第一章: 呪いの双球陣とノーブラの魔王
レオン・ハルト「観念しろ魔王!貴様が城門に仕掛けた『桃色の双球結界』、この俺が聖剣で真っ二つにしてくれる!」
白銀の聖鎧を纏った黒髪短髪の青年、レオン・ハルトが蒼い瞳を鋭く細める。
塵一つない純白の手袋に包まれた指先が、聖剣の切っ先を真っ直ぐに突き出した。
その神聖なる刃の先に引っ掛けられているのは、淡いピンク色の地に赤いいちご柄がプリントされた、特大サイズのブラジャー。
長い銀髪を揺らす魔王ノエル・ヴァルキュリアの呼吸が、ヒュッと止まる。
血のように赤い瞳が極限まで見開かれ、冷たい指先がサイズ違いの漆黒のドレスの胸元をギシッと強く握りしめた。
(な、なぜ昨日バルコニーから強風で飛ばされた私のお気に入りブラが、よりによって勇者の聖剣に刺さっているのですかー!?)
顔面から首筋にかけて、カッと熱がせり上がる。
ノエルは玉座から半歩後ずさり、裏返りそうになる声を必死に押し殺しながら唇を震わせた。
ノエル・ヴァルキュリア「ふ、不敬ですわよ勇者!そ、それを早く返しなさい!絶対に素手で触らないで!」
レオン・ハルト「なんだと!?やはり素手で触れれば即死する古代の猛毒呪詛具、『双球陣』か!」
レオンがガシャンと鎧を鳴らして半身になり、左手に握りしめた除菌用聖水スプレーのノズルを構える。
そのまま小鼻をひくつかせ、玉座の間に漂う空気を警戒心むき出しで吸い込んだ。
レオン・ハルト「しかもこの甘いフローラルな香り……!貴様、人間の嗅覚を麻痺させる幻覚香まで焚き込めたな!不潔だ!今すぐ塩素系聖水で漂白・浄化してくれる!」
(幻覚香って、ただの人間界の高級柔軟剤ですわ!さては良い匂いにしようとして規定量の二倍入れたのがバレたのね!やっぱりこの男、勇者なんかじゃなくて人間界から派遣された冷酷無比な衛生検査官ですわ!)
ノエルの背筋を冷や汗が伝う。
ここで「それは私の下着だ」などと白状すれば、魔王としての威厳は地の底へ墜落し、魔界の歴史に永遠の恥辱が刻まれる。
ノエルは視線を泳がせ、乾いた唇を舌先で湿らせた。
ノエル・ヴァルキュリア「ち、違いますわ!それはただの……そう、ちょっとした魔力制御の失敗作でしてよ!漂白なんてしたら生地が傷……いえ、大爆発を起こしますわ!」
レオン・ハルト「ほう、失敗作だと?だがこの複雑なレースの幾何学模様、間違いなく上級悪魔の召喚陣だ!さらに見ろ、この異常なまでの容積を!」
レオンが手首を返して剣先を揺らす。
切っ先で巨大な二つのカップが、ぽよん、と弾力たっぷりに弾んだ。
レオン・ハルト「人間の頭部が二つは優に入るこの巨大さ!どれほど邪悪な魂を吸い込めば、これほど肥大化するのだ!?」
ノエル・ヴァルキュリア「人の胸を邪悪な魂の塊みたいに言わないでくださいまし!」
レオン・ハルト「む、胸だと……?まさか貴様、この呪物を心臓に直接埋め込むつもりだったのか!?」
(駄目ですわ、潔癖症すぎて話がミリ単位も噛み合いません!しかも昨日、他の下着を全部熱湯洗濯で縮ませてしまったせいで、今の私は完全なノーブラ……!早く返してもらわないと、ドレスの隙間から冷たい隙間風がスースーして落ち着きませんのに!)
