第一章: 終わりの始まり
燃え盛る火の粉。月光のように輝く銀の長髪を無残に焦がしていく、赤い熱。
かつて誇り高く着こなしていた豪奢な学園の制服。今はただ泥と黒紅色の染みで重い。
見上げる空。世界を焼き尽くさんばかりの黄金の星の雨。
硝煙と錆びた鉄の臭気が、肺の奥を鋭く引っ掻く。
憂いを帯びたアメジストの瞳。そこに映るのは、迫り来るひと振りの白刃。
ドクン、ドクン、ドクン。
夜風に揺れる濡羽色の黒髪。漆黒の騎士服を身に纏う一人の男。
三白眼気味の鋭い蒼の瞳。一握りの光すら宿していない、底無しの虚無。
ルーク・アシュワース「これで終わりだ、セレスティア」
鼓膜を打つ冷徹な声。同時、氷の如き冷たさが胸の中央を貫通する。
口の中に広がる、ねっとりとした血の鉄の味。
痙攣する喉仏。声にならない呼気の漏れ。
愛する人の手で絶たれる命。それこそが、悪役令嬢として運命づけられた彼女の結末。
だが、視界が白く濁りゆく中、跳ね上がる彼女の唇の端。
(私が全てを背負えば、彼は笑ってくれるはずですわ……)
血まみれの指先。自身の胸を貫く冷たい刃を強く握りしめる。
裂ける手のひら。滴り落ちる鮮血。
セレスティア・ヴァンルージュ「……いいえ、終わらせませんわ。貴方の、その悲しい運命ごと……!」
白銀の閃光
《クロノス・リヴァーサル》
鼓膜を突き破るような破砕音。
砕け散る空間のガラス。逆流を始める色彩。
代償として支払うのは、自身の存在の一部。彼への物理的な抗体。
概念が剥がれ落ちる不気味な浮遊感。その中へ、意識は深い闇へと沈んでいった。
◇◇◇
古い羊皮紙。埃っぽいインクの匂い。
ゆっくりと開いた視界に飛び込んできたのは、見慣れた王立学園の巨大な図書室。
窓の外から差し込む、穏やかな午後の陽光。
セレスティア・ヴァンルージュ「……戻って、こられたの?」
震える手で探る自身の胸元。傷はない。正常な呼吸。
三年前の平穏な時間軸。
安堵の吐息をこぼした瞬間。本棚の影から近づいてくる一つの足音。
ルーク・アシュワース「邪魔だ。そこを退け」
大きく跳ねる心臓。まだ騎士団に入る前の、若き日のルーク。
横を通り過ぎる彼。その瞬間、彼の冷たい指先が、ほんのわずかにセレスティアの首筋を掠めた。
バチンッ!!!
セレスティア・ヴァンルージュ「……ぁ、あ゙っ!?」
背髄を駆け上がる、雷に打たれたような異常な熱量。
完全に抜け落ちる膝の力。無様に崩れ落ちる床の絨毯。
縮こまる足の指。弓なりに反り返る背中。
ただ触れられただけ。それなのに、下腹部の奥深く、乾いていたはずの秘所から、じゅわりと甘い蜜が溢れ出す。
セレスティア・ヴァンルージュ「あ……ぁ、はぁっ、な、に……これ……っ」
明滅する視界。ひくひくと痙攣を続ける指先。口の端からこぼれ落ちる情けない涎。
ドクン、ドクン、ドクン!
彼の魔力。彼の存在そのもの。細胞の全てが激しく発情している。
床に這いつくばり、荒い息を吐く彼女。
見下ろすルークの目はゴミを見るよう。だが、どこか歪に濁った蒼い瞳であった。
第二章: 夜の温室、甘美なる毒
湿った土と甘ったるい夜来香の匂い。夜の温室を満たす濃厚な空気。
ガラス屋根を透過する月の光。青白く照らし出される銀色の長髪。
図書室での一件から数日。魔力を少しでも消耗するたび、限界を迎えるセレスティアの身体。
彼の魔力。あの氷のような冷たい接触。それを求め、全身の毛穴が熱を帯びて粟立つ。
毎晩シーツに顔を埋める惨めな日々。震える指で自らの熱い蜜壺を慰める、惨めな夜の連続。
セレスティア・ヴァンルージュ「……くぅっ、はぁ、はぁ……っ、嫌、こんな身体……」
柱の影。漏れる熱い吐息。
そこに忍び寄る、音もない漆黒の影。
ルーク・アシュワース「夜這いのつもりか? 発情した雌犬のように」
壁ドン。
塞がれる逃げ道。冷たいレンガの壁に打ち付けられる背中。
至近距離に迫る彼の顔。鼻腔を支配する、冷気を帯びた彼特有のミントのような香り。
セレスティア・ヴァンルージュ「ち、違いますわ……っ! 私はただ、風を浴びに……っ」
ルーク・アシュワース「嘘をつくな。お前の身体は、俺の魔力を求めて震えている」
豪奢な制服の胸元。そこに伸びる、黒い革手袋に包まれた大きな手。
