第一章: 宵闇の密室
重く垂れ込める雲が月を隠す。名もなき奥山を呑み込む、底なしの闇。外界から隔絶された神殿の奥深く、咽び泣くような風の音が白木の回廊を撫でていった。
鼻腔を蹂躙する、幾重にも焚き込められた白檀の甘く重い香気。
薄暗い灯火に浮かび上がる祭壇。その前で、天羽 結月は静かに祈りを捧げている。
床まで届く白銀の長髪。冷ややかな空気を切り裂くように滑り落ちる。幾重にも重ねられた純白の巫女装束は一切の乱れを知らず、色素の薄い氷のような蒼い瞳は、人間らしい揺らぎを微塵も宿さない。村人たちが畏怖と共にひれ伏す「神の器」。それが彼女の表の顔。
[A:天羽 結月:冷静]「……今宵も、星が見えませんね」[/A]
独りごちる彼女。その唇の端が、ほんのわずかに引きつった。
背後の襖が音もなく開く。分厚い木の扉に降ろされる、重い鉄の鍵。[Impact]ガチャン、という無機質な音が密室の完成を告げた。[/Impact]
夜の闇に溶け込む漆黒の狩衣。鋭く暗い三白眼を持つ男、九条 朔が背後に立つ。無数の刀傷が刻まれた荒々しい手が、ゆっくりと結月の背後へ伸びる。
[A:九条 朔:冷静]「振り返れ」[/A]
その低い声が空気を震わせた瞬間。結月の纏っていた神聖なオーラが、音を立てて崩れ去る。
膝から力が抜け落ちる。白無垢の裾が畳の上にくしゃりと乱れた。
[Sensual]
氷のようだった蒼い瞳が急速に熱を帯びる。とろけるような水気を孕む。
朔の冷たい指先が、純白の襟ぐりから覗く陶器のようなうなじを滑った。たったそれだけの接触。結月の細い肩が[Tremble]ビクンッ[/Tremble]と跳ね上がる。
[A:天羽 結月:興奮][Whisper]「あ……っ、朔、さま……」[/Whisper][/A]
[A:九条 朔:冷静]「誰が声を出していいと言った」[/A]
冷酷な言葉と共に、傷だらけの指が彼女の白銀の髪を乱暴に鷲掴みにする。
痛みが走るはずの暴力的な引力。結月の喉の奥から、甘く濁った吐息が漏れた。
畳に這いつくばる。朔の足元に額をすり寄せる。昼間の高嶺の花は跡形もない。微かに開いた唇から銀の糸が垂れ、狂信的な熱に浮かされたように朔の黒い足袋を見つめ続ける。
[A:天羽 結月:狂気][Whisper]「わたくしは神の器……ですが、夜だけは、あなたの犬にして……っ」[/Whisper][/A]
朔は冷ややかに彼女を見下ろす。その首筋の薄い皮膚に指を食い込ませた。[Heart]ドクン、ドクンと脈打つ彼女の頸動脈。[/Heart]
支配という名の猛毒。二人だけの密室を満たしていく。
[/Sensual]
だが、その狂おしい沈黙を破るように、神殿の外から慌ただしい足音が響く。
近づく松明の炎が障子を赤く染め上げた。不吉な疫病の影が確実にこの聖域を侵食し始めていた。
第二章: 獣の懇願
数日後の真夜中。
朔が警護の巡回で部屋を空けている間、結月は激しい渇きに苛まれていた。
爪が手のひらに食い込む。にじみ出た血が白無垢の袖を赤く汚す。孤独。その二文字が脳髄を掻き毟る。
[Sensual]
這うようにして辿り着いたのは、部屋の隅に脱ぎ捨てられていた朔の黒い羽織。
結月は獣のようにそれに飛びつく。布地を顔に強く押し当てた。汗と土、そして血の匂いが混じった朔の強烈な体臭。それを肺の奥底まで吸い込むと、彼女の背中が弓なりに反り上がった。
[A:天羽 結月:興奮][Whisper]「はあ、ぁっ……朔、朔……っ」[/Whisper][/A]
乱れた着物の裾から覗く太ももの内側。汗でじっとりと濡れそぼっている。
震える指先が、自らの濡れた秘苑へと導かれる。熱を帯びた入り口を指の腹で擦り、敏感な花芯を爪の先で弾く。[Glitch]グチュ、チュプ[/Glitch]という卑猥な水音。静寂の部屋に響き渡った。
視界が白く明滅する。白目を剥きそうになるほどの快感が背髄を駆け上がる。
