第一章: 終わりの始まり
[FadeIn]遠く反響する、絶え間ない波の音。[/FadeIn]
色素の薄い銀髪にまとわりつく生温かい潮風。
色褪せた防護服、首元に巻かれた鮮烈な赤。
錆びついた天井の鉄骨を見上げるのは、虚ろな青い瞳。
海中電車の廃駅。
口内にこびりつく、喉を灼くような鉄の血の匂い。
[A:ハル:冷静]「……また、何か忘れた」[/A]
肘まで青い結晶に侵食された右腕。鈍い明滅。
カビと潮風の匂いが混ざる薄暗がりの中、[Tremble]カシャン、カシャン[/Tremble]という硬質な足音。
視界の先、陽光の差し込む改札口。
そこに立つ、一つの影。
透き通るような、病的なまでに白い肌。
重力に逆らうようにふわりと漂う長い青髪。汚れのない純白のシルエット。
彼女が歩みを進めるたび、足元で光る青い結晶の粉が舞い上がり、宙で儚く砕け散る。
[A:シオン:喜び]「綺麗だね。全部、青く染まってしまえばいいのに」[/A]
彼女の細い指先が、自身の首筋をなぞる。
[A:ハル:驚き]「君は……誰だ」[/A]
[A:シオン:悲しみ]「また、忘れちゃったのね」[/A]
寂寥を浮かべる彼女。
その背後、突如として崩れ落ちる巨大な瓦礫。
空から降り注ぐのは、致死性の美しい青い結晶、「大群青」。
[A:ハル:恐怖]「危ない!」[/A]
右腕の結晶が軋みを上げ、ハルは彼女へと腕を伸ばす。
[Impact]記憶の欠片が、また一つ剥がれ落ちる感覚。[/Impact]
[Think]なぜ、俺はこの少女をこんなにも……[/Think]
瓦礫の下敷きになる直前、シオンの唇が微かに動く。
[A:シオン:絶望]「逃げて。私に触れると、世界が壊れる」[/A]
第二章: 欠落の星空
夜の廃遊園地。
錆びた観覧車の骨組みが、満天の星空を鋭く切り裂いている。
凍りつくような夜風が、シオンの青い髪を揺らす。
[Sensual]
[A:ハル:冷静]「冷える。こっちへ来い」[/A]
赤いマフラーを外し、シオンの細い首に巻きつけた。
指先が彼女の透き通るような首筋に触れた瞬間、微弱な静電気のような痛みが走る。
ひどく低い、彼女の体温。
[A:シオン:照れ]「ありがとう、ハル。あったかいね」[/A]
彼女の体重が、そっとハルの肩に預けられた。
微かな雨の匂いと、甘い花のような香りが鼻腔をくすぐる。
[/Sensual]
突如、大地を揺らす[Tremble]激しい震動[/Tremble]。
アスファルトを突き破り、異形の結晶獣が咆哮を上げる。
鋭い青の牙。シオンの華奢な体を捉えようと迫る凶器。
眉間が跳ね、ハルの呼吸が止まる。
[A:ハル:怒り]「させない……!」[/A]
《秒針の遡行》
[Glitch]視界が歪む。ノイズ。時計の針が逆回転する爆音。[/Glitch]
喉の奥から、大切な何かがごっそりと抉り取られる激痛。
[Think]俺は……今、何を失った?[/Think]
[A:ハル:冷静]「右へ走れ!」[/A]
時間が巻き戻った世界。ハルは結晶獣の軌道を予測し、シオンの手を引く。
倒れ込む獣の巨体を背に、シオンが悲痛な目でハルを見つめる。
[A:シオン:悲しみ]「だめだよ、ハル。もう時間を使わないで」[/A]
[A:ハル:冷静]「大丈夫、まだ時間は残されている」[/A]
だが、ハルは気づいていない。
シオンの足元から広がる青い結晶。時間を戻すたびに[Pulse]異常な速度で増殖[/Pulse]していく地獄の光景。
[A:シオン:絶望]「……ごめんなさい。私が、この星を食べているの」[/A]
彼女は自らの腕を抱きしめ、ひどく美しい涙を零す。
第三章: 絶望の観測者
重厚な鉄扉の先。人類最後のシェルター。
焦げたブラックコーヒーの苦い匂いが、無機質な部屋に充満している。
漆黒の軍服に無造作に白衣を羽織った大柄な男。
右目の黒い眼帯と、残された鋭い左の三白眼がハルを射抜く。
[A:カイム:冷静]「よく生きて辿り着いたな、愚か者」[/A]
[A:ハル:怒り]「彼女を保護してくれ。抗体を作るんだろ」[/A]
[A:カイム:喜び]「抗体? 誰がそんな作り話を信じた」[/A]
カイムがデスクのスイッチを叩く。
空中に投影されたホログラム。時間を遡行するハルの姿と、その直後に爆発的に巨大化する群青の嵐。
[A:カイム:怒り]「奇跡などない。あるのは残酷な因果だけだ」[/A]
[A:ハル:驚き]「……何を、言っている」[/A]
[A:カイム:冷静]「その女は特効薬ではない。『大群青』を降らせる星の意志の端末だ」[/A]
ハルの喉仏が上下し、口の中がカラカラに乾く。
[A:カイム:狂気]「お前が女を救うために時間を巻き戻すたび、発生する『因果の歪み』が彼女に流れ込んでいる。お前たちの絆が、世界を滅ぼすトリガーだ」[/A]
[Impact]鼓膜を突き破るような耳鳴り。[/Impact]
シオンを守るための犠牲。それが、シオンを破滅の化身に作り変えているという狂気。
[A:シオン:悲しみ]「だから、言ったのに……」[/A]
シオンの足元から、致死の青い粉が這うように広がる。カイムの部隊の銃口が一斉に彼女に向けられる。
第四章: 剥き出しの渇望
[A:カイム:冷静]「対象の解体を実行しろ」[/A]
冷徹な号令。
拘束具に繋がれた純白の少女が、静かに首を振る。
[A:シオン:愛情]「私を殺して、世界を救って」[/A]
頭が割れるように痛む。
[Glitch]シオン……? 誰だ、それは。[/Glitch]
俺はなぜ、ここにいる?
