第一章: 血と熱脈の起動式
赤く点滅する緊急警報灯が、濁ったガラス管を不気味な血の色に染め上げる。
のたくる無数の生体バイパスチューブが、拘束された少女の細い肉体を容赦なく侵食している。
透き通る白銀の長髪が赤光の波に濡れて揺れ、緋色の瞳が熱っぽく潤んで微かな焦点を揺らしている。
極薄の半透明ドレスの隙間から、無機質な生体プラグが皮膚を深く穿つ痛々しくも美しく官能的な光景が浮かび上がる。
カイ・ヴァレンシュタイン「心拍数上昇。生体圧、限界値まであと三パーセント。……まだ浅いな。この程度の負荷では不純物が混ざる」
ぼさぼさの黒髪を揺らし、カイ・ヴァレンシュタインは擦り切れた黒い白衣の袖を雑にまくり上げた。
落ち窪んだ三白眼の下に刻まれた濃い隈が、冷たい操作モニターの青光を怪しく反射する。
両手首には、自傷の痕跡にも似た痛々しい生体プラグの接続痕が、幾重にも酷く引き攣れて刻まれていた。
キーボードを叩く骨ばった指先に一切の迷いはない。過圧刺激の出力を一気に一段階引き上げる。
ガラス管の中で、エリシアの華奢な体が弧を描いて大きく跳ね上がった。
エリシア「あっ……あぁっ……! カイ・ヴァレンシュタイン様……! 熱い……背骨の奥が、熱くて痺れて……っ!」
うなじのメインコネクターからバチバチと橙色の火花が散り、白く柔らかな内ももの端子が激しく脈打つ。
脊髄を一直線に駆け抜ける激痛と、それに直結した甘美な絶頂の波に、エリシアは耐えかねて喉を震わせた。
巨大なフラスコへと繋がる透明管を、ドクドクと不気味に青く光る生体液体を満たしていく。
純度百パーセントの無菌生体燃料——これこそが都市を支える奇跡の抽出物、エリクサーの精製反応だ。
カイ・ヴァレンシュタインは自身の手首の接続痕を強く押しつけ、浮き出る青筋とともにモニターの波形を凝視した。
カイ・ヴァレンシュタイン「いいぞ、エリシア。過去最高効率の数値を計測している。君の苦痛と悲鳴が、このフラスコを完璧に満たしていく」
エリシア「もっと……もっと深く私を刻んで……カイ・ヴァレンシュタイン様の成果に……私をして……あぁっ!」
狂おしいガラス越しに、二人の視線がねっとりと濃厚に交錯する。
冷徹な計算と被虐の陶酔が、細く張られた生体コードを通じて互いの熱度を何倍にも増幅させていた。
その時、部屋全体の空気を叩き割るような重低音の警報が鳴り響いた。
警告:総督権限による優先介入。ドアロックを強制解除します。
極厚の油圧ドアがプシューと蒸気を吐き出して重い音を立てて開き、冷徹な空気とともに重厚な足音が踏み込んでくる。
第二章: 支配者の真実と甘美なる牙

黒金塗りの重厚な軍服に身を包んだ巨躯が、見下すような視線で培養室へと足を踏み入れた。
ヴァルター・フォン・グランツ。右眼に嵌め込まれた赤いサイバネティクスレンズが不気味に明滅する。
手入れの行き届いた灰色の髭を無造作に撫でながら、彼はガラス管に満ちる青い光を一瞥した。
ヴァルター・フォン・グランツ「相変わらず狂気的な手際だな、カイ・ヴァレンシュタイン。その女を限界まで絞り出す手腕だけは評価してやる」
カイ・ヴァレンシュタイン「何の用だ、総督。抽出作業の邪魔だ。ノイズが入れば精製効率が即座に低下する」
カイ・ヴァレンシュタインはエリシアの視界を遮るように、庇う仕草でモニターの前に立ちふさがった。
ヴァルター・フォン・グランツは足元で吸い殻を踏みにじり、鼻で冷たくあざ笑う。
