第一章: 首輪の血盟
クロウ・ヴァレンタイン「――おい、魔女。今すぐその首を掻き切って死ね」
錆びた刃と砕けた頭蓋が散乱する円形処刑場。鉄の錆と乾いた血脂の臭気が鼻腔の奥にへばりつく。クロウ・ヴァレンタインは、底なしのヘドロと化した血溜まりから、軋む四肢を強引に引き剥がした。
乱れ散る漆黒の髪から、滴る汚濁の飛沫。喉の奥にこびりついた砂利を吐き捨てる暇もなく、灰色の三白眼に濃縮された殺意が、眼下の銀髪を捉える。
クロウ・ヴァレンタイン「お前が生きて息をしているだけで、俺の皮膚が腐り落ちそうだ」
乾いた喉から絞り出す声は低く、肉を裂くやすりのように荒れている。這いつくばる女の細い喉笛へ、骨ばった右手が迷いなく伸びた。頚動脈を押し潰す強烈な万力。
リリス・カーミラ「くっ……あ、ぁ……っ」
陶器のように青白い皮膚の下で、早鐘を打つ脈動。爪が女の喉元へ食い込み、微かな皮膚の破れ目から血が滲む。
死ね。我が同胞を灰に変えた呪われし血統。ここで、俺のこの指で、ただの肉塊に引き潰してやる。
憎悪に任せて指を締め上げた刹那、閃光のような鋭利な灼熱が、クロウ自身の気管を内側から焼き裂いた。
クロウ・ヴァレンタイン「が、ぁあっ!?」
ドサリ。
窒息と吐血の衝撃で視界が激しく歪む。巻き付けられた銀鎖ごと左腕が脱力し、クロウの口角からどす黒い鮮血の塊が泥水へ撒き散らされた。
リリス・カーミラ「あら、元気な挨拶ね聖騎士様? 鏡を見なさいな」
鎖骨に散った血飛沫をぬぐいもせず、リリス・カーミラが身を起こす。蒼白の肌に浮かび上がる深紅の呪紋が妖しく脈打ち、割れた唇から零れる笑みが昏い影を落とす。裂けたゴシック調の黒真珠ドレスの隙間、露わになった胸元から放たれる熱狂的な心拍が、見えない神経線を通じてクロウの胸壁へと直に叩きつけられていた。
リリス・カーミラ「あなたの心臓には、私の血の楔が食い込んでいるのよ?」
冷酷な嘲笑の奥で、わずかに強張る指先。彼女の瞳には憎悪だけでなく、肌を触れられたことへの生理的な悪寒が滲んでいた。二人の首を拘束するのは、鈍く濡れた光を放つ無骨な鉄の首輪。
頸動脈の鼓動を機械的に同期させ、互いの肉体を不可視の劇毒で縫合したかのような、悍ましい結合感。吐き気すら覚える強制の生。
ゲオルグ・マリオネット「お目覚めですね、愛憎深き番いの皆さん!」
天井の闇を切り裂く、狂乱を孕んだ甲高い哄笑。頭上で揺れる巨大な振り子刃の先端、そのギロチンナイフの上に、顔の右半分を白磁の仮面で覆った道化が軽やかに爪先立ちしていた。
クロウ・ヴァレンタイン「……てめえ。誰の許可を得て、俺の首にこんな真似をした」
クロウは膝をつき、口元の血を指背で拭いながら、天井の道化を睨み上げた。瞳の奥底で、煮え滾る復讐の焔が燃え盛る。
ゲオルグ・マリオネット「ルールは極めてシンプル! 互いの肉体を三メートル以上離せば、首輪の内蔵炸薬が瞬時に起爆して両者仲良く挽き肉でございます!」
ゲオルグの背中に突き刺さった真鍮のゼンマイが、キリキリと金属を削るような耳障りな音を立てて逆回転を始める。
ゲオルグ・マリオネット「さらに制限時間十分! この広間に雪崩れ込む百体の死体人形を全滅させねば、天井から強酸の豪雨が降り注ぎ、骨の髄まで溶け落ちる! さあ、美しき憎悪をミンチにして、この舞台へ極上の供物を紡ぎ上げましょう!」
ガシャン、ガシャァン!
