第一章: 降りしきる冷雨とシャンデリアの檻
豪雨。
窓ガラスを叩きつける水滴の暴力。分厚いベルベットのカーテン越しにも響く、その重低音。
東京を呑み込む雨の匂いが、空調の効いた室内にまで微かに立ち込めていた。
[Pulse]無数のシャンデリアが放つ暴力的な光の乱舞。[Pulse]
フロアを満たすのは、香水と葉巻の煙。そして権力者たちの粘ついた欲望の気配。
烏の濡れ羽色のような艶やかな黒髪。一糸の乱れもなくシニヨンに結い上げた女が立つ。
高級ブランドの特注品。仕立ての良すぎる漆黒のタイトドレスが、彼女の滑らかな曲線を残酷なほど浮き彫りにする。
[FadeIn]憂いを帯びた切れ長の瞳は、ガラス玉のように一切の感情を排していた。[FadeIn]
橘宵子。
彼女の足元。鋭いピンヒールが真紅の絨毯に深く沈み込む。
[Sensual]
薄いシルクのドレスの下。
彼女の柔らかな肌を覆うものは、何一つ存在しない。
[Tremble]ひんやりとした空気が、剥き出しの太ももの内側を撫で上げる。[Tremble]
白髪混じりのオールバック。伝統的な和の意匠を凝らした高級スーツを纏う男――九条朔太郎が、背後から音もなく近づく。
[A:九条 朔太郎:冷静]「各国の要人が君を見ているよ。美しいね、宵子」[/A]
京都訛りの混じった、甘く粘り気のある低い声。
[Whisper]「ほら、皆が見ているよ。美しく咲き誇りなさい」[/Whisper]
[A:橘 宵子:冷静]「……すべては、御心のままに」[/A]
血の気を失った唇が微かに動く。
次の瞬間。ドレスの深いスリットから滑り込んだのは、九条の冷たい指先。
[Impact]誰も気づかない。[/Impact]
分厚い布地の陰。無慈悲な指が彼女の最も柔らかな花芯を直接抉る。[Heart]
熱い蜜が太ももを伝い、ピンヒールの内側へと滴り落ちる感触。
ビクリと、宵子の背中が弓なりに反る。
喉の奥から漏れそうになる悲鳴。それを奥歯を噛み締めて殺す。
[/Sensual]
シャンデリアの眩い光の中、視界が白く明滅する。
その、視線の先。
喧騒を切り裂くように、一人の男が立っていた。
少し癖のあるアッシュグレーの短髪。疲労が滲む鋭い三白眼。
ネクタイを少し緩めたダークスーツの男――御堂灰音。
かつて、彼女のすべてを奪い、捨て去った元婚約者。
[Flash]視線が、空中で激突する。[Flash]
[Think]なぜ、彼がここに。[/Think]
瞳孔が極限まで見開かれる。
[Sensual]
御堂の鋭い視線。それが捉えたのは、宵子の不自然に強張った体と、背後に立つ九条の存在。
かつて愛した男に、最も無惨で淫らな姿を見られているという事実。
羞恥と絶望が、限界まで張り詰めていた宵子の理性を粉々に打ち砕く。
[Glitch]脳髄が白く焼き焦がれる。[Glitch]
[Tremble]「あ……っ」[/Tremble]
声なき絶唱。
九条の指の動きとは無関係に、宵子の内側からかつてないほどの鋭利な昂りが爆発した。
膝から抜け落ちる力。ドレスの裾が微かに震える。
暗い瞳から、一滴の雫。シャンデリアの光を反射して零れ落ちた。
[/Sensual]
第二章: 会議室の密やかな生贄
重厚なオーク材の巨大な円卓。
各国の要人たちが眉間に皺を寄せ、深刻な面持ちでマイクに向かう。
厳戒態勢の国際会議場。
張り詰めた空気の中、宵子は九条の斜め後ろに控える。五カ国語の同時通訳を完璧にこなす、美しい操り人形。
だが、円卓の下。
分厚いテーブルクロスに隠された闇の中で、異常な儀式が進行している。
[Sensual]
[A:九条 朔太郎:興奮]「靴を、脱ぎなさい」[/A]
インカム越しに聞こえる、九条の命令。
宵子は微かに喉仏を上下させる。周囲の視線を避けるように、右足のピンヒールを静かに脱ぎ捨てた。
冷たい大理石の床。
ストッキングすら履いていない素足の指先。空気に触れて震える。
[A:九条 朔太郎:狂気]「私の足を撫でるんだ。誰にも気づかれないようにね」[/A]
[A:橘 宵子:恐怖]「……っ」[/A]
引きつる唇の端。
