第一章: 観測される純白
空を覆い尽くす無数の人工星。ドローンの青白い瞬きが、完全監視都市「エデン」の夜を冷酷に切り裂く。
窓ガラスに反射する己の姿。それを、イヴリンはただ静かに見つめる。首元まで一切の隙間なく覆い隠す純白の体制側制服。呼応するように、氷のように冷たい青い瞳が静謐な光を宿す。背中まで滑り落ちる銀糸のような長い髪。どこまでも従順で、一糸乱れぬ完璧な模範市民の象徴。誰の目から見ても、彼女の歩む道は正しかった。
消毒液の無機質な匂いが漂う自室。
天井の四隅に設置された監視カメラ。そのレンズの奥で、血のように赤いランプが瞬きを繰り返す。
カチ、カチ、カチ。
[Sensual]
薄暗い部屋の中心。イヴリンは床に膝を突く。
氷点下に近いほどの静寂の中、彼女は小さく息を吐き、自らの指先を純白の制服の合わせ目へと滑らせる。肌の露出は一切ない。分厚い布地越しに、己の下腹部、その最も熱を帯びた中心へと指を押し当てた。
[Heart]ドクン……ドクン……[/Heart]
[A:イヴリン:興奮]「あっ……ふ、ぁ……」[/A]
[Whisper]赤いランプが見ている。都市の眼が、私を見下ろしている。[/Whisper]
その事実だけが、凍りついた彼女の精神に劇薬のような火を放つ。布越しの摩擦。ひっそりと濡れそぼった花芯を、己の指先が容赦なく蹂躙する。喉仏が上下し、抑えきれない甘い吐息の漏洩。
弓なりに反り返る背中。両膝が細かく痙攣し、足の指が絨毯の毛足をきつく掴む。
誰にも知られてはならない。だが、誰かに見透かされたい。
矛盾する強烈な渇望が、彼女の脳髄を純白に染め上げる。
指先の動きが加速。ぐちゅり、と布の下から卑猥な水音が微かに響いた瞬間。彼女は声を殺してむせび泣きながら、暗闇の中で果てた。
[/Sensual]
不意に、枕元の端末が[Pulse]ブルリ[/Pulse]と震える。
予測不可能なノイズ。跳ね上がる眉間。
画面に浮かび上がったのは、見知らぬ暗号化されたアドレス。
開いた瞬間、イヴリンの呼吸がピタリと止まる。
映し出されていたのは、今まさに声を殺して絶頂を迎える、己の乱れた姿。
監視カメラの死角を突いたはずの、絶対の秘め事。
[System]ハッキング完了。接続者:ノア[/System]
[A:ノア:興奮]「君の美しい秘密、全て見ているよ」[/A]
全身の血が粟立つ。指先を襲う、凍りつくような冷気。
だが、その[Tremble]圧倒的な恐怖[/Tremble]の裏側。イヴリンの下腹部が再び熱く疼き始めるのを、彼女自身どうすることもできなかった。
逃れられない。「絶対的に観測される快楽」という狂気の幕開け。
第二章: 錆びた廃線路の遊戯
冷たい雨の匂い。錆びた鉄の臭気が鼻腔を突く。
エデン最下層、監視の死角に位置する廃線路跡。
[A:ノア:冷静]「来たか、お姫様」[/A]
暗がりから姿を現したのは、使い古された黒のロングコートを翻す男。雨を吸ったボサボサの黒髪の奥で、世界を嘲笑うような琥珀色の鋭い瞳が光る。
天才ハッカー、ノア。
[A:ノア:狂気]「ほら、最高のショーの始まりだ」[/A]
彼が指先のデバイスを操作すると、空中にホログラムの暗視モニターが浮かび上がる。
接続先は、特区にいる治安維持局幹部――イヴリンの婚約者であるアダムのプライベート端末。
[Sensual]
[A:イヴリン:恐怖]「……何をするつもりですか。やめて……彼にだけは……」[/A]
[A:ノア:狂気]「いいや、やめない。今から君の可愛い婚約者に、この極上の痴態を生中継してやる」[/A]
ノアはイヴリンの背後に回り込む。純白の制服には一切手を触れないまま、彼女の背中の中心線を人差し指でゆっくりとなぞり降ろす。
[Tremble]ビクッ[/Tremble]と、イヴリンの肩が跳ねる。
[Whisper]「……ほら、カメラの向こうで彼が見てるぜ? 愛する女が、得体の知れない男に弄ばれる姿を」[/Whisper]
耳裏を掠める熱い吐息。衣服を剥ぎ取られるよりも、はるかに暴力的で粘着質な支配。
