隣の聖女は、夜に堕ちる

隣の聖女は、夜に堕ちる

主な登場人物

九条 真琴 (Kujo Makoto)
九条 真琴 (Kujo Makoto)
32歳 / 男性
少し猫背で、常に疲れたような目をした地味な風貌。しかし、レンズ越しに玲香を見る時だけ、捕食者のような冷徹な光を宿す。服装は量販店のヨレたスーツか、無難な部屋着。
西園寺 玲香 (Saionji Reika)
西園寺 玲香 (Saionji Reika)
29歳 / 女性
艶やかな黒髪ロング、常に最高級のブランド服を着こなす。肌は陶器のように白い。部屋では一転して、過激なランジェリーや、あえて無防備なシルクのガウン一枚を纏う。
九条 理央 (Kujo Rio)
九条 理央 (Kujo Rio)
30歳 / 女性
明るい茶髪のボブカット。流行のメイクと露出度の高いファッション。家の中では常にスマホをいじり、だらしない格好をしている。

相関図

相関図
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6 3861 文字 読了目安: 約8分
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第一章: 崩壊と開戦

コンクリートの冷たい壁。背を預ける九条真琴の視線は、虚ろに自身の掌へと落ちる。

伸び放題で脂ぎった黒髪が額に張り付き、量販店で買った三枚セットの灰色のスウェットは膝が抜けてしまっている。何より、その瞳――かつては知的さが宿っていたはずの茶色の虹彩。今や泥水のように濁り、絶望という名の澱だけが沈殿していた。

ガラス戸の向こう。リビングルームから漏れ聞こえるのは、妻の嬌声と見知らぬ男の低い唸り声。

真琴の家だというのに。真琴の居場所は、この幅一メートルにも満たない冷え切ったベランダにしかなかった。

[A:九条 真琴:絶望]「……はは、なんだこれ。俺の人生、どこで間違えたんだ」[/A]

乾いた笑い。夜風があっさりとさらっていく。

手すりの向こうには、東京の夜景が宝石箱をひっくり返したように煌めいている。このタワーマンションの二十五階は、成功者の証のはずだった。だが今、真琴にとってはこの世で最も高い牢獄に過ぎない。

ふと、隣室のベランダから衣擦れの音。

パーティションの下、わずかな隙間から、甘い香水の匂いが漂ってくる。

隣に住むのは、西園寺玲香。マンションの自治会でも評判の、完璧な淑女だ。いつもハイブランドのスーツを隙なく着こなし、真琴のような冴えない男にも優雅に微笑みかける、雲の上の存在。

[Think](こんな夜更けに、彼女も眠れないのか……?)[/Think]

魔が差した、としか言いようがない。

真琴はパーティションの隙間に、吸い寄せられるように顔を近づけた。

[Sensual]

そこには、信じられない光景があった。

夜景を背にした玲香が、欄干に身を預け、白磁のような太腿を露わにしている。

身に纏っているのは、薄いシルクのガウン一枚だけ。夜風が吹くたびに裾がはだけ、豊かな胸の膨らみと、先端の桜色が月光に晒される。

彼女の細い指先は、秘められた花弁を執拗に弄っていた。

[A:西園寺 玲香:興奮]「ん……っ、ふぅ……誰にも、見られてない……」[/A]

その表情は、昼間の聖女のような微笑みとは対極。

整った眉を寄せ、口元をだらしなく半開きにし、獣のような快楽に歪んでいる。

クチャ、ぬちゃ……粘ついた水音が、風の音に混じって真琴の鼓膜を震わせた。完璧な妻が、ただの欲情する雌へと堕ちていく様。

[/Sensual]

真琴の喉が鳴った。

その音に、玲香がハッと顔を上げる。

視線が絡み合う。

逃げなければ。警察を呼ばれる。社会的に終わる。

真琴の全身から血の気が引いた。

だが、彼女は叫ばなかった。

ゆっくりと、とろけるような笑みを浮かべ、あろうことか、自身のガウンをさらに大きく広げたのだ。

[A:西園寺 玲香:狂気]「……あら。見つけられちゃった」[/A]

その指は、動きを止めなかった。

◇◇◇

第二章: 歪な契約

翌朝のエレベーターホールは、死刑台へ向かう廊下のように静まり返っていた。

床のタイルを凝視し、胃の腑からせり上がる吐き気を必死に抑え込む真琴。

扉が開く。そこには、完璧なメイクアップを施し、淡いブルーのワンピースを纏った玲香が立っていた。

[A:西園寺 玲香:冷静]「おはようございます、九条様。良いお天気ですこと」[/A]

[A:九条 真琴:恐怖]「あ、あ……おはよう、ございます……」[/A]