布越しに薄く摘まみ上げられる、硬く尖った蕾。
セレスティア・ヴァンルージュ「ひぃっ……!? ぁ、や、やめ……っ」
走る電流。彼の指の動き一つ一つ。それが直接脳髄を撫で回すような異常な快感へと変換される。
白目を剥きそうになる感覚。必死に唇を噛んで堪える。
その時。
コツ、コツ、コツ。
温室のガラス一枚を隔てた外の通路。揺れるランタンの灯り。
アリア・フローレンス「あれ……? 温室の方に、誰かいるんですか?」
光の聖女、アリア・フローレンス。本来の運命におけるヒロイン。
温室の中を覗き込もうとする、彼女の大きなエメラルドの瞳。
心臓が破裂しそうだ。
ルーク・アシュワース「……声を出せば、見つかるぞ。こんな淫らな姿を、あの聖女に見られたいのか?」
捲り上げられる制服のスカートの裾。ルークの長い指。
太ももの内側を這い上がる。薄い下着越しに触れる、ぐっしょりと濡れそぼった花弁。
セレスティア・ヴァンルージュ「ん゙んっ……!! ぁ、あ゙……っ!」
出せない声。喉の奥で殺す悲鳴。
敏感な突起を意地悪く弾く彼の指先。そのたびにガクガクと震える膝。
床にぽたぽたと滴り落ちる、甘い匂いの蜜。
視線のすぐ先。窓越しにこちらを探すアリアのシルエット。
極限の緊張。背髄を溶かすような快感。
(見られる……っ! アリアに見られてしまいますわ……!)
羞恥で狂いそうになる頭。
しかし、それ以上に思考を焼き尽くす、彼に蹂躙される圧倒的な悦び。
寸止めのまま弄られ続ける。引き起こされる下腹部の痙攣。
アリア・フローレンス「気のせい、ですね……。戻ります」
遠ざかる足音。
その瞬間、ピタリと止められるルークの指。
セレスティア・ヴァンルージュ「ぁ……っ、どうして……もっと、触って……!」
懇願するような上擦った声。自分自身の浅ましい言葉への絶望。
冷たく見下ろすルーク。荒々しく掴まれる彼女の顎。
ルーク・アシュワース「誰が最後まで許すと言った? お前は一生、俺の手の中で渇き続けろ」
その蒼い瞳の奥。そこに蠢くのは、決して彼女が知るはずのない、粘ついた深淵の闇。
第三章: 狂気の底に沈む手記
ルークの私室の奥。壁の仕掛けを解いた先にある空間。
空気の流れが止まった隠し部屋。充満するカビと古いインク、そして強烈なオゾンのような魔力の匂い。
自身の発情体質を治す手がかり。それを求め、震える足で室内に踏み込んだ彼女。
机の上に無造作に積まれた、山のような羊皮紙の束。
セレスティア・ヴァンルージュ「これは……彼の日記?」
新旧様々なインクの染み。狂ったような筆跡。無数の文字が紙面を黒く塗りつぶしている。
『――543回目のループ。またあいつは死んだ』
『――1028回目。俺が庇えば世界が崩壊する。ふざけるな』
『――3509回目。あいつを救う術式を見つけた。だが代償が必要だ。俺の人間性と引き換えに、確実な鎖を』
ガチガチと音を立てて震える指先。
最新のページに釘付けになる視線。
『あいつが俺なしでは生きられないよう、遡行の術式に細工をした。魔力回廊を俺に依存させる。もう誰にも触れさせない。あの震える身体も、啼き声も、絶望の顔も、すべて俺だけのものだ』
セレスティア・ヴァンルージュ「な……に、これ。私が、遡行魔法を成功させたんじゃ……ない……?」
引く血の気。ぐらりと揺れる足元。
互いの自己犠牲。彼もまた、永遠とも呼べる時間を暗闇の中で繰り返していた。心を、人間性を完全に擦り減らして。
私を救うためだけに。私を、自分だけの鳥籠に閉じ込めるためだけに。
ルーク・アシュワース「勝手に入るなとは、教えていなかったか?」
背後から響いた氷の声音。
振り返る。入り口を塞ぐように立つルーク。
いや、彼から放たれる気配。それはもはや人間のそれではない。
ルーク・アシュワース「全部知ったのなら、もう小芝居は不要だな」
彼が一歩踏み出す。そのたび歪む部屋の空間。狂ったように軋む重力。
逃げ場はない。五感を麻痺させていく、真実という名の毒。
第四章: 深淵の魔力交合
《アブソリュート・プリズン》
展開される不可視の魔力結界。完全に遮断される外部の音。
弾けるルークの指。部屋の奥の暗がりから、ふらふらと現れる一つの影。
セレスティア・ヴァンルージュ「ア、アリア……!?」
