第一章: 内臓ぶちまけスパチャ感謝祭
神代 レオ(かみしろ れお)「あーっ! 視聴者アンケートの結果、『右腕からミキサーみたいに砕かれる』が九十二パーセントで可決されましたー! スパチャ、あざっす!」
赤黒い血の雨が降り注ぐ骸骨の回廊で、錆びついた巨大な回転刃が暴風のような唸りを上げる。
無造作に伸びた黒髪の下、どす黒いクマを刻んだ三白眼の青年――神代レオは、血と泥で重くなった黒の戦術外套を翻し、迷いなく高速回転する刃へと己の右腕を突き出した。
ゴギャッ、バキィッ! と乾いた骨が砕け散る鈍い音。
肉が引き千切れる生々しい振動が肩口まで突き抜け、飛び散った肉片と生温かい血飛沫が、レオの貼り付けたような笑顔をべっとりと赤く染め上げる。
奥歯が砕けるほど噛み締め、逆流してくる胃液を強引に飲み下したその目の前に、ゴシックロリータ調の黒ドレスを纏い、デジタルな天使の輪と悪魔の角を頭に浮かべた美少女――リリスが、無数の空中モニターの群れからマイクを突き出した。
プロデューサー・リリス「きゃは♥ 今の悲鳴で同接五千万人突破! でもレオくん、支持率が十二パーセントまで落ちてるよ? 十パーセント切ったら、チョーカーからの魔力供給止めて餓死させるからね!」
神代 レオ(かみしろ れお)「マジっすかリリスちゃん! 地下シェルターのお兄さんお姉さん、今の骨折音、いい音出てたっしょ!? 腱がブチブチッて千切れるリアルなASMR、高評価よろしくお願いしまーす!」
レオは精神遮断スキルで激痛を無理やり捻じ伏せ、皮一枚でぶら下がった右腕を揺らしながら、震える左手でカメラにピースサインを向ける。
荒い息を吐くたび、肺の奥がヒューヒューと情けない音を立てた。
周囲の空間を、無数のホログラムコメントが猛烈な速度で流れ落ちていく。
『草』『もっと泣けよ底辺』『右腕だけで許すなw』『ガチャ爆死しろゴミ』『演技くせえんだよ死ね』
プロデューサー・リリス「あーあ、みんな飽きちゃったみたい。はい、処刑ギミック追加ね♥」
リリスが退屈そうに欠伸を噛み殺し、小指を軽く跳ね上げる。
直後、天井の暗闇から落ちてきた巨大な鉄球が空気を押し潰し、レオの頭蓋骨を腐った豆腐のように踏み潰した。
激痛すら認識できない一瞬の衝撃。視界が暗転し、生温かい脳漿が石畳に撒き散らされる感触と共に、世界の時間が暴力的に逆流する。
冷たい石畳の感触と、むせ返るような鉄錆の匂いが鼻腔を突いた。
神代 レオ(かみしろ れお)「……はぁ、はぁ、っく……。四百八回目の死に戻り、完了っと」
セーブポイントである回廊の入り口で、レオは五体満足に戻った右腕の皮膚を爪が食い込むほど強く握りしめ、氷のように冷え切った三白眼で虚空を睨みつける。
呼吸は浅く、幻痛に苛まれる頭蓋骨の奥がズキズキと脈打っていた。
……くだらねえ。安全な場所で指先一つで人を殺して笑ってる豚どもめ。全員、今すぐくたばれ。
そのどす黒い殺意を吐き出す暇もなく、空間に不気味な赤い『ON AIR』の文字が灯り、リリスがマイクをレオの顔面ギリギリに押し付けた。
プロデューサー・リリス「はい本番スタート! 死に戻り直後の新鮮な絶望顔、テンション上げていくよー!」
神代 レオ(かみしろ れお)「はいどうもー! みんな大好き、不死身の実験動物レオっちでーす! 今のグチャグチャな死にざまに『いいね』くれた十万人の神リスナー様、愛してるぜ! さっそく溜まったポイントを、次のチート引き継ぎガチャに回しまーす!」