[A:天羽 結月:狂気][Whisper]「もっと、汚して……私を、奥からぐちゃぐちゃに壊してぇっ……!」[/Whisper][/A]
[A:九条 朔:怒り]「……何をしている」[/A]
[Flash]ビクゥッ![/Flash]
全身が硬直する。入り口に立つ朔の氷のような三白眼。床で身悶えする結月を射抜いていた。
慌てて着物を掻き合わせようとする彼女の手。朔のブーツが容赦なく踏みつける。
[A:九条 朔:冷静]「勝手に触るな。お前は俺の許可なしに、果てることすら許されない」[/A]
朔は結月を組み伏せると、両手首を帯で背中に縛り上げる。
しかし、決してその熱の源には触れない。傷だらけの指が、耳の裏から首筋、そして鎖骨の窪みを執拗になぞるだけ。
寸止め。焦らし。触れてほしい場所から数ミリの距離。熱い吐息と視線だけで蹂躙していく。
[A:天羽 結月:絶望][Tremble]「あぁっ、だめ、お願い、お願いですから……触って……っ!」[/Tremble][/A]
[A:九条 朔:狂気]「乞え。俺がいないと生きていけないと、泣き叫べ」[/A]
[A:天羽 結月:狂気][Shout]「生きていけません! あなたがいなければ、私はただの肉の塊っ……ああっ!」[/Shout][/A]
[/Sensual]
よだれを垂らし、狂ったように頭を振る結月。その無様な姿。朔の胸の奥底でどす黒い独占欲が渦を巻く。
だが、その時。
廊下の奥から、威圧的な足音が近づいてくるのが聞こえた。
[Impact]「大司祭様がお見えである」[/Impact]
冷徹な声が、夜の帳を引き裂いた。
第三章: 浄化という名の死
豪華な金糸の装飾が施された白い法衣が、畳の上を滑る。
白髪交じりの短髪に肥満体型の男、神宮寺 厳。傲慢な笑みを浮かべて結月を見下ろしていた。
[A:神宮寺 厳:冷静]「穢れなき神の器よ。村に蔓延る疫病を鎮めるため、完全なる浄化の儀式を執り行うこととなった」[/A]
厳の背後に控える屈強な僧兵たち。冷たい槍を構えている。
[A:神宮寺 厳:喜び]「そなたは神殿の最奥にある地下牢へ永遠に幽閉される。そして……護衛の九条朔。貴様は任を解く。ただちにこの山を下りよ」[/A]
その言葉。結月にとって死刑宣告そのもの。
[Flash]永遠の幽閉。朔との断絶。[/Flash]
表面上は微動だにしない。氷のような蒼い瞳で厳を見つめ返す結月。だが、装束の下で彼女の全身は小刻みに震え、胃の腑が裏返りそうなほどの吐き気に襲われていた。
口の中に広がる血の鉄の味。無意識に己の唇を噛み破っていた。
[A:天羽 結月:冷静]「……御意に」[/A]
声は平坦だったが、その瞳孔は異常なほどに拡大している。
一方、壁際に立つ朔の眉間が一瞬だけ跳ねた。
任を解かれる。結月を失う。
その事実を突きつけられた瞬間、朔の脳髄を雷が撃ち抜く。
[Think]俺が彼女を飼い慣らしていると思っていた。違う。俺が……この女の狂気なしでは息もできないのだ。[/Think]
朔は無意識のうちに、腰の柄に手をかけていた。指先が凍りつくように冷たい。
[A:神宮寺 厳:怒り]「何をしている、九条。さっさと消え失せよ。目障りだ」[/A]
[A:九条 朔:怒り]「……」[/A]
朔が殺気を放とうとした瞬間。結月がすっと立ち上がった。
[A:天羽 結月:冷静]「朔。あなたはもう、必要ありません」[/A]
その一言。分厚い扉が閉ざされる音よりも重く、朔の心臓を叩き潰した。
第四章: 雪に舞う嘘
灰色の空から、季節外れの白雪が舞い落ちる。
神殿の裏手、外界へと続く木の柵越し。二人は立っていた。
凍てつくような雪の温度。むき出しの肌を刺す。
結月の氷の蒼い瞳は、どこまでも透き通っていた。
朔を生かすため、厳に逆らって彼が殺されるのを防ぐため。自らの感情の全てを殺し、完全無欠の「神の器」の仮面を被り直している。
[A:天羽 結月:冷静]「さようなら。あなたはただの護衛でした。わたくしは、一人で神の元へ参ります」[/A]
