第一章: 甘く暴力的なノイズ
重金属を含んだ酸性雨が、階層都市アヴァロンの廃棄区画を絶え間なく叩きつける。錆びついた鉄とオゾンの混じった鼻を突く悪臭。それが、肺の奥まで重くのしかかる。
薄暗いサーバーラックの隙間。闇に溶け込むような黒の多機能ボディスーツに身を包んだ小柄な躯。息を殺して潜む。
艶やかな黒のショートボブから、濡れた雫が冷たいコンクリートへ落ちた。光を宿す紫の瞳が、宙に浮かぶホログラムのデータストリームを射抜くように見つめる。首元にきつく巻かれたチョーカー型の神経接続ポート。彼女の脈拍に合わせて微かに明滅。
[System]>> ターゲット・メガコーポ第漆区画。メインフレーム到達まで残り三〇秒。[/System]
[Think]完璧。このまま防壁の裏側をすり抜ける。[/Think]
手元のホログラムキーボードを叩く指先が、残像を残すほどの速度で踊る。天才的な独立系ハッカー、リリス。彼女にとって電子空間のロックなど、古い南京錠よりも脆い。
[A:リリス:冷静]「私のシステムに土足で踏み込まないで」[/A]
最後のセキュリティゲートを突破。データの抽出が始まる。
その時。
[Glitch]>> ERR... 接続元不明。マスター権限上書き。脊髄ポートへ直接アクセス中。[/Glitch]
[A:リリス:驚き]「な……っ、なにこれ!?」[/A]
[Impact]全身の産毛が総毛立つ。[/Impact]
システム防壁ではない。彼女自身の神経回路、その最深部。未知のアクセスが暴力的に割り込んできた。
[Sensual]
「あっ……!」
喉の奥から、意図しない甘い声が漏れる。
脊髄の接続ポートから侵入する氷のように冷たい『何か』。次の瞬間、灼熱のノイズとなって全身の神経を無惨に焼き焦がす。
[Tremble]指先がガタガタと痙攣する。[/Tremble]
ハッキングの手を止めることすら許されない。強制的に書き換えられていくのは、彼女の痛覚と快感の閾値。
[Pulse]ドクン、ドクン、ドクン。[/Pulse]
耳の裏から首筋にかけ、見えざる電子の舌がねっとりと這い回るような生々しい感触。息が浅くなる。
[Whisper]「ひ、あ……やめ……っ」[/Whisper]
敵地のど真ん中。警備ドローンの駆動音がすぐ頭上を旋回。
見つかれば即座に蜂の巣。だが、脳髄を直接撫で回されるような圧倒的な快楽の波。リリスの理性が泥のように溶け出していく。
ボディスーツの下、誰にも触れられたことのない胸の先端が硬く尖り、下腹部の奥深くが狂おしく疼く。
[Heart]
「んっ……く、ぁ……っ!」
唇を噛み破り、鉄の味を口内に滲ませて悲鳴を殺す。
秘裂の最深部、ひっそりと隠された花芯が、遠隔からの微弱な電流で直接弾かれた。
[Impact]ビクンッ![/Impact]
腰が跳ね、濡れた洞窟からドクドクと溢れ出した熱い蜜。それが、内腿を伝って生々しい水音とともに落ちる。
[/Sensual]
[System]>> データ抽出完了。接続を解除します。[/System]
不意に、嵐のような快感が引く。
膝から力が抜け、水たまりの広がる床に崩れ落ちた。肩で荒い息を繰り返す。
どこから。誰が。
見えない視線が、暗闇の中から自分を舐め回している。皮膚の表面を這うような、強烈な羞恥と恐怖。
震える指で胸元を掻きむしりながら、リリスは虚空を睨みつけた。
◇◇◇
第二章: 見えざる指先の冷たい熱
三日後。アヴァロン最上層・空中庭園。
雲を突き抜けた青空。眼下に広がる灰色のスモッグが嘘のような、静寂と光に満ちた空間。
大理石の床に靴音を響かせ、リリスは重厚なマホガニーの扉を押し開ける。
