第一章: 白き冷血と生贄の脈拍
青白い蛍光灯が不気味に瞬く地下取調室。重苦しい沈黙を、冷たい拘束具の軋む音だけが切り裂く。
レオン・ヴァレンタイン「脈拍百四十二。呼吸数三十。血圧も危険域まで跳ね上がっていますね」
純白の軍服に一分の乱れもないレオンは、漆黒の短髪をわずかに揺らし、拘束椅子に縛り付けられた獲物を見下ろした。
彼の首元を覆う銀のチョーカー型心拍モニターは、感情の一切を削ぎ落とした平坦な緑の波形を冷徹に刻み続けている。
エリス・フォークナー「触るな! 統制局の飼い犬が!」
灰色のフード付きケープから零れ落ちた白銀の髪が、激しい抵抗とともに乱暴に揺れる。
レオンは冷徹な翡翠色の瞳をわずかに細めると、薄い革手袋の端を歯でくわえて音もなく引き抜いた。露出した冷たい指先が、汗ばむエリスのうなじへ躊躇なく滑り込む。
レオン・ヴァレンタイン「あなたのその美しい乱れ、すべて私に記録させてください」
エリス・フォークナー「やめ……息が、詰まる……っ!」
直に触れる薄い皮膚の奥、指先に伝わる激しい早鐘のような拍動が、レオンの背筋を痺れるような快感で貫く。
真紅の瞳にじわりと涙が滲み、紅潮した白い肌をひと筋の汗が艶めかしく伝い落ちていく。胸元の上下が、拘束ベルトを激しく軋らせた。
レオン・ヴァレンタイン「素晴らしい。薬物で平坦化された市民には到底出せない、生きた肉の律動だ」
エリス・フォークナー「殺しなさいよ……! 仲間と同じように、脳を刻んで人形にすればいい!」
レオン・ヴァレンタイン「そんな無駄な真似はしません。あなたは私の標本として、ここで生かし続けます」
緊急回線接続:総監室直通
頭上の監視端末から、耳障りな電子音が室内の空気を容赦なく切り裂いた。
ギルバート・クライス「査定官レオン。尋問はそこまでだ。その被検体を伴い、直ちに最上階へ出頭せよ」
冷酷な低音がスピーカーから響き渡り、エリスの首筋を這っていたレオンの指先がピクリと止まる。
第二章: 裏切りの処刑宣告と共犯の熱

全面ガラス張りの総監室から見下ろす巨大都市は、幾何学的な光の格子に息苦しく縛られていた。
黒と金の重厚な長礼服を纏ったギルバートが、青白い光を明滅させるサイバネティック義眼をレオンへ向ける。
ギルバート・クライス「検体コード・エリス。明朝の公開処刑にて感情切除を執行する」
レオン・ヴァレンタイン「総監。この検体は情動反応のサンプルとして、まだ研究価値が残されています」
ギルバート・クライス「貴様の心拍ログに微細な周波数の乱れが記録されている。不要な執着だ、レオン」
無慈悲な宣告が、氷のような重さで二人の間に落ちる。
ギルバート・クライス「処刑後、貴様自身の脳波再調整手術も同時に行う。下がりたまえ」
居住区の私室へ連れ戻された密室の中、エリスが拘束具を軋らせ、血走った瞳でレオンを射抜くように睨みつけた。
エリス・フォークナー「聞いたでしょ! 明日には私もアンタも、あいつに壊される!」
レオン・ヴァレンタイン「……そのようですね。私の収集記録もここまでだ」
レオンの淡々とした返答に、エリスは拘束されたまま身を乗り出し、彼の胸元へ額を乱暴に押し当てた。
エリス・フォークナー「取引よ、白服の変態査定官。私をここから逃がしなさい」
濡れた瞳で視線を絡め取り、エリスは乱れた吐息をレオンの首筋に吹きかける。
エリス・フォークナー「逃がしてくれるなら……私のこの心臓の音、アンタだけに全部あげる!」
押し当てられた額越しに、ドクドクと暴れる強烈な熱がレオンの胸板を叩いた。
レオン・ヴァレンタイン「私の、専属の鼓動……」
抑制チョーカーの奥で、レオン自身の喉が微かに鳴る。
レオン・ヴァレンタイン「いいでしょう。あなたの熱を奪う奴らは、すべて排除します」
ウーッ! ウーッ!
警報:第1区画内における異常生体反応を検知。鎮圧部隊を配備
部屋の強化扉が外側から爆砕され、黒煙と火薬の匂いが一気に雪崩れ込んできた。
第三章: 心拍過負荷の終焉と二人の証明

青白いシリンダーが無数に林立するメインフレーム『静寂の心臓』。
硝煙が濃く立ち込める通路で、レオンの純白だった軍服は、自らと敵の返り血で赤黒く染まり果てていた。
ギルバート・クライス「所詮は欠陥品の処分市だ。秩序の前に消え去るがいい」
待ち構えていたギルバートが大型銃の銃口を向け、義眼の焦点を鋭く絞る。
レオン・ヴァレンタイン「秩序? そんな冷えた世界に、何の価値があるのですか!」
レオンは自らの首から銀のチョーカーを無理やり引きちぎり、血に濡れたエリスの手首を強く掴んだ。
レオン・ヴァレンタイン「エリス! あなたの怒りも恐怖も、すべてこの端末に叩き込みなさい!」
エリス・フォークナー「死んでも渡さない! 私たちの命の音を聴けえええっ!」
二人の生体端子をメインシステムの中枢へ直結させた瞬間、エリスの激しい情動データが濁流となって中枢を侵食する。
ドクッ、ドクン、ドクンッ!
警告:生体パルス過負荷。全区画の感情抑制リミッターを強制解除
都市全域のスピーカーから、エリスの絶叫と狂乱の鼓動が、大地を揺るがす爆音となって轟き渡った。
ギルバート・クライス「馬鹿な……街の平坦波形が、崩壊していく……!」
抑制を解かれた親衛隊員たちが頭を抱えて泣き叫び、次々と銃を投げ出して床に崩れ落ちていく。
レオンは足元によろめいたギルバートの胸元へ迷わず銃口を突きつけ、引き金を引いて床へと沈めた。
火花散る崩壊の瓦礫の中、致命傷を負ったレオンは力尽き、冷たい床へ倒れ込む。
エリス・フォークナー「レオン! 目を開けなさいよ! 死んだら許さないんだから!」
レオン・ヴァレンタイン「……聴こえます。あなたの、乱れた……最高の……」
薄れゆく視界の中、レオンはエリスの豊かな胸元にそっと耳を寄せ、満足げに口角を上げた。
エリスは涙をボロボロと零しながら、血に染まった彼の胸へ両手を強く押し当てる。
エリス・フォークナー「……動いてる。アンタの心臓も、ちゃんと生きて打ってるじゃない……!」
無機質な静寂は完全に砕け散り、解き放たれた都市は数百万の泣き声と叫び、そして熱烈な生の産声で満ちていた。