第一章: 終わらない雨と冷たい手袋
隔離都市・第十三区を覆う鉛色の空。皮膚を焼く酸性雨が絶え間なく降り注ぐ。分厚い防弾ガラスを伝い落ちる水滴の軌跡を、虚ろな琥珀色の瞳が静かに追っていた。
薄暗い洋館の一室。窓辺に座る少女の、色素の薄い亜麻色の髪が換気扇の風に幽鬼のように揺れていた。彼女の細く折れそうな体躯を包むのは、サイズの合わない大きめの白いワンピース。景一郎が着古したワイシャツを不格好に縫い直したものだ。裸足のつま先が、冷たいマホガニーの床に落ちる己の影をなぞる。
宵野螢。
[A:宵野 螢:冷静]「……九百七十二、九百七十三」[/A]
背後の重厚な扉が、低い唸り声を上げて開いた。部屋の空気が一変する。古い紙と、上質な革。微かな火薬の匂い。振り返らずとも、皮膚の粟立ちが彼の来訪を告げていた。
[A:鳴海 景一郎:冷静]「日課の時間だ。こちらへ来い」[/A]
白髪交じりの整った黒髪。感情の起伏を一切読ませない三白眼。鳴海景一郎は、仕立ての良い黒の軍服調スーツを隙なく着こなし、両手には漆黒の革手袋を嵌めたまま立っていた。冷徹な特務査問官。かつて螢の母を見殺しにした、消えない罪の象徴。
[Sensual]螢の細い喉仏が上下する。立ち上がり、裸足のままペタペタと歩み寄って彼の足元にひざまずいた。景一郎の革手袋に包まれた指先が、螢の白い顎を持ち上げる。直接肌には触れない。手袋という無機質な障壁が、逆に神経の末端を狂おしく研ぎ澄ませていた。
[A:宵野 螢:照れ][Whisper]「……景一郎、さま。今日は、どこを……?」[/Whisper][/A]
見下ろす冷ややかな視線が、刃のように彼女の全身を舐め回す。それだけで、螢の下腹部に重く甘い熱が灯る。太ももの内側が微かに痙攣を起こし、大きめのワンピースの奥、秘められた花芯から熱い蜜がじわりと滲み出した。
[Heart]彼に呼吸の主導権を握られ、見下ろされるだけで、全身の細胞が歓喜に震える。景一郎の親指が、首筋から鎖骨の窪みへと滑り落ちた。薄い布越しに伝わる硬質な感触。息が詰まる。甘い痺れが背筋を駆け上がる。[/Sensual]
微かな布の擦れる音。静寂の中の秘め事を切り裂くように、部屋の隅にあるコンソール端末から無機質な警告音が鳴り響いた。黒い画面に青白いノイズが走り、見慣れぬ文字列の羅列が滝のように流れ落ちていく。

第二章: 嫉妬の檻
[Glitch]『ーー通信確立。螢、聞こえるか!』[/Glitch]
[A:灰葉 朔:興奮]「俺だ、朔だ! こんな鳥籠、俺がぶっ壊してやるよ。一緒に外の世界を見よう、螢!」[/A]
モニターに浮かび上がったのは、傷だらけのレザージャケットを羽織った青年の顔。荒削りだが純粋な光を宿した瞳。幼馴染の灰葉朔だ。螢の琥珀色の瞳の奥で、ほんの数ミリだけ光彩が収縮する。その微細な変化を、景一郎の三白眼は見逃さなかった。
[A:鳴海 景一郎:怒り]「……お前は、汚れているな」[/A]
氷点下の声。革手袋がぎりりと軋む音。景一郎の瞳孔の奥底で、完全に制御していたはずの黒い執着が泥のように溢れ出す。強制的に通信を遮断し、彼は螢の腕を乱暴に掴み上げた。部屋の中央に置かれた、アンティークの豪奢な椅子。冷たい革のベルトが、螢の細い手首と足首を無慈悲に縛り付ける。
[A:宵野 螢:恐怖][Tremble]「あ……景一郎さま、違います……私は、あなただけの……」[/Tremble][/A]
[A:鳴海 景一郎:冷静][Impact]「黙れ。お前はここで、一生私に飼い殺されるしかないんだ。外の光など見るな」[/Impact][/A]