[A:リリス:冷静]「……呼び出しって何の用だ、ヴィンセント」[/A]
執務デスクの奥。銀糸のような長髪を優雅に束ね、氷のように冷たい青の瞳が彼女を射抜く。都市の最高執行責任者、ヴィンセント。
オーダーメイドの漆黒のスーツを隙なく着こなし、両手には常に黒い革手袋。完璧な造形の顔には、一切の感情が浮かんでいない。
[A:ヴィンセント:冷静]「仕事の報酬を渡そうと思ってね。ご苦労だった、リリス」[/A]
[A:リリス:怒り]「あんたの依頼のせいで、こっちは死にかけたんだ。金だけ振り込めば済む話じゃない」[/A]
突き放すように言い捨てるリリスの背後から、軽い足音が近づく。
無造作な赤毛に、首からハッキング用のゴーグルを下げた青年、カイル。
[A:カイル:喜び]「おいおいリリス、そんなにカリカリすんなよ! 報酬弾んでくれるんだろ?」[/A]
カイルが親しげに笑いながら、リリスの肩にポンと手を置く。
その瞬間。
ヴィンセントの青い瞳の奥で、ぞっとするような絶対零度の光が閃いた。
[Flash]ピシッ……![/Flash]
[A:リリス:驚き]「ぁ……っ!?」[/A]
[Sensual]
リリスの視界がノイズに塗れる。
[Blur]ぐにゃりと歪む世界。[/Blur]
カイルの手が触れた肩口から、焼けるような痺れが走った。いや、痺れではない。三日前の夜に味わった、あの甘く暴力的な電流。
[A:カイル:驚き]「リリス? どうした、顔色悪いっすよ?」[/A]
[A:リリス:恐怖]「さわら、ないで……っ」[/A]
カイルの手を弾き飛ばし、リリスは床に膝をつく。
[Heart]
ヴィンセントの指先が、デスクの上でチェスの駒を弄るように微かに動く。
それに連動して、リリスの首筋のチョーカーから直接、脳の快楽中枢へ圧倒的な信号が叩き込まれた。
[Think]こいつ……ヴィンセントが……あの時の……!?[/Think]
[A:ヴィンセント:冷静]「カイル君。君にはもう用はない。退出したまえ」[/A]
静かな、だが一切の反論を許さない絶対者の声。
カイルが戸惑いながら部屋を出て、重い扉が閉まる。
密室に取り残された瞬間、ヴィンセントが革手袋の指を軽く鳴らした。
[Impact]「ひっ……! あ、あぁぁっ……!」[/Impact]
[Tremble]床に這いつくばり、リリスは腰をガクガクと震わせる。[/Tremble]
彼は一歩も動かない。指一本触れない。
それなのに、リリスの秘核は目に見えない熱い指で執拗に弄られ、体内の最奥を硬い杭で突き上げられるような錯覚に脳が融ける。
[A:リリス:絶望]「やめ……っ、やめろ……だれか……っ」[/A]
[A:ヴィンセント:愛情]「誰かを呼ぶ必要はない。君の鼓動一つすら、私の許可なく打つことは許されないのだから」[/A]
絶頂の瀬戸際。あと一息で弾けるというところで、快感がふっと途切れる。
[Whisper]「あ……え……? ほしい、もっと……」[/Whisper]
寸止めの責め苦。理性が完全に瓦解し、粘っこい涎が唇の端から垂れる。
[/Sensual]
彼女の視覚、聴覚、肌の感覚。すべてがすでに、この男の掌の上。
見下ろすヴィンセントの冷酷な瞳の奥。どろりとした異常な執着が渦巻いているのを、リリスは確かに見た。
◇◇◇
第三章: 孤独の盤上
[Impact]すべては、何年も前から仕組まれていた。[/Impact]
執務室の巨大なホログラムモニターに映し出されたデータ群。
リリスが廃棄区画から抜け出すきっかけとなった初めてのハッキング依頼。彼女が住む薄暗いアパートの契約情報。そして、三年前、彼女を庇って不審死を遂げた孤児院の恩人の検死記録。