現れた聖女アリア。清楚な白の聖女服の胸元を不自然なほど大きく開けている。宙を見つめる虚ろなエメラルドの瞳。
アリア・フローレンス「私、みんなに見てもらいますね……。こうして、花びらを広げて……ふふっ」
操り人形。ルークの狂気によって精神を破壊され、異常な露出癖を植え付けられた哀れな傀儡。
バルコニーの窓際に向かう彼女。外に向かって自らの柔らかな肉を晒し始める。
かつての恋敵を完全に舞台装置へと貶めた男。彼がセレスティアの髪を掴み、強引に床へ引きずり倒す。
ルーク・アシュワース「さあ、見ろ。お前のくだらない正義と犠牲が作り出した、今の世界を」
セレスティアの腹部に突き立てられる彼の手。
肉体への貫通ではない。直接、魂の根幹である『魔力回廊』へと強引に侵入してくる異物。
「あ゙ぁぁぁああああっ!!!」
次元の違う絶頂。肉体的な交わりなど比較にならない。
直接鷲掴みにされる心臓。血管という血管に注ぎ込まれる、彼の煮えたぎるような欲望。
ガクンッ、ガクンッ! 激しく痙攣する全身。床に打ち付ける頭。
セレスティア・ヴァンルージュ「やめっ、こわ……れる、ルーク、もう、やめてぇっ……!」
ルーク・アシュワース「壊れない。俺が何度でも繋ぎ止める。泣け。もっと俺の名前を呼んで啼け!」
真っ赤に染まる視界。一瞬にして剥がれ落ちる、理性という薄皮。
最奥の回廊を抉る彼の魔力。そのたび、恥ずかしいほどの水音が魂の中で響き渡る。
涎と涙でぐしゃぐしゃになる顔。
「あ、あ、だめ、壊れる、真っ白になる!」
セレスティアはただひたすらに、絶頂の波に呑まれ続けた。
バキンッ……!
限界を超えた狂気。ついに臨界点を突破する、度重なる時間の歪み。
崩壊を始める部屋の壁、天井。ノイズ混じりのポリゴンのように。
ルーク・アシュワース「……チッ、また世界が耐えきれなかったか。だが、何度でもやり直す」
セレスティア・ヴァンルージュ「……させませんわ。もう、貴方を……一人で狂わせたりはしない……ッ!」
第五章: 忘却の果て、涙の引力
極彩色の光に飲み込まれていく世界。
最後の力を振り絞るセレスティア。自身の魂を核とした究極の魔法陣を展開する。
(彼を狂気の螺旋から解放するためには、執着の対象である『私』との縁を完全に断ち切るしかない)
セレスティア・ヴァンルージュ「ルーク。貴方の淹れてくれる紅茶、好きでしたわ」
ルーク・アシュワース「やめろ、セレスティア! ふざけるな、俺はお前を……!!」
《オブリビオン・エデン》
すべてを包み込む光。代償は、私の中にある『ルーク・アシュワースに関するすべての記憶と感情』。
彼との出会い。初恋。絶望。狂おしいほどの快楽。
白光が世界を飲み込み、そして――。
◇◇◇
王立学園の中庭を吹き抜ける春の風。
真新しい制服に身を包んだセレスティア。抱えた教科書の重みを感じながら、陽の光を浴びて歩いていた。
何の変哲もない、平和な学園生活。
ただ分からないのは、胸の奥にあるぽっかりと空いた穴の理由だけ。
向こうから歩いてくる、漆黒の制服を着た長身の男子生徒。
濡羽色の黒髪。鋭い蒼の瞳。
すれ違う。
ただの、名前も知らない他校からの編入生。
その瞬間。
交差した互いの瞳。
止まる風。
早鐘のように打ち鳴らされる心臓。
セレスティア・ヴァンルージュ「……え?」
ポロリとこぼれ落ちる大粒の涙。アメジストの瞳から。
悲しいわけではない。嬉しいわけでもない。
ただ、彼の姿を見た瞬間。一斉に開く全身の毛穴。背髄を貫く稲妻のような快感。
止まらない足の震え。熱く疼く下腹部。内側から湧き上がる激しい渇望。
(どうして……私、どうして、こんなに……っ)
見知らぬ彼もまた、その場に立ち尽くす。目を見開いて震えていた。
ルーク・アシュワース「君は……。俺は、君を……」
出てこない言葉。完全に失われている記憶。
しかし、魂に刻み込まれた暴力的なまでの執着。細胞の隅々まで染み渡った悦楽の記憶。
それらだけが、二人を強烈な引力で引き寄せる。
分からない理由。自分がなぜ泣いているのかも。
ただ抗えない本能のまま。崩れ落ちるように互いの身体を抱きしめ合う二人。
春の陽だまりの中。狂おしいほど強く、決して離さないと誓うように。