第一章: 乾いた太陽と神経の着火
喉が張り付く。
ザリザリとした砂の感触だけが、口内を支配していた。
荒野の風は容赦がない。ルシウス・クロウのボサボサに伸びた黒髪が乾燥した大気に煽られ、隈の濃い瞳を覆い隠す。薄汚れた灰色のローブは、かつて王宮魔術師の卵として期待された頃の見る影もなく、ボロ雑巾のように彼の華奢な体を包んでいるだけ。
指先を見る。
骨張ったその先端だけが、蛍の死骸のような薄い青色に発光していた。
……喉が、渇いた。
幻聴が鼓膜を叩く。
三日前、王都の煌びやかな広間で浴びせられた、あの嘲笑。
『生理的に無理なのよ』
透き通るような金色の巻き髪、最高級のシルクで仕立てられた聖衣。宝石のような碧眼で見下ろしてくる聖女セレスティア。彼女は汚物を見る目でルシウスを切り捨てた。
仲間だと思っていた。世界を救うための、家族だと。
ルシウス・クロウ「……はは、水すら、恵んでくれないのか」
膝から力が抜け、熱を持った岩場に崩れ落ちる。
視界が明滅する。極限の渇きと飢えが、脳の安全装置を焼き切ろうとしていた。
その時、ルシウスの視界に奇妙な「線」が浮かび上がる。
魔力の流れではない。生物が持つ、電気信号の奔流。神経パルス。
これまで彼は、それを「支援(バフ)」としてしか認識していなかった。
筋力を増強する信号。傷を塞ぐ信号。
だが、もし。
ルシウス・クロウ「過剰に送ったら? あるいは……逆流させたら?」
指先の光が、青から赤黒い色へと変質する。
目の前を通りかかったサンドラット。
ルシウスが指を弾く。
*ビクンッ!*
ネズミが痙攣し、ひっくり返る。苦痛ではない。手足をピンと張り詰めさせ、口から泡を吹きながら、それでも恍惚とした表情でピクピクと波打っている。
快楽信号の強制オーバードーズ。
《スキル覚醒》
【付与術】が【神経支配(ニューロ・ジャック)】に進化しました。
対象の痛覚・快感・運動神経を0から100まで自在に操作可能です。
乾いた唇が裂け、鉄の味が広がる。
ルシウスは笑った。影の中で、捕食者の瞳がギラリと輝く。
ルシウス・クロウ「僕を捨てたこと……身体の芯まで後悔させてやるよ」
復讐の炎が、歪んだ欲望と共に着火する。
◇◇◇
第二章: 聖女は路地裏で祈らない
王都の裏路地には、腐った野菜と湿った石の臭いが充満している。
表通りの喧騒が遠く響く中、豪奢な純白の法衣を泥除けで持ち上げながら、聖女セレスティアが不機嫌そうに歩を進めていた。
セレスティア・アークライト「どうしてわたくしが、こんな薄汚い場所へ……カイル様も人使いが荒いですわ」
豊満な胸元が、ため息と共に大きく上下する。その美しい肢体は、神に仕える身でありながら、見る者の劣情を煽るような曲線を描いていた。
ルシウス・クロウ「久しぶりだね、セレスティア」
闇の中から響く、低く湿った声。
セレスティアが振り返る。そこには、三日前にゴミのように捨てたはずの男が立っていた。
セレスティア・アークライト「ルシウス……? あなた、まだ生きて……いえ、近寄らないでください。その陰気な目、相変わらず虫唾が走りますわ」
軽蔑を隠そうともせず、結界魔法の構築を始める彼女。
だが、ルシウスは動かない。ただ、右手の親指と中指を擦り合わせ、乾いた音を鳴らす。
*パチン。*
セレスティア・アークライト「え……? な、に……?」
魔法が発動しない。
それどころか、彼女が纏う最高級の聖衣が、突如として「意思」を持ったかのように肌に食い込んだ。
