの碧眼が限界まで見開かれ、瞳孔が激しく揺れる。

シオンも義手を震わせ、糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。

彼らが憎んでいたすべての行動。

故郷を焼いたのも、腕を奪ったのも。

ただ、自分たちを死の運命から遠ざけ、生かすためだけの、狂気的なまでの愛だった。

[A:ルナ・セレスティア:悲しみ][Shout]「あ……ああぁぁぁぁっ!!」[/Shout][/A]

[A:シオン・ブレイブ:絶望][Shout]「アルス……お前、ずっと、一人で……!」[/Shout][/A]

ルナが自身の喉を掻き毟るような絶叫を上げ、崩れ落ちるアルスの体を咄嗟に抱きとめた。

彼女の美しい顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり、純白の騎士装束がアルスの血で赤黒く染まっていく。

[A:アルス・ヴァンガード:愛情][Whisper]「泣く、な……。お前、たちは……」[/Whisper][/A]

アルスの視界はすでに真っ暗に塗り潰されていた。

急速に冷たくなっていく指先で、ルナの涙に濡れた頬を不器用に撫でる。

[A:アルス・ヴァンガード:愛情][Whisper]「笑って……生きろ……」[/Whisper][/A]

すべてをやり遂げた、満足げな微笑み。

その言葉を最後に、アルスの肉体は世界を蝕んでいた呪いと共に、無数の光の粒子となって空へ溶けていった。

冷たい石の床には、かつてルナが贈った銀のペンダントだけが残されていた。

第7章:109回目の反逆

空はどこまでも青く、吹き抜ける風は穏やかだった。

『虚無の王』が消滅し、世界に真の平和が訪れた。

だが、主を失った玉座の間に座り込むルナの瞳には、一切の光が宿っていない。

[A:ルナ・セレスティア:絶望]「あなただけがいない世界なんて、何の意味もない……」[/A]

虚ろな声が床を這う。

彼女はゆっくりと立ち上がり、握りしめていた聖騎士の剣を膝に叩きつけ、真っ二つにへし折った。

[Impact]金属が砕ける鋭い音。[/Impact]

自らの指先を歯で噛み切り、流れる血で床に巨大な魔術陣を描き始める。

神の教えに背く、禁忌の時間逆行の術式。

[A:ゼクス・オブシディアン:興奮]「ハッ、まさか聖騎士様が神を裏切るとはな。面白ぇ、手伝ってやるよ」[/A]

[A:シオン・ブレイブ:怒り]「当然だ。あいつだけ置いていくなんて、俺が許さねぇ」[/A]

玉座の影から現れたゼクスが膨大な魔力を注ぎ込み、シオンが義手を陣の要石として突き立てる。

強大なエネルギーが渦を巻き、空間がガラスのようにひび割れ始めた。

[A:ルナ・セレスティア:狂気]「今度は私たちが、あなたを救う番です」[/A]

[Magic]《クロノス・リヴァーサル》[/Magic]

血に濡れた手が術式を発動させた瞬間、世界が逆回転を始めた。

光がすべてを飲み込み、色彩が完全に反転する。

そして——。

[Sensual]

背中に触れる、柔らかなベッドの感触。

アルスがゆっくりと重い目を開けると、そこは学園の寮の一室だった。

状況を脳が理解する前に、細くしなやかな腕が彼の首にきつく巻き付く。

[A:ルナ・セレスティア:愛情][Pulse]「……捕まえました」[/Pulse][/A]

耳元で、甘く震える吐息が触れた。

波打つ金髪がアルスの顔をくすぐり、彼女の豊かな胸の膨らみが、彼の胸板に押し潰されるほど強く当てられる。

アルスの服越しにでもはっきりと伝わる、火傷しそうなほどの異常な体温と、狂おしいまでの激しい心音。

[A:アルス・ヴァンガード:驚き][Tremble]「ルナ……? お前、なぜ……」[/Tremble][/A]

[A:ルナ・セレスティア:愛情][Whisper]「もう、絶対に一人にはさせません。地獄の底まで……あなたを愛し抜きますから」[/Whisper][/A]

泣き笑いのような、酷く歪んだ表情。

ルナはアルスの唇を塞ぐように、深く、何度も貪るように口づけた。

その瞳の奥には、かつての清廉な光など微塵もない。

ただ彼を永遠に逃がさないという、暗く、重く、底なしの執着の泥が渦巻いていた。

[/Sensual]

窓の外では、新しい朝の光が世界を照らし始めている。

未知なる『109回目』の幕が、今、上がった。

クライマックスの情景

【物語の考察】自己犠牲と執着の反転

本作の中心にあるのは、「愛ゆえの狂気的な自己犠牲」です。アルスは仲間を生かすため、自身の心身を徹底的に壊し、絶対悪として君臨します。しかし、その自己犠牲によって救われた側は、真実を知った瞬間、重すぎる愛の負債を抱え込むことになります。アルスの救済は彼らを物理的な運命から救い出しましたが、同時に彼らの精神を「アルスなしでは生きられない」という究極の依存状態へと追い込みました。

【メタファーの解説】銀のペンダントと魔術陣

アルスが肌身離さず持っていた銀のペンダントは、彼がどれだけ悪逆非道に振る舞おうとも捨てきれなかった「過去の平穏への未練」の象徴です。そして彼が死の直前に見せた光の粒子による消滅は、呪縛からの解放と神聖な自己犠牲の成就を意味します。しかし、第7章でルナが自らの血で描く魔術陣は、その崇高な自己犠牲を否定し、彼を強引に現世の泥沼へと引き摺り下ろす執着の象徴として、強烈なコントラストを生み出しています。

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