ヴァルター・フォン・グランツ「明日の作業でその女の体組織は完全に壊死する。故に脳と生殖器官のみを摘出し、連続抽出炉へ永久組み込みを行う」
解体宣告。
カイ・ヴァレンシュタインの指先がかろうじて保たれていた冷静さを失ってかすかに震え、手首の接続痕からじわりと薄い血が滲み出た。
カイ・ヴァレンシュタイン「ふざけるな……! 彼女の精密な神経系は俺の調整でしかこの高純度を出せない! そんな単純な解体など愚者の選択だ!」
ヴァルター・フォン・グランツ「勘違いするなよ、飼い犬が。地上はとっくに浄化されているのだからな」
冷酷に吐き捨てられた言葉が、無菌室の空気を氷のように凍りつかせる。
ヴァルター・フォン・グランツは赤い義眼の焦点をじわりと合わせ、絶望を叩きつけるように言葉を重ねた。
ヴァルター・フォン・グランツ「終末など疾うに終わっている。地下の豚どもから搾り取った生体液を、地上貴族へ輸出するだけの簡単な事業だ」
カイ・ヴァレンシュタインの脳内で、これまで世界を救うために積み上げてきた計算式がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
『崩壊した世界を維持するための生産』という高尚な大義は、単なる支配層の肥やしに過ぎなかったのだ。
ヴァルター・フォン・グランツが去り、静寂が戻った薄暗い廊下の影から、がちゃりと硬質な金属音が響く。
ススで汚れた長いツインテールを揺らし、身の丈ほどもある大型レンチを肩に担いだ少女が歩み出た。
黒の油染みたタンクトップの胸元を揺らし、ゴーグルを額へ押し上げたレナ・スカーレットだ。
レナ・スカーレット「聞いてたろ、あんた。あのクソ総督、あたしたち人間をなんだと思ってやがるんだ」
カイ・ヴァレンシュタイン「……レナ・スカーレットか。何をしに来た。嘲笑いに来たのか」
レナ・スカーレット「ハックの手筈は整った。お前らのそのイカれた愛のデータを奪い返すなら、あたしの背中に乗りな!」
カイ・ヴァレンシュタインは血の滲む手首を押し潰すように固く握りしめ、自虐と狂気に満ちた冷たい笑みを浮かべた。
第三章: 狂愛同期のオーバーロード

中央制御炉のコア・チェンバーは、奔流する青い生体流束の渦と猛烈な不規則放電に包まれている。
チェンバー中央の金属製台座には、無数の極太な生体針に深く突かれ、無惨に拘束されたエリシアの姿があった。
ヴァルター・フォン・グランツ「ハハハ! 痛みが燃料になるのだろう? ならばそのまま狂い死ね!」
ヴァルター・フォン・グランツが過圧レバーを極限の限界値まで押し込む。
極太の生体針がエリシアの脊髄を極限まで深く貫き、彼女の薄い唇から言葉にならない悲痛な悲鳴が弾けた。
エリシア「あぁぁぁぁっ! カイ・ヴァレンシュタイン様、カイ・ヴァレンシュタイン様ぁっ!」
レナ・スカーレット「ダメだカイ・ヴァレンシュタイン! 圧力が跳ね上がりすぎてる! 今近づいたら脳が瞬時に蒸発するぞ!」
制止しようと伸ばされたレナ・スカーレットの手を力任せに突き飛ばし、カイ・ヴァレンシュタインは火花散る制御盤へと飛びついた。
自らの手首に固着していた生体プラグをバリバリと肉ごと剥ぎ取り、露出した赤黒い端子を、高電圧の露出回路へ直接叩き込む。
生体コードの強行直接接続。
カイ・ヴァレンシュタインの頭蓋へ、エリシアが受けている殺人的な激痛の波が一気に暴風となって流れ込んできた。