二人きりの箱が、重力に従って落下を始める。

密室。逃げ場はない。

玲香が一歩、真琴に近づいた。彼女から漂う高貴な薔薇の香りが、昨夜の生々しい雌の匂いとオーバーラップする。

[Sensual]

玲香の赤い唇が、真琴の耳元に寄せられた。

熱い吐息が鼓膜を撫でる。

[A:西園寺 玲香:興奮]「昨日のこと……見なかったことにしてほしい?」[/A]

懇願ではない。それは、蛇が獲物を締め上げるような、甘美な誘惑だった。

真琴の股間が、意思に反して熱を持ち始める。

[A:西園寺 玲香:狂気]「それとも……もっと、見たい?」[/A]

[Heart]ドクリ[/Heart]と、真琴の中で何かが弾けた。

恐怖が、どす黒い興奮へと変質する。自分を虐げる妻への鬱屈した復讐心と、目の前の高貴な女性を支配できるかもしれないという暴虐的な期待。

[/Sensual]

[A:九条 真琴:興奮]「……見せろ。全部」[/A]

その日の夜、真琴は玲香の部屋にいた。

手には、趣味の一眼レフカメラ。

玲香は部屋の中央、深紅のソファの上で、あられもない姿を晒していた。

[A:西園寺 玲香:照れ]「ふふ……そんなレンズで見られると、ゾクゾクしますわ」[/A]

[A:九条 真琴:冷静]「動くな。もっと脚を開いて。……そう、そのままだ」[/A]

ファインダー越しに見る彼女は、ただの被写体であり、真琴の所有物。

シャッターを切るたびに、玲香の理性が一枚ずつ剥がれ落ちていく。

高貴な仮面の下に隠された、露出狂としての本性。それを引きずり出し、記録し、管理する。

真琴の瞳に、かつての怯えはなかった。そこにあるのは、捕食者の冷徹な光だった。

◇◇◇

第三章: 主従の逆転

[Shout]ふざけんなよッッ!![/Shout]

真琴の怒号が、狭いリビングに響き渡った。

テーブルの上には、一通の書類。離婚届。

[A:九条 理央:冷静]「だからぁ、うるさいって。慰謝料は請求しないであげるから感謝してよね。だってこの子、あんたの子じゃないし」[/A]

理央は膨らみ始めた腹をさすりながら、スマホの画面から目を離さずに言い放った。

[A:九条 理央:怒り]「あんたみたいな陰気な男と暮らすの、もう限界なのよ。ATMとしても性能悪いし」[/A]

頭の中が真っ白になった。

システムのコードがバグを起こして崩壊するように、真琴の自我が砕け散る。

理央が出て行った後の静寂が、真琴の首を絞める。

気がつけば、玲香の部屋のチャイムを乱暴に押していた。

ドアが開いた瞬間、真琴は玲香の細い肩を掴み、壁に押し付けた。

[A:九条 真琴:狂気]「俺を笑いに来たのか! お前も、俺を惨めな男だと思ってるんだろ!!」[/A]

暴力的な衝動。すべてを壊してしまいたい。

だが、玲香は抵抗しなかった。

それどころか、彼女の瞳は潤み、頬は紅潮していたのだ。

[Sensual]

[A:西園寺 玲香:愛情]「ええ、そうよ……もっと、もっと乱暴にして……私を壊して……!」[/A]

[A:九条 真琴:驚き]「な……?」[/A]

玲香の手が、真琴の震える手を包み込み、自身の豊かな胸へと導く。

心臓が早鐘を打っていた。

[A:西園寺 玲香:悲しみ]「私の夫も……私を『家具』としてしか見ていない。完璧な妻という役割だけの、ただの置物……。誰も、本当の私なんて見てくれない」[/A]

彼女の瞳から涙がこぼれ落ちる。

[A:西園寺 玲香:興奮]「でも、あなたは違う。あなたのそのレンズだけが、私の汚い中身まで全部見てくれる……。脅迫して? 命令して? それが、私が生きている唯一の証なの」[/A]

[/Sensual]

真琴の手から力が抜ける。

支配していると思っていた。だが違った。

この鳥籠の中で、真琴の歪んだ欲望こそが、彼女の酸素だったのだ。

被害者だと思っていた女は、真琴を背徳の沼へ引きずり込む、美しき共犯者だった。

◇◇◇

第四章: 堕ちる快楽

薄い壁一枚。

それが、二人の世界を隔てる唯一の境界線であり、同時に接点だった。

深夜二時。

真琴はベッドの上で、理央の背中を見つめながら、耳にイヤホンを押し込んでいた。

通話アプリの向こうから、濡れた吐息が聞こえてくる。

[A:西園寺 玲香:興奮]「……ああっ、真琴……今、旦那様の隣で……してるの……」[/A]

[Sensual]

[A:九条 真琴:興奮]「声を出すなよ、玲香。バレたら終わりだ」[/A]

