第一章: 主神の心臓と蜜の口づけ
オルフェ「ネメシス、お前の舌で、俺の傷を抉るな……っ!主神を殺す前に、お前の毒でイきそうだ……!」
黒い革鎧の隙間から覗く、赤黒く爛れた火傷の呪印。そこに白銀の長髪がねっとりと絡みつき、冷たい汗と混じり合う。
ドクン、と奥歯が鳴るほど激しい鼓動が、オルフェの首筋を内側から突き上げた。
ネメシス「ふふ、だってオルフェの血、憎しみでドロドロに煮詰まってて……すごく甘いんですもの♥」
血の色の瞳を三日月型に細め、ネメシスはオルフェの首筋に開いた裂傷へと再び唇を押し当てた。ちゅる、と粘膜が擦れる淫靡な音が響き、熱い赤い雫が彼女の喉へと吸い上げられていく。
背骨を駆け上がる悪寒にも似た快楽に、オルフェはブーツの踵で床を強く蹴りつけた。
オルフェ「……もういい。離れろ、ネメシス。この血と泥に塗れたボロボロの外套も、左目の眼帯の下で脈打つ疼きも……すべて、今ここで終わらせる」
オルフェは乱れた呼吸を強引に押し殺し、黄金の血が水たまりのように広がる大理石の床を踏みしめた。鈍い光を放つ神殺しの短剣を逆手に持ち替え、切っ先を前方の玉座へと向ける。
半ば砕け散った白亜の玉座には、白と金の神衣をズタズタに裂かれ、腹部に風穴を開けた巨躯の主神ゼノスが、自らの槍で縫い止められていた。
ゼノス「ひ、ひぃっ……!ち、近づくな、下等な人間ごときが……!」
威厳を失い、黄金の体液を垂れ流しながら後ずさろうとする老神の醜態。
オルフェの隻眼が、氷点下の殺意を湛えて細められた。
オルフェ「貴様の雷で灰になった、アルカディアの怨嗟だ。地獄の底で骨の髄まで味わえ、ゼノス!」
一歩、また一歩と距離を詰め、短剣の鋭い切っ先がゼノスの震える黄金の髭を揺らす。
喉笛を掻き切られる直前、ゼノスは血泡を吹き出しながら眼球を限界まで見開いた。
ゼノス「ま、待て人間!お前の故郷を焼いたのは、私ではないのだ!!」
第二章: 慈愛の仮面が剥がれる時

轟、と紫電の雷鳴が崩壊した大神殿の天蓋を激しく震わせる。
降り注ぐ瓦礫の粉塵の中、オルフェの腕がピタリと止まった。
オルフェ「……嘘をつくな、ゼノス!貴様の雷霆以外に、何が俺の家族を、あの街を一夜で灰にできるというんだ!」
短剣を握る拳に血管が浮き上がり、ギリギリと革手袋が軋む。
ゼノス「嘘ではないわ!私の雷霆の杖を宝物庫から盗み出し、お前の家族を焼き払ったのは……お前の背後にいる、その狂った女だ!!」
息が止まる。
心臓の音が消え、耳の奥でキィンと甲高い耳鳴りだけが反響した。オルフェの隻眼が、錆びついた歯車のようにギikリと音を立てて背後の女神へと向けられる。
……ネメシスが、俺の故郷を?
唇から血の気が引き、指先の感覚が急速に失われていく。
オルフェ「……ネメシス。こいつは何を言っている。嘘だと言え。今すぐ、否定しろ……!」
かすれた声が、ひどく上擦って神殿の冷たい空気に溶けた。
純白のキトンの裾を赤黒く染めたまま、ネメシスはゆっくりと歩み寄る。彼女は血のついた指先を自らの頬に添え、うっとりと陶酔しきった吐息を漏らした。
ネメシス「ええ、私ですわ。ああ、あなたのその世界が崩れ落ちるような絶望の顔、たまらなく素敵ですわ……♥」
オルフェ「な……ぜ、だ……?」
肺から空気が漏れ出すような、ひどく脆い呟き。
ネメシスは小首を傾げ、まるで無邪気な少女が花冠を差し出すかのような慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
ネメシス「だって、温かい家族や帰るべき故郷なんて邪魔なものが残っていたら、オルフェは私だけを見てくれないでしょう?あなたの苦しみも、孤独も、燃え盛る憎悪も、全部、ぜーんぶ私だけのものにしたかったの」
ゼノス「き、聞いておるのか人間!そやつは最初から貴様を飼い慣らすために――ぐぎゃあっ!?」
ゼノスの言葉は、醜い断末魔へと変わった。
目にも留まらぬ速さで踏み込んだネメシスの白魚のような指が、ゼノスの口内へ深く突き刺さり、分厚い舌を根元からブチリと引き抜いたのだ。
黄金の血飛沫が噴き上がる中、彼女は一切の躊躇なく黄金の短剣をゼノスの胸へと突き立て、肋骨を砕いて脈打つ主神の心臓を抉り出した。
ドサリと肉の塊が床に落ちる音。
オルフェ「ネメシス……っ!!」
激情に突き動かされたオルフェの震える刃が、返り血を浴びて微笑むネメシスの華奢な喉元へと突きつけられた。
第三章: 復讐の矛先と究極の共依存