[A:リリス:絶望]「嘘、だろ……? 全部……あんたが……?」[/A]
[A:ヴィンセント:冷静]「不確定要素は排除しなければならない。君が私以外の誰かに依存する可能性を、一つ残らずね」[/A]
ヴィンセントは革手袋を外し、素手でワイングラスを傾ける。
リリスの世界は、初めからこの男の箱庭。彼女が強がり、「一人で生きていける」と信じ込んでいた孤独すら、彼が用意した檻に過ぎない。
[A:リリス:狂気]「ふざけるなッ!!」[/A]
[Shout]死にたくねぇぇなら、その顔の皮を剥がしてやる!![/Shout]
隠し持っていた電磁ナイフを抜き放ち、ヴィンセントの喉元へ跳躍。
しかし、彼が指を軽く振った瞬間。
[Glitch]>> 視覚野ジャック・プロトコル起動。[/Glitch]
リリスの視界が反転する。
見知らぬ路地裏。雨の中、血まみれで倒れているカイルの姿。その頭部には、メガコーポの無人暗殺ドローンの銃口が突きつけられている。
[A:ヴィンセント:冷静]「彼は君に触れた。その罪は万死に値する。だが、君の選択次第で、あの路傍の石以下の命を拾ってやってもいい」[/A]
[Tremble]ナイフを握る手が、ガタガタと音を立てて震える。[/Tremble]
床に落ちる刃の響き。
[A:リリス:悲しみ]「……なにを、望むんだよ」[/A]
[A:ヴィンセント:愛情]「君のすべてだ。神経回路のマスターキー。君の魂の所有権。私への『絶対服従の首輪』」[/A]
それは、ハッカーとしての死。人間としての尊厳の完全な放棄。
カイルの人の良い笑顔が、脳裏をよぎる。
奥歯が砕けるほど噛み締め、リリスは冷たい大理石の床にゆっくりと膝をつく。
[A:リリス:絶望]「……わかっ、た。私の、すべてを……くれてやる」[/A]
[A:ヴィンセント:喜び]「賢明な判断だ、私のリリス。では、今夜の夜会で契約の儀式と行こう」[/A]
逃げ道は、絶たれた。
◇◇◇
第四章: 煌びやかな夜の生贄
シャンデリアが眩い光を放つ、メガコーポ幹部たちの豪奢な夜会。
クラシックの生演奏が響く中、ヴィンセントの傍らには、深いスリットの入った真紅のドレスを纏うリリスの姿。
いつも首を覆っていたチョーカーは外され、剥き出しの白い首筋にある接続ポート。痛々しく露わになっている。
[A:ヴィンセント:冷静]「美しいよ、リリス。君は私の隣にいる時が一番輝いている」[/A]
貴族的な微笑みを浮かべながら、ヴィンセントがグラスを傾ける。
周囲の権力者たちが、リリスの危うい色気に見惚れ、欲望の視線を向けてくる。
その視線の雨に晒された瞬間。
[Sensual]
[Impact]ビクンッ!![/Impact]
ドレスの下で、リリスの足の指がギュッと縮こまる。
ヴィンセントの視線が彼女の首筋を撫でただけで、遠隔接続された神経回路に膨大な快楽の波が押し寄せる。
[Pulse]ドクン、ドクン、ドクン。[/Pulse]
[A:リリス:狂気]「ぁ……っ、ん……ふぅ……っ」[/A]
公衆の面前。周囲には何十人もの人間がいる。
だというのに、彼女の濡れた洞窟の奥深くを、電子の太い楔が容赦なく掻き回す。現実の肉体には誰も触れていない。だが、脳が知覚する感触は本物よりも生々しい。
[A:ヴィンセント:愛情]「笑いなさい、リリス。誰も君の狂態に気づいてはいない」[/A]
[Whisper]「ひ、あ……あぁ……っ、ヴィン、セント……」[/Whisper]
内腿をガクガクと震わせ、ドレスの生地にじわりと濃い染みを作る。
彼岸へと消えかける意識を必死に繋ぎ止め、リリスは歪んだ作り笑いを浮かべる。
誰にも気づかれないまま、何百回という寸止めと絶頂を繰り返される究極の恥辱。見られることへの潜在的な興奮が、トラウマと混ざり合い、彼女の理性を完全に破壊していく。
