第1章:無価値と断じられた眼眸

鼓膜を容赦なく穿(うが)つのは、耳障りな電子の駆動音だった。
ここは地下最下層、深度五十メートルに構築された巨大な円形測定室。
冷徹な蛍光灯の青白い光が、剥(む)き出しの冷たいコンクリート床を、無慈悲に照らし出している。
凍えるような空気が静まり返る中、空間を満たすのは、張り詰めた沈黙だけだ。
周囲を頑強に取り囲む、三重の強化ガラスの向こう。
そこには、絢爛(けんらん)な衣装を身に纏(まと)った観客たちが、まるで品評会の家畜でも値踏みするような下卑(げび)た目で、こちらを見下ろしていた。
彼らの視線は、冷酷な嘲笑と、娯楽を求める退屈に満ちている。
[System]――測定完了。該当個体の魔力出力値:『 0 』。測定不能(規格外下限)――[/System]
無機質な機械の合成音声が、高い天井に虚しく響き渡る。
同時に、中央に浮かび上がった巨大なホログラムスクリーンへ、無慈悲な数字が投影された。
[A:神代 皇我:冷静]「ハハッ、これ以上ない傑作だな! おい、ゴミが。何度測り直しても結果は同じだ」[/A]
測定室の特等席。
金糸で贅沢な刺繍が施されたジャケットを羽織り、金髪のミディアムヘアを尊大に揺らした男が立ち上がる。
胸元でジャラジャラと音を立てる数々の勲章は、彼の傲慢(ごうまん)さをそのまま形にしたかのようだった。
男の名は、神代皇我。
黄金の瞳を不快そうに細め、彼は薄い唇の端を吊り上げた。
[A:神代 皇我:怒り]「『天秤(てんびん)』の輝かしい歴史において、測定値ゼロなどという前例はない。玖珂零士、お前の存在自体が我が組織の汚点なんだよ。即刻、ここから叩き出せ!」[/A]
怒声が響く。
それと同時に、周囲の取り巻きたちから、下俗な、そして粘りつくような笑い声が浴びせられた。
吹き荒れる侮蔑(ぶべつ)の冷気に、私の肌が、微かに粟(あわ)立つ。
だが、私は揺るがない。
無造作に伸びた漆黒の髪。
その隙間から覗(のぞ)く、夜の深淵のような黒い瞳は、世界のすべてのノイズをただ淡々と受け止めていた。
黒いライダースジャケットのポケットに両手を深く突っ込んだまま、私は一歩も動かない。
心拍数は一定だ。
恐怖も、怒りすらも、私の心には湧いてこない。
[A:玖珂 零士:冷静]「……それで? 骨董(こっとう)品のような測定器の寿命を、僕のせいにされても困るんだけどな」[/A]
[A:神代 皇我:怒り]「あ? 言い訳か? 往生際が悪いぞ、無能。格の違いってやつを、その足りない頭に骨の髄まで叩き込んでやろうか?」[/A]
神代皇我の指先から、バチバチと青白い火花が爆ぜる。
大気が焼け焦げる、不快なプラズマの金属臭。
だが、私の網膜は、彼ら凡俗が一生かかっても見ることのできない「別の位相」を、精緻に捉えていた。
数式が、脳裏を、光速で滑り落ちていく。
空間の湿度。
酸素濃度。
神代が放出するプラズマの減衰率。
そして、測定器の奥深くで、限界を迎えて今まさに焼き切れかかっている、因果のコア。
世界を構成するすべての方程式が、私の脳内で美しく構築され、解を導き出していく。
[Think](バカな連中だ。彼らの用意した器があまりにも小さすぎて、僕の波形を観測することすらできていない)[/Think]
測定器が弾き出したのは、ただの「無価値なゼロ」ではない。
既存の測定枠を遥かに突き抜け、システムの計算限界を超えた末に生じた「定義不能(オーバーフロー)」だ。
私の脳内に構築された『特異点演算(ラプラス・コア)』は、すでにこの測定室内の因果関係を、すべての電子の振る舞いすらも、完全に支配していた。