レオは瞬時に顔の筋肉を総動員して卑屈なピエロの笑顔を貼り付け、上擦る声を張り上げながら空中のガチャ筐体パネルを力任せに叩いた。
鼓膜を劈くド派手なファンファーレと共に、泥まみれの地面にゴロンと転がり出たのは、赤錆の浮いた一本の『鉄パイプ』と、不気味に蠢く黒い呪いの札。
【排出結果】ノーマル:錆びた鉄パイプ / デバフ:痛覚二倍
神代 レオ(かみしろ れお)「うわあ、大爆死だぁ! 誰だよ俺にアンチ票入れた奴! 痛覚二倍とか、俺を殺す気満々じゃないっすか! もう涙出そうっすよぉ!」
頭を抱えてオーバーに膝をつくレオの背後で、リリスが口元を手で覆い、肩を揺らしてクスクスと笑う。
プロデューサー・リリス「あはは! 確率操作……じゃなくて、レオくんの日頃の行いだよねぇ♥ ねえねえ、そのゴミ武器と倍増した痛覚で、どうやってトラップ抜けるの?」
神代 レオ(かみしろ れお)「大丈夫っすよ! この愛の詰まった鉄パイプで、魔王城の隠し部屋、こじ開けてみせますよ!」
道化の仮面の下で冷たい汗を拭い、レオは泥水にまみれた鉄パイプを拾い上げると、回廊の脇にある一見何の変哲もないひび割れた壁へと一直線に駆け出した。
四百回以上死んで、お前らの悪意まみれのコメント欄のスクロールラグから、トラップの稼働周期も、このハリボテの城の構造も、真の聖剣の座標も全部割り出したんだよ。
鉄パイプの先端を壁のわずかな隙間にねじ込み、痛覚二倍のデバフで爪が剥がれ、血が滲むのも構わず、渾身の力で強引にこじ開ける。
バキィッ! と安っぽい石膏ボードのような音を立てて壁が崩れ落ちた。
舞い上がる埃の奥に現れた重厚な扉を蹴り破ると、そこには身の丈二メートルを超える漆黒の鎧の巨漢――魔王ヴァルゴが立ちはだかっていた。
深紅の瞳をぎらつかせ、ヴァルゴが禍々しいオーラを放つ巨大な魔剣を振り上げる。
死の気配。だがその直後、ヴァルゴは装甲の襟元から覗く黒いピンマイクのスイッチをパチリと指で切り、眉間に深い皺を寄せて低く呟いた。
魔王・ヴァルゴ「……って、おいリリス! なんでこいつ台本無視して、最終回用のセットに勝手に入ってきてんだよ!」
第二章: 魔王城のカンペとヤラセの聖剣

神代 レオ(かみしろ れお)「えっ……台本?」
間の抜けた声が漏れ、鉄パイプを振り上げたまま硬直するレオの横で、リリスが「チッ」とアイドルらしからぬ露骨な舌打ちを鳴らし、空中で点滅していた配信モニターをすべて強制シャットダウンした。
プロデューサー・リリス「あーあ、せっかくいいところだったのにバレちゃった。ちょっとレオくん、そこ関係者以外立入禁止! まだシーズン4の制作費すら回収できてないのに、どう責任取ってくれるのよ!」
魔王・ヴァルゴ「勘弁してくれよマジで……。俺、今日こそ定時で上がって、魔界の総合病院に胃カメラ飲みに行かなきゃいけねえんだぞ」
ヴァルゴは恐ろしげな角の生えた兜をスポッと無造作に脱ぎ捨てた。中から現れたのは、生え際の後退し始めたくたびれた三十代後半の男だった。
男は鎧の懐から白い粉薬の包みをゴソゴソと取り出すと、慣れた手つきで口に放り込み、唾液だけで強引に流し込む。
そのままハリボテのように軽い魔剣を壁に立てかけ、呆然とするレオに向かって気だるげに手を振った。