白目を剥きかけ、口から一筋の涎が垂れた。
[A:リリス:絶望]「もう、やめ……壊れ、る……っ」[/A]
[A:ヴィンセント:興奮]「壊れてしまえばいい。私がすべて、拾い集めてあげるから」[/A]
[/Sensual]
精神の防壁が決壊する。
自我の境界線が融解し、リリスの意識はヴィンセントの神経回路との、後戻りできない深いダイブへと引きずり込まれていった。
◇◇◇
第五章: 脳髄を溶かす光
[FadeIn]真っ白な、光の底。[/FadeIn]
物理的な肉体を離れ、二人の意識が交わる電子の深層領域。
そこでリリスが見たものは、冷酷な支配者の姿ではない。
冷たい雨の中。豪奢な籠の中で、一切の感情を殺し、ただ「完璧」であることだけを強要されて心を壊した幼いヴィンセント。
彼の前に現れたのは、最下層の廃棄区画から這い上がってきた、泥まみれの孤児。
幼い日のリリスだ。
[Think]『泣くなよ。私が助けてやるからさ』[/Think]
忘れていた記憶。
ヴィンセントにとって、リリスのその不屈の「生きる意志」だけが、冷たい世界に射し込んだ唯一の熱。
彼女を失えば、自分は自我を保てない。その致命的な欠陥、痛切なまでの孤独と重すぎる愛。
[A:リリス:悲しみ]「……あんた、ずっと……こんな暗闇で……一人で……」[/A]
リリスの瞳から、大粒の涙が溢れ落ちる。
憎悪と恐怖で塗り固められていた感情の壁。それが、音を立てて崩れ去る。
[A:ヴィンセント:絶望]「愛などという感情はバグだ。だから私は、君を完全に支配することでしか、この恐怖を消すことができない……!」[/A]
泣き叫ぶような少年の声が、冷徹な支配者の殻を破って響く。
[Shout]「バカ野郎ッ!!」[/Shout]
リリスは光の海を蹴り、ヴィンセントの胸に飛び込んだ。
現実世界。アヴァロンの空を覆う巨大なネオン群が、二人の同期による負荷に耐えきれず、次々とショートを起こす。
[Flash]都市の管理システム『マザー』がダウン。完全な闇が世界を包み込む。[/Flash]
[Sensual]
闇に沈んだ夜会のフロア。
崩れ落ちるリリスの体を、ヴィンセントの力強い腕が抱きとめる。
電子空間と現実世界。二つの次元で同時に、彼らは深く重なり合った。
[A:ヴィンセント:愛情]「リリス……私の、リリス……っ」[/A]
[A:リリス:愛情]「いいよ……全部、めちゃくちゃにして……私の全部で、あんたを満たしてあげる……っ」[/A]
[Heart]
初めて、生身の肌と肌が触れ合う。
革手袋を投げ捨てたヴィンセントの熱い掌が、リリスの汗ばんだ背中を、腰を、剥き出しの太ももを執拗に撫で上げる。
互いの首元のポートが物理的に結合。魂の根源から溶け合うような究極の交わり。
ヴィンセントの熱く硬結した白き楔が、リリスの未開の花弁を割り、最奥の蜜壺へと深々と貫かれる。
[A:リリス:狂気]「あぁぁぁっ!! ヴィンセント……ヴィンセントぉっ!!」[/A]
痛みを凌駕する、星が爆発するような快楽。
彼の注ぎ込む生命の熱が、リリスの胎内を白く焦がし、満たしていく。
[Whisper]「あ、あ、だめ、壊れる、真っ白になる!」[/Whisper]
汗と体液が混ざり合い、荒々しい呼吸音が暗闇に溶ける。
二人の肉体は痙攣し、幾度となく終わりのない絶頂の波に呑み込まれていった。
[/Sensual]
窓の外、雨雲が割れ、一筋の月光が二人の絡み合う肢体を照らし出す。
もう、誰も彼らを分かつことはできない。
ネオンの消えた檻の中で、二人は永遠に互いの魂を縛り付け合う。歪で、狂おしいほど美しい共依存の夢へと堕ちていく。