第一章: 断罪生中継の開宴
アルフレッド・フォン・グランツ「セシリア・フォン・クロムウェル! 貴様の醜悪な罪を、この全大陸魔道配信にて全世界に晒し上げてくれる!」
大聖堂のステンドグラスを圧迫するように、頭上に無数に浮かぶ青白い水晶板。秒間数万の文字が濁流となって虚空を駆け巡る。冷え切った大理石の床に、刺すような光が降り注いでいた。
《視聴者数:52,400,000人突破》《売女め!》《今すぐ処刑しろ!》《ざまああああ》
白銀の縦ロールを微かに震わせ、セシリアは黒漆の豪奢なドレスの裾を強く握り締める。指先の感覚が麻痺するほどの緊張。胃の腑が雑巾のように絞り上げられる錯覚。だが、真紅の瞳は据わったまま、冷徹極まる嘲笑の形へと唇を歪めた。
(な、な、何千万人が見ていらっしゃいますの……!? 視線で皮膚が焼け焦げそうですわ! け、けれど……これ、わたくしのためだけに用意された全大陸規模の超大型サプライズファン感謝祭なんですのね!? ええ、悪役令嬢として、この熱狂に全力で応えなくては……!)
喉の奥にせり上がる酸の味を飲み下し、完璧な悪女の仮面を張り直す。爪が掌に食い込み、微かな痛みが背筋を伸ばす。
セシリア・フォン・クロムウェル「フッ……わたくしを処刑なさるなら、もっと豪勢な舞台をご用意あそばせ。底の浅い演出では退屈で欠伸が出ますわ!」
傲然と言い放ったその刹那、背後で重厚な純白の甲冑が軋んだ。
漆黒の短髪に冷徹無比な金眼を湛えた男――筆頭聖騎士ルシアン・ヴァルハイト。微動だにせず、鋼鉄の仮面を被った彫像のように佇む彼の右手は、すでに聖剣の柄を異常な握力で軋らせていた。
アルフレッド・フォン・グランツ「どこまでも不遜な女だ! ルシアン、その傲慢な首を今すぐ刎ねろ! 全世界に見せつけてやれ!」
アルフレッドが勝ち誇った笑みを浮かべ、腕を振り下ろした。その瞬間、水晶スクリーンが異様な閃光を放ち、視界のすべてが鮮血のような真紅に染まり上がる。
第二章: 赤スパの豪雨と鉄面皮の正体

ドォォォォン!!
鼓膜を破るほどの魔力炸裂音。天井を突き破らんばかりの真紅の光柱が、大聖堂の屋根を透過してセシリアの頭上へ怒涛の勢いで雪崩れ込んだ。
《名もなき狂犬様より最高額魔道支援金(10,000,000G)が送信されました》《連打中:999+》《天文学的数字突破》
アルフレッド・フォン・グランツ「なっ、なんだこの莫大な光は!? 国家予算三百年分が秒単位で注ぎ込まれているだと……!? システムのバグか!?」
火花を散らす水晶板。処理限界を超えた魔道回線が悲鳴を上げ、堂内が紅蓮の熱波に包まれる。
眩い光の嵐の中、セシリアは目撃した。自らの背後に立つルシアンの姿を。
残像すら残らない神速の指先。甲冑の隙間から覗く魔道端末へ、狂気を宿した超絶連打を叩き込むその指使いを。
《送信ログ強制漏洩:顔が良すぎる……冷たい視線助かる……全財産持って行け……呼吸してるだけで神……!》
視界を埋め尽くす極大フォントの怪文書。
セシリア・フォン・クロムウェル「えっ……あ、あの……ルシアン様……? それ、あなたが……?」
静寂が訪れた。ルシアンの黄金の瞳が、獲物を狙う野獣のようにギラリと狂気の色を放つ。
鞘走る白銀の閃光。
聖剣の切っ先が深々と突きつけられたのは、セシリアではなく――唾を撒き散らして硬直するアルフレッドの喉笛だった。
第三章: 狂犬の告白と断罪返しの演説

ルシアン・ヴァルハイト「我が神を害そうとする薄汚い蛆虫が。その汚れた舌を二度と動かせぬよう、微塵切りにして豚の餌にしてやろう」
解き放たれた聖騎士の殺気が大聖堂の石床を爆砕し、王太子の私設親衛隊が悲鳴を上げる間もなく床へ叩き伏せられる。
背後の全スクリーンが一斉にノイズを走らせ、アルフレッドが隠蔽してきた数千枚に及ぶ汚職帳簿と冤罪工作の動脈記録が、鮮明に全世界へ開示された。
《うわ王太子真っ黒じゃん》《セシリア様完全にハメられてたのかよ》《聖騎士様ヤバすぎて草》《助けて狂犬が止まらない》
手のひらを返した億単位の賛辞が奔流となる中、ルシアンは兜を床へ投げ捨て、セシリアの足元へ音もなく跪いた。
陶器のように滑らかな美貌を異常な熱で紅潮させ、濡れた黄金の瞳で彼女を見上げつめる。
ルシアン・ヴァルハイト「セシリア様。あなたの踏み台になれるなら、この大陸ごと世界を焼き尽くすことなど造作もありません。どうか、我が命も、魂の最後の欠片までも、全てあなたに捧げさせてください」
無骨な甲冑の手袋が脱ぎ捨てられ、剥き出しになった熱い素肌の指先が、セシリアの黒漆のドレスの裾を狂おしい愛撫のように手繰り寄せる。
耳元を撫でる湿った吐息。熱い息遣いが吹きかかるたび、セシリアの白い首筋が瞬時に鮮やかな緋色へと染まり上がり、心臓が早鐘のように暴れ狂う。
(ひゃ、ひゃあぁぁぁっ!? なんですのこの距離感!? 告白!? これ全大陸に生中継されてますのよ!? 世界中の民の前で何を口走っていらっしゃいますの!?)
羞恥と動揺で頭蓋が沸騰寸前になりながらも、セシリアは震える拳を構え、残された全気力を振り絞った。
第四章: 世界一不器用なグランドフィナーレ
セシリア・フォン・クロムウェル「よ、よろしくてよ! わたくしをここまで祭り上げたのですから……一生、わたくし専属の筆頭パトロンとして、地の果てまで付き従いなさい!」
瞳にうっすらと涙を浮かべ、真っ赤な顔で精一杯の虚勢を張り上げるセシリア。
その強がりを見た瞬間、ルシアンは至上の歓喜にその端正な顔を蕩けるように歪めた。
ルシアン・ヴァルハイト「♥仰せのままに、我が唯一神♥」
恭しく持ち上げられたセシリアの震える手の甲へ、ルシアンの唇から灼熱のような誓いの口づけが落とされる。
《同接数:1億人突破》《尊死する》《もう結婚しろ今すぐしろ》《全財産投げた甲斐があった》
大聖堂の天窓を突き破り、上空へ放たれた極光の魔力が、夜空を満開の祝祭花火で埋め尽くす。大陸中から響き渡る地鳴りのような歓声。
セシリア・フォン・クロムウェル「も、もう無理ですわ……視線が……人が多すぎます……」
ぷしゅー、と頭頂部から限界の湯気を噴き出し、白目を剥いて倒れかける悪役令嬢。
ルシアンは崩れ落ちる細い身体を優しく、だが決して逃がさぬ鉄の腕で抱き留め、邪魔な全世界を遮断するように冷たい嘲笑を浮かべながら、魔道配信の接続を自らの魔力で叩き切った。