オルフェ「お前を殺す……!俺のすべてを奪い、俺を道化にしたお前を、今ここで八つ裂きにしてやる!!」
荒れ狂う呼吸。殺意で沸騰する視界の端で、ネメシスは恐怖するどころか、歓喜に全身を震わせていた。
ネメシス「ええ、殺して!あなたの憎悪のすべてが、あの老いぼれではなく私にだけ向けられるなんて……ああ、なんて幸せなの……♥」
ネメシスは一歩踏み出し、自らオルフェの構える刃に豊かな胸元をぐっと押し当てた。ぷつり、と白い肌が浅く裂け、黄金の神血が珠となって溢れ出す。
彼女はその熱い血を自らの指先ですくい取り、呆然とするオルフェの荒れた唇へと無理やり塗りたくった。
ネメシス「でもね、オルフェ。今ここで私を殺したら、あなたの生きる意味である復讐は、一瞬で終わってしまうわ。だから……私を生かしたまま、永遠に私を憎んで、犯して、その刃で切り刻み続けて?」
鉄の錆びた臭いと、脳を痺れさせる蜜の甘みが入り混じった黄金の血の味。それがオルフェの口腔を焼き、喉の奥へと滑り落ちていく。
オルフェ「く、そ……っ!誰が、お前の思い通りになど……!」
ガシャン、と短剣を床に叩きつける乾いた音が響く。
次の瞬間、オルフェはネメシスの細い首筋を片手で乱暴に掴み上げ、黄金と赤が混ざり合う血の海へと力任せに押し倒した。
ネメシス「あっ、んぅ……っ♥ 苦しい……もっと、もっと強く絞めて、あなたのどす黒い憎しみを私の中に全部注ぎ込んでぇ……っ♥」
白銀の髪が血だまりに扇のように広がり、互いの荒い吐息と濡れた衣擦れの音が、静まり返った祭壇に淫らに反響する。
酸素を奪われ、瞳に生理的な涙を浮かべながらも、ネメシスの頬は異様な紅潮に染まっていた。彼女は左手に握りしめていた、まだ温かく脈打つ主神の心臓を、馬乗りになるオルフェの口元へと恭しく差し出した。
第四章: 神喰らいの晩餐(反転する世界)
ネメシス「さあ、愛しいオルフェ。ゼノスの心臓を食べて、神の力を手に入れて。そして私と二人きり、永遠にこの世界を統べましょう……」
うっとりと目を細める女神の誘惑。
しかし、オルフェの空いた手が、差し出された主神の心臓を無造作に横へと叩き落とした。
ベチャリ、と湿った音を立てて黄金の心臓が瓦礫の床を転がる。それと全く同時に、オルフェは首を掴む手を緩めることなく、ネメシスの無防備な華奢な肩口へと、獣のように深く牙を突き立てた。
ネメシス「あ……っ、ひゃぅっ!?オ、オルフェ、そこは、私の肉……っ♥」
ブチリ、と柔らかい女神の肉が裂ける生々しい音。そして、溢れ出る熱い神血をごくごくと貪り啜るオルフェの喉の音が、神殿の静寂を鋭く引き裂いた。
オルフェ「お前が言ったんだろう、ネメシス。愛する者のすべてを、独り占めしたいと」
血に濡れた唇を離し、ゆっくりと顔を上げたオルフェ。その口元からは狂気的な笑みがこぼれ、唯一の右目が、人知を超えた神の黄金の輝きを帯びて妖しく細められた。
先ほどまでの絶望も、狼狽も、その瞳には微塵も残っていない。
あの夜、アルカディアに落ちた雷に混じるお前の甘い魔力の匂いに、俺が気づいていなかったとでも?
背筋を駆け上がる未知の悪寒に、ネメシスの笑顔が初めて凍りついた。
ネメシス「あ……あなたの目、まさか、最初からすべて知っていて……?」
オルフェ「高貴で傲慢な女神を、罪悪感と狂愛の鎖で縛り付け、俺の胃袋の中に永遠に閉じ込める。……ゼノスを殺させるまでの道中、お前が俺に尽くしてくれた献身は、最高の下ごしらえだったぞ、ネメシス」
耳元で囁かれる、氷のように冷たく、そして蜜のように甘い支配の宣告。
捕食者と被食者が完全に逆転した瞬間だった。
ネメシス「あ、あぁ……っ♥ 騙されていたのは、手の上で踊らされていたのは、私……?」
恐怖と驚愕が、一瞬にして限界を超えたエクスタシーへと変換され、ネメシスの全身が激しく脈打つ。
オルフェ「逃がさないぞ、ネメシス。殺しもしない。お前の血も、柔らかい肉も、その狂った愛も、俺がこれから何千年もかけて、骨の髄まで生きたまま咀嚼してやる」
再び、白い肩口へと容赦なく食い込む牙の感触。
骨が軋むほどの痛みが走るたび、ネメシスは弓なりに背を反らせ、血の海を掻き乱しながら歓喜の痙攣を繰り返した。
ネメシス「ひゃああっ……♥ 食べられてる、私、オルフェの血と肉に、オルフェのモノになってるぅっ……♥」
神殿に響き渡る女神の甘い嬌声と、肉を喰らう男の荒い息遣い。
主神の骸が転がる玉座の前で、狂気と執着で結ばれた二人の終わらない晩餐が、今、幕を開けた。