壁面を覆う四十二箇所の鉄格子が一斉に跳ね上がり、鎖の擦れる甲高い金属音が反響した。腐肉と機械油が混ざり合った腐敗臭を放ち、継ぎ接ぎだらけの人形どもが暗がりから濁流となって雪崩れ込んでくる。
クロウ・ヴァレンタイン「ふざけるな道化野郎! 貴様のくだらない道楽に付き合わされてたまるか!」
リリス・カーミラ「ふふ、面白いじゃない……クロウ。私を殺したいなら、まずその汚らしい手で私を抱きしめなさい。離れたら二人仲良くお肉の塊よ?」
クロウ・ヴァレンタイン「黙れ魔女……お前を殺すのは俺の権利だ。こんな三文芝居の装置に貴様を奪われてたまるか!」
頬の火傷痕を醜く歪め、クロウは破れかけた漆黒の聖騎士外套を払う。強烈な嫌悪と吐瀉感を力づくで胃の底へ押し込み、背後からリリスの細い腰を強引に引き寄せた。
リリス・カーミラ「っ……! 気安く触れるな……その脂ぎった指先をどけなさい……背筋が泡立つほど殺したくなるわ!」
クロウ・ヴァレンタイン「動くな、足を踏んだらその首をへし折る」
背中合わせの密着。伝わる体温はひどく冷たく、だが互いの背骨を突き破るかのような激しい心音が、嫌というほど生を主張してくる。クロウの左腕から放たれた銀鎖が、空気を裂く鋭い唸りを上げて先頭の人形の頭蓋を粉砕した。
リリス・カーミラ「私の血は高くつくわよ、聖騎士様!」
リリスは躊躇なく自身の白く細い手首に鋭利な爪を突き立てた。吹き上がる血液が彼女の魔力によって瞬時に結晶化し、真紅に輝く長槍へと姿を変える。《ブラッド・クリスタライズ》。閃光。深紅の軌跡が宙を薙ぎ、殺到する人形どもの胴体を次々と両断、串刺しにしていく。
クロウ・ヴァレンタイン「ははっ、いい切れ味だ! もっと血を流せ魔女! てめえの血の匂いでおかしくなりそうだ!」
死体人形の木片と肉塊が乱れ飛び、真っ黒な飛沫が二人の横顔を濡らす。互いの肩が擦れ合うたび、激痛に似た戦慄が走る。だが、その嫌悪の深さこそが、狂気的な共闘の精度を限界まで跳ね上げていた。
ゲオルグ・マリオネット「素晴らしい! その憎悪のステップ! 互いを呪いながら手を取り合う姿、まさに至高の悲喜劇!」
クロウ・ヴァレンタイン「喚くな、次にてめえの喉を切り裂く!」
最後の大型人形の眉間にクロウの銀鎖が突き刺さり、核を砕いた。四散する木片と肉片。
その瞬間だった。ブシュッ!
