首輪の重さは愛の重さ

首輪の重さは愛の重さ

主な登場人物

月島 美月 (Tsukishima Mitsuki)
月島 美月 (Tsukishima Mitsuki)
22歳 / 女性
透き通るような白磁の肌に、色素の薄い茶色の瞳。常に高級だが露出度の高いシルクのネグリジェや、拘束具付きのドレスを着せられている。長い黒髪は手入れされているが、どこか儚げ。
九条 恭弥 (Kujo Kyoya)
九条 恭弥 (Kujo Kyoya)
29歳 / 男性
常に完璧に着こなしたスリーピーススーツ。冷たい光を宿す切れ長の瞳と、銀縁眼鏡。手には革手袋をはめていることが多い。
神城 烈 (Kamishiro Reo)
神城 烈 (Kamishiro Reo)
26歳 / 男性
鍛え上げられた肉体を包む軍服。荒々しい短髪と、獲物を狙う獣のような鋭い瞳。首元には傷跡がある。
柊 伊織 (Hiiragi Iori)
柊 伊織 (Hiiragi Iori)
30歳 / 男性
白衣の下に和装を崩して着ている。常に薄ら笑いを浮かべており、何を考えているか読めない糸目。手にはカルテや怪しい薬瓶を持っている。

相関図

相関図
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8 5027 文字 読了目安: 約10分
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第1章: 檻への招待状

重厚なマホガニーの扉。油の切れた蝶番が、断末魔めいた悲鳴を上げ、世界を閉ざす。

響く鈍重な音。それは月島美月にとって、人生の終焉を告げる弔鐘に他ならなかった。磨き上げられた大理石の床に落ちる、頼りない影。身に纏うのは、父が遺した莫大な負債の形代――極薄のシルクのネグリジェのみ。歩を進めるたび、太腿の裏へ張り付く冷たい生地が、逃げ場のない現実を肌へと刻み込んでくる。

腰まで届く漆黒の髪が、震える肩を隠すように滑り落ちる。色素の薄い茶色の瞳。部屋の奥に鎮座する三つの影を捉え、恐怖で揺れた。

「……遅いな」

革張りのソファの中央。冷房の効いた室内の空気を、さらに凍てつかせる絶対零度の声。

九条恭弥。完璧に仕立てられたスリーピーススーツを鎧のように纏い、銀縁眼鏡の奥から氷の視線を投射する。その手には、黒い革手袋。

「怯えてんじゃねぇよ。食いやしねぇから」

右隣には、軍服の襟元を乱雑に寛げた大男――神城烈。獣めいた低い唸り声を上げ、ソファへ深々と沈み込んでいる。分厚い胸板、腕に走る無数の古傷。暴力の世界で生き抜いてきた雄の証明。

