深夜の静寂を引き裂くのは、布が裂ける鈍い音。
そして肉が冷たいオーク材の床に叩きつけられる無機質な衝撃。
アンティークの重厚な黒曜ドレスが無惨にめくり上げられ、光を反射しない漆黒の長髪が乱雑に散乱する。
血の気を失った青白い肌に、生々しい紅い手跡が容赦なく刻み込まれた。
鉄錆の匂いが鼻腔を突く。唇を噛み破った鉄の味。
柊 蛍雪「ねえ、もっと可愛い声出してよ。兄様に聞こえちゃうかもよ?」
金髪の毛先を汗に濡らし、派手な洋装を着崩した男が、人懐っこい笑みを張り付けたまま腰を打ち付ける。
潤いを喪失した洞窟へ、暴力的な肉の楔が無理やりこじ開けるように侵入を繰り返した。
柔肉が削り取られるような摩擦。
呼吸が浅く乱れ、喉の奥からヒューヒューと掠れた音だけが漏れる。
白百合 凛「私など、その程度の価値しかありませんから……どうか、捨てないで……」
機械のように紡がれる言葉。
胃の腑がせり上がるような痛みを押し殺し、ただ壊れた人形を演じ続ける。
軋むベッドの足。焦点の合わない視線が、這うように壁際へと向かった。
油絵の裏。
幾何学的な壁紙の模様に紛れた、小さな黒い穴。
その暗がりの奥に、氷のように冷たい輝きを見つける。
銀縁眼鏡の奥で光る、冷徹な三白眼。
次期当主、柊蒼星。
彼が、見ている。
この泥を啜らされるだけの惨めな姿を、壁の向こう側から冷徹に観測しているのだ。
ドクン、ドクン、ドクン。
鼓膜を突き破る自身の心音。
脳髄のシワの奥深くまで電流が走り、視界の端から色彩が焼け焦げていく。
胃袋が氷塊に変わるような悪寒と同時に、下腹部の奥底から、これまで知らなかった粘り気のある熱がどろりと溢れ出した。
痛覚が、甘く溶け落ちる。
「あ……っ、あぁっ……あぁああっ……!」
これまで発したこともない、甘く堕落した嬌声。
自身の口からこぼれた信じがたい音色に、身体中が微細な痙攣を起こす。
暴力への反応ではない。
壁越しの視線という、見えない刃に貫かれることへの異常なまでの熱情。
シーツを掴む指先が白く染まり、彼女は自ら腰を跳ね上げて未知の濁流に呑まれていった。

柊 蒼星「随分と、壁に向かって熱い声を上げていたな」
翌朝、大理石のような美貌を崩さない男は、白百合の首筋に残る紅い痣を冷たい指先でなぞりながら囁く。
石造りの地下書庫。
カビと古いインクの匂いが肺に重く沈み込む。
外界の光を遮断された密室で、蒼星は一切の肌に触れることなく、冷酷な言葉の刃だけを振り下ろした。
スリーピーススーツを隙なく着こなした彼の三白眼が、床に這いつくばる凛の背中を貫く。
柊 蒼星「壁の穴に向かって這い蹲り、自ら濡れた花芽をひくつかせていた事実。見られているというだけで、己の奥底から蜜を溢れさせる卑しい肉体だ」
一切の起伏を持たない低い声。
それが、直接的な愛撫よりも鋭く神経を抉り取る。
脊髄を駆け上がる痺れ。脳のシワを一つ一つ撫で回されるような錯覚。
カタカタと、奥歯が鳴る。
熱を帯びた泥のような羞恥が思考を埋め尽くしていく。
白百合 凛「あ……違っ、それは……ちがい、ますわ……!」
柊 蒼星「言い訳など不要だ。お前の髄の底まで、私の視界から逃れられると思うな」
言葉だけで肉体の主導権が完全に奪い取られる。
理性がスライムのようにドロドロに溶け落ち、口の端から銀色の糸が垂れた。
蒼星の磨き上げられた革靴にすがりつきながら、凛はただ言葉の暴虐だけで身をよじらせる。
ドクン、ドクン。
視界の端で火花が散り、限界を超えた波が全身を打ち据えた。
泥水のように床へ崩れ落ち、熱い息を吐き散らす。
その無惨な崩壊の瞬間。
背後の重厚な扉が開く音が響く。
使用人の少女、千鳥。
千鳥「ひっ……!」
怯えた視線が、床で液状化する凛の姿を射抜く。
意図的に招き入れられた観測者。
他者に見られているという事実が、果てたばかりの身体に再び致死量の熱を注ぎ込んだ。