鈍い肉裂き音とともに、リリスの胸郭が跳ね上がった。
リリス・カーミラ「あ、ぐ……っ!?」
人形の吹き飛んだ前腕に仕込まれていた、紫黒の毒刃。それがリリスの背中、肩甲骨のすぐ下へ深々と突き刺さっていた。
クロウ・ヴァレンタイン「が、あああああっ!」
連結された首輪が眩い赤に明滅し、クロウの脊髄へ高圧電流めいた灼熱と麻痺が直接流し込まれる。内臓を握りつぶされるような劇痛。二人の身体はもつれ合い、黒い血の泥濘へと崩れ落ちた。
第二章: 毒血の接吻

幾重にも重なる歯車とピストンが、重苦しい唸りを響かせる機械仕掛けの閉鎖水路。パイプの継ぎ目から漏れ出る過熱蒸気が、狭隘な空間を白く澱ませ、肌にまとわりつく湿度が息を詰まらせる。
クロウ・ヴァレンタイン「おい……起きろリリス! 意識を手放すな、首輪が停止と判定したら俺ごと吹き飛ぶぞ!」
冷たい鉄の壁に背中を預け、クロウは肩で息を刻みながら、腕の中で痙攣する女の頬を叩いた。人形の刃に塗られていたのは、神経を瞬時に侵食する壊死性の猛毒。共有リンクを通じてクロウ自身の視界の端も黒ずみ、四肢の感覚が急速に薄れていく。
リリス・カーミラ「っ……触るなと、言ったでしょう……この、汚らわしい手が……肌を、這うな……っ!」
接触に対する拒絶の痙攣。リリスの唇は紫色に変色し、紅玉の瞳は焦点を失いかけていた。それでも彼女は、剥き出しの太ももに刻まれた血の呪印を蠢かせ、クロウの胸板を押し返そうと弱々しく抵抗する。
クロウ・ヴァレンタイン「黙ってろ。このままだと二人とも心不全でミンチだ。毒を吸い出す」
リリス・カーミラ「なっ……狂ったの……!? 私の血は純度百パーセントの呪詛の器よ! 生身の人間が直接飲み下せば、食道から胃袋まで溶け落ちるわ!」
クロウ・ヴァレンタイン「あの夜から、俺の内臓はずっと復讐の火で焼け爛れてるんだよ。今さら毒水の一杯や二杯、上等だ!」
情け容赦のない指先が、リリスの黒真珠ドレスの胸元を乱暴に引き裂いた。露わになる、青白く滑らかな鎖骨と、毒によって黒ずみ始めた刺し傷。
クロウは迷いを切り捨て、その毒血の傷口へと乱暴に唇を押し当てた。
ドクン、ドクン、ドクン……!
リリス・カーミラ「やめ……離れなさいクロウ! 穢れる……あなたの熱が、泥のような息が私の中に満ちていく……狂いそうよ!」
恐怖と拒絶の狂乱に駆られたリリスの爪が、クロウの背中に深々と突き立つ。肉を抉る痛みにクロウの喉が微かに鳴るが、口唇は傷口から離れない。むしろさらに強く、血を絞り出すように皮膚を吸い上げた。
クロウ・ヴァレンタイン「噛め、もっと肉を抉れ! 貴様が殺意を込めて爪を立てなきゃ、俺の神経が毒の麻痺に負ける……ッ、ぐ、うああっ!」
傷口から吸い上げられる毒血は、舌を焼き焦がす硝酸のように熱く、苦い。だがその奥底には、クロウの五感を暴力的に覚醒させる、甘美で濃密な魔性の香気が潜んでいた。クロウの背筋を震わせる悪寒と熱狂。
リリスの背中がしなり、細い首筋が天井に向けて弓なりに反り返る。拒絶の爪立ては、いつしか彼の背中を力なく掻き抱くような、熱っぽい密着へと変貌していた。
リリス・カーミラ「あ……っ、ん、あ……っ! だめ……何が、入ってくるの……私の血が、あなたの口で……っ!」
♥互いの心臓が、首輪の同期を超えて、皮膚の接触そのものから同じ狂乱のリズムを刻み始める。[/Heart]
吸い出された血液が混じり合い、クロウの粘膜から魔女の記憶の残滓が奔流となって雪崩れ込んできた。閃光のような過去の残影。
……なんだ、この記憶は。
炎上するヴァレンタインの館。幼きクロウが見上げた紅蓮の業火。その火の粉の向こう側で、胸に操り糸の針を打ち込まれ、ゲオルグの嘲笑に晒されながら、人質に取られた妹の名を呼んで泣き叫んでいたのは――他ならぬ、この魔女だった。
クロウ・ヴァレンタイン「……てめえ。あいつらの共犯じゃ、なかったのか」
黒い血を吐き捨て、クロウは肩で荒い呼吸を繰り返しながらリリスを見据えた。唇を朱に染めた魔女は、虚脱した瞳で彼を見つめ返し、自虐に満ちた笑みを口元に刻む。
リリス・カーミラ「……哀れね、聖騎士様……言い訳なんてしないわ。私の血が、あなたの家族を灰にした事実に変わりはないのよ……同情なんてしたら……ここで喉笛を噛み千切るわよ」
クロウ・ヴァレンタイン「……同情なんざ犬にでも食わせろ。ただ、首輪を嵌めて高笑いしてる黒幕の首を、どっちが先に叩き折るか……その順番を決めたくなっただけだ」
手の甲で唇の毒血を力任せに拭い、クロウは立ち上がった。その瞬間、足元の鉄板がけたたましい破断音を響かせ、一気に歪む。
ガアアアアッ!