[A:玖珂 零士:冷静]「君たちが見ている世界は、僕の演算の1秒先でしかない」[/A]
[A:神代 皇我:狂気]「何をわけのわからないことを……! 消え失せろ、この負け犬が!」[/A]
神代皇我の合図とともに、重厚な防壁扉が開き、私を追放するための武装警備兵たちが靴音を荒々しく響かせて歩み寄る。
じり、と間合いが詰まる。
私は冷笑を浮かべたまま、彼らに背を向けた。
踵(きびす)を返し、薄暗い廊下へと静かに歩を進める。
組織のエリートたちが必死に築き上げた、砂上の楼閣のような偽りの栄光など、私の演算の範疇(はんちゅう)に過ぎない。
その時だった。
測定室の出口、冷たい鉄扉の影で、一人の少女が壁に背を預けて立っていた。
白銀の美しいロングヘアが、外から吹き込む風に静かに揺れる。
氷晶を思わせる、冷涼で透き通った青い瞳。
凛(りん)とした軍服風の制服を乱れなく着こなす彼女こそ、組織の最高戦力。
『氷の女王』と畏怖(いふ)される絶対の強者、柊氷華だった。
すれ違いざま。
彼女の鋭い視線が、私の傷だらけの手元に注がれる。
その瞳の奥で、氷を溶かすほどのかすかな熱が揺らめいた。
私の演算は、その僅(わず)かな情動を、決して逃さない。
[A:柊 氷華:冷静]「あいつ、あの瞬間……世界の理を書き換えていたわね?」[/A]
彼女の呟(つぶや)きは、誰の耳に届くこともなく、閉ざされた測定室の冷たい電子音の奥へと消えていった。
第2章:冷たい雨と、熱をはらむ指先

三日後の渋谷。
世界は泥を溶かしたような、暗い土砂降りの雨に覆われていた。
どんよりとした雲が低く垂れ込め、昼なお暗いアスファルトを激しく叩きつけている。
廃ビルの屋上。
錆びつき、今にも崩れそうな給水塔の狭い陰で、私は冷たい鉄骨に腰を下ろしていた。
激しく吹き付ける雨粒が、私の黒いライダースジャケットを重く濡らしていく。
しかし、私の体温が下がることはない。
手元では、古い懐中時計の極微細なネジや、金色の歯車たちが、規則正しい並びでコンクリートの上に整列していた。
極限まで甘く、脳を刺すような安缶コーヒーを一口すすり、私は指先だけでピンセットを精密に操る。
カチ、カチ、と、歯車が正確に噛み合う金属音だけが、周囲の豪雨の雑音を綺麗に切り裂いていた。
[A:柊 氷華:冷静]「……やはり、ここにいたのですね」[/A]
激しい雨のカーテンを切り裂き、まるでガラスの鈴を転がしたような澄んだ声が響く。
傘も差さず、柊氷華がそこに立ち尽くしていた。
不思議なことに、彼女の周囲にだけは、落ちてくる雨粒が一瞬にして微細な氷の結晶へと姿を変え、きらきらと美しく光りながら砕け散っていく。
冷徹な絶対零度の結界が、彼女を守るように展開されていた。
[A:玖珂 零士:冷静]「……ストーカーか? 組織の大切な『お人形』が、僕みたいな追放された無能に何の用だ」[/A]
[A:柊 氷華:冷静]「無価値な存在に、言葉を割く必要はありません。ですが……あなたは違う。私は、自分の目を信じていますから」[/A]
氷華は一歩、また一歩と、濡れたコンクリートを静かに踏みしめて近づいてくる。
彼女の規則正しい呼吸に合わせて、周囲の温度が劇的に、そして牙を剥くように低下していくのが肌で理解できた。
凍てつくような、鋭利な空気。
だが、その美しい青い瞳に宿る光は、冷たい氷とは真逆の、焦がれるような「渇望」に満ちていた。
[Sensual]
彼女は私のすぐ目の前で、そっと膝をついた。
躊躇(ためら)うことなく、その滑らかな白い手を伸ばしてくる。
冷たい雨に打たれ、感覚の麻痺(まひ)しかけた、私の無骨な指先。
そこへ、彼女の驚くほど細く、しなやかな指が深く絡みついてきた。