ドレスの薄い布地の内側で、無防備な先端が冷気に触れてちりっと粟立つ。
ノエルは自分の肩を抱き込むようにして前かがみになり、涙目で床を踏み鳴らした。
ノエル・ヴァルキュリア「と、とにかく!それは私の所有物ですわ!今すぐその床に置いて立ち去りなさい!いや、床は埃があるからやっぱり綺麗な布の上に置きなさい!」
レオン・ハルト「断る!この呪物の構造を完全に解明し、貴様の目の前で徹底的に解剖・浄化してやる!」
レオンの蒼い瞳に、狂信的なまでの探究心の光が灯る。
彼は懐から銀縁のルーペを取り出すと、ブラジャーのワイヤー部分へ息がかかるほどの距離まで顔を近づけた。
第二章: 伸縮する暗黒物質と四天王の乱入

ノエル・ヴァルキュリア「ま、待ちなさい!解剖なんてやめて!糸が一本でもほつれたらどうしてくれるのです!」
ノエルが前のめりに叫ぶたび、拘束を失ったIカップの双丘が漆黒のドレスの奥で、たゆん、と暴力的なくらい大きく波打つ。
重力を無視して跳ねるその柔らかな質量を必死に腕で押さえ込みながら、ノエルは息を荒げた。
ノエル・ヴァルキュリア「それは……我が強大な魔力を封じ込める『拘束具』ですわ!先日、暗黒の釜に投入した際、呪いの熱風のせいで他の拘束具がすべて収縮してしまい、今の私の魔力が収まりきらないのです!」
レオン・ハルト「なんだと!?この巨大な双球ですら収まらないほど、貴様の暗黒魔力は肥大化しているというのか!」
レオンの視線が、ルーペ越しにノエルの激しく揺れる胸元へと釘付けになる。
ゴクリ、と彼の喉仏が上下した。
レオン・ハルト「しかも今、その拘束具を装着していない……つまり、現在の貴様はリミッター解除状態だと!?道理でさっきから、貴様の胸元が異様な質量で暴れ回っているわけだ!」
ノエル・ヴァルキュリア「み、見ないでくださいまし!揺れているのは魔力の波動ですわ!目のやり場に気をつけなさい、この変態検査官!」
その時。
ピピピピッ、ピピピピッ!
緊迫する玉座の間の空気を切り裂き、遠くの廊下から軽快なキッチンタイマーの電子音が響き渡った。
直後、重厚な黒曜石の扉がドゴォン!と乱暴に蹴り開けられる。
漆黒の重装鎧の上から、可愛らしいピンクのフリルエプロンをきっちりと巻いた身長二メートル超の巨漢――竜人族の四天王、バハムート・ジルが泡を食って飛び込んできた。
バハムート・ジル「魔王様、大変でございます!城下のバルコニーから植え込みまで隈なく探しましたが見つかりませぬ!このままでは本日の魔王様が、終日ノーガード戦法に……!」
そこまで叫んで、ジルの黄金の瞳がピタリと止まる。
レオンの聖剣の先にぶら下がる、見覚えのあるいちご柄。
ジルの古傷だらけの厳つい顔面が、憤怒の夜叉のように恐ろしく歪んだ。
バハムート・ジル「貴様ぁ!魔王様の『聖なる双翼』を盗み出すとは、噂に聞く人間界の変態下着泥棒の手先だな!しかもその剣の引っ掛け方、一番大事なワイヤーが歪むであろうが!」
レオン・ハルト「ワイヤー!?やはり内部に金属製の骨格を仕込んだ拷問器具か!貴様こそ、そのピンクの防護服は何だ!返り血を浴びる覚悟の処刑人だな!?」
バハムート・ジル「フン、無知な人間め。これは撥水・防汚加工が施された最新のフリルエプロンでございますな。頑固な油汚れもサッと一拭きで落ちる優れものですぞ」
ジルが誇らしげにエプロンのフリルを摘んでみせる。
レオンの顔からサッと血の気が引き、その瞳が恐怖に染まった。
レオン・ハルト「油汚れ……!?貴様ら、捕らえた人間を釜茹でにして脂を絞っているのか!なんたる不潔!なんたる悪逆非道!台所の排水溝が詰まるだろうが!」
ノエル・ヴァルキュリア「違いますわ!昨日の夕飯にジルが揚げた鶏の唐揚げの油ハネですわよ!そもそも排水溝の心配をする勇者がどこにいますの!」
バハムート・ジル「ええい、問答無用!魔王様の最高機密を知ったからには生かしてはおけぬ!我が獄炎ブレスで、貴様ごとその証拠品を塵一つ残さず灰にしてくれようぞ!」
ジルが巨大な顎をガッと開き、喉の奥に赤黒い獄炎の渦を収束させる。
灼熱の風が玉座の間を吹き抜け、いちご柄のブラジャーが熱風でチリッと揺れた。
第三章: 極限の聖水洗浄と暴かれる真実

レオン・ハルト「させるかぁっ!そんな高温の炎など浴びせれば、この繊細なシルク混紡の呪詛レースが焦げてタンパク質の焼ける異臭を放つだろうが!不潔だ!」
レオンの怒号が爆発する。
彼は聖剣を床の石畳へ無造作に突き立てると、背中の空間収納から、折りたたみ式の銀色アイロン台と最新鋭のコードレス・スチームアイロンを電光石火の早業で展開した。
カシャン、とアイロン台の脚がロックされる音が静寂に響く。
ノエルとジルは、あんぐりと口を開けて硬直した。
ノエル・ヴァルキュリア「……は?な、なぜ魔王城の決戦場にアイロン台が出てくるのですか!?」
レオン・ハルト「見よ、これが人類の英知と聖属性魔力を融合させた《スチーム浄化剣技》だ!縮んだ繊維の奥深くに聖なる高温蒸気を当て、ミリ単位で元の立体形状へと引き伸ばす!」
プシュウウウウッ!
