第一章: 剥奪の儀
王都の中央広場を埋め尽くすのは、幾重にも重なる罵声の嵐。石畳の凍てつく冷気が、薄汚れた麻布一枚で膝をつく少女の肌を容赦なく刺す。
エララ・サンクチュアリ。かつて月光を紡いだようだと讃えられた銀色の長髪は、泥と唾液で無惨に固まり、痩せた頬に張り付いている。濡れた紫紺の瞳。涙の膜越しに映る世界は酷く歪んでいた。視界の先、陽光を一身に浴びて君臨するのは、白銀の鎧を纏った金髪碧眼の青年。かつて愛を誓い合った婚約者。
ジェラルド・ブレイブ「見ろ、この醜悪な痣を! これこそが不貞と不潔の証、魔女の刻印だ!」
ジェラルドが乱暴にエララの聖衣を引き裂く。
悲鳴のような布の裂ける音。
冬の空気に晒されたのは、白磁のような太腿の内側に浮かぶ、黒薔薇のごとき奇怪な文様だった。
エララ・サンクチュアリ「ち、違います……っ! これは、皆さんの痛みを……うぅっ」
黙れ売女!
民衆から投げつけられた腐った野菜が、エララの額で弾けた。鼻腔を犯す腐敗臭。喉の奥から酸っぱいものが込み上げる。
ジェラルド・ブレイブ「聖女の仮面を被り、夜な夜な男を漁っていた罪、万死に値する。だが慈悲深い俺は命までは取らん」
ニヤリと口角を歪めるジェラルド。彼が指差したのは広場の端、底知れぬ闇が口を開ける大穴――『奈落』。
ジェラルド・ブレイブ「魔物の餌として、その汚い身体を有効活用してこい!」
背中を蹴り飛ばされる衝撃。
浮遊感。
視界が反転し、遠ざかる青空が灰色に塗りつぶされていく。
(ああ、これで終わる。汚れた私には、暗闇がお似合い……)
死への恐怖よりも先に、胸の奥で何かが燻るのを感じた。
「汚れている」と罵られた瞬間、背筋を駆け上がった粟立つような熱。
それは絶望か、それとも――。
風切り音が鼓膜を破らんばかりに鳴り響く中、エララは闇の底へと堕ちていった。
◇◇◇
第二章: 背徳の契約
鼻をつくのは、饐(す)えた血と甘い香油が混じり合ったような、濃厚な死の匂い。
硬い岩盤の上で意識を取り戻したエララは、自身の四肢が無事であることに安堵するより先に、圧倒的な「視線」に縫い止められていた。
暗闇の中、二つの紅玉(ルビー)が燃えている。
漆黒の軍服に身を包み、夜そのものを切り取ったような黒髪の男。魔王ヴァルダス・ノワール。
ヴァルダス・ノワール「ほう。天から極上の供物が降ってくるとはな」
男が革手袋に包まれた指先を伸ばす。
冷たい。
氷柱で撫でられたようなその感触が、エララの太腿――剥き出しの『聖痕』の上を這う。
エララ・サンクチュアリ「ひっ……! や、やめて……汚い、です……私は、汚れて……」
ヴァルダス・ノワール「汚い? ククッ……愚かな人間どもめ。審美眼の欠片もない」
ヴァルダスは跪き、あろうことかその黒い痣に唇を寄せた。
熱い吐息が皮膚に直接吹きかかる。
びくり、とエララの腰が意図せず跳ねた。
ヴァルダス・ノワール「これは汚れではない。魔力を溜め込んだ、極上の蜜壺だ。……いい匂いがするぞ、聖女」
エララ・サンクチュアリ「あ……っ、だめ、そんなふうに……吸わ、ないで……っ!」
♥トクン、トクン。♥
恥辱で全身が沸騰しそうだというのに、痣を中心に甘美な痺れが波紋のように広がる。
ヴァルダス・ノワール「助けてやる。ただし対価が必要だ。……毎夜、その身で俺を楽しませろ。お前の『祈り』がいかに淫らな声に変わるか、俺が教育してやる」
拒絶すべきだった。
けれど、革手袋の指が太腿の内側を僅かに食い込むように圧迫した瞬間、エララの口から漏れたのは悲鳴ではなく、甘い喘ぎだった。
エララは知らない。この奈落の底で、聖女としての矜持が剥がれ落ちる音が、どれほど妖艶に響くかを。
◇◇◇
第三章: 反転する真実
一方、地上の王都。
祝勝の宴が開かれているはずの王城は、阿鼻叫喚の地獄と化していた。
ジェラルド・ブレイブ「ぐあぁぁぁっ!! 痛い、痛いッ! なんだこれはぁぁ!」
煌びやかな床を転げ回るジェラルド。全身の血管が黒く浮き上がり、焼けるような激痛が身体を蝕んでいく。彼だけではない。エララを嘲笑った取り巻きの騎士や魔導師たちも同様に、血を吐きながらのたうち回っていた。
警告:『聖女の加護』消失。蓄積された『呪い』の反動を確認。対象:勇者パーティ全滅の危機。
彼らは知らなかったのだ。エララの体に浮かぶ『聖痕』こそが、彼らが戦闘で受けるはずだった呪いや苦痛を、彼女が一身に引き受けて浄化していた証であったことを。
ジェラルド・ブレイブ「あの女……! エララがいなければ、俺たちは……!」
その頃、奈落の最深部、魔王城の寝室。
地上の苦痛とは対照的に、エララは別の種類の「責め苦」に身をよじっていた。
エララ・サンクチュアリ「ああっ、魔王さま、許して……もう、おかしくなり、ます……ッ!」