[Pulse]トクン、と熱い鼓動が脈打つ。[/Pulse]
視界が、一瞬、激しい熱で明滅した。
指先から侵入する彼女の熱が、私の血管を、中枢神経を、容赦なく蹂躙(じゅうりん)していく。
心臓が、肋骨の裏で狂ったように爆ぜる。
[A:柊 氷華:興奮][Whisper]「誰も、気づいていない。あの測定器が壊れたのは……あなたの内にある底知れない深淵が、この世界そのものを拒絶したからだということに」[/Whisper][/A]
[A:玖珂 零士:冷静]「……勝手な妄想だな」[/A]
[A:柊 氷華:愛情][Whisper]「嘘をつかないで。私の絶対零度は、あなたの精緻な演算がなければ、ただの暴走する暴力でしかない……。私を、あの窮屈で冷たい檻(おり)から、救い出して、くれるのでしょう?」[/Whisper][/A]
彼女の潤んだ吐息が、私の冷え切った皮膚を通じて、直接脳髄へと流れ込んでくる。
狂おしいほどの、歪んだ依存の形。
『氷の女王』という冷徹な仮面の裏にある、寄る辺ない一人の少女の、剥(む)き出しの執着がそこにあった。
私の手が、彼女の雨に濡れた、絹のように滑らかな銀髪を静かに梳(す)いた。
その瞬間、氷華の喉(のど)から、切なく甘い吐息が零れ落ちる。
[A:柊 氷華:照れ][Whisper]「あ……っ、零士、さま……、もっと……」[/Whisper][/A]
[/Sensual]
私の脳内で、彼女との因果関係が完璧な数式として結びつき、次々と新たな回路を形成していく。
これだ。これこそが、私の求める絶対のパーツだ。
彼女の冷気と私の演算が組み合わされば、世界の理さえも容易く掌握できる。
しかし、その至高の共鳴を切り裂くように、突如として天の川が引き裂かれた。
ゴウ、と、不気味な地鳴りが地底から轟(とどろ)く。
世界を覆っていた灰色の雨雲が、一瞬にしてどす黒い赤色へと染まり始めた。
[Impact]上空に突如として現れた、ねじれた時空の巨大な裂け目。[/Impact]
[A:玖珂 零士:冷静]「始まったか。……馬鹿どもが、己の許容量を超えた未知のエネルギーを、分不相応に弄(もてあそ)ぶからこうなるんだ」[/A]
[A:柊 氷華:冷静]「あれは……神代皇我たちが管理していた『炉心(ろしん)』ですね。自業自得です」[/A]
人災指定S級、超巨大変異特異点。
それは、組織の肥大化した傲慢が引き起こした、世界の終わりの始まりだった。
第3章:傲慢なる雷光の墜落

新宿の中央は、まるで地獄の窯が開いたかのような凄惨(せいさん)な惨状を呈していた。
引き裂かれた高層ビル群の隙間から、ドス黒い赤色に明滅する不気味なエネルギーの触手が、のたうち回っている。
大気を満たすのは、強烈なオゾン臭と、肉や瓦礫が焦げるような、生理的な不快感を呼び起こす悪臭だ。
[A:神代 皇我:怒り][Shout]「消えろォ! この化け物どもが! 俺の神聖なる雷光で、灰塵に帰せ!」[/Shout][/A]
神代皇我が、髪を振り乱して絶叫しながら、両手から猛烈なプラズマの奔流を放ち続けていた。
まばゆい黄金の光線が、空を裂き、変異特異点の中心部を直撃する。
しかし、激しい爆発の直後、異形の怪物はその雷撃をまるで甘美な栄養源のように吸収し、さらにその身躯(しんく)を巨大化させていった。
[A:神代 皇我:驚き][Tremble]「な、何だと……!? 俺の、俺の最大出力だぞ!? なぜビクともしない、なぜ効かない!」[/Tremble][/A]
彼の背後では、忠実だった従者たちが、次々と変異特異点の放つ光の微粒子に触れていく。
彼らは悲鳴を上げる暇すら与えられず、一瞬で炭化し、光の塵(ちり)となって消滅していった。