真っ白な高圧蒸気が噴き出し、レオンの白い手袋が神速の残像を描いてアイロンを滑らせる。
熱風と乾燥機で無惨に縮こまっていたいちご柄のブラジャーが、彼の手捌き一つで、みるみるうちに美しい3Dの曲線を取り戻していく。
バハムート・ジル「な、なんという神業的な手捌き!我がドラゴンブレスの超弱火乾燥ですら再現できなかった、あのカップのふっくらとした立体感が蘇っていきますぞ!」
ジルが喉の炎を引っ込め、両手を組んで感嘆の吐息を漏らす。
だが、レオンの狂気的な作業は止まらない。
彼はアイロンを置くと、ブラジャーの裏地――肌に直接触れる部分をギロリと睨みつけた。
レオン・ハルト「さらにこの裏地の微かな黄ばみ……!貴様、こんな死角にまで闇の刻印を隠していたな!《重曹とクエン酸の二重詠唱》で完全に消滅させてくれる!」
シュッシュッと聖水スプレーを連続噴射し、懐から取り出した馬毛の極細ブラシで、トントントンとリズミカルに繊維を叩き出す。
ノエルの心臓がドキンと跳ね、全身の毛穴から羞恥の汗が噴き出した。
ノエル・ヴァルキュリア「きゃあああああ!そこは昨日、魔力制御の特訓でかいた汗ジミですわ!見ないで、ブラシでトントンしないでえええ!」
バハムート・ジル「おお……!なんという洗浄力!私が三日三晩、魔界の酵素系漂白剤につけ置きしても落ちなかった魔王様の頑固な皮脂汚れが、一瞬で新品の白さに……!」
レオン・ハルト「よし、仕上げに天日干し再現の聖光魔法だ!……フッ、なかなかに手強い呪物だったが、俺の完全浄化の前には無力だな!」
眩い光の粒子が収束し、レオンはふっくらと新品同様に蘇ったブラジャーを誇らしげに掲げた。
そのまま彼は、ブラジャーの脇に縫い付けられた小さな白い布タグを摘み上げ、銀縁のルーペを当てて目を細める。
レオン・ハルト「特にこのタグに記された『I-70』という暗号……!『イフリートの呪い・レベル70』と見たが、安心しろ、すでに解呪は完了したぞ!」
ピシリ。
玉座の間の空気が、絶対零度で凍りついた。
ノエルの動きが完全に止まり、その白い頬から耳の先、果ては首筋に至るまで、熟れきったトマトのように真っ赤に染まり上がる。
ワナワナと震える唇から、か細い声が漏れた。
ノエル・ヴァルキュリア「……い、イフリート……?」
レオン・ハルト「ああ!どんな炎の悪魔の呪いだろうと、この『I-70』は俺が完全に征服してやった!もう二度と暴発することはない!」
プツン、とノエルの脳内で、最後の理性の糸が音を立てて千切れた。
彼女は両手で顔を覆い、腹の底から魔力のすべてを乗せた絶叫を迸らせた。
ノエル・ヴァルキュリア「もうやめてえええええ!それはイフリートの呪いなんかじゃなくて、私のおっぱいのサイズですわあああああ!!」
ビリビリと空気を震わせる悲痛な絶叫が、窓の外の雷鳴すらもかき消し、魔王城の高い天井に何度も何度も残酷に反響した。
(言っちゃった……!勇者の前で、自分のカップ数とアンダーのサイズを大声で自己紹介してしまいましたわ……!)
第四章: 世界一清潔な降伏文書
静寂。
レオンの動きが、ブリキの人形のようにカクンと止まる。
レオン・ハルト「……お、おっぱい……?サイズ……だと?これが、魔王の……?」
レオンの蒼い瞳が激しく揺れ動く。
自分の白い手袋が握りしめている、ふわふわで温かい桃色の布地。
そして、目の前で涙目になって肩を震わせているノエルの、ドレスを突き破らんばかりの豊かな胸元。
彼の視線が、その二つを猛スピードで何往復も行き来した。
レオン・ハルト「じゃあ、俺がさっき『呪いの香気だ』と肺の奥まで深く吸い込んだのは、魔王の体臭……!?俺が必死にブラシで擦り落とした闇の刻印は、魔王の谷間の汗……!?」
極度の潔癖症と、純情すぎる騎士道精神が、レオンの脳内で正面衝突を起こす。
次の瞬間。
ブフォッ!