[A:イヴリン:絶望]「ひっ……あぁっ、だめ……見ないで……!」[/A]
首を振り、拒絶の言葉を口にする。だが、彼女の肉体は恐ろしいほどに正直。
『アダムに見られている』という極限の羞恥。
禁忌の檻を破壊されるカタルシスが、イヴリンの思考をドロドロに溶かしていく。
交わることも、肌を直接合わせることもない。ただ指でなぞられ、耳元で囁かれるだけ。それなのに、内股から溢れ出す蜜が純白の布地を重く濡らし、太ももを伝って冷たい石畳へと滴り落ちる。
[A:イヴリン:狂気]「あ、あぁぁっ! アダム……私を、見て……っ!」[/A]
白目を剥き、口端からだらりと涎を垂らす。イヴリンは狂ったように腰を震わせた。
[/Sensual]
その凄まじい絶頂の波長を間近で浴びたノアは、ふと指先の動きを止める。
[Think]……なんだ、この女は。[/Think]
ただのシステムへの反逆。エリートの婚約者を汚すだけの遊びだったはずだ。
だが、眼の前で身をよじる女が抱える、底知れぬ孤独と虚無の深淵。
彼女は、見られることでしか呼吸ができないほどに壊れていた。
第三章: 観測者の狂気
第一層特区、治安維持局長官室。
淹れたてのコーヒーの焦げた苦味が充満する密室。アダムは一糸乱れぬ仕立ての良いグレーのスーツの袖を力強く握りしめた。金髪のオールバックの下、普段は感情を読み取らせない灰色の瞳。それが今は充血し、[Tremble]激しく揺れ動いている[/Tremble]。
モニターに映し出される暗視映像。
顔は意図的にノイズで隠されていた。だが、その華奢な肩の震え、喉から漏れる甘い吐息。
[A:アダム:絶望]「……イヴリン、なのか……?」[/A]
[Sensual]
他の男の吐息を浴び、衣服の上からなぞられるだけ。それなのに、己の婚約者が娼婦のように身をよじり、狂ったように絶頂を迎えている。
怒りで視界が赤く染まった。その男を八つ裂きにしたいという憎悪の爆発。
だが。
[Heart]ドクン、ドクン、ドクン。[/Heart]
アダムの下半身は、信じがたいほどの熱を帯び、張り裂けんばかりに膨張。
自分の所有物が、見知らぬ泥にまみれ、汚されていく。その絶対的な背徳感が、彼の理性を木端微塵に粉砕した。
[A:アダム:狂気]「あぁ……イヴリン……私の、イヴリン……っ!」[/A]
震える手で自身の欲望の塊を強く握りしめる。
画面の中で果てる彼女と呼応するように、アダムの喉から漏れる獣のような嗚咽。瞳からボロボロと涙をこぼしながら、彼は激しいストロークを繰り返し、モニターに向かって白濁した熱情を撒き散らす。
[/Sensual]
一方、廃線路の雨音の中。
ノアは虚脱して横たわるイヴリンを見下ろす。
[A:ノア:愛情]「……なぁ、こんな狂った箱庭、もう終わりにしようぜ」[/A]
彼女を覆う分厚い虚飾の殻を割り、外の世界へ連れ出したい。
そんな密かな庇護欲の芽生え。
だがその瞬間、ノアの端末がけたたましい警告音を鳴らし始める。
[Glitch]警告:現在地座標が特定されました。治安維持局部隊、接近中。[/Glitch]
アダムが権限を乱用し、ついにこの死角を暴き出したのだ。
第四章: 理不尽な喪失
夜を切り裂くようなサイレンの音。
赤と青のパトランプの光が、錆びた鉄骨を無情に照らし出す。
[Shout]「そこまでだ、ネズミ共!!」[/Shout]
[A:アダム:怒り]「よくも私の箱庭を汚してくれたな……!」[/A]
完全武装した治安維持部隊の銃口。一斉に二人へ向けられる死の視線。
ノアは舌打ちをし、黒のロングコートのポケットから即席のEMPデバイスを引き抜く。
[A:ノア:冷静]「もう見世物は終わりだ。俺の手を握れ、イヴリン! 一緒に逃げるんだ!」[/A]
差し出された無骨な手。
それを掴めば、この狂った監視社会から抜け出せる。
だが。
イヴリンの青い瞳は、差し出された手ではなく、周囲を取り囲む無数の兵士たち、そして上空に集結し始めた無数の監視ドローンへと向けられていた。
[Flash]……視線だ。[/Flash]