[A:西園寺 玲香:狂気]「ふふ……バレたら、どうなるのかしら……想像するだけで、奥が、キュッてなるの……」[/A]

真琴の手が、シーツの下で自身の熱を弄る。

隣で寝息を立てる理央への憎しみと、壁の向こうで同じように配偶者を欺いている玲香への背徳感が、脳髄を溶かすほどの快楽物質(ドーパミン)を分泌させる。

[Think](俺たちは、繋がっている。この汚れた秘密で)[/Think]

玲香の指示に従い、真琴は理央のスマホを解析し、浮気相手とのやり取り、ホテルの領収書、あられもない写真データをクラウドに吸い上げていた。

玲香もまた、政財界の大物である夫の裏帳簿を、寝室の金庫から盗み撮りしていた。

[/Sensual]

ある夜、二人はベランダに出た。

パーティション越し。互いの姿は見えない。

だが、気配だけが濃厚に漂う。

[A:西園寺 玲香:興奮]「ねえ、手を出して」[/A]

隙間から、白魚のような指が差し出される。

真琴がおずおずと指先を触れ合わせると、電流が走ったような衝撃が駆け抜けた。

触れられないもどかしさ。寸止め(Teasing)の焦燥。

[A:西園寺 玲香:愛情]「準備はいい? 真琴。……私たちの復讐劇(ショー)、始めましょう」[/A]

その声は、甘く、残酷に響いた。

◇◇◇

第五章: 永遠の共犯

審判の日は、唐突に訪れた。

真琴が集めた証拠データは、匿名掲示板と理央の実家、そして浮気相手の職場へと一斉送信される。

理央の悲鳴がマンションに響き渡るのと時を同じくして、テレビのニュース速報が、西園寺グループの巨額脱税と贈収賄疑惑を報じた。

[A:九条 理央:絶望]「嘘でしょ……なんで、なんであんたがこんな画像持ってるのよぉぉぉ!!」[/A]

理央は泣き叫び、真琴に掴みかかろうとしたが、駆けつけた弁護士と警官によって制止された。

彼女の人生は、社会的にも経済的にも完全に抹殺された。

数ヶ月後。

静まり返ったマンションの廊下で、真琴と玲香はすれ違った。

真琴は離婚が成立し、玲香の夫は逮捕され、彼女もまた自由の身となっていた。

だが、二人は目も合わせない。

他人のふりをして、それぞれの部屋へと消えていく。

夜。

カチャリ、と鍵が開く音がした。

ベランダではない。玄関のドアだ。

真琴の部屋に、玲香が滑り込んでくる。喪服のような黒いレースのドレスを纏って。

[A:西園寺 玲香:愛情]「ごきげんよう、共犯者さん」[/A]

[A:九条 真琴:冷静]「……鍵は、かけなくていいのか」[/A]

[A:西園寺 玲香:狂気]「いいえ。誰かに入ってきてほしいもの。……私たちが見せつけてやるところを」[/A]

[Sensual]

二人は結ばれることを選ばなかった。

「夫婦」というありふれた契約は、彼らの歪んだ絆には相応しくない。

玲香は真琴の前に跪き、その熱い楔を崇めるように見上げる。

真琴は冷徹なカメラのレンズを、彼女の恍惚とした表情に向けた。

[A:九条 真琴:興奮]「記録してやるよ。死ぬまで」[/A]

[A:西園寺 玲香:興奮]「ええ……撮って。私の全てを……あ、ああっ……!」[/A]

シャッター音が、二人の荒い息遣いと重なる。

硝子の城の中で、誰にも知られない、婚姻届よりも重く暗い鎖で繋がれた、背徳の余生が始まった。

[/Sensual]

[System]物語は、レンズの向こう側で永遠に続く。[/System]

クライマックスの情景

【物語の考察】

本作は現代社会における「成功の象徴(タワーマンション)」がいかに閉鎖的な「檻」であるかを描き出している。真琴と玲香は、それぞれ「無能な夫」「完璧な妻」というレッテル(役割)を社会から強制された囚人である。二人がベランダという「境界線」で邂逅するのは、そこだけが役割から逃れられる唯一のエアポケットだったからに他ならない。

【メタファーの解説】

カメラのレンズ:真琴が向けるレンズは、単なる記録媒体ではなく「支配の杖」である。玲香にとってレンズに見られることは、自身の存在証明であり、社会的な仮面を剥ぎ取られることへの倒錯した快感(カタルシス)を意味する。
薄い壁とベランダ:二人の関係性は物理的な接触よりも「精神的な共有」に重きが置かれている。薄い壁一枚を隔てた通話や、パーティション越しの指の接触は、容易に踏み越えられる境界をあえて残すことで、背徳感という名の麻薬を増幅させる装置として機能している。

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