ヴァルダス・ノワール「まだだ。人間どもの痛みを吸っていたその体、快楽で満たせばどうなるか……興味深い実験だろう?」
ヴァルダスの指は巧みだった。
直接的な行為には至らず、敏感な耳の裏、首筋、そして聖痕の周りを執拗に焦らす。
潤み、焦点が合わないエララの瞳。苦痛を吸収する体質が、与えられる快楽をも増幅させて吸収していく。
痛みと快楽の境界が、溶けていく。
ヴァルダス・ノワール「啼け。もっと汚らしく。それがお前の本性だ」
エララ・サンクチュアリ「はい……っ、もっと、もっと汚して……ください……ッ!」
清廉潔白だった聖女は、自身の奥底に眠っていたマゾヒズムという名の獣を解放しつつある。
彼女にとっての「救済」は、祈りではなく、魔王の指先にあったのだ。
◇◇◇
第四章: 堕落の極み
魔王城の玉座の間。
空中に浮かぶ巨大な『真実の鏡』には、脂汗を流して苦しむジェラルドたちの姿が映し出されている。
そして、その鏡の向こうからもまた、こちらの光景が見えているはずだ。
ジェラルド・ブレイブ「エ、エララ……? その格好は、なんだ……?」
鏡の向こうでジェラルドが息を呑む。
そこにいたのは、ボロボロの聖衣ではない。
黒いレースと拘束具をあしらったボンテージドレスに身を包み、魔王の膝に力なく座らされた、妖艶な美女の姿。
ヴァルダス・ノワール「見ろ、勇者。お前が捨てた『ゴミ』は、今や至高の宝石だ」
ヴァルダスがエララの腰を引き寄せ、耳元で囁く。
ヴァルダス・ノワール「さあ、見せつけてやれ。かつての男の前で、誰に、どうされるのが一番幸せなのかを」
羞恥で全身が火照り、指先まで真っ赤に染まる。
けれど、かつて自分を見下したジェラルドに見られているという事実が、エララの脳髄を痺れさせるほどの興奮剤となっていた。
エララ・サンクチュアリ「ジェラルド……見て……。私、あなたの隣にいた時より……ずっと、熱いの……」
ヴァルダスの手が、ドレスの隙間から秘められた泉へと滑り込む。
♥ドクンッ![/Heart]
弓なりに反るエララの背中。喉から声にならない悲鳴が漏れる。
エララ・サンクチュアリ「ひグッ……あぁぁっ! 魔王さま、そこ、いじめるの、好きぃ……ッ!」
理性の糸が、音を立てて千切れた。
鏡越しの視線を浴びながら、エララは自ら腰を振り、魔王の指を、その愛撫を貪る。
聖女の仮面は砕け散り、ただ快楽に溺れる一人の雌がそこにいた。
ジェラルド・ブレイブ「嘘だ……やめろ、やめろおおおおッ!!」
勇者の絶叫は、エララの絶頂の叫びにかき消された。
その姿はあまりにも背徳的で、かつ神々しいほどの美しさを放ち、見る者すべての魂を震わせた。
◇◇◇
第五章: 女王の慈悲
奈落の底へ、満身創痍の勇者一行が辿り着いたのは、それから数日後のこと。
かつての威光は見る影もなく、鎧は錆びつき、瞳からは光が失われている。
ジェラルド・ブレイブ「頼む……エララ、戻ってきてくれ。君がいないと、痛くて、苦しくて……生きていけないんだ」
玉座の間。冷たい石の床に額をこすりつけ、ジェラルドが懇願する。
カツ、カツ、とヒールの音が響く。
彼の前に立ったのは、魔王ヴァルダスの腕に抱かれ、艶やかな笑みを浮かべるエララだった。
その肌は内側から発光するように美しく、かつての「聖痕」は今や魔力を帯びた淫紋として、太腿で妖しく輝いている。
エララ・サンクチュアリ「戻る? どこへ? あんな退屈な地上へ?」
ジェラルドの顎を爪先でクイと持ち上げるエララ。
かつて憧れたその碧眼を見ても、今は何のときめきも感じない。あるのは、哀れな敗北者への嗜虐心だけ。
エララ・サンクチュアリ「いいえ、戻りませんわ。だって私、ここで『真の奇跡』を知ってしまいましたもの」
彼女はヴァルダスを見上げ、蕩けるような視線を送る。魔王は満足げに彼女の銀髪を梳く。
ヴァルダス・ノワール「どうする、エララ。殺すか?」
エララ・サンクチュアリ「うふふ。殺してはつまらないわ。……ねえ、ジェラルド」
エララはジェラルドの耳元に唇を寄せ、毒のように甘く囁いた。
エララ・サンクチュアリ「あなたたちの痛み、少しだけ吸い取ってあげる。……その代わり、一生ここで傅(かしず)きなさい。毎晩、私が魔王様に愛され、乱れ、果てる声を……壁越しに聞きながら、己の愚かさを悔いなさい」
それは、死よりも残酷な救済。
しかしジェラルドは、エララの圧倒的な美しさと、彼女から漂う濃厚な雌の匂いに当てられ、涙を流しながらも頷くしかなかった。
ジェラルド・ブレイブ「あぁ……エララ様……ありがとうございます……ッ」
地に伏す勇者、嗤う魔王、そして高らかに啼く堕ちた聖女。
不潔と呼ばれた祈りは、夜の玉座で、永遠に続く快楽の宴へと昇華された。