足場が崩れ去る。奈落の底へ真っ逆さまに落下していく視界の先に、無数の断罪刃が蠢く巨大な闘技場と、鋼鉄の糸を指先に絡めた人形師の歪んだ笑みが待っていた。
第三章: 共犯者の舞踏

虚無の底に浮かぶのは、天秤の皿を模した円形の鉄舞台。四隅には犠牲者の血を吸い上げる巨大な真鍮の注射器がそびえ立ち、不気味な脈動を繰り返している。
ゲオルグ・マリオネット「ブラボー! 素晴らしい毒の吸い出し、実に美しい愛憎の絡み合いでございました! しかしこの天秤は冷酷! どちらか一人の命の質量を捧げねば、出口の扉は永久に開きません!」
ゲオルグの両腕が狂ったように蠢き、十本の指から鋼鉄のワイヤーが闇の底へと伸びる。引きずり出されたのは、胸部に巨大な回転鋸を埋め込まれた全高五メートルの巨大人形――『断罪の聖母』。
リリス・カーミラ「クロウ、私を踏み台にしなさい!」
クロウ・ヴァレンタイン「指図するな! その血を全部、俺の鎖に寄越せ! 極上の刃にしてやる!」
クロウが左腕の銀鎖を解き放つ。同時に、リリスは両手の掌を切り裂き、溢れ出す高純度の鮮血を鎖へ注ぎ込んだ。《血鎖の断罪》。
銀の鎖が魔女の呪毒血を吸い上げ、灼熱の赤光を帯びた巨大な血の断罪剣へと膨張する。
リリス・カーミラ「行きなさい、私の処刑人様!」
リリスが血の推進力でクロウの背中を押し出し、クロウは彼女の腰を腕の中に抱き込んだまま、天秤の縁を蹴った。虚空を切り裂く真紅の魔剣。断罪の聖母が繰り出した巨大な回転鋸を、真っ向から叩き折る。
ガキンッ、メキョオォッ!
火花が夜を灼く。鋼鉄が拉げ、歯車が爆散する。二人の呼吸は完全に同期し、首輪の激痛はもはや加速の力へと変換されていた。
ゲオルグ・マリオネット「な、なぜだ!? なぜ殺し合わない! 貴様は一族を皆殺しにされた復讐者、貴女は人間を呪い尽くす魔女のはずだ! 脚本が狂っている!」
クロウ・ヴァレンタイン「黙れ三流演出家! こいつの命を奪うのは俺の手だ! 貴様の下らない脚本の道具にされてたまるか!」
リリス・カーミラ「その通りよ、哀れな人形遣い! 私の喉を切り裂く資格は、この男にしかない! あなたごとき下劣な狂人に、私たちの憎悪を汚させはしない!」
リリスは躊躇うことなく、自らの胸元、心臓の直上へ深く指を突き立てた。全身の魔力を注ぎ込み、解き放たれる最大級の真紅の茨。《ブラッド・プリズン》。
舞台全域を覆い尽くす血の荊棘が、ゲオルグの操り糸を瞬時に絡め取り、逃げ場を完全に圧殺する。
リリス・カーミラ「クロウ、今よ! 私の血ごと、奴の息の根を止めなさい!」
クロウ・ヴァレンタイン「言われなくても……最初からそのつもりだァッ!」
全筋肉の血管が沸騰する。クロウは自らを砲弾と化し、血の茨を突き破ってゲオルグの懐へと肉迫した。
ゲオルグ・マリオネット「ひ、ひぃぃっ!? やめろ、そんな距離でぶつかれば貴様らも首輪の爆縮に――」
クロウ・ヴァレンタイン「地獄へ行くなら貴様が先だ!」
クロウは、自分とリリスを繋ぎ止めていた呪いの首輪の鎖を、ゲオルグの細い首へ幾重にも巻き付けた。
ゲオルグ・マリオネット「ギャアアアアッ!?」
ゴバァッ!