魔王・ヴァルゴ「おい新人、今カメラ止まってるから、そのイタい道化キャラ作らなくていいぞ。見ているこっちが胃もたれする。言っとくが、俺だって好きで人類の九十九パーセントを滅ぼしたわけじゃねえよ。神々の『終末リアリティショー』の企画書通りに動いただけだ」
神代 レオ(かみしろ れお)「企画書……? な、なんだよそれ。じゃあ、地下シェルターで毎日震えながら地上奪還を祈ってる数億人の人間は……」
魔王・ヴァルゴ「はっ、あいつらが地上奪還なんか望んでるわけねえだろ。外に出たら自分で畑耕して働かなきゃいけねえんだぞ? お前がトラップで惨めに引き裂かれて死んでループするのを、安全な空調付きの部屋でポテチ食いながら指差して笑うのが、あいつらの唯一の娯楽なんだよ」
ヴァルゴの冷めきった言葉が、レオの鼓膜から脳髄へと鉛のように沈み込んでいく。
視線が自然と、ヴァルゴの背後にある厳かな祭壇へと吸い寄せられた。
台座に深々と突き刺さっている『真の聖剣』――人類の希望と謳われたその神聖な刀身には、無数の太い光ファイバーと黒ずんだ冷却チューブが蛇のように絡みつき、ブォォォンとデータセンターのような無機質な排気音を立てている。
【MAIN SERVER:GLOBAL STREAMING & LOOP CONTROL SYSTEM】
チカチカと明滅する緑色のアクセスランプ。聖剣の正体は、神々が構築した全球配信ネットワークと、レオの魂を縛り付ける死に戻り制御のメインサーバー中枢そのものだった。
サーッと指先から血の気が引き、全身の皮膚が粟立つ。握りしめていた鉄パイプが、カラン、とひどく乾いた音を立てて石畳に転がった。
神代 レオ(かみしろ れお)「……じゃあ、俺が人類の希望を信じて、四百八回も内臓を引きずり出されて、骨を砕かれて、糞尿にまみれて死んだのは……全部、あいつらの暇つぶしのための、ただのコントだったってのかよ」
プロデューサー・リリス「そうだよ♥ スラム出身の親なしゴミ人間が、神様の番組の主役になれたんだから、むしろ感謝してよねぇ。ほら、事情が分かったならいい子にして、もう一回カメラの前でヴァルゴに美味しく殺されて?」
魔王・ヴァルゴ「頼むわレオ。上から『もっと派手に内臓ぶちまけて視聴率稼げ』ってうるさくカンペ出ててよ、俺の胃がもう限界なんだわ。な? 痛くしないように一発で首落とすからさ」
プロデューサー・リリス「ちょっと、黙ってないで返事は!? 逆らったら、今すぐバックヤードから視聴率操作して、あんたを本当に餓死させるわよ!」
リリスが苛立たしげに眉を吊り上げ、小さく指を鳴らす。
直後、レオの首元に嵌められた発光チョーカーが毒々しい赤色に点滅し、油圧万力のような容赦ない力で喉笛に食い込んだ。
急速に体内の魔力と水分、そして生命力そのものが強制的に吸い上げられていく。唇が瞬く間に干からびてひび割れ、内臓が捻じ切れるような激しい飢餓感と窒息がレオの全身を襲った。
神代 レオ(かみしろ れお)「ぐ、あ……っ、はぁ、かっ……!」
ガクリと膝をつき、胃の奥からせり上がったどす黒い血の塊を石畳に吐き出す。視界の端がチカチカと明滅し、冷たい脂汗が滝のように流れ落ちた。
リリスが心底愉快そうに嘲笑いながら、苦悶に歪むレオの顔を覗き込もうとふわりと高度を下げた、まさにその瞬間。
レオの血走った三白眼から、これまで貼り付けていたピエロの光が完全に消え失せた。
そこにあるのは、底なしの暗い穴。四百八回の死で煮詰められた、純度百パーセントの殺意。
