第一章: 夕暮れの工房と甘き背徳
夕陽がステンドグラスを透過し、古びた工房の床へ落とす血のような赤。
宙を舞う埃、それはまるで黄金の砂。
無造作なお団子髪から後れ毛を垂らし、藍染めの着物の襟元を大きく崩して丸椅子に腰を下ろす糸織紡。疲労の色が滲む冷ややかな三白眼。その視線の先で跪くのは、一人の男。
無数の針傷が刻まれた彼女の指先から、金色の魔力糸がかすかに発光しながら伸びていく。
男――久遠朔の逞しい背中を這う、禍々しい傷痕。漆黒の髪が汗で額に張り付き、虚ろな黄金色の瞳が熱っぽく紡を見上げる。ゆったりとした和柄の羽織が肩から滑り落ち、露わになるのは幾多の死線を潜り抜けた筋肉質な肉体。元異能討伐者である絶対的な証。
糸織 紡「動かないで。針が、ずれる」
ぷつり。
紡の指先が押し込む、銀の針。朔の背中の古傷――むき出しになった魂の表層へ、金色の糸が縫い込まれていく。
ビクリと、分厚い肩が跳ねた。
久遠 朔「あっ……ふぅ……紡、もっと……」
苦痛と快楽が入り混じった甘い吐息。朔の厚い唇から漏れる熱。彼は紡の膝にすり寄り、飼い主に甘える大型犬のように頬を擦り付ける。
熱い呼気が撫でる、着物の隙間から覗く紡の太腿。
小さく上下する紡の喉仏。下腹部の奥深く、薄暗い洞窟の最奥がじわりと熱を帯び、とろりとした蜜が内腿を伝い落ちそうになる。
ああ、なんて愛おしい。なんて、愚か。
針傷だらけの指を伸ばし、紡は朔の漆黒の髪に指を絡ませる。
久遠 朔「紡……お前の匂いがないと、俺は息ができないんだ。愛している……誰よりも」
ドクン、ドクン。♥
朔の低い掠れ声が狂わせる、紡の鼓動。彼から立ち上る、汗と微かな獣の匂い。
だが、その言葉は彼自身の魂から出たものではない。
今日、紡が彼の脳髄に縫い付けた、不自然で、極彩色に彩られた『偽りの記憶』。
朔の魂を縛り付ける金色の魔力糸。夕暮れの光の中で、それはぬらりと妖しく光を放つ。
この男の愛はすべて、私が創り出したまがい物だ。
第二章: 日常の隙間に潜む狂気と寸止め
街の人々が持ち込む「失くした初恋の顔」や「隠蔽したい後悔」を繕う単調な日々。
その裏側で、日を追うごとに狂気を孕んでいく朔の執着。
久遠 朔「紡、どこへ行く。俺のそばから離れるな」
扉のノブに手を掛けた瞬間。背後から伸びてきた太い腕が、紡の腰を拘束する。
背中にのしかかる朔の熱い体温。耳元で響く荒々しい呼吸音。
彼の剛直な欲望の塊が、着物越しに紡の臀部へ硬く押し付けられる。
糸織 紡「……だめ。今は、仕事中だね」
あえて冷たく突き放し、朔の腕をほどく紡。
「魔力の定着が乱れるから、交わることは許さない」
真っ赤な嘘。朔の自我が完全に崩壊するのを恐れているのか、それともこの歪んだ支配関係に酔いしれているのか。紡自身にもわからない。
久遠 朔「頼む、少しでいい……お前の中に入れてくれ……狂いそうだ……!」
ガタガタと震える朔の巨体。極限まで開く黄金色の瞳の孔。
冷徹な表情のまま、紡は指先から一本の魔力糸を伸ばし、朔の背中の傷跡へ直接触れた。
パァン!