レオンの両鼻から、真っ赤な鮮血が間欠泉のように勢いよく噴き出した。
白目を剥いた彼は、白銀の聖鎧をガシャアアン!と盛大に鳴り響かせながら、石畳の床へと無様に崩れ落ちた。
レオン・ハルト「す、すまない!俺はなんて不潔で破廉恥極まりないことを!淑女の下着を嗅いで擦るなど、騎士道に反する!責任を取って今すぐここで切腹する!」
鼻血まみれの顔で半狂乱になりながら、レオンが腰の短剣を引き抜こうと暴れ回る。
だが、そのすぐ横で。
ノエルはいつの間にかアイロン台から回収していた自分のブラジャーを両腕でぎゅっと胸に抱きしめ、その復活したカップにうっとりと頬ずりしていた。
ノエル・ヴァルキュリア「……あんなに縮んでゴワゴワだったシルクのレースが、まるで生まれたての雲みたいな肌触りに……♥しかも、柔軟剤の香りが一番引き立つ絶妙なスチーム加減……!勇者レオン、貴方、なんて恐ろしい家事魔導の使い手なのですか……!」
下着のあまりの心地よさに、ノエルの赤い瞳がトロンと潤み、先ほどまでの羞恥心が急速に熱狂へとすり替わっていく。
その後ろでは、ジルがピンクのエプロンの裾で目元の涙を拭い、床でのたうち回るレオンの両肩を丸太のような腕でガッチリと掴み上げていた。
バハムート・ジル「魔王様、この男を絶対に人間界へ帰してはなりませぬぞ!我が魔王城の劣悪な水回りのカビと、魔王様の部屋に溜まりに溜まったデリケート衣類の洗濯物の山を救えるのは、このお方だけでございます!」
ジルの必死の進言に、ノエルはハッと我に返る。
彼女はブラジャーを素早く背後に隠すと、小さく咳払いをし、まだ潤んでいる赤い瞳でレオンを見下ろして仁王立ちした。
ノエル・ヴァルキュリア「ゆ、勇者レオン!私の『秘密の拘束具』に素手で触れ、あまつさえトップとアンダーの最高機密情報まで知った罪は、万死に値しますわ!」
レオン・ハルト「ううっ……やはり死罪か!弁解の余地もない、潔くその首を差し出そう!」
観念して首を伸ばすレオンの鼻先へ、ノエルはビシッと白い指先を突きつけた。
ノエル・ヴァルキュリア「死なせませんわ!命が惜しければ、今日からこの城に無期懲役として住み込み、私の専属・聖属性クリーニング騎士になりなさい!」
レオン・ハルト「……専属、クリーニング騎士だと!?」
レオンがピタリと動きを止め、白い手袋の甲で乱暴に鼻血を拭う。
そのまま顔を上げた彼の視線が、ノエルの着崩れた漆黒のドレスの裾――そこに付着したわずかな埃と、座りジワを捉えた。
ピクリ、とレオンの眉間が痙攣する。
潔癖症の血が、騎士道の恥じらいを瞬時に凌駕した。
彼はスチームアイロンを逆手に構え直し、ギラついた目で立ち上がった。
レオン・ハルト「くっ……これも世界の平和と、魔王城の劣悪な衛生環境を根絶するためだ!いいだろう、その過酷な刑罰、受けて立つ!まずはそのシワだらけで埃まみれの不潔なドレスを今すぐここで脱げ!俺が裏地まで完璧にアイロンをかけてやる!」
プシュウウウッ!と威嚇するようにアイロンから蒸気を噴き出しながら、レオンがノエルへと一歩踏み出す。
ノエルは再び自分の胸元を両手で引っ掴み、玉座の奥へと全力で後ずさった。
ノエル・ヴァルキュリア「な、なぜ今ここで脱がせるのですか!下には何も着ていないと言ったでしょう!やっぱりこの勇者、ただのド変態ですわあああ!」
魔王の悲鳴と、勇者のスチーム音が交錯する。
こうして、人類と魔族の長きにわたる血塗られた歴史は、世界一清潔で、世界一破廉恥な形で幕を下ろすこととなった。