バシィッ! と鈍い音が響き、血塗れの左手が目にも留まらぬ速さで閃いた。
油断しきっていたリリスの細い手首を万力のように掴み、彼女が握っていた配信管理マイクを力任せに捻り上げて奪い取る。
プロデューサー・リリス「いたっ!? えっ……ちょ、あんた何すんの!? 離しなさいよ下等生物!」
レオは肉に食い込むチョーカーをミシミシと軋ませ、首筋から血を流しながらゆっくりと立ち上がると、奪ったマイクの『全球強制配信スイッチ』を、血に濡れた親指で深く押し込んだ。
第三章: 全人類アンチ化計画と大炎上ガチャ

バチィッ! と青い火花を散らして空間が弾け、静まり返っていた部屋中に、無数のホログラムモニターが強制的に再展開された。
神代 レオ(かみしろ れお)「……あー、テステス。聞こえてるか、地下シェルターでぬくぬくと肥え太ってる豚ども」
道化の裏声を捨てた、低く、地を這うような冷酷な声が、マイクを通じて数億人の視聴者の網膜と鼓膜へと直接叩きつけられる。
プロデューサー・リリス「ちょっとレオ、何勝手に配信再開してんの!? そこバックヤードよ! ヴァルゴ、ボサッとしてないで早くそいつを斬りなさいよ!」
魔王・ヴァルゴ「お、おい待て! 台本にねえぞこんなアドリブ! ちょっ、俺今兜脱いでんだけど! カメラどこ向いてんだこれ!?」
ハゲかけの頭を慌てて手で隠す魔王と、顔を真っ赤にして怒鳴り散らすプロデューサー。
うろたえる二人を尻目に、レオはひび割れた血まみれの唇を三日月のように吊り上げ、レンズの向こう側で息を呑む数億の瞳を真正面から睨みつけた。
神代 レオ(かみしろ れお)「今まで俺の死にざまに『いいね』やスパチャをくれた優しい神リスナーのお前らに、心からの感謝を込めて最高のお知らせだ! 俺は今から、この後ろにあるハリボテの聖剣――お前らの大好きな配信サーバーを物理的にぶっ壊して、このクソ番組を永久に打ち切る!」
一瞬の静寂の後、コメント欄が爆発的な勢いでスクロールし始めた。
『は?』『何言ってんだこいつ』『セットの裏側見えてんぞw』『早く死ねよピエロ』『放送事故か?』
神代 レオ(かみしろ れお)「聞こえなかったか!? お前らが毎日しゃぶり尽くしてる極上の娯楽を奪い、このサーバーと連動してる神々からの魔力配給も、空調も、食料生産ラインも全部止めてやるって言ったんだよ! 安全な豚小屋でポテチ食ってるゴミども、俺と一緒に全員道連れだ! 地獄でオフ会しようぜ!」
魔王・ヴァルゴ「なっ……おいバカ止めろ! クライアントである視聴者様にそんなこと言ったら、お前の支持率が!」
ヴァルゴの悲鳴が響くより早く、空中のコメント欄が、一瞬でドス黒い赤色――数億人の剥き出しの殺意と大炎上の文字で埋め尽くされた。
『調子乗んなゴミ』『ふざけんな魔力止めんな!』『低評価押したわ』『死ね裏切り者』『通報した』『早く処刑しろ運営!』『餓死しろ底辺!』
画面隅に表示された支持率メーターが、轟音を立てる滝のように急落していく。
十パーセント……三パーセント……一パーセント……そして、ついに完全なる『ゼロ』を叩き出した。
ピピピピッ! とチョーカーが断末魔のような警告音を鳴らし、レオの首の骨を物理的にへし折らんばかりに極限まで収縮する。
気道が完全に塞がり、眼球が毛細血管を浮き上がらせて飛び出しそうになるほどの圧力。だが。