否、服が変わったのではない。彼女の「触覚」が書き換えられたのだ。
絹の滑らかな感触が、無数のぬめった舌のように認識される。
布が擦れるたび、全身の柔肌を直接愛撫されているような電流が脳髄を直撃した。
セレスティア・アークライト「ひっ、あ、あぐっ!? いや、なに、これ……ふく、服が……!」
♥ガクガクと膝が笑い、その場に崩れ落ちる。
石畳の冷たさすら、灼熱の楔となって太腿の内側を突き上げる。
高潔な聖女が、路地裏の汚泥に膝をつき、自分の胸をかきむしる醜態。
ルシウス・クロウ「どうしたの? 神に祈らないのか?」
ルシウスが一歩近づく。
セレスティアの瞳孔が開く。恐怖と、それを上回る強制的な快楽。♥
秘所が意思に反して蜜を溢れさせ、純白の生地に染みを作っていく。
セレスティア・アークライト「や、やめ……あひぃッ! ルシウス、ゆる、許して……わたくし、おかしく、なっちゃうぅぅ!」
口端から銀の糸が垂れる。
かつて彼を見下していた高慢な瞳は今、雄に慈悲を乞う牝のそれに完全に堕ちていた。
◇◇◇
第三章: 鉄の処女は錆びて果てる
「そこまでだ、外道ォォォ!!」
轟音と共に、路地裏の壁が砕け散る。
土煙の中から現れたのは、燃えるような赤髪をポニーテールに束ねた女騎士、ヴァレリア・アイアンハートだった。
露出度の高いミスリルの軽鎧から、鍛え上げられた褐色の四肢が覗く。釣り上がった瞳には、明確な殺意が宿っていた。
ヴァレリア・アイアンハート「セレスティア様に何をした! 貴様、やはりただのゴミ虫だったか!」
彼女が大剣を振り上げる。風を切り裂く剛剣。
物理的な速さ。魔法使いであるルシウスには避けられない――はずだった。
《感覚反転(センス・リバース):闘争/被虐》
ルシウスは指先一つ動かさない。
ヴァレリアの剣がルシウスの首筋に迫る。
その瞬間、ヴァレリアの全身を襲ったのは、脳が焼き切れるほどの「悦び」だった。
ヴァレリア・アイアンハート「ガッ……!?」
剣を握る手に込めた力が、そのまま深奥を握り潰すような快感へと変換される。
殺意が高まれば高まるほど、彼女の体は甘く痺れ、力が抜けていく。
対象の【敵意】を【発情】へ変換しました。
攻撃行動を行うたび、強力な脳内麻薬が分泌されます。
カラン、と大剣が地面に落ちる音。
鋼のように強靭だった女騎士の足が、生まれたての子鹿のように震えていた。
鎧の硬質な感触が尖端を擦り上げ、彼女の口から情けない悲鳴が漏れる。
ヴァレリア・アイアンハート「な、なんだ……体が、熱い……戦わなきゃ、いけないのに……んあッ♥」
ルシウス・クロウ「強いね、ヴァレリア。もっと怒れよ。もっと殺意を向けろ。そうすれば……もっと気持ちよくなれるぞ」
ルシウスが靴先でヴァレリアの顎を持ち上げる。
彼女の視線の先には、すでに白目を剥いてルシウスの足首に頬ずりをする聖女の姿があった。
守るべき主の、あまりに無防備で痴態を晒す姿。
ヴァレリア・アイアンハート「ひ、め……? 嘘だろ……なんで、そんなに嬉しそうな顔をして……」
心が、折れる音がした。
最強の騎士が、戦わずして崩れ落ちる。
ルシウスは二人の間を見下ろしながら、冷淡に告げる。
ルシウス・クロウ「なあ、お前たち。本当に僕が嫌いだったのか? それとも……『そう思い込まされていた』だけなんじゃないか?」
二人の動きが止まる。
追放劇の裏に潜む、勇者の影。もし、あの嫌悪感すらも操作されたものだったとしたら?
