第一章: 夜空の破片と青い鎖
パァンッ!
夜空の天蓋に走る、致命的な亀裂。
硬質な音が大気を劈き、砕けた星屑が大気圏で燃え尽きる。
金色の尾を引いて降り注ぐ、圧倒的な流星雨。
ここは観測塔のバルコニー。世界で最も美しい天体ショーの下、冷たい夜風が荒れ狂っている。
アルタイル・シリウス「……星降りの病だ。君は完全に隔離される。観測院の決定に逆らうことは許されない」
冷徹な宣告。鼓膜を容赦なく打つ、その響き。
強風が、銀糸のような長い髪を乱暴に煽る。星空を映した深い群青色の瞳を限界まで見開き、恐怖に細い喉仏を上下させる私。
かつての豪奢なドレスはとうに剥ぎ取られた。今の私を覆うのは、胸元が大きくはだけた薄絹のネグリジェが一枚のみ。華奢な身体に張り付く布地を通して、夜の冷気が容赦なく肌を刺す。
リゼット・ルミエール「アルタイル様……? 婚約破棄、とは……どういう……」
漆黒の短い髪を揺らし、一歩近づく彼。
氷のように冷たい銀色の三白眼。足元から頭の先までをねっとりと舐め回す、その視線。
黒と銀を基調とした隙のない観測官の軍服からは、冷ややかなシトラスと、微かな硝煙の匂い。
無慈悲な宣告。
膝から力が抜け、崩れ落ちる大理石の床。
なぜ。どうして。
声にならない嗚咽が喉の奥で詰まる。空気を求めて、唇が金魚のように開閉を繰り返す。
しかし、彼の次の行動は、宣告の冷酷さとはあまりにもかけ離れていた。
ゆっくりと外される、黒革の手袋。
剥き出しになった青白い長い指が、大理石に投げ出された素足の足首をすくい上げる。
♥ビクリ、と肩が跳ねる。[/Heart]
カチャリ。
青白い輝きを放つ星機巧の鎖が、細い足首に食い込んだ。重い金属の冷たさと拘束感。足の指がギュッと縮こまる。
アルタイル・シリウス「君の美しい瞳がこれ以上、汚れた空を見ないように。……案ずるな。私が直々に『治療』をしてあげる」
足の甲に押し当てられる、ひんやりとした唇。
深く、ねっとりとした口づけ。
背筋に走る、悪寒とも熱ともつかない甘い痺れ。
見上げれば、銀色の瞳が歪な熱を帯びてこちらを見下ろしている。
頭上では美しい流星雨が降り続く。
圧倒的な星の瞬きの下、冷たい鎖の重みと、足の甲に残る生温かい唾液の感触だけが永遠の別離を告げている。
隔離。婚約破棄。
なのに、どうしてこんなにも不快なほど甘く、匂い立つように縛り付けるのか。足元から這い上がる未知の恐怖に、私はただ震えることしかできない。
◇◇◇
第二章: 硝子の熱帯夜
外界の光が一切届かない地下の硝子牢。
冷たいガラスの壁面が、ただ一つの人工光源を鈍く反射する。静寂の底で反響する、卑猥な水音。
リゼット・ルミエール「あ……っ、ひっ……! やめ、てください……アルタイル、様……」
アルタイル・シリウス「力を抜け。これも星の魔力を抜くための治療だ」
軍服の襟元を緩め、手袋を外したアルタイルの素手。それが私の太ももをねっとりと撫で上げる。
彼の指先には、粘り気のある銀色の秘薬がたっぷりと塗られていた。甘ったるい、熟れすぎた果実のような匂い。鼻腔を麻痺させ、思考の輪郭をドロドロに溶かしていく。
決して、清らかなる奥の蕾には直接触れない彼。
布越しに薄絹を湿らせ、太ももの内側や膝裏を這うように執拗に撫で回す。
♥ビクン、ビクンと肉体が無意識に跳ねる。[/Heart]
リゼット・ルミエール「んあっ……! そこ、は……だめ、おかしく、なるぅ……っ!」
耳裏に吹きかかる、熱い吐息。
汗ばんで紅潮した私の顔を、至近距離で覗き込む銀の瞳。
アルタイル・シリウス「どうした? まだ熱が足りないようだな」
指の腹が、薄絹越しに硬く綻んだ真珠をかすめる。
あッ!