プロデューサー・リリス「あはははは! バカじゃないの!? 自爆してどうすんのよ! 支持率ゼロで魔力供給完全停止! これであんたのチート能力も全部没収よ、もうただの餓死寸前のゴミ人間じゃん! 苦しんで死になさい!」
喉の奥からゴボッ、と赤い血の泡を吹き出しながら、それでもレオは膝をつかなかった。むしろ、その三白眼は狂喜に爛々と輝いていた。
神代 レオ(かみしろ れお)「かはっ……リリス。お前ら神様が作ったこのクソシステムの仕様、俺が教えてやるよ」
プロデューサー・リリス「……は? 何言って……」
神代 レオ(かみしろ れお)「この引き継ぎガチャは、視聴者の『感情の総量』を魔力に変換して回してる。ならよぉ……好意や同情が完全にゼロになった後、さらに数億人の『絶対的な悪意と殺意』が臨界点を突破したら……プログラムの数値がオーバーフローして、一体どうなると思う?」
リリスの顔から、スッと血の気が引いた。
その瞬間、空中の支持率メーターが『-99,999,999%』という異常な数値を叩き出し、鼓膜を破るような激しい電子ノイズと共に画面全体が文字化けを起こした。
バキンッ! と甲高い音を立ててレオの首のチョーカーが火花を散らして砕け散り、目の前のガチャ筐体パネルが、血を塗りたくったような禍々しい真紅に発光する。
【SYSTEM ERROR】感情変換値が定義上限を突破しました。マイナス値を反転処理します。概念武装《全人類の敵(アンチ・ワールド)》を強制排出します。
空間そのものがガラスのようにひび割れ、その漆黒の亀裂からズルリと突き出たのは、周囲の光も音も、システムコードさえも削り取って喰らう、巨大なバグの黒剣だった。
プロデューサー・リリス「な、なにこれ!? エラー!? ちょっと待って、私の管理者権限が完全に弾かれてるんだけどぉ!? 止まれ、止まりなさいよぉ!」
パニックに陥り、空中で見えないコンソールを必死に叩きまくるリリス。
レオは大きく息を吸い込み、肺に新鮮な空気を満たすと、虚空から突き出た漆黒の剣の柄を両手で強く握りしめた。
全身の血管に、数億人分の悪意が変換されたどす黒い魔力が奔流となって駆け巡る。レオはそれを引き抜くと同時に、石畳を砕いてサーバー中枢の台座へと一直線に跳躍した。
第四章: 同接ゼロの明日へ(勘違いのエピローグ)
魔王・ヴァルゴ「やめろぉぉ! バカ野郎、そこをそのバグ剣で斬ったら、番組が終わるだけじゃなく、サーバーに魂を紐づけられたお前自身の存在ログまで、この全宇宙から完全に消去されるぞ!」
ヴァルゴが胃のあたりを強く押さえながら、役者としての演技ではない本気の悲鳴を上げ、リリスが空中で手足をバタバタと転げ回らせながら幼児のようにみっともなく泣き叫ぶ。
プロデューサー・リリス「ごめんなさい! 私が悪かったから止めて! スパチャ百億ポイントあげる! 神界のチート能力も全部あげるから、そこだけは許してぇぇ! クビになっちゃうぅぅ!」
神代 レオ(かみしろ れお)「いらねえよ、そんなゴミ」
跳躍の頂点。時間の流れが極限まで引き伸ばされた空間で、レオは眼下に輝く神々のサーバーと、その向こうで震え上がる数億人の視聴者を見下ろした。
神代 レオ(かみしろ れお)「俺が欲しかったのは、誰の目も気にしない『静かな死』と、お前らのクソ番組の打ち切りだけだ! 四百八回分のスパチャ返しだ、受け取れよ!」