「ふふ、そんなに威圧しては可哀想ですよ。彼女はこれから、我々の大切な『検体』になるのですから」

左側、白衣の下に和装を着崩した柊伊織。糸目を細め、唇を三日月のように歪める。手の中で弄ばれる、琥珀色の液体が入った小瓶。

美月は乾いた喉を鳴らす。震える膝を必死に叱咤し、一歩踏み出す。

「あ、あの……お父様の、借金の件で……ここでは、配膳や清掃をすれば良いと……」

恭弥が、組んでいた足をゆっくりと解く。たったそれだけの所作。部屋の気圧が急変する。

「配膳? 清掃? ……勘違いをするな」

テーブルの上、指先で弾かれる一枚の書類。『共有資産譲渡契約書』という文字列が、死の宣告のように躍っていた。

「君に人権はない。今日から君は、我々の底なしの欲を処理するだけの、美しい器だ」

理解が追いつかない。美月が後退ろうとした刹那、疾風のごとき速さで距離を詰める影。烈が彼女の細い腕を万力のように掴み上げた。

「逃げられると思ってんのか?」

「ひっ……! 離して、ください……!」

「無駄だ」

背後から音もなく忍び寄る伊織。首筋に押し当てられる冷たい金属の感触。

カチャリ。

無機質な音が鼓膜を叩く。首に嵌められたのは、鈍い光を放つ重厚なチョーカー。

「GPSとバイタルセンサー付きです。君がどこで誰と何をしていようが、あるいは――どれほど昂っていようが、すべて我々の手元で分かってしまう」

恭弥がソファから立ち上がる。革手袋の指先で、美月の顎を乱暴に上向かせた。

「美月。その名を呼ぶのはこれが最後だ。これからは『ペット』として鳴くことだけを許す」

瞳から零れ落ちる一筋の雫。

ここから出して。誰か助けて。

叫び出そうとした唇は、恭弥の冷たい親指によって無慈悲に封じられた。

「泣くな。躾が必要だな」

◇◇◇

第2章: 指先の独裁者

視界の遮断。

シルクの目隠しによって闇に閉ざされた世界。美月の聴覚と触覚だけが、異常なほど鋭敏に研ぎ澄まされていく。

「動くなと言ったはずだ」

耳元で囁かれる恭弥の声。美月の背筋が弓なりに跳ねた。

恭弥による「教育」。それは美月の想像した野蛮な蹂躙とは対極に位置する、冷徹な芸術。直接的な結合などない。ただひたすらに、焦らす。

内腿を這い上がる革手袋の冷感。ざらりとした革の摩擦が、敏感な柔肌を容赦なく擦り上げ、電気のような痺れを走らせる。

「んっ……ぁ……!」

「声を出す許可は出していない」

恭弥の指先。最も熱を帯びた秘所の寸前でぴたりと止まる。

与えられるはずの快楽が与えられない拷問。美月は無意識に腰をくねらせ、その指を求めようと藻掻くが、恭弥は冷酷に手を引く。

「浅ましいな。口では嫌がっていても、体は正直に蜜を垂れ流している」

視界がない分、言葉の暴力が脳髄に直接突き刺さる。

元令嬢としての矜持、羞恥心、倫理観。それらが恭弥の言葉責めによって、薄皮を剥ぐように削ぎ落とされていく感覚。

「見ろ、伊織。この反応を」

「ええ、素晴らしい数値です。脈拍140、体温38度……恋する乙女のようですねぇ」

「うる、さい……! わたしは、そんなつもりじゃ……!」

美月が抵抗の言葉を紡ごうとした瞬間、恭弥の手が屹立した胸の蕾を強く摘まみ上げる。

「あ゛っ!!」

強烈な刺激。思考が白く弾け飛ぶ。

「君に拒否権はないと言ったはずだ。君の体は、私の指一本でどうにでもなる」

再びの愛撫。今度は優しく、綿菓子を扱うかのように蕾を撫で回す指先。痛みと快楽の落差。その甘い毒に、美月の膝から力が抜ける。床に崩れ落ちそうになる体を、恭弥の腕が強引に支えた。