昨日まで神代を神のように崇めていた者たちが、文字通り、存在ごと消し去られていく。
[A:神代 皇我:絶望][Shout]「いやだ、嫌だ! 俺は神代の由緒正しき跡取りだぞ! こんなところで、こんなゴミみたいな化け物に……殺されてたまるか!」[/Shout][/A]
プライドという名の、安っぽい薄い鎧(よろい)が、音を立てて剥がれ落ちていく。
神代皇我は、ドロドロの泥水が溜まったアスファルトに両膝をつき、鼻水と涙で整った顔を醜く汚しながら、無様に後ずさりした。
目の前には、十メートルを超える異様な巨躯を持つ、特異点の核。
それが不気味な咆哮(ほうこう)を上げ、皇我を圧殺せんと、巨大な触手を天高くから振り下ろす。
その時だった。
吹き荒れる生温かい熱風を、一瞬にして凍らせるほどの、絶対的な冷気が戦場を支配した。
[Flash]ピキィィィィン![/Flash]
重く振り下ろされた触手の先端が、皇我の目の前で、不自然にピタリと停止する。
極薄でありながら、何者にも破壊できない絶対の氷の壁が、そこに美しく展開されていた。
[A:神代 皇我:驚き]「な……氷華……!? 助けに、来てくれたのか……!」[/A]
皇我は、地獄で蜘蛛(くも)の糸を見つけた罪人のように、縋(すが)るような目で顔を上げる。
だが、彼の視線が捉えたのは、美しき氷の女王の姿だけではなかった。
そのすぐ隣。
傷だらけの黒いライダースジャケットを不敵に羽織り、ポケットに両手を突っ込んだまま、退屈そうに巨大な怪物を見上げる私の姿があった。
第4章:極限の凍結と、一秒先の真実

[A:神代 皇我:絶望][Tremble]「く、玖珂……零士……!? なぜ、なぜお前のようなゴミがそこにいる……!」[/Tremble][/A]
皇我が、泥に塗(まみ)れて這い蹲る無様な姿勢のまま、信じられないものを見るかのように私を凝視する。
その瞳は、逃れようのない恐怖と、己の絶対的な崩壊に対する拒絶で、濁りきっていた。
[A:玖珂 零士:冷静]「無様だな、神代。君の自慢の電磁出力は、その怪物の『波形』と同調していたんだよ。撃てば撃つほど、お前自身の手で怪物を強化していた。そんな簡単な因果すら、君の貧弱な頭脳では演算できなかったのか?」[/A]
[A:神代 皇我:怒り][Shout]「黙れ! 黙れ、黙れ! 落ちこぼれの、無能のお前に、そんなことを言われる筋合いは――!」[/Shout][/A]
[A:玖珂 零士:冷静]「言ったはずだ。僕の演算の1秒先を、君たちは生きることすらできないと」[/A]
私は静かに右手を前方へとかざす。
その所作一つに、世界が怯えるように震えた。
[System]――『特異点演算(ラプラス・コア)』、限定接続。世界定数の再書き込みを開始――[/System]
私の視界の中で、怪物の全身に幾千もの青い数式が走り、そのすべてが心臓部の赤い光点へと収束していく。
これこそが、因果の特異点。
既存のあらゆる物理攻撃を無効化する、歪んだ次元の結節点だ。
[A:玖珂 零士:冷静]「氷華。座標104、ディレイ0.2秒。最大出力の絶対零度だ」[/A]
[A:柊 氷華:冷静]「ええ、あなたの望むままに。私のすべてを、あなたの演算に捧げます」[/A]
氷華が私の隣にぴったりと並び、美しく両手を広げる。
その瞬間、彼女の白銀の髪が美しく逆立ち、世界の熱量を奪い去る絶対的な冷気波が、爆発的に解放された。
[Magic]《絶対零度(アブソリュート・ゼロ)》[/Magic]
[Flash]ゴガガガガガッ![/Flash]
大気が凍り、空間そのものがその動きを完全に停止する。
