第一章: 舌を這わせる白刃の法廷
地下審問室の苔むした石畳を、凍てつく地下水が音もなく這い回る。湿った鉄錆の臭気と死臭が混ざり合う密室で、頼りなく揺れる蝋燭の炎が、分厚い鉄格子の影を禍々しく歪ませていた。
四肢を分厚い鉄の枷で拘束椅子に固定された禿頭の巨漢、軍務卿ヴォルガンが、脂汗でテカる額の青筋を浮き立たせ、濁った灰色の瞳を剥き出しにして唸り声を上げる。
ヴォルガン・フォン・クロムウェル「小僧が! 貴様のような青びょうたんの文官風情が、この元老院の重鎮たる私を私刑に処せる道理がなかろう!」
罵声に混じる唾が飛ぶ。黒のリボンで無造作に束ねた白銀の長髪を微かに揺らし、レオンハルトは氷藍色の瞳で、汚物でも見つめるかのように静かに見下ろした。
首元まで厳格に留められた漆黒の宰相正装。仕立ての良い黒布は一切の皺を許さず、その右手には穢れを拒む純白の手袋が嵌められている。
レオンハルト・フォン・アッシェン「閣下。法と秩序の名において、その首筋の温かさを頂戴いたします」
淡々とした声の温度は、零下の牢獄よりもなお冷たい。背負った麻の包布を解くと、空気そのものが凍りついた。現れたのは、刀身に妖しく蠢く紅い眼球と、無数の生々しい唇が刻み込まれた漆黒の大剣である。
大剣の鍔が肉脈を打って蠢き、ぬらりとした血色の唇が卑猥に開く。
ギロティカ(断頭の大剣)「ねえ坊や、今夜は誰の首を切り落とすの? あの脂ぎった豚の喉笛、すごく柔らかくて美味そうじゃない?」
ギロティカの妖艶な女の声が鼓膜を撫でた瞬間、刀身に埋め込まれた巨大な単眼がカッと見開かれた。暗黒の精神波が空間を圧迫し、大気の密度が一気に跳ね上がる。
ヴォルガンの脳髄が悲鳴を上げた。敵国との密輸、政敵の毒殺指示、裏帳簿の保管場所。隠蔽し続けた汚濁の記憶が、壁面の大理石へ鮮烈な光の幻灯となって強制的に照射される。
ヴォルガン・フォン・クロムウェル「な、なんだこれは……頭の中に、冷たい指が這入ってくる……やめろ、消せぇっ!」
視界を覆い尽くす自らの大罪。老将の肥大化した身体が激しく痙攣し、股間から生ぬるい黄濁の液体が滴り落ちて石畳を濡らす。
レオンハルトは眉一つ動かさず、左手で右手の白手袋を指先からゆっくりと脱ぎ捨てた。剥き出しになった青白い掌を、ギロティカの鋭利な刃の切っ先へと躊躇なく押し当てる。
肉が裂け、鮮血が黒鉄の刃へと吸い込まれていく。早鐘を打つ脈動が、レオンハルトの首筋の頸動脈を激しく跳ねさせた。
ギロティカ(断頭の大剣)「んんっ……あぁ、坊やの血、甘くて最高……全部、一滴も残さず吸い尽くしてあげる……」
魔剣が歓喜の嬌声を上げ、レオンハルトの全身から生命力を貪る。自らの血を奪われる灼熱の痛覚と背徳的な快感に、青白い首筋が紅潮し、熱い吐息が零れた。
細い指先が赤黒く染まり、瞳の奥底に濁流のような殺意が灯る。
レオンハルト・フォン・アッシェン「法が裁けぬなら、この刃に私の血を吸わせてでも終わらせる」
一閃。漆黒の残光が闇を切り裂く。
切断音すらない。ヴォルガンの肥満した首が宙を舞い、石畳の上をゴトリと音を立てて転がり落ちた。
噴水のように立ち昇る鮮血の飛沫の中、審問室の重厚な鉄扉が激しい轟音と共に外側から蹴破られる。
第二章: 蜜月の罠と首輪の感触

月光が斜めに差し込む石造りのバルコニー。豪奢な真紅と金の皇族ドレスを翻し、第一皇女エレオノーラが姿を現した。
燃えるような金髪の縦ロールを夜風に揺らし、獲物を嬲る肉食獣の如き金色の瞳が、返り血で濡れたレオンハルトを射抜く。
エレオノーラ・フォン・ヴァルハイト「私の可愛い猟犬、派手に仕留めたわね。だが元老院の重鎮を私刑にした罪、どう弁明するつもり?」