久遠 朔「あ゛っ、ぁあぁあッ!!」
脳髄を直接撫で上げられるような絶対的な快感。
白目を剥き、膝から崩れ落ちる朔。熱い楔は触れられもしないまま限界を迎え、ズボンの生地を濡らして濃密な生命の証をまき散らす。
♥ビクン、ビクンと痙攣する朔を見下ろし、歪に吊り上がる紡の唇。[/Heart]
夜。
工房の片隅。紡は、朔が脱ぎ捨てた汗ばんだシャツに顔を埋める。
嗅覚を支配する、雄のむせ返るような匂い。
「……はぁっ、朔……さくぅ……」
自身の下着を引きずり下ろし、魔力の糸で己の太腿をきつく縛り上げる。
敏感な蕾を指先で弾き、濡れた花弁をこすり合わせながら、幾度も腰を跳ねさせる紡。
私だけを見て。私だけを渇望して。
だが、その甘い地獄が告げる、唐突な終わり。
ドッドッドッ。
激しい雨音が窓を叩く中、控えめにノックされる工房の重い木の扉。
第三章: 綻びる絹糸と真実のフラッシュバック
糸織 結「お姉ちゃん、いる? 近くまで来たから……」
扉の隙間から顔を覗かせたのは、艶やかな黒髪のストレートロングを雨に濡らした少女。
白いワンピースの裾から滴る水滴が作る、床の小さな水溜まり。
糸織結。紡の妹であり――朔が記憶を失う前、命を懸けて愛した『本当の恋人』。
凍りつく、部屋の空気。
ブチッ……ブチブチブチッ!!
奥の部屋から歩み出てきた朔の足が、釘を打たれたように止まる。
彼の背中で悲鳴を上げて千切れ始める、紡が何重にも縫い付けた金色の糸。
久遠 朔「あ……? ぐ、ぁ……?」
こめかみを強く押さえる両手。激しく揺れ、焦点を結ばない黄金色の瞳。
「ガァアアアアアッ!! 頭が、割れるッ!!」
悲鳴を上げて駆け寄ろうとする結を、咄嗟に遮る紡。
糸織 紡「来るな! 結、早く帰って!」
糸織 結「お姉ちゃん、朔さんが! 朔さん、私です、結です!」
『結』。その言葉が引き金。
朔の全身から吹き荒れる凄まじい魔力の突風。粉々に砕け散る工房の陳列棚。
ドンッ!!
次の瞬間、反転する紡の視界。
冷たい床に打ち付けられる背中。肺から押し出される空気。
上に乗りかかった朔の顔。それは、夜叉のように歪んでいた。
久遠 朔「お前は……お前は俺に、何をした……ッ!?」
紡の細い首に食い込む太い指。
息ができない。床を掻きむしる爪先。三白眼からこぼれ落ちる生理的な涙。
殺される。
だが、首を絞められながらも、狂おしいほどの熱を帯びていく紡の下腹部。
暴走する朔の強大な質量。自分を押し潰そうとする圧倒的な暴力。
糸織 紡「あ……っ、さ、く……もっと、強く……」
「わたしを、壊して……ッ」
久遠 朔「俺は……俺は誰を、誰を愛していたんだァアアア!!」
雨雲を引き裂くように響き渡る、朔の咆哮。
第四章: 降り注ぐ星と喪失の夜
夜空の雲が切れ、ステンドグラス越しに降り注ぐ狂ったような星屑の光。
破壊された工房の中央。獣のようにうずくまり、荒い息を吐く朔。
彼の背中から伸びる魔力糸の大半は断線し、空中で虚しく火花を散らす。自我の崩壊。二つの記憶が脳内で衝突し、彼の精神を粉々にすり潰そうとしている。
久遠 朔「俺は、化け物だ。何も、わからない……ここがどこかも、俺が誰かも……」
血のにじんだ両手を見つめ、小刻みに震える朔の肩。
血の味が広がる口内を舌で舐め、ゆっくりと彼に近づく紡。
選択の時。
残った糸を強引に引き絞り、彼の脳を完全に破壊して『自我のない人形』にするか。
それとも、すべての糸を解き、彼を結の元へ返すか。