弓なりに反り上がる背中。痙攣する足の指。
ドクン、ドクン、ドクン。
寸止めの快楽。火照りきった身体は交わりを許されず、極限の飢餓状態へと突き落とされる。唯一の接触者である彼の冷たい指の温度だけを、本能が狂おしく求めていく。
憎い。憎いはずなのに……。彼がいなければ、私はもう息もできない。
リゼット・ルミエール「もっと……触って……アルタイル、様……お願い、します……」
アルタイル・シリウス「いい子だ」
グチュ、と響く卑猥な水音。
白目を剥きかけ、口の端からだらしなく涎が垂れる。脳髄が沸騰し、理性が液体となって耳から流れ出ていく感覚。
情報も、外の光も、すべて彼に奪われた。
暗闇の中、彼の匂いだけが世界のすべてになる。物理的に孤立し、抗えない依存の沼に沈んでいく自分自身の細胞が、何よりも恐ろしい。
◇◇◇
第三章: 偽りの救世主
パリーンッ!
硬質な音が鳴り響き、硝子牢の一部が粉々に砕け散る。
カストル「リゼット! 迎えに来たよ!」
土埃と汗の匂いを纏う、明るい茶髪の青年。
幼馴染のカストル。
暗がりの中で爛々と輝く、人懐っこい琥珀色の瞳。
身につけた革鎧が擦れる音が、外界の現実味を強烈に突きつけてくる。
リゼット・ルミエール「カストル……? どうして、ここへ……」
鎖を引きずり、後ずさる私。
薄絹一枚で汗に塗れた惨めな姿を、上から下まで舐め回すように見つめる彼。ゴクリと鳴る喉仏。
カストル「ひどい姿だね。でも、すごく……そそるよ」
背筋を駆け上がる、おぞましい悪寒。
リゼット・ルミエール「なにを……言ってるの?」
カストル「僕が君を救い出してあげる。アルタイルのやつから君を奪いたかったんだ。だから、君の全部を僕に頂戴よ」
泥のついた無骨な手が、細い肩を強引に掴む。
リゼット・ルミエール「いやっ! 触らないで!」
カストル「大人しくしろよ! 僕が助けてやるって言ってんだろ!」
強引に床へ組み敷かれる肉体。
覆い被さってくる泥臭い体臭と、むき出しの劣情。
♥息ができない。肺が潰れる。恐怖に瞳孔が開き切る。[/Heart]
その瞬間。
《重力圧(グラヴィティ・プレス)》
ドゴォォォンッ!
目に見えない巨大なハンマーで叩き潰されたように、カストルの体が床へ沈み込む。
カストル「ガァッ……!? なんだ、これ……っ!」
砕けた硝子の向こうから、ゆっくりと歩み寄る黒革のブーツ。
アルタイル・シリウス「私の所有物に、汚い手で触れるな。虫けらが」
氷点下の声。
倒れ伏すカストルを一瞥すらせず、ブーツの踵でその顔面を無造作に踏み躙るアルタイル。
カストル「ひ、ぎぃっ……!」
骨の砕ける鈍い音。途絶える悲鳴。
血まみれの床を躊躇いなく進み、震える私の肩を抱き寄せる腕。
アルタイル・シリウス「ほら、見たか。外の世界は君を汚し、傷つけるだけだ。安全なのは私の腕の中だけだろう?」
彼の匂い。清潔なシトラス。
それが今は、何よりも安心できる絶対的な盾に思える。
リゼット・ルミエール「あ……あぁ……」
幼馴染の裏切り。泥に塗れて消え去る、唯一の光。
世界には、もう彼しかいない。彼の檻こそが、私の全て。
心の奥底で、最後のストッパーが音を立てて砕け散る。
◇◇◇
第四章: 業火に揺れる花弁
血のように赤い空。
ここは観測塔の最上階。巨大なガラス窓の向こうで、本物の「星降りの厄災」が猛威を振るっている。
業火に包まれる街。渦を巻く黒煙。人々の悲鳴と建物の崩壊音が、かすかにここまで届く。
だが、その光景すら、今の私にはどうでもいい。
アルタイル・シリウス「世界が燃えているな。美しい」