宵子の素足が、九条のスーツのズボン越しに、その脚をゆっくりと這い上がる。[Heart]
家名を復興するための道具。
その呪縛が、宵子に理不尽な行為を強要する。
だが、最悪なのは。
極限の緊張感と、誰かに見つかれば国際的スキャンダルになるという恐怖。それが、彼女の奥深くに潜む歪んだ背徳感を痛いほどに刺激していること。
[Tremble]太ももの内側が熱い。[/Tremble]
濡れた秘所から溢れ出した蜜が、再び彼女を凌辱する。
自らの意志とは裏腹に、足の指先が九条の脚に絡みつき、妖艶な動きを始める。
[/Sensual]
ふと、正面からの鋭い視線に射抜かれた。
円卓の対岸。
九条の対立候補として現れた、御堂灰音。
彼の三白眼が睨みつけているのは、不自然な位置で強張る宵子の肩のラインと、九条の微かな笑み。
[A:御堂 灰音:怒り]「……九条氏の提案には、重大な瑕疵がある」[/A]
マイクを通した低い声。
ぶっきらぼうだが、本質的な怒りを孕んだ響き。
御堂の視線は、テーブル越しに宵子の震える瞳を真っ直ぐに捉えていた。
[Think]やめて。見ないで。[/Think]
宵子の胸の奥で、早鐘を打つ心臓。[Pulse]
[A:御堂 灰音:悲しみ]「お前がどう思おうと、俺は俺のやり方でしか守れない」[/A]
かつて彼が残した言葉。それが脳裏をよぎる。
その時、宵子は気づいた。
御堂の握りしめた拳。白く鬱血するほどに震え、テーブルクロスの端を握り潰していることに。
冷たい空調の風が、宵子の冷や汗を奪っていく。
会議室の静寂の下で、時限爆弾のタイマーがカチカチと時を刻んでいた。
第三章: 暴かれる真実と遠隔の拷問
真実は、常に最も残酷な形で提示される。
晩餐会の直前、控え室の薄暗い廊下。
宵子は、御堂の秘書が落とした一枚の書類を拾い上げた。
そこにあるのは、橘家の巨額の負債記録。そして、それを肩代わりする代わりに九条が仕掛けた凶悪な罠の全貌。
さらに。
御堂が宵子を捨てた真実。それは、彼女を九条の致命的な罠から逃がすため、自らが泥を被る自己犠牲だった。
[Impact]呼吸が、止まる。[/Impact]
古い羊皮紙のようなカビの匂い。インクの香りが鼻腔を突く。
指先から血の気が引き、書類が音を立てて床に落ちた。
[A:橘 宵子:絶望]「嘘……灰音……」[/A]
感情を排した丁寧語が崩れ落ちる。
しかし、感傷に浸る時間は与えられない。
扉が開き、現れたのは冷笑を浮かべた九条。
[A:九条 朔太郎:冷静]「さあ、主賓の挨拶だ。宵子、これを入れておきなさい」[/A]
彼の手には、鈍く光る小さな弾丸のような玩具。
[Sensual]
きらびやかな晩餐会。
数百人のゲストの視線を浴びながら、宵子はマイクの前に立つ。
原稿を読み上げる彼女の最奥には、あの冷たい異物が埋め込まれていた。[Heart]
[A:橘 宵子:冷静]「本日は、皆様に……っ、お集まりいただき、誠に……」[/A]
[Whisper]ブゥゥゥン……[/Whisper]
九条の手元のスイッチが押された瞬間。
最も敏感な蕾を、暴力的な振動が直撃する。
[Glitch]「あ……っ!」[/Glitch]
足の指が縮こまり、ピンヒールの中で痙攣する。
背中を駆け抜ける電流。
視界がグニャリと歪む。
ワインとローストビーフの濃厚な匂い。そこに混ざり合う吐き気と快楽。
[Think]見られている。灰音に。[/Think]
最前列のテーブル。
御堂が、ギリッと奥歯を噛み鳴らす音が聞こえるほど、鬼の形相で彼女を見つめていた。
強烈な羞恥。彼への狂おしいほどの愛おしさ。それが混ざり合い、内臓をドロドロに溶かしていく。
[A:九条 朔太郎:興奮]「どうしたんだい? 続けて」[/A]
悪魔の囁きと共に、跳ね上がる振動の出力。[Shout]やめてぇぇっ!![/Shout]
白目を剥きそうになるのを必死に堪え、宵子の両手が演台の角に食い込む。
指の関節が白く変色する。
完璧な笑みを顔に貼り付けながら、原稿を読み続ける女。
だが。
限界を超えた肉体は、一粒の涙を瞳から押し出した。
頬を伝う透明な雫。
[/Sensual]
それを見た瞬間。
ガタンッ!