視界が真っ赤に染まり、限界を迎えた口腔から赤黒い吐血が吹き出す。
だが、カイ・ヴァレンシュタインの歪んだ唇は、至上の歓喜に大きく引き攣れていた。
カイ・ヴァレンシュタイン「エリシア! 苦しいか!? 痛いか!? 全部俺に流せ! 君の痛みを俺の快楽にしてやる!」
エリシア「カイ・ヴァレンシュタイン様……! 入ってくる……カイ・ヴァレンシュタイン様の熱が……私の中に直接……っ!」
二人の過熱した脳波が狂暴に同期・共鳴し、制御盤の測定数値が物理的限界を突き破っていく。
千パーセント、五千パーセント、一万パーセント。
過剰すぎる生体エネルギーの濁流が猛烈な逆流となり、巨大な抽出炉を内側から破砕した。
ヴァルター・フォン・グランツ「な、なんだこのあり得ない数値は……!? ぐああぁぁぁっ!」
爆発した高純度エリクサーの青い波濤が、逃げ惑うヴァルター・フォン・グランツの巨躯を完全に呑み込む。
彼の肉体は青い燐光とともに瞬く間に細胞レベルで溶け崩れ、支配のタワーが豪快に音を立てて崩落していく。
カイ・ヴァレンシュタインは崩れ落ちる瓦礫の雨の中、震える腕でボロボロになったエリシアを抱き上げた。
第四章: 終末の楽園で続ける生産
巨大な地下プラントが完全に崩壊し、搾取されていた人々が地上へと溢れ出してから数週間が過ぎた。
レナ・スカーレットたちは地上で新しい都市の建設に追われていたが、二人の姿はそこにない。
青い光を放つ不思議な花畑が果てしなく広がる、旧地上の静かな廃墟。
金色の豊かな夕暮れが、崩れたコンクリートの壁を優しく、どこか寂しげに照らし出している。
持ち出した移動式抽出装置の横で、カイ・ヴァレンシュタインは静かに、しかし手際よく作業を進めていた。
半透明の衣装から滑らかな肌を露わにしたエリシアが、カイ・ヴァレンシュタインの膝の上に甘えるように身を委ねている。
カイ・ヴァレンシュタインの冷たい指先が、彼女のうなじに残る生体コネクターの周りを愛おしそうに優しく撫でた。
エリシア「ねえ、カイ・ヴァレンシュタイン様……世界は終わっていなかったけれど……私たちの本当の終末は、ここから始まるのね」
カイ・ヴァレンシュタイン「そうだ、エリシア。もう誰も俺たちの生産を邪魔できない。俺たちだけの世界だ」
カイ・ヴァレンシュタインは手慣れた手つきで細い生体針を、彼女の内ももの敏感な端子へとじっくり刺し込んだ。
微かな痛みの刺激にエリシアの背筋が弧を描いて跳ね、緋色の瞳がとろりと甘く蕩け落ちていく。
エリシア「ん……っ……あぁ……カイ・ヴァレンシュタイン様の指の冷たさ、すごく……体の中に響いて……気持ちいい……」
抽出バルブを静かに開くと、ガラスフラスコへと美しい青い光がドクドクと音を立てて注ぎ込まれていく。
二人の肉体はもはや、この定期的な激痛の接合と生命の抽出なしには一刻の時間を刻むことすらできなくなっていた。
世界がどれほど広く美しく変わろうと、二人を繋ぎ止めるのは肉体に刻まれたこの生体コードだけだ。
カイ・ヴァレンシュタイン「世界がどうなろうと知ったことではない。俺たちの狂った愛の生産は、命が尽きるまで永遠に終わらない……」
♥ドク、ドクと脈打つ二つの心音[/Heart]が、夕暮れの静寂の中に重なり合って溶けていく。
フラスコを満たしていく青い燐光は、互いを求め合う二人の重なる影を、世界の果てまで長く伸ばし続けていた。