結に、彼を渡したくない。私が、私だけが彼を救えるのに。
背後から、朔の広い背中に抱きつく紡。はだけた藍染めの着物。傷だらけの肉体に密着する、彼女の柔らかな肌。
糸織 紡「怖いね、朔。私が、全部忘れさせてあげるよ」
紡の指先から紡ぎ出される、今までで最も太く、毒々しいほどに輝く金色の糸。
それは朔の背中だけでなく、首、腕、腰へと絡みつき、二人を文字通り一つに縛り上げる。
久遠 朔「紡……あぁ、紡……俺を、めちゃくちゃにしてくれ……」
「なにもかも、溶かしてくれ……ッ」
肉体を貫き合うことはない。
けれど、魔力の糸を通じて直接接続される互いの神経。
紡の絶望が朔に流れ込み、朔の狂気が紡を侵食する。
「あ゛っ、ぁあぁんっ! だめ、真っ白になる……ッ!」
弓なりに反る紡の背中。極限まで縮こまる足の指。獣のような呻き声を上げながら、床に頭を擦り付ける朔。
♥肉体の結合すら生ぬるい、魂の最深部を抉り合うような暴力的な絶頂。[/Heart]
幾度目かの白光が視界を灼き尽くした後。泥のように床へ崩れ落ちる二人。
響くのは、ゼエゼエと掠れた呼吸音だけ。
ドクン、ドクン。
虚空を見つめる朔の横顔を、愛おしげに撫でる紡。
夜明けの冷たい光が、二人の輪郭を青白く浮かび上がらせていた。
第五章: 光の奔流と消えない疼き
朝露が陽光を反射し、世界が白く染まり始める時刻。
紡が下す決断。
糸織 紡「……さよなら、私の可愛い獣」
《記憶解離・完全紡離》
自身の胸に、太い銀針を突き立てる紡。
己の生命力を代償に、強大な魔力が工房を満たす。
カッ!!
朔の身体を包み込む光の奔流。彼に縫い付けた『紡に関するすべての記憶』を一本残らず引き抜き、その空白に、結への純粋で暖かな愛を完璧に修復していく。
ふわりと浮き上がり、やがて静かに床へ降り立つ朔の体。
黄金色の瞳から狂気が消え去り、かつての高潔な光が戻っていた。
◇◇◇
数週間後。
古都の目抜き通り。肩を並べて歩く朔と結。
風に揺れる結の白いワンピース。穏やかな表情で彼女の肩を抱き寄せる朔。
誰が見ても、完璧で美しい恋人同士。
だが。
ふと、街の隙間から美しい夕暮れの空が見えた瞬間。
ドクン。♥
不自然に止まる朔の足。
糸織 結「朔さん? どうしたの?」
久遠 朔「いや……わからない。ただ、急に……」
朔の大きな手から、ポロリと零れ落ちる涙。
なぜ泣いているのか、彼自身にもわからない。
ただ、名前も顔も知らない『誰か』への狂おしいほどの渇望。鼻腔の奥にこびりついた、微かな雨とホコリの匂い。それが彼の胸をギリギリと締め付ける。
夕暮れの空を映す黄金色の瞳の奥底。
そこには、紡が最後に一針だけ縫い付けた、決して解けることのない『見えない金色の糸』。心臓に深く突き刺さったまま。
一方、暗い工房の片隅。
無造作なお団子髪を乱し、藍染めの着物をはだけたまま、古い丸椅子に腰掛ける糸織紡。
彼女の腕の中。強く抱きしめられているのは、朔が置き忘れた和柄の羽織。
「……ふふ、あははっ……」
自身のうなじをゆっくりと撫で下ろす紡の指先。
永遠に消えることのない、彼の体温。彼の匂い。彼が自分に向けた狂気的な眼差し。
誰の一番にもなれなかった彼女。彼に永遠の『呪い』を刻み込むことで、ようやく唯一の存在になれたのだ。
糸織 紡「ずっと、一緒だね……朔」
ホコリの舞う廃墟のような空間。いつまでも反響し続ける、彼女の狂おしい笑い声。
目を背けたくなるほどに美しく、そして醜悪な夕焼け。
空はただ、赤く燃え上がっていた。