渾身の力で振り下ろされた漆黒の刃が、空間ごと聖剣の形をしたメインサーバーを真っ二つに断ち割った。
硬質なクリスタルが砕け散るような音と共に、無数の光ファイバーが切断され、冷却液が噴水のように吹き上がる。
神代 レオ(かみしろ れお)「これで配信終了だ! 地下の豚ども、明日から自分の足で地上に出て、泥水すすって生き延びろ! チャンネル登録、解除しとけよな!」
直後、世界を塗り潰すような眩い白光が爆発し、砕け散ったサーバーの破片と共に、レオの肉体の輪郭が指先からサラサラと光の粒子となって消去されていく。
痛みはない。あれほど執拗にレオを苦しめていた幻痛も、耳障りな電子音も、すべてが遠ざかっていく。
視界を埋め尽くしていた騒がしいホログラムのコメント欄が、パツン、パツンと糸が切れるように一つ、また一つと消え失せ、最後には完全な無音と静寂が訪れた。
誰にも見られていない。誰からも評価されない。
消えゆく視界の果てで、神代レオは生まれて初めて、引きつっていない、本物の穏やかな笑顔を浮かべて虚無へと溶けた。
――そして、数ヶ月後。
かつておどろおどろしい魔王城のセットが組まれていた瓦礫の跡地に、どこまでも高く、抜けるような本物の青空が広がっていた。
黒く肥えた土の畑で、泥だらけのツナギ作業着を着た大男と、大きな麦わら帽子を被った小柄な少女が、不慣れな手つきで鍬を振るって玉のような汗を流している。
魔王・ヴァルゴ「……おいリリス。ちょっと聞きてえんだが、なんで地下シェルターから這い出てきた人間どもは、俺たちのことを『農業指導のボランティアのおじさんと、その娘』だと思い込んで、隣で一緒に大根抜いてんだ?」
プロデューサー・リリス「し、知らないわよそんなの! あのバカがメインサーバーをバグごと斬り捨てたせいで、人類の記憶から『魔王と妖精プロデューサー』の設定データまで全部綺麗に吹っ飛んだのよ! ああもう、神界への帰還ゲートも完全に壊れたし、こうやって泥にまみれて働かないと、今日の晩ご飯すらないじゃない!」
リリスが泥のついた手で顔の汗を拭い、忌々しそうに地面を蹴飛ばす。
ヴァルゴは腰をトントンと叩きながら立ち上がり、遠くの荒野で、本当に泥水をすすりながら必死にツルハシを振るって開墾作業をする数千万人の人間たちの群れを眺めた。
空調もポテチもない過酷な現実。だが、そこには他人の死を嗤う腐った目は一つもなかった。
魔王・ヴァルゴ「くそっ、一体どこの誰だよ、こんな特大のシステムバグ起こして消えやがった奴は! ……まったく、あのバカのおかげで、毎日手放せなかった胃薬がすっかりいらなくなったじゃねえか」
ヴァルゴが苦笑いを浮かべ、澄み切った青空に向かって大きく伸びをする。
プロデューサー・リリス「ちょっとヴァルゴ、またサボってる! 日が暮れる前にそっちのジャガイモの箱、全部倉庫まで運んでよー! 私もう腕がパンパンなんだから!」
魔王・ヴァルゴ「へいへい、分かったよ元プロデューサー様。今行くっての」
世界中の誰もその名前すら覚えていない、一人の青年の壮絶な犠牲の上で。
今日も地上の眩しい青空の下、元魔王たちの平和でマヌケな怒号と、土を耕す力強い音だけが響き渡っていた。
爽やかな風が吹き抜ける畑の片隅。誰の目にも留まらない虚空に、ほんの一瞬だけ微かなデジタルノイズが走り、小さな白い文字が浮かんで、すぐに青空へと溶けて消えた。
【配信オフライン:同接 0人】