椅子を蹴り倒す激しい音。
[Flash]御堂が、立ち上がった。[Flash]
[A:御堂 灰音:怒り]「もう、終わりにしようぜ。九条」[/A]
予定調和の舞台が、完全に破壊される音がした。
第四章: 崩壊する鳥籠
[A:御堂 灰音:狂気]「これが、お前たちの崇める男の正体だ!!」[/A]
御堂が空中に放り投げた無数の書類。
同時に、会場の巨大なスクリーンに映し出される機密データ。
裏金の流れ、違法な買収、そして他者の尊厳を踏みにじる数々の悪行。
だが、それは御堂自身の会社をも道連れにする諸刃の剣。
自らの破滅を代償にした、捨て身の攻撃。
会場は阿鼻叫喚の渦に包まれる。
フラッシュの光が暴力的に点滅し、怒号が飛び交う。
[A:九条 朔太郎:絶望]「き、貴様ぁぁっ!! 何をしているか分かっているのか!」[/A]
常に冷徹だった九条の顔。それが醜く歪む。
京都訛りも消え失せ、ただの矮小な獣のように喚き散らす。
狂乱する男。近くにあったシャンパンボトルを掴み、御堂へ向かって振り下ろした。
[Impact]ガチャンッ![/Impact]
鈍い音。
ガラスの破片が飛び散る。
だが、御堂の頭上には落ちなかった。
[A:橘 宵子:怒り]「……触らないで!!」[/A]
[Sensual]
宵子が、御堂を庇うように飛び込んでいた。
美しい黒髪のシニヨンが解け、烏の濡れ羽色のような髪が背中に散らばる。
肩を裂かれたドレス。そこから覗く白い肌と赤い血。
口の中に広がる、鉄の味。[Tremble]
[A:九条 朔太郎:驚き]「宵子……! お前、私の道具の分際で!」[/A]
[A:橘 宵子:狂気]「私は……もう誰の所有物にもなりません!」[/A]
[/Sensual]
腹の底からの、剥き出しの叫び。[Shout]ふざけるなっ![/Shout]
家名の呪縛。空っぽの器という嘘。
そのすべてを自らの意志で打ち砕いた瞬間。
彼女の胎内に残された玩具など、もう何の快楽も恐怖も生まない。
[A:御堂 灰音:驚き]「宵子……お前、血が……」[/A]
[A:橘 宵子:愛情]「行きましょう、灰音。こんな場所、もう私たちには必要ない」[/A]
御堂の大きな手が、宵子の震える手を強く握り返す。
二人は地位も名誉も、過去の呪縛もすべてを捨て去り。
怒号とフラッシュの嵐を背に、冷たい夜の街へと駆け出した。
第五章: 夜明けの海と光の奔流
逃亡の果て。
辿り着いたのは、錆びた防波堤が延々と続く人気のない海辺。
夜明け前。
凍えるような海風が、容赦なく二人の体温を奪っていく。
潮の満ち引きがもたらす、生命の根源のような深い磯の匂い。
[Sensual]
泥だらけになったピンヒールを脱ぎ捨てる宵子。冷たいコンクリートの上に素足で立つ。
血と泥に汚れた漆黒のタイトドレス。
彼女は、背中のジッパーに手をかけた。
[A:御堂 灰音:驚き]「宵子、何をして……風邪を引くぞ」[/A]
[A:橘 宵子:愛情]「脱ぎたいの。……これまでの私を、全部」[/A]
[Whisper]シュルリ……[/Whisper]
重い布地が足元に滑り落ちる。
一切の嘘も装飾もない、ありのままの白い肌。
寒さと、それ以上の昂揚。全身が微細に震えている。[Heart]
言葉を失う御堂。自らのダークスーツのジャケットを脱ぐと、彼女の華奢な肩を包み込んだ。
そして、彼自身の体温が残る分厚いコートで、宵子を抱き寄せる。
[A:御堂 灰音:愛情]「……馬鹿な女だ。俺と一緒にいれば、地獄に落ちるぞ」[/A]
[A:橘 宵子:喜び]「あなたと一緒なら、そこが私の天国よ」[/A]
直接的な交わりはない。
だが、御堂の温かい胸板に頬を押し当てる。力強い鼓動[Pulse]を耳で感じるだけで。
互いの吐息が混ざり合い、凍えた指先が絡み合うだけで。
宵子の内側で、重く淀んでいた苦痛と孤独が、サラサラと浄化されていく。
[FadeIn]東の空が、白み始める。[FadeIn]
地平線から溢れ出す、強烈な黄金色の光。
光の奔流が、海面を煌びやかに染め上げ、二人の体を包み込む。
その瞬間。
宵子の最奥から、これまで知らなかった純粋で清冽なうねりが湧き上がった。
暴力的な支配によるものではない。
ただ、深く愛されているという絶対的な安心感がもたらす、魂の震え。[Tremble]
[A:橘 宵子:興奮]「あ……っ、灰音……っ、私……っ、おかしくなりそう……っ!」[/A]
熱い涙が止めどなく溢れる。
御堂の腕の中で背中を反らせ、宵子は声なき嗚咽を漏らす。
それは、恐怖でも背徳でもない。
生命そのものが歓喜に打ち震える、魂の絶頂。あ、あ、だめ、真っ白になる!
[/Sensual]
御堂は、彼女の黒髪に顔を埋め、何度もその名前を呼んだ。
波の音が、二人の罪も傷もすべてを洗い流していく。
昇る朝日に照らされた防波堤の上。
二つの影が一つに溶け合い、世界で最も美しい静寂の中に消えていった。