[Sensual]衣服を剥ぎ取るような無粋な真似はしない。景一郎は白いワンピースの布越しに、微かに膨らむ蕾を革手袋で執拗に転がし始めた。
[A:宵野 螢:狂気][Whisper]「ひ、ああっ……! だめ、そんな、硬いので……っ」[/Whisper][/A]
背中が弓なりに反り、古びた木製の椅子が悲鳴を上げた。布地がこすれる摩擦と、手袋の無機質な感触。彼の指は腹を滑り降り、蜜で濡れそぼる最奥の入り口へと這い寄る。布の上から敏感な突起を指の腹で強く弾かれ、螢の足の指が限界まで縮こまった。息ができない。頭の髄が熱く溶けていく。
[A:宵野 螢:狂気][Pulse]「ねえ、もっと……もっと私を壊して。あなたの罪が溢れて、私で満たされるくらいに……!」[/Pulse][/A]
だが、脳髄を白く染め上げる波が押し寄せる寸前、その動きはぴたりと止まる。
[Heart]行き場を失った熱が体内で狂暴に暴れ回り、螢は白目を剥く。端麗な唇の端から、だらりと涎が垂れ落ちた。寸止めの地獄。涙と蜜でぐちゃぐちゃになった彼女の顔を見下ろしながら、景一郎自身の呼吸もまた浅く荒くなっていた。黒革の手袋が、彼女の体液で艶やかに光を帯びる。[/Sensual]
不意に、景一郎の手が完全に止まった。自身の奥底に渦巻く欲望の醜悪さに直面し、彼の眉間が深く刻まれた。ゆっくりと身を起こす。メインフレームの強制シャットダウン・レバーへと手を伸ばした。

第三章: 引き裂かれる鳥籠
洋館の警備システムが、重低音と共に完全に機能を停止した。数分後。分厚い扉が蹴り破られ、肩で息をする朔が部屋に飛び込んでくる。錆びた鉄パイプと、雨の匂いを漂わせながら。
[A:灰葉 朔:喜び]「螢! 助けに来たぜ。もう大丈夫だ!」[/A]
ナイフが閃き、螢の手足を縛っていた革ベルトが切り裂かれる。景一郎は窓辺に立ち、振り返りもしない。その背中は、強固な城壁のように冷たくそびえ立っていた。
[A:鳴海 景一郎:冷静]「……もうお前は用済みだ。目障りだから出て行け」[/A]
声に、一切の体温はない。螢の目が、限界まで見開かれる。呼吸が止まり、喉の奥からヒューという空気が漏れる音だけが室内に響く。膝から力が抜け、床に力なく崩れ落ちた。
[A:宵野 螢:絶望][Shout]「いや……っ! 景一郎さま、捨てないで、私を置いていかないで……!」[/Shout][/A]
朔は螢の細い体を強引に抱き上げ、外へと駆け出した。扉の向こうに降り続く酸性雨。分厚い雲の隙間から、一筋の陽光が廃墟の街を照らす。だが、螢の網膜を焼くその光は、致死量の猛毒と同じだった。景一郎の冷ややかな視線も、彼を纏う古い革の匂いもない外の世界。胃袋が裏返るような激しい吐き気。視野の端が急速に明滅し、世界の色が灰と化していく。朔の温かい腕の中で、螢の意識は細い糸がぷつりと切れるように途絶えた。遠く背後、特権階級の象徴である洋館から紅蓮の炎が吹き上がる音が響く。

第四章: 灰に咲く熱狂
反乱軍の暴動。夜空を飛び交う火炎瓶が、鉛色の空を毒々しい赤に染め上げていた。目を覚ました螢の鼻腔を突くのは、焦げた肉と硝煙の猛烈な臭気。彼女は己を抱きかかえて走る朔の横顔を、焦点の合わない瞳で見つめる。景一郎が自らシステムを落とした事実。彼が、己の命と引き換えに自分を外へ逃がしたという真相。
[Impact]生存本能のタガが、音を立てて外れ落ちた。[/Impact]
[A:宵野 螢:狂気][Shout]「離してえぇぇぇっ!!」[/Shout][/A]
獣のような叫び声。螢は朔の手首に深く歯を立て、口内に広がる血の鉄の味を無視してアスファルトに飛び降りた。