[A:イヴリン:狂気]「だめ……監視の目がない世界なんて……私には、耐えられない」[/A]
後ずさり、ノアの手を拒絶するイヴリン。
監視されない自分は、存在しないのと同じ。
極度に抑圧された彼女の魂は、箱庭の外の自由よりも、檻の中の視線を渇望する。
[A:ノア:悲しみ]「……バカ女が」[/A]
ノアは自嘲気味に笑うと、迫り来る銃弾の雨の前に、自らの身を投げ出す。
[Impact]ドシュッ!![/Impact]
鈍い肉の弾ける音。血の飛沫が、イヴリンの純白の制服に紅い染みを作る。
[A:イヴリン:驚き]「ノア……!?」[/A]
膝から崩れ落ちるノア。彼を取り押さえ、地面に引きずり倒す兵士たち。
アダムが冷酷な足取りで近づき、ノアの頭を革靴で踏みつける。
[A:アダム:冷静]「お前の罪は、死よりも重い罰で償わせる」[/A]
すれ違う想い。理不尽な喪失の痛みが、冷たい雨とともにエデンの夜に溶けていく。
第五章: 光雨のカタルシス
エデンの中央広場。
都市機能の全てを司る巨大スクリーンに、拘束されたノアとイヴリンの姿が映し出される。
アダムによる「公開処刑」。
システムへの反逆者と、それに堕落させられた女への見せしめ。
広場を埋め尽くす数百万の市民。全方位から注がれる、無数の無機質な視線。
[A:アダム:狂気]「見ろ! これが秩序を乱す者の末路だ!」[/A]
だが、アダムは気づいていなかった。
数百万の視線。都市の全ての監視の目が、今、イヴリンただ一人に集中しているという事実に。
[Sensual]
拘束衣を纏わされたイヴリンの肉体。突如として[Tremble]激しく痙攣[/Tremble]し始める。
[A:イヴリン:狂気]「あ、あぁぁぁ……っ!」[/A]
恐怖ではない。絶望でもない。
何百万という人間に、今、私の最も惨めな姿が見られている。
その事実が、彼女の脳内麻薬を限界値を超えて分泌させた。
針のように肌を突き刺す視線。それが無数の見えない指となって、彼女の全身を這い回る錯覚。
[A:イヴリン:狂気]「もっと……もっと見て……! 私を、見下ろしてぇっ!!」[/A]
よだれを撒き散らし、瞳孔を極限まで開く。身をよじる純白の狂女。
擦れ合うことすらない。ただ「観測される」という概念だけ。それだけで、彼女の奥底からはとめどなく甘い蜜が溢れ出し、拘束衣の下で大洪水を起こす。
[A:イヴリン:狂気]「あ、あ、だめ、壊れる、真っ白になるぅっ!」[/A]
脳髄が焼き切れるような、極限のカタルシスと法悦。
彼女の喉から、言語にならない絶頂の絶叫が放たれた。
[/Sensual]
[System]異常トラフィックを検知。生体波長とシステムの同期率、臨界点突破。[/System]
その瞬間だった。
血だらけで拘束されていたノアの唇の端。それが微かに引きつるように笑う。
彼が最期にエデンのネットワークの深部に仕掛けていたウイルス。
それは、イヴリンの狂気的なオーガズムの波長をトリガーとして起動する「破壊の呪文」。
[Magic]《パノプティコン・オーバーロード》[/Magic]
[Flash]カッ……!!![/Flash]
都市の全監視カメラの赤いランプが、一斉に暴走し、眩い白光を放つ。
ドローンが次々と火花を散らして墜落。巨大スクリーンがバグにまみれて崩壊していく。
[Glitch]システム……ダウン……エデン……崩壊……[/Glitch]
[A:アダム:驚き]「な、何が起きている!? やめろ、私の箱庭が!!」[/A]
光の奔流が全てを白く染め上げる中。
拘束が解け、崩れ落ちる瓦礫の雨の中、イヴリンはゆっくりと立ち上がる。
狂気の絶頂を終え、全てから解放された彼女の顔。かつての造り物のような表情は、もうそこにはない。
[A:イヴリン:喜び]「……ノア」[/A]
彼女は初めて、人間らしい真実の微笑みを浮かべる。
重傷を負い倒れたノアの身体。それを優しく抱き起こす。
降り注ぐ光と火の粉の雨が、二人を包み込む。
監視の目が完全に失われた、真っ白な自由の世界。そこへ、二人の姿は静かに溶けて消えていった。