第一章: 毒入り乾杯と偽りの楽園
眩い三基の配信用超高輝度リングライトが、冷徹なアイランドキッチンの大理石を白く焼き尽くす。
黒髪の清楚なボブカットを揺らし、萌え袖のオーバーサイズ純白ニットに身を包んだ鳴海 燈は、計算し尽くされた角度で大きな垂れ目を細め、カメラのレンズへすり寄るように顔を寄せた。
鳴海 燈「みんなー、こんばんは! ドリーム・シェアハウスのチャンネル登録者数三万人突破……じゃなくて、なんと三百万人の記念配信、スタートだよっ!」
コメント欄が毎秒数百件の速度で祝祭の弾幕に埋め尽くされる中、漆黒のタートルネックに身を包んだ九条 蓮が、アッシュグレーの前髪を優雅にかき上げて銀のクローシュを掲げた。
首筋から漂うベルガモットの香水が、肉の芳醇な脂の香りと混ざり合い、ラグジュアリーな幻覚を演出する。
九条 蓮「今夜は記念すべき夜だからね。僕が三日間熟成させて焼き上げた、特製の極上ローストビーフを振る舞います。さあ、どうぞ召し上がれ」
ピンクと紫のインナーカラーを跳ねさせ、オフショルダースウェットの肩を無防備に露出させた魅月 リアが、涙袋をぷっくりと膨らませて子猫のように両手を叩く。
鎖骨に落ちるハイライトが、計算高いあざとさを完璧に引き立てていた。
魅月 リア「わぁ、蓮くんのご飯最高〜! リア、このハウスにいられて世界一幸せだにゃ♡」
だが、画角の外側、リングライトの影に沈む手元では、幾重もの悍ましい悪意が蠢いていた。
蓮は微笑を崩さぬまま、背を向けた一瞬の死角でリアのワイングラスへ無色透明の劇薬粉末を滑り込ませる。
対するリアはテーブルの下、膝の上に置いた端末で蓮のスマートフォンの生体認証を盗撮データから偽装解除し、横領と脱税の裏帳簿データをクラウドへ吸い上げていた。
燈は袖口に仕込んだ超小型ピンホールカメラの角度を爪先でミリ単位で微調整し、紅を引いた唇を薄く三日月形に吊り上げる。
鳴海 燈「蓮くん、はい、これ。お肉を切ってくれた蓮くんのグラスだよ……ふふ、お疲れさま」
燈は蓮の背後をすり抜ける際、ニット越しに伝わる柔らかな胸の谷間を蓮の二の腕へとじっとりと押し当て、体温と共に薬物の溶け込んだクリスタルグラスを彼の手元へとすり替えた。
鼻孔をくすぐる上質なピノ・ノワールの芳醇な渋みと、その奥に潜むかすかな薬品の焦げた匂い。
蓮の喉仏が小さく上下し、男の優越感が瞳の奥でギラリと濁る。
九条 蓮「……ありがとう、燈。君の気遣いはいつも完璧だ」
乾いたクリスタル同士が触れ合い、キィンと澄んだ甲高い音がリビングに冷たく響き渡る。
鳴海 燈「それじゃあみんな、画面の向こうのみんなも一緒に……乾杯っ!」
三人が同時にグラスを傾け、深紅の液体が喉を滑り落ちていく。
蓮が配信画面の終了ボタンを押し、赤く点灯していた「ON AIR」のインジケーターが消灯した刹那、スタジオの空気が凍結した。
九条 蓮「が……ッ、ゴホッ、ゲホッ……!? な、んだ……これ……っ!?」
蓮が突如として喉を掻きむしり、大理石の床へ激しく崩れ落ちる。
首筋の青筋が破裂せんばかりに浮き上がり、白目を剥きかけた瞳からボロボロと涙が零れ落ちる。
燈は冷酷極まりない無機質な眼差しで見下ろし、手元のスマートフォン画面を這いつくばる蓮の眼前へ突きつけた。
第二章: 剥がされた仮面と裏切りの暴露

鳴海 燈「苦しいでしょ。あなたがリアのグラスに仕込んだ筋弛緩剤、そのまま飲んだ気分はどう?」
蓮は床を爪で引っ掻き、血の混じった唾液を吐き出しながら、切れ長の瞳を血走らせて這い上がろうとする。
喉が痙攣し、掠れた呼吸音が静まり返ったリビングに響いた。
九条 蓮「……ハッ、舐めるなよ、燈……ッ! お前が裏で熱狂的なファンを騙して自殺に追い込んだ裏垢のログ、全部俺の専用サーバーにバックアップしてあるんだよ……! 俺が死ねば、自動で全世界にバラ撒かれるぞ……ッ!」
蓮が震える指でポケットのリモコンを押すと、壁一面の巨大モニターに、シェアハウスの全個室や浴室を捉えた無数の盗撮カメラのリアルタイム映像が一斉に映し出される。
プライベートを切り売りして成り上がった男の、病的なまでの支配欲の結晶。
だが、その戦慄の光景を、耳障りで甲高い哄笑が切り裂いた。