◇◇◇
第四章: 勇者の告白と肉の盾
隠れ家として使っていた廃教会の地下室。
カビと埃、そして濃厚な雌の麝香(じゃこう)が漂う空間に、足音が響く。
「やっぱりここにいたか、ルシウス。汚らわしい真似をしやがって」
勇者カイル。
金髪碧眼、正義の象徴。聖剣を携えた彼は、ルシウスの足元で侍る二人の女性を見て、顔を歪めた。
だが、それは正義感からの怒りではない。もっと粘着質で、醜い嫉妬の色。
セレスティア・アークライト「カイル……様? わたくしたちは、洗脳されて……?」
意識が混濁したまま、セレスティアが問う。
カイルは鼻で笑った。
「洗脳? はっ、そんな高等なこと俺ができるわけねぇだろ。俺がしたのは、お前らが無自覚にこいつに発情してるのが気に食わなかったから、『こいつはキモい』って毎日耳元で囁いただけだ」
ヴァレリア・アイアンハート「な……んだと……?」
「お前ら、気づいてなかったのか? ルシウスの支援魔法を受けるたびに、顔を赤らめてたんだよ! 俺という勇者がいながら! だから追放したんだ。俺のものにならないなら、壊れてしまえばいい!」
「死ねェェェ!!」
カイルが聖剣を振り下ろす。
ルシウスに向けられた必殺の一撃。
魔法使いの動体視力では反応できない。
死――。
そう思った瞬間、ルシウスの視界を覆ったのは、白と赤の肉体だった。
*ドスッ!*
鈍い音が響く。
ルシウスを庇って盾になったのは、セレスティアとヴァレリア。
聖剣がヴァレリアの肩を裂き、セレスティアの脇腹を浅く切り裂く。
ルシウス・クロウ「……は?」
セレスティア・アークライト「あっ……ご主人様、無事……?♥」
ヴァレリア・アイアンハート「身体が……勝手に……くっ、痛いのに、ゾクゾクする……!」
彼女たちは、勇者の裏切りに絶望したのではない。
ルシウスの「神経支配」によって、彼を守ることが至上の快楽(エクスタシー)に書き換えられていたのだ。
血を流しながらも、二人は恍惚の表情でルシウスを見上げている。
勇者の「愛」などよりも、ルシウスの与える「快楽と支配」を選んだのだ。
カイルの顔が引きつる。
自分が捨てた女たちが、自分が殺そうとした男を守り、あまつさえその痛みでイっている。
あまりに醜く、そして美しい、完全なる敗北の光景。
ルシウス・クロウ「……聞いたか、カイル。彼女たちはもう、僕なしじゃ息もできないんだよ」
ルシウスの指先が、今までで一番強く、昏い輝きを放ち始めた。
◇◇◇
第五章: 堕落という名の救済
勇者は逃げた。
己のちっぽけなプライドが粉砕され、理解の及ばない狂気を前に、悲鳴を上げて走り去ったのだ。
残されたのは、地下室の静寂と、荒い息遣いだけ。
ルシウスは傷ついた二人を治療しなかった。代わりに、傷口の痛覚を「甘美な熱」へと変換し続ける魔法をかけた。
セレスティア・アークライト「あぁ……ルシウス様、もっと……もっと深く、いじってくださいまし……♥」
かつての聖女は、今はただの求愛する雌として、ルシウスの膝に縋り付いている。
その美しい金髪は汗と蜜で張り付き、高潔さは微塵もない。だが、その表情は聖女時代よりも遥かに満ち足りていた。
重圧、規律、清廉潔白という呪いからの解放。
ヴァレリア・アイアンハート「俺もだ……俺の筋肉も、神経も、全部お前のものにしてくれ……命令を、ご主人様……♥」
鉄の騎士は、自ら鎧を脱ぎ捨て、生まれたままの姿でルシウスの背中に抱きつく。
強さへの執着は消え、ただ「所有されること」への渇望だけが残った。
ルシウスは二人の頭を撫でる。
復讐は終わった。
だが、彼の中に虚無感はない。あるのは、この歪な関係を永遠に維持したいという、新たな支配欲だけ。
ルシウス・クロウ「ああ、愛してやるよ。骨の髄まで、脳の皺一本に至るまで……君たちは僕の、最高の『供給源』だ」
狭い地下室。
世界を救う旅はここで終わった。
これからは、終わりのない快楽と支配の儀式だけが、彼らの世界の全てとなる。
三人の影が蝋燭の火に揺れ、一つに重なり合う。
外の世界が滅びようとも、この堕落した楽園だけは、誰にも侵すことはできない。