全身の膂力を込めた絞首。白磁の仮面が砕け散り、ゲオルグの頸椎が致命的な破壊音を立ててへし折れる。過負荷に達した首輪の起爆装置が閃光を放ち、天秤の皿ごと舞台を粉砕する大爆発が、三人の影を灼熱の業火の中へ呑み込んだ。
第四章: 奈落の誓い
白煙と焦土が広がる、崩壊した宮殿の外縁部。冷たい朝焼けの光が、灰色の粉塵を淡く照らし出していた。断崖絶壁に積み上がった瓦礫の隙間から、クロウは重い瓦礫を跳ね除けて身を起こした。
肋骨が軋み、喉の奥から鉄の味が込み上げる。
クロウ・ヴァレンタイン「……はは、生きてやがる。しぶとい化け物め」
数歩先で、煤まみれの銀髪を揺らしながら、リリスが荒い息を吐き出していた。裂けたドレスから覗く素肌には無数の擦過傷。しかし、その紅玉の瞳には鮮烈な生気が宿っている。
リリス・カーミラ「……ふん、あなたこそ。私の呪毒をあんなに胃袋へ流し込んで、まだ立っていられるなんて、人間をやめているわ」
ゲオルグの絶命によって、内蔵された爆縮トラップは沈黙していた。だが、首輪そのものは外れていない。頑丈な銀の枷が、二人の首に残されたまま。
中央で引きちぎられた鎖が、二人の足元でジャラリと冷たい音を立てた。物理的な距離の制約は、すでに消滅している。逃げようと思えば、今すぐにでも背を向けて立ち去ることができた。
クロウは立ち上がり、血と煤にまみれた右手を、無言のまま彼女の前に差し出した。
……どうする、魔女。ここで背を向けるか。それとも。
リリスは差し伸べられた無骨な手のひらをじっと見つめた。朝露に濡れる睫毛が微かに震える。かつて他者の接触を何よりも嫌悪し、狂乱の叫びを上げていた女が――躊躇いなく、己の血に汚れた手をその上に重ねた。
拒絶の戦慄は、もうどこにもない。互いの皮膚を通して伝わるのは、生き延びた者同士の確かな脈動。
クロウ・ヴァレンタイン「首輪の爆破機能は消えた。三メートル以上離れてもミンチにはならねえぞ。消えるなら今のうちだ」
リリス・カーミラ「消える? ふふ……笑わせないで、聖騎士様。私たちをこの悪趣味な劇場に放り込んだ帝国の元老院……あいつらの首をすべて台座に並べるまで、あなたが私の視界から消えることなんて許さないわ」
クロウ・ヴァレンタイン「……奇遇だな。俺も、あいつらの喉笛を噛み千切るまで死んでやる気はない」
クロウは握り合った手に力を込め、リリスの身体を間近へと引き寄せた。至近距離で交錯する視線。憎悪と殺意の裏側に、決して他者には踏み込ませない共犯者としての狂熱が宿っている。
リリス・カーミラ「約束なさい、クロウ。あいつらを一人残らず屠り尽くしたその瞬間――私の手で、あなたの心臓を抉り出させてくれると」
クロウ・ヴァレンタイン「ああ、約束してやる。その代わり、最後の一瞬まで俺の隣で血を流し続けろ、リリス」
リリス・カーミラ「ええ、喜んで。私の、愛しい処刑人様」
朝日が二人の影を長く荒野へと伸ばす。傷だらけの躰を支え合うようにして、二人は立ち込める白煙の向こう側、復讐の道へと歩み出した。
ドクン……ドクン……
首に残された銀の枷。物理的な鎖は断ち切られたはずなのに、互いの皮膚の下で、ひとつの心臓のように重なり合う鼓動が鳴り響いている。
その呪いが、二度と解けることのない魂の結合であることに、彼らはまだ気づいていなかった。