魅月 リア「あははははっ! ざーんねんでしたー! 蓮くんのクラウドサーバー、あたしの雇った凄腕クラッカーが今さっき全部ハッキングして、根こそぎデータ消去済みなんだよねぇ!」
リアは舌打ちを一発鳴らすと、地雷系の愛らしい甘い声音を脱ぎ捨て、ドスの利いた濁声で分厚い通帳のコピーの束を床へ叩きつけた。
紙擦れの音が蓮の顔面に容赦なく降り注ぐ。
魅月 リア「蓮くんが信者から巻き上げた億単位の裏金帳簿、今あたしの手元にあんの。二人とも、このドリーム・シェアハウスの全収益とチャンネルの単独所有権、全部あたしに無条件譲渡する契約書にサインしな! さもないと全員刑務所行きだよ!」
九条 蓮「このドヤ街出身の寄生虫が……ッ! 誰のおかげでインフルエンサー気取りになれたと思ってんだ調子に乗るな!」
互いの首を絞め合わんばかりに、獣のように牙を剥き、唾を飛ばし合って罵り合う二人。
その時、暗転していたはずのリビングの巨大プロジェクターが、不気味なノイズと共に青白く発光した。
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第三章: 狂気の中継と百万人の審判

全世界への生中継が、一切の告知なしに再開された。
超高精細カメラが捉えているのは、蓮がワインに毒を落とした証拠映像の巻き戻し再生、壁一面に広がる盗撮モニターの群れ、リアが突きつけた生々しい裏金帳簿の拡大画面、そして今まさに醜悪な形相で罵り合い、掴み合う二人の姿だった。
魅月 リア「は……ッ!? なんで、なんで配信がついてんの!? 嘘でしょ、切って! 今すぐ電源プラグ抜けぇぇぇぇッ!」
リアが顔面を蒼白に染め上げ、血の気の引いた指の爪を立てて燈の胸ぐらに掴みかかろうとする。
しかし、燈は瞬き一つせず、冷え切った手首のスナップだけでその腕を捕らえると、無慈悲に硬い大理石の床へ叩きつけた。
鈍い打撲音が響き、リアが短く呻く。
鳴海 燈「見てよ二人とも。同接五十万、八十万……あっという間に前人未到の百万人突破だよ! コメント欄の勢い、サーバーが焼き切れるくらい熱いよ!」
荒れ狂う数百万人の罵詈雑言、嘲笑、驚愕のコメントの濁流が、青白い光の帯となって三人の顔を容赦なく照らし出す。
蓮は膝から崩れ落ち、自らが何年もかけて築き上げてきた完璧な王子様の虚飾が、音を立てて粉々に砕け散る絶望の音を聴いていた。
九条 蓮「俺の……俺のキャリアが、ステータスが……全て……消える……」
窓の外の夜闇から、何重にも重なり合ったけたたましいサイレンの音が近づいてくる。
赤と青のパトランプの光が、地上五十階の高級タワーマンションのガラス窓を、まるで血飛沫のように染め上げた。
第四章: 地獄の果てのラストメッセージ
ドォン、と重金属の破壊音と共に頑丈な玄関ドアが蹴破られ、防犯盾と拳銃を構えた特殊捜査班の警察官たちが怒号と共に雪崩れ込んでくる。
リアはマスカラで黒く汚れた涙を流しながら、床に散乱した札束を這いずり回って狂ったようにかき集め、蓮は虚ろな瞳でただ痙攣し、冷たい金属製の手錠の感触に抗う気力すら失っていた。
散乱した深紅の赤ワインの海の中、燈は乱れた黒髪を優雅に指先でかき上げると、床にへたり込む蓮とリアの首元を強引に引き寄せ、自らの身体へと抱き抱えた。
警察官たちの怒号と閃光が錯綜する中、二人の耳たぶへ這う燈の氷のように冷たい指先と、耳腔を灼く熱狂的な湿った吐息。
鳴海 燈「逃がさないよ……絶対に。私たちはね、地獄の底でも再生数を稼ぎ続ける、最高の共犯者なんだから」
二人の震える頬に自らの柔らかな頬をすり寄せ、燈は正面のメインカメラのレンズを真っ直ぐに見据える。
配信画面の同接カウンターは百五十万人を記録し、赤く激しく点滅を繰り返している。
燈はカメラの向こうにいる無数の大衆へ向け、この世で最も甘美で、どこまでも無垢な三日月の笑みを咲かせた。
鳴海 燈「みんな、ドリーム・シェアハウスの最終回、楽しんでくれたかな? 逮捕されても更新は続けるから、チャンネル登録と高評価、絶対に忘れないでね♡」
カチャリ、と手首に重い手錠が嵌められる澄んだ金属音が鳴り響き、全世界の画面は鮮やかに暗転した。