私の特異点演算によって特定された「歪みの中心」から、青白い氷の結晶が瞬く間に怪物の巨体を包み込んでいく。
怪物が放とうとしていた強大な熱エネルギーすらも、分子運動の完全停止によって、美しいクリスタルの彫刻へと変貌していった。
[A:神代 皇我:驚き][Blur]「バカな……空間そのものが、凍りついている……!? こんな芸当、人間にできるわけがない……!」[/Blur][/A]
怪物の巨体が、キラキラと朝日のように輝く氷の塵となって、静かに、そして圧倒的な美しさで崩壊していく。
塵一つ残さない、完全なる消滅。
後に残されたのは、圧倒的な力を見せつけられ、ただ呆然と冷たいアスファルトを濡らすことしかできない神代皇我と、生き残ったわずかなエリートたちだけだった。
ピピッ、と、皇我が泥の中に落とした通信端末から、慌てふためいた組織幹部の声が漏れる。
『神代! 何が起きた! 今の異常なエネルギー反応はなんだ!? ……ま、まさか、玖珂零士なのか!? 玖珂、聞こえるか! 頼む、組織に戻ってくれ! 君を特級執行官として最高の待遇で――』
私は一言も発さず、その端末を、ライダースのブーツの底で容赦なく踏み砕いた。
ぐしゃり、という乾いたプラスチックの破砕音が、静まり返った新宿に響き渡る。
第5章:二人だけの世界、あるいは歪んだ勝者の凱歌
夜が明けようとしていた。
巨大なビル群の隙間から、美しい紫色の朝光が静かに差し込んでくる。
新宿の廃墟を覆う無数の氷の彫刻たちが、その光を浴びて、七色に、美しく、そして冷酷にきらめいていた。
[A:神代 皇我:絶望][Tremble]「待ってくれ……玖珂! 俺が悪かった! お前を追放したのは、俺の醜い嫉妬だ! 頼む、組織を救ってくれ! 俺を、ここに置いていかないでくれ!」[/Tremble][/A]
背後から、かつての高慢な支配者の、惨め極まりない哀願が聞こえる。
だが、その見苦しい言葉が、私の耳に届くことは二度とない。
私は一度も振り返ることなく、光の中へと歩を進める。
私の隣には、いつもと変わらぬ気高さをたたえた柊氷華が、ぴったりと寄り添っていた。
[Sensual]
歩きながら、彼女が私の右手を、愛おしそうに両手でそっと包み込むようにして握りしめた。
彼女の雪のように白い頬が、微かに朱色に染まっている。
その濡れた青い瞳に宿るのは、世界に対する冷酷な拒絶と、私個人に対する、底なしの、狂気とも呼べる絶対の愛着だった。
[A:柊 氷華:愛情][Whisper]「本当に、よかったのですか? あの哀れな有象無象を支配して、組織の新たな王にだってなれたでしょうに」[/Whisper][/A]
[A:玖珂 零士:冷静]「僕たちの演算に、あの有象無象のノイズはいらない。ただ、それだけだ」[/A]
[A:柊 氷華:愛情][Whisper]「ふふ、そうですね。これからは、二人だけの世界です。あなたの行く場所に、私はどこまでも、世界の果てまでついていきます、零士」[/Whisper][/A]
[/Sensual]
彼女が私の腕に、その華奢で柔らかな体を、深く、溶け合うように預けてくる。
私を無能と呼び、虐げ、都合よく利用しようとした世界。
そんなものは、自分たちの足元で勝手に滅び、瓦礫(がれき)となればいい。
朝日に照らされる私たちの影が、廃墟の街にどこまでも長く、強く伸びていく。
私の瞳の奥で、[System]『特異点演算』[/System]の青い数式が、静かに、そして美しく明滅を繰り返していた。
次の演算が示す未来には、ただ、私と彼女の、歪んだ、しかし誰にも邪魔されることのない完全な勝利だけが、永遠に描かれていた。