言葉の刃が、冷たい風に乗って朔の頬を打つ。
だが、朔の鋭い三白眼は、結月の仮面の奥に隠された真実を確実に見抜いていた。
[Blur]彼女の唇の端が、ほんの数ミリだけ震えていることを。
その足元が、今にも崩れ落ちそうに揺らいでいることを。[/Blur]
[A:九条 朔:絶望]「……嘘をつくな」[/A]
[A:天羽 結月:悲しみ]「……」[/A]
[A:九条 朔:愛情][Tremble]「お前は俺がいなければ、夜の闇に怯えて泣き喚くただの女だろうがっ……!」[/Tremble][/A]
[A:天羽 結月:怒り][Shout]「黙りなさいっ!!」[/Shout][/A]
結月が初めて声を荒らげた。
その瞳から、大粒の涙が雪の混じる虚空へ弾け飛ぶ。
[Sensual]
柵の隙間から、朔が手を伸ばす。傷だらけの指が結月の白銀の髪に触れようとした瞬間、僧兵の怒号が響いた。
触れ合うことは許されない。
結月は一歩後ずさる。胸を掻き毟られるような別離の痛み。二人の肺から酸素を奪い去る。
[Pulse]視線が絡み合う。声なき声で、「行かないで」「死なないで」と魂が絶叫している。[/Pulse]
[/Sensual]
雪は激しさを増す。二人の姿を白く塗り潰していく。
そして、無情にも結月を引きずり込むように、神殿の重い扉が閉ざされた。
儀式の夜は、もう目前に迫っている。
第五章: 業火の結び目
[Impact]ドォンッ!![/Impact]
爆音が神殿を揺るがす。真っ赤な業火が夜空を焦がした。
「完全なる浄化の儀式」が執り行われる本殿。その中央で、神宮寺 厳が自らの腹から噴き出す血を押さえながら、信じられないものを見る目で後ずさっていた。
[A:神宮寺 厳:恐怖][Tremble]「き、貴様……狂っているのか! 神に刃を向けるなどっ……!」[/Tremble][/A]
[A:九条 朔:狂気]「俺の神は、ここにはいねぇ」[/A]
顔の半分を返り血で染める。漆黒の狩衣をボロボロにした朔が、刀から血糊を振り払う。
彼の足元には、無数の僧兵たちの屍が転がっていた。
厳の首が虚空を舞う。豪華な白い法衣が血の海に沈む。
燃え盛る松明の火が天蓋に燃え移った。本殿は瞬く間に灼熱の檻と化す。
鼻を突く煙の匂いと、肉が焦げる臭気。肌をジリジリと焼く異常な熱気の中、結月は祭壇の上から朔を見つめていた。
純白の巫女装束の裾を炎が舐め、白銀の長髪が熱風に煽られて生き物のように舞う。
[A:天羽 結月:喜び][Tremble]「朔……っ、朔ぁっ!!」[/Tremble][/A]
結月が祭壇から飛び降りる。
崩れ落ちる柱を掻き分ける朔。彼女を抱き留めた。
[Sensual]
衣服が熱で焼け焦げ、互いの体温が直接肌を打つ。
物理的な結合など、もはや必要ない。
朔の狂気を孕んだ三白眼が結月の瞳を射抜く。荒々しい吐息が彼女の顔にかかる。
[A:九条 朔:愛情][Whisper]「お前は一生、俺の呪縛から逃げられない」[/Whisper][/A]
その視線と声だけ。結月の脳髄は完全に焼き切れた。
[Glitch]ガクガクと全身が激しく痙攣する。白銀の髪を振り乱し、天を仰ぐ。[/Glitch]
熱を帯びた白き奥底から、とめどなく溢れ出す粘着質な蜜。内腿を這うように伝い落ちる。交わることすらなく、視線の貫通だけで極限の精神的絶頂を迎えていた。
[A:天羽 結月:狂気][Shout]「あぁぁぁぁっ!! あ、あ、だめ、壊れる、真っ白になる! あなたと一緒に、地獄の底までっ……!!」[/Shout][/A]
[/Sensual]
燃え落ちる神殿の轟音すら、今の二人には心地よい祝福の鐘だった。
炎の熱気が肌を焼く。煙が肺を焼く。
しかし、互いの存在という究極の依存物質を手に入れた彼らの顔。この世の何よりも美しい、狂気に満ちた笑みが刻まれていた。
崩落する梁が二人の姿を覆い隠す直前。夜空の月だけが、その美しき逃避行の完成を静かに見下ろしている。