カビ臭い土壁に囲まれた、息もつけないほど狭い隠し通路。
壁に穿たれた小さな覗き穴から漏れる、微かなロウソクの光。
その向こう側、豪華な客室のベッドでは、派手な洋装の男が少女を無理やり組み敷いていた。
柊 蛍雪「いいじゃん、もっと啼いてよ。誰にも聞こえないからさ」
千鳥「私は何も見ておりません……やめっ、どうか……!」
布が破れ、肉と肉がぶつかり合う生々しい音が、壁越しに響き渡る。
かつて自分を虐げていた婚約者の醜態。
それを、安全な暗闇から見下ろすという歪んだ共犯関係。
背後から、大理石のように冷たい胸板が凛の背中を圧迫した。
柊 蒼星「見ろ。お前を痛めつけていた愚図の、浅ましい姿を」
耳元で囁かれる冷酷な吐息。
黒曜のドレスの隙間から、氷のように冷たい指先が侵入してくる。
太ももの内側を這い上がり、熱を持った最も敏感な芯へと的確に触れた。
白百合 凛「ひっ……ぁ、あ……!」
柊 蒼星「声を出すな。気付かれるぞ」
視覚から流れ込む他者の蹂躙。
背後から与えられる圧倒的な支配。
暗闇の中で聴覚が鋭敏になり、蛍雪の荒い息遣いと、蒼星の腕に光る時計の秒針の音が奇妙に混ざり合う。
感覚が完全にバグを起こす。
他者の肉が蹂躙される様を視界に焼き付けながら、自らの最奥深くまで侵入してくる蒼星の指を貪るように飲み込んだ。
脳髄が、ドロドロに融解していく。
声なき絶叫を上げ、凛は背中の壁に全身を押し付けて身を挺らせた。
ピタリ、と。
壁の向こうの動きが止まる。
柊 蛍雪「……ん? 今、壁の裏で何か音しなかった?」
ギシ、とベッドが軋む音。
スリッパが床を擦り、穴に向かって歩み寄ってくる足音。
心臓が破裂しそうなほどの緊迫。
見つかれば終わる。
その極限の状況が、未曾有の熱を持った快感となって凛の下腹部で弾け飛んだ。

シャンデリアの眩い光が、硝子のグラスを反射して目を突き刺す。
ローストビーフの脂の匂いと、高級な赤ワインの香りが混ざり合う晩餐会。
何十人もの貴族たちが談笑する喧騒の中、中央の円卓は氷点下の静寂に包まれていた。
柊 蒼星「我が弟ながら、見下げ果てた横領だ。さらには館のメイドにまで手を出すとはな」
柊 蛍雪「あ、兄様……これは、違う! 俺は……!」
卓上に叩きつけられた証拠書類。
千鳥の震える証言。
派手な洋装を着飾った蛍雪の顔面から、急速に血の気が引いていく。
社会的な死。
呆然とする弟を見下ろし、蒼星は一切の起伏を持たずに宣告した。
柊 蒼星「この穢れた婚約者を、私が引き取ろう」
その瞬間。
純白のテーブルクロスに隠された足元で、硬い革靴の先端が動く。
重厚な黒曜ドレスの裾が無造作に捲り上げられた。
無防備に晒された秘所の入り口を、硬質な革の感触が容赦なく擦り上げる。
白百合 凛「っ……!?」
声を出せば、全てが終わる。
周囲には、着飾った貴族たちが群がっている。
彼らは上辺の会話に夢中で、テーブルの下で進行する異常な凌辱に気づいていない。
ドクン、ドクン、ドクン!
心臓の鼓動が耳小骨を粉砕するほどの勢いで暴れ狂う。
社会的な死の瀬戸際。
公衆の面前で、ただの所有物として造り変えられるという事実。
白百合 凛「私など、その程度の価値しか……ありません、から……」
♥頭蓋の奥で、理性を繋ぎ止めていた鉄線が弾け飛ぶ。[/Heart]
極限の緊張と背徳の熱が混ざり合い、致死量の快楽となって全身の血管を駆け巡った。
足の指が縮こまり、ドレスの下でとめどない蜜が太ももを伝い落ちる。
瞳孔が開いたまま、涙と涎を垂らし、彼女は歪んだ笑みを浮かべた。
柊 蒼星「もう、一生誰にも見せない。私だけが、お前の絶望を覗き続ける」
◇◇◇
眩しすぎる光が、ガラスに反射して目を焼く。
四方を巨大なマジックミラーで囲まれた、部屋の中央に置かれた鳥籠。
冷たい金属の床。
そこに、一糸まとわぬ姿の凛が這いつくばっている。
外界からは丸見え。
だが、中からは外界の光と、近づいてくる者のぼやけた輪郭しか見えない。
扉の外から響く、革靴の足音。
時には複数の足音が立ち止まり、このガラスの向こう側で彼女を観察している。
柊 蒼星「見ろ。これが我が家の誇る、最も美しい剥製だ」
「ほう……見事な狂態だ」
客の声がマイク越しにくぐもって響く。
客には中の様子が見えない仕様だとしても、凛には見知らぬ男たちの輪郭がはっきりと見えている。
常に見られているという極限の暴力。
それなしでは、もう呼吸さえできない肉体へと変異していた。
白百合 凛「見られ、てる……。見られて、いますわ……。私、見られて……あぁっ!」
人間としての輪郭が、音を立てて崩れ落ちる。
自らの指を濡れた洞窟へ深く沈め、自意識の奥底までかき回す。
マジックミラー越しに浮かび上がる蒼星の冷徹なシルエットだけを道標に、永遠に続く快楽の泥沼へと沈んでいく。
誰からも必要とされなくなる不安は、もう存在しない。
彼女は今、完璧な箱庭の中で、絶対的な支配者の瞳に映る世界で最も愛された人形として、底なしの狂気に身をよじらせている。