■ 第1章:灰の降る夜に ■
空から降るのは雪ではない。
街を焼き尽くした、命の燃えかすだ。
シオン「どうして、ここまで……!」
瓦礫が砕け散る。
シオンの細い肩が激しく上下していた。その手の中で、銀色の銃身がカタカタと鳴っている。震えているのだ。恐怖か、それとも。
レイ「……終わったんだよ、シオン」
レイは歩み寄る。足元の灰が、ざり、と音を立てた。
鉄の匂い。焦げた肉の異臭。
世界はすでに死んでいる。
ミハル「無駄な足掻き。さっさと息の根を止めたらどう?」
崩れた壁の上の暗がり。ミハルが冷たい視線を投げ下ろしている。彼女の指先には、まだ血の乾かない刃が握られていた。
シオン「黙れっ!」
銃口が跳ねる。火線。
しかし、遅い。
レイは銃弾を避けることすらしない。ただ真っ直ぐに、シオンの胸ぐらへと手を伸ばした。
鈍い音。
シオンの体が、無残にも煉瓦の壁へと打ち付けられる。
息が止まる。
肺から空気が搾り出され、咳き込むシオン。




……ああ、脆い。こんなにも簡単に、壊れてしまう。
レイは無表情のまま、その細い首に指を這わせた。
脈打つ命の感触。トクン、トクン、と急き立てるような血の奔流。
薄暗い路地裏。舞い散る灰が、二人の吐息を白く染める。
シオン「……いや、やめて……っ」
懇願する唇。しかし、その瞳の奥には隠しきれない熱が燻っていた。
レイの指先が、首筋から鎖骨へと滑り落ちる。♥高鳴る心音[/Heart]が、レイの指を火傷しそうなほどに熱く焦がす。
レイ「……綺麗だ。お前は、絶望している時が一番美しい」
視界の端で、世界がぐらりと歪む。
シオンは抗うことをやめた。痙攣するように身をよじり、レイの冷たい外套をきつく握りしめる。
熱い吐息が交じり合う。
血と灰の味がした。
肺の奥が焼け焦げるような感覚。脳内を這い回るノイズ。
視界が激しく明滅し、シオンの意識は深い泥の底へと沈んでいく。
ミハルはただ、その光景を無言で見つめていた。
ミハル「……狂ってるわね、二人とも」
救いなどない。
この焼け落ちた街で、生き残る意味すらとうに失われた。
それでも、泥に塗れた互いの体温だけが、唯一の真実だった。
永遠に続く地獄の中で、歪な愛だけが静かに根を下ろしていく。