だが、魂にこびりついた激しい渇望が、ハルの両足を前に踏み出させる。
[Shout]「やめろぉぉぉ!!」[/Shout]
血の鉄の味が口内に広がる。
右腕の結晶が皮膚を突き破り、鮮血が床を濡らす。
[A:ハル:狂気]「触るな……彼女に、触るなッ!」[/A]
弾丸が肩を掠め、防護服が裂ける。
それでもハルの歩みは止まらない。
警備兵のライフルを奪い、銃床で次々と兵士の顔面を粉砕していく。
[A:カイム:怒り]「狂ったか! 記憶も持たぬ抜け殻の分際で!」[/A]
[A:ハル:怒り]「何も覚えてない……! だが、彼女を失うことだけは、絶対に認めない!」[/A]
ハルはシオンの拘束を引きちぎり、血まみれの腕で彼女を抱き寄せる。
[A:シオン:驚き]「ハル……どうして」[/A]
[A:ハル:冷静]「行くぞ。全てが始まった場所へ」[/A]
銃弾の雨を潜り抜け、二人は外へ飛び出す。
だが、見上げた空。すでに視界の全てを埋め尽くすほどの、致死の青。
逃げ場など、最初からどこにも存在しない。
第五章: 永遠の群青
始まりの海中廃駅。
空前絶後の量の青い結晶が、滝のように空から降り注ぐ。
背後からは、カイムが率いる軍の圧倒的な砲火。
[A:カイム:絶望]「終わりだ、ハル! その女と道連れに、世界を終わらせる気か!」[/A]
[A:ハル:冷静]「……ああ。終わらせるさ」[/A]
ハルはシオンを強く抱きしめる。
赤いマフラーが風に舞い、純白と交じり合う。
[A:シオン:悲しみ]「ハル、もういいの。私を置いて」[/A]
[A:ハル:愛情]「君を置いていく未来なら、いらない」[/A]
[Sensual]
ハルはシオンの冷たい唇を塞ぐ。
血の味と、微かな雨の匂い。
シオンの頬から零れ落ちた涙が、青い結晶となってハルの頬を傷つける。
[A:シオン:愛情]「……愛してる。名前も忘れてしまった、私のたった一人の人」[/A]
[A:ハル:狂気]「俺もだ。これで、ずっと一緒だ」[/A]
[/Sensual]
全身の血液が沸騰するような熱。
残された命、そして魂に刻まれた最後の記憶すらも全て炉に焼べる。
《秒針の遡行・臨界》
[Flash]凄まじい光が世界を包み込む。[/Flash]
過去へ戻るのではない。
膨大な因果のエネルギーは、現在という時間を強制的に停止させる。
降り注ぐ無数の結晶も、迫る銃弾も、カイムの怒号も。
空中で完全に静止する世界。
[System]時間軸の固定を確認。因果律の凍結を開始します。[/System]
音のない世界。
海中電車の廃駅の真ん中で。
ハルの防護服と、シオンのワンピースは、足元から完全に青い結晶に飲み込まれていく。
[Pulse]ドクン、ドクン……[/Pulse]
鼓動さえもが青に染まり、凍りつく。
誰もいない、滅びゆく美しい星の片隅。
二人は永遠に抱き合ったまま、決して砕けることのない群青のオブジェとなる。
奇跡などない。
ただ、狂おしいほどの愛だけが、そこで永遠に静止している。