窓辺に立ち、ワイングラスを傾ける彼。
私はその後ろ姿を見つめながら、冷たい大理石の床に這いつくばる。
リゼット・ルミエール「アルタイル様……見て、ください……」
彼の匂いが染み込んだ黒い上着を抱きしめ、震える指を蜜滴る花弁の裂け目へと這わせる。
ドクン、ドクン。
アルタイル・シリウス「ふむ。見事な発情だ。自ら蕾を広げるまでに育つとはな」
振り返る、冷たい銀の瞳。
その氷のような視線に射抜かれるだけで、甘い疼きの源がジンジンと熱を持ち、溢れんばかりの蜜が太ももを伝い落ちる。
リゼット・ルミエール「こんなの、間違っているのに……どうして、気持ちいいの……っ!」
クチャ、ジュチュ。
自らの指先が、昂り震える熱の芯を弾く。
♥「あぁっ! はぁっ、あ……っ!」[/Heart]
弓なりに反る背中。ギュッと縮こまる足の指。真っ白に明滅する脳内。
彼に見られている。
彼に完全に支配されている。
その事実だけが猛烈な快感となって神経を焼き切っていく。
涎が顎を伝い、床に滴り落ちるのも構わず、私は狂い悶える。
アルタイル・シリウス「泣き顔も美しいよ、リゼット。お前は一生、私の檻の中で咲いていればいい」
リゼット・ルミエール「はいっ……! アルタイル様のもの……私、あなたの、ものぉっ!」
外の世界がどれだけ焼け落ちようと、そんなものは知ったことではない。
この閉ざされた空間で、彼の冷たい瞳に見つめられながら自らを慰め、果てる。恐怖はとうの昔に消え失せた。残っているのは、髄液まで支配される圧倒的な悦びだけ。
◇◇◇
第五章: 終焉の最奥
ドゴォォォォン……!
激しく揺れる塔全体。
大気を焼き尽くす、圧倒的な星の雨。空は完全にひび割れ、巨大な火球が次々と地表に突き刺さる。ガラス張りの部屋に、業火の照り返しが毒々しい赤い影を落とす。
アルタイル・シリウス「時間だ、リゼット。世界が終わる」
軍服を脱ぎ捨て、ついにその肉体を私の前に晒す彼。
リゼット・ルミエール「アルタイル、様……」
鎖の繋がれた足を大きく開かれ、熱い欲望の塊が、一度も触れられたことのない未開の入り口に押し当てられる。
♥「あ……っ、こわい、でも……」[/Heart]
アルタイル・シリウス「すべてを私に捧げろ」
ブチィッ!
リゼット・ルミエール「あッ、ぎぃぃぃぃッッ!!」
引き裂かれるような激痛。
純潔なるベールを容赦なく破り、太く熱い楔が深部へと突き進む。
痛い。痛い。身体が真っ二つに割れる。
しかし。
ドクン、ドクン、ドクン!
激痛を遥かに凌駕する狂おしいほどの熱量。それが、子宮を激しく打ち据える。
リゼット・ルミエール「あぁぁっ! すごい、もっと……もっと奥までぇっ!」
アルタイル・シリウス「リゼット……! 私の、私だけの星……っ!」
パンッ! パンッ!
肌のぶつかり合う卑猥な水音が、崩壊の轟音を掻き消していく。
世界が壊れる。私が壊れる。
白く染まる視界。沸騰する脳髄。完全に融解する思考。
「あぁぁぁぁぁぁッッ!!」
最奥に放たれる、ドクドクと熱い生命の白濁。
同時に塔の天井が崩落し、燃え盛る星の欠片が降り注ぐ。
圧倒的な映像美。死と破壊の雨の中で、溶け合うように抱き合う彼と私。
リゼット・ルミエール「……やっと、一つになれましたね……」
何もかもを失う。尊厳も、希望も、世界すらも。
けれど、この満ち足りた熱はどうだ。
永遠の檻の中で至高の悦びに打ち震え、彼の胸に頬をすり寄せて、狂ったように微笑む私。
灰になっていく視界。その中で、彼の匂いだけが優しく私を包み込んでいる。