腰に佩いた細身のレイピアの柄を指先でリズミカルに弾きながら、エレオノーラは冷徹な若き宰相を一歩一歩、冷たい手すりの壁際へと追い詰めていく。
エレオノーラ・フォン・ヴァルハイト「お前が誰の首を噛み千切ろうと構わない。けれど、その首輪の鎖を握っているのは私だけよ。永遠に私の忠犬であり続けなさい」
手袋を外したエレオノーラの細い指先が、レオンハルトの青白い首筋を官能的になぞる。トクン、トクンと跳ねる血管を、鋭利な爪先で愉悦を込めて押し込んだ。
その瞬間、大剣の刀身から黒真珠のティアラを戴いた妖艶な黒髪の美女の幻影が立ち昇り、冷気の刃を皇女の白く細い喉元へピタリと突きつける。
ギロティカ(断頭の大剣)「私の坊やの首筋に触れていいのは、その命を刈り取る私だけよ。身の程を知りなさい、小娘」
肌を切り裂くような二つの狂気と殺意に挟まれながら、レオンハルトは氷藍色の瞳を細め、薄い唇をわずかに歪めて嘲笑を浮かべた。
レオンハルト・フォン・アッシェン「……無駄口を叩いている時間はありません。元老院は明日、帝国議場にて全軍を動員し、殿下と私を同時に抹殺する手筈を整えています」
仕組まれた罠の告白。
エレオノーラの金の瞳が愉悦に細められ、鋭く見開かれる。
レオンハルト・フォン・アッシェン「明日の元老院総会こそが、真の処刑場だ」
逃れられぬ死地を目前にしながら、若き宰相の唇は狂気に歪んでいた。その不敵な笑みに、エレオノーラは背筋を粟立たせ、無意識に舌先で乾いた唇を濡らした。
第三章: 血の議場と愛執の断頭劇

白大理石の円柱が立ち並ぶ帝国元老院本会議場。壇上に立つレオンハルトとエレオノーラを、重装鎧に身を固めた武装私兵たちが何重にも隙間なく包囲していた。
議席に陣取る残党貴族たちが一斉に立ち上がり、口角から汚い唾を飛ばしながら反逆の罪状を喚き立てる。
レオンハルトは何も言わず、左手の手袋を脱ぎ捨てると、手首の内側の太い動脈へギロティカの鋭利な切っ先を深く突き立てた。
ドクンと噴き出す鮮血。黒鉄の魔剣が飢えた獣のように肉へ食らいつき、刀身の紋様が紅蓮の業火となって脈動する。
ギロティカ(断頭の大剣)「あはっ、極上! 坊やの命、ごちそうさまでぇす!」
《断頭結界・処刑宣告》
空間が真紅に染まる。床面から噴き上がった血の結界がドーム状に議場全体を呑み込み、床から生え出た無数の赤黒い鎖が、議席に座る全貴族の首を拘束台へと強制的に縫い止めた。
断末魔の叫びすら許されない。絶対切断の一閃。
宙を舞うギロティカが赤黒い血煙の軌跡を描き、虚空に断罪のルーンを刻みつけながら、数十の首級を一息に薙ぎ払う。
ドシャドシャと音を立てて床を転がる無数の頭部。噴水のように噴き上がった血飛沫が、レオンハルトの白銀の長髪を艶やかな真紅へと染め上げた。
静まり返った議場の中、血の海に立つ若き宰相は、玉座に優雅に腰掛けるエレオノーラの前へと歩み寄り、静かに片膝をつく。
レオンハルト・フォン・アッシェン「元老院構成員四十八名、すべての処刑を完了いたしました。帝国全土の絶対大権を、我が主君に献上いたします」
エレオノーラは玉座から身を乗り出し、血の滴るレオンハルトの顎を白い指先ですくい上げた。
互いの荒い呼吸が絡み合い、赤く濡れた唇が深く、貪るように交わし合わされる。
エレオノーラ・フォン・ヴァルハイト「よくやったわ、私のレオンハルト……お前は世界でただ一人、私の首を預けるに値する男よ」
息を乱しながら唇を離した瞬間、少年の耳元で、漆黒の大剣が甘く粘つく舌先を這わせるように囁いた。
ギロティカ(断頭の大剣)「ねえ坊や、ごちそうさま。……次はあの女帝の首を、いつ切り落としてくれるの?」
鮮血の玉座で抱き合う二人を、大剣に刻まれた無数の赤い瞳が、昏い愉悦をたたえて見つめていた。