[A:灰葉 朔:驚き]「螢!? なにやってんだ、戻れば死ぬぞ!」[/A]
振り返らない。裸足で瓦礫を蹴り、皮膚が裂け、血糊がこびりつくのも構わず駆け抜けた。燃え盛る洋館。熱波が肌を焼き、煙が肺を焦がす。崩れかけた大広間。そこに、炎の壁に囲まれ、静かに目を閉じて死を待つ景一郎の姿があった。黒の軍服調スーツは煤に汚れ、端正な顔立ちの半分には痛々しい火傷の跡。足音に気づいた彼の目に、初めて確かな動揺が走った。
[A:鳴海 景一郎:驚き][Tremble]「なぜ……戻った。お前は、外で生きるべきだ……」[/Tremble][/A]
[A:宵野 螢:愛情]「あなた以外に、私の生きる場所なんてない」[/A]
[Sensual]炎の熱すら生ぬるく感じるほどの、剥き出しの狂気。螢は景一郎の胸に飛び込む。彼の右手に嵌められた黒い革手袋を強引に引き剥がし、その火傷を負った素手を自身の頬に押し当てる。痛覚など、もはや甘い蜜を引き出すためのスパイスに過ぎない。景一郎の中で張り詰めていた理性の糸が、粉々に瓦解した。
[A:鳴海 景一郎:狂気][Pulse]「……お前というやつは……っ」[/Pulse][/A]
灰と血に塗れた唇が激しく重なる。血の鉄の味と、涙の塩気が舌の上で狂おしく混ざり合う。服の裾が焼け焦げ、互いの肌を直接貪り合うようにまさぐる。最奥の濡れそぼる隠し穴へ、彼の熱を帯びた太い指が容赦なく沈み込んだ。ずるり、と卑猥な水音が響く。
[A:宵野 螢:興奮][Flash]「あ、ああっ! 景一郎、さま……っ! もっと、奥まで……っ!」[/Flash][/A]
視線を絡ませ、炎の中でただ名前を呼び合う。息が詰まるほどの熱気。ドクドクと脈打つ肉の感触。あ、あ、だめ、壊れる、真っ白になる! それだけで、いかなる肉体の結合すら凌駕する、圧倒的な魂のオーガズムが二人の脳髄を真っ白に焼き尽くした。[/Sensual]
耳をつんざく轟音。太い天井の梁が焼け落ち、巨大な炎の壁が二人の姿を完全に呑み込んだ。

第五章: 溶け合う暗黒の宇宙
世界は、特務査問官と反逆者の娘が暴動の炎の中で灰になったと記録した。雨音すら届かない、地下数十メートルの隠しシェルター。外界から完全に隔絶された、二人だけの閉鎖宇宙。仄暗い間接照明が、コンクリートの壁をぼんやりと照らしている。無機質な静寂の中、規則的に回る換気扇の音だけが、淀んだ空気を微かに揺らした。部屋の中央に置かれた簡素なベッド。かつての冷徹な威厳を完全に剥ぎ取られた景一郎が、螢の細い膝に顔を埋めていた。
[A:鳴海 景一郎:愛情][Whisper]「……螢。どこにも行かないな……?」[/Whisper][/A]
[A:宵野 螢:愛情][Whisper]「ええ。ずっとここにいます。あなたと一緒に」[/Whisper][/A]
[Sensual]小刻みに震える彼の広い背中を、螢の腕が優しく包み込む。景一郎は怯える幼児のように彼女の匂いにすがりつき、顔をワンピースの薄い布地に執拗に擦り付ける。全てを手に入れた、歪な聖母の微笑み。琥珀色の瞳は、暗く底なしの光を宿している。彼女の細い指先が彼の白髪交じりの髪をゆっくりと梳き、柔らかな唇が彼の耳裏の敏感な皮膚をなぞり、甘噛みした。
[Heart]社会的な死という莫大な代償と引き換えに手に入れた、決して終わることのない狂気の温もり。互いの体温と吐息が混ざり合い、個人の境界線が熱く溶け落ちていく。
[Pulse]トクン、トクン。[/Pulse]
静かな闇の中で、重なり合う心音だけが美しく響き渡る。[/Sensual]
永遠に続く暗黒の中で、二人は静かに、完璧な一つの欠損品として完成されていた。