「まだだ。私が『よし』と言うまで、その熱を溜め込んでおけ」

限界まで張り詰めた神経の悲鳴。

けれど、恐ろしいことに、恭弥に命令されるたび、美月の腹の底で黒い炎のような熱が渦巻き始めていた。

支配されたい。もっと、命令してほしいと願ってしまう。

そんなはずはない。私は被害者なのだから。

「……ふん。目の色が随分と変わったな」

恭弥が目隠しを外し、汗ばんだ美月の顔を覗き込む。銀縁眼鏡の奥、嘲笑を含んで細められる瞳。

「次は、その口で懇願させてやる」

◇◇◇

第3章: 逃走、あるいは依存

「ぐ……っ、はぁ、はぁ……!」

軍服の重み、男の圧倒的な質量。高級ホテルのスイートルーム、その分厚い絨毯に美月は押し付けられていた。

首筋にかかる神城烈の荒い息遣い。恭弥のような繊細な手つきはない。飢えた獣のごとく、美月の全身に己が所有印(マーキング)を刻みつけようとする狂気。

「痛ぇか? でも、ゾクゾクすんだろ?」

ガヂリ。

鋭い痛みが首筋を走る。烈が犬歯を突き立て、うなじに真紅の痣を残したのだ。

「これで、外歩けねぇな。誰が見ても俺のモンだって分かる」

「やめ……て……!」

美月がもがくほど、烈は愉しげに喉を鳴らし、さらに強く抱きすくめる。肋骨が軋むほどの抱擁。それは暴力に近いが、そこには確かに歪んだ庇護欲が存在した。

痛みと熱気で意識が朦朧とする中、開かれる扉。白衣の男。

「おやおや、烈くん。あまり乱暴に扱うと壊れてしまいますよ」

伊織の手、握られた注射器の中で揺れるピンク色の液体。

「さあ、美月さん。ビタミン剤の時間ですよ……これを打てば、痛みも『快感』に変わる魔法の薬です」

「嫌……っ!」

隙を見て烈の腕をすり抜け、洗面所へと駆け込む。鍵をかけ、震える手で隠し持っていたスマートフォンを取り出した。

外部への連絡。これが最後の蜘蛛の糸。

指先が震え、パスコードを三度間違える。ようやく繋がった警察への緊急通報。

『はい、こちら緊急通報指令室です』

「た、助けて……! 監禁されていて……場所は港区の……!」

『ああ、月島美月様ですね?』

オペレーターの声。事務的で、そして絶望的なほど穏やか。

『九条様からお話は伺っております。"家出中"の奥様が見つかったと。すぐにそちらへお繋ぎしますね』

「え……?」

通話が切れる無機質な電子音。

スマートフォンの画面が暗転し、美月の顔を映し出す。

その顔は、絶望に染まっているはずだった。

しかし――。

鏡に映っていたのは、瞳孔を開き、頬を紅潮させ、荒い息を吐きながら下腹部を押さえている自分の姿。

助けを求めた瞬間、恐怖よりも先に、「彼らに見つかって罰を受ける」という想像が、脳髄を焼き切るほどの興奮を呼び覚ましてしまったのだ。

「……嘘……こんなの、わたしじゃ、ない……」

ガチャリ。

洗面所の鍵が、外側からマスターキーで開けられる音。

「見ぃつけた」

烈の声と、伊織の笑い声が重なる。

美月の体は、恐怖で震えているのか、それとも待ちきれなくて震えているのか、もう自分でも分からなかった。

◇◇◇

第4章: 蜜の地獄、愛の牢獄

その夜、世界は反転した。

広いキングサイズのベッドの上、三人の捕食者に囲まれ、逃げ場のない快楽の嵐に晒される美月。

「こっちを見ろ美月! 俺だけを感じろ!」

烈の太い腕が美月の腰を掴み、背後から激しく打ち付ける。その一撃ごとに魂が揺さぶられ、声にならない悲鳴が部屋に響く。

「あ゛っ、ああっ、烈、さん……壊れ、ちゃう……!」

「壊れませんよ。私が調整していますから」

正面からは伊織。怪しげなローションを塗りたくった指で、美月の最も感じやすい花芯を執拗に弄る。計算し尽くされたリズム。神経が過敏になる薬の影響か、指先が触れるだけで雷に打たれたような衝撃。

「ひぃッ! んぐっ、あ、あ、ああああ!」

そして頭上。恭弥が美月の髪を掴み、自分の方へ顔を向けさせていた。

「烈、伊織、やりすぎるなと言ったはずだ……だが、今の君は最高に美しい」

冷徹な恭弥の瞳に宿る、暗い情欲の炎。彼は美月の口元に指を押し当て、溢れる唾液を絡め取ると、満足げに笑った。

「我々三人の誰が一番いい? 誰の愛が欲しい?」

選べない。

選べるはずがない。

痛みを与える烈も、理性を溶かす伊織も、魂を支配する恭弥も。

今の美月にとっては、酸素と同じくらい不可欠な劇薬。

三人の男たちの歪んだ競争心が、美月という一つの器に注ぎ込まれる。

限界を超えた刺激。

視界が白と黒の明滅を繰り返す。

思考回路が焼き切れ、倫理観の残骸が灰になって消えていく。

「もっと……もっと、私を……!」

「何だ? 言ってみろ」

大きく背中を反らし、白目を剥きかけながら、喉の奥から獣のような咆哮を上げた。

「私を、めちゃくちゃにしてぇぇぇぇぇッ!!!」

瞬間、三人の欲望が同時に炸裂した。

注ぎ込まれる熱い白濁の奔流。美月の奥底、肌、そして意識のすべてを埋め尽くしていく。

瞳から理性の光が完全に消え去り、そこには妖艶で、どこか虚ろな、堕ちた聖女の色だけが残った。

◇◇◇

第5章: 幸福な家畜

季節が巡り、窓の外には冷たい木枯らしが吹いていた。

九条財閥の執務室。恭弥のデスクの上に置かれた、一枚の書類と通帳。

「……終わったぞ」

恭弥が窓の外を見つめたまま、淡々と告げる。

「父上の隠し財産が見つかった。それで借金は全額返済された。今日で契約は終了だ」

部屋の隅、ふかふかの絨毯の上に座る美月が顔を上げる。

かつてのような怯えはもうない。

上質なシルクのドレスを纏い、首には以前よりもさらに豪華な、宝石の散りばめられたチョーカー。

「行け。自由だ」

烈が扉を開け、外の世界を指し示す。

伊織もまた、いつもの薄ら笑いを消し、真剣な眼差しで美月を見つめていた。

ゆっくりと立ち上がり、開かれた扉へと歩み寄る美月。

冷たい風が頬を撫でる。

自由。人権。普通の生活。

それらが手の届く場所にある。

しかし、美月は扉の前で立ち止まり、静かにそれを閉めた。

カチャリ、という音が、部屋に優しく響く。

「……どういうつもりだ?」

振り返る美月。恍惚とした微笑みを浮かべ、三人の男たちを見つめる。

おもむろに四つん這いになり、恭弥の足元へと這い寄る。革靴のつま先に頬を擦り寄せ、愛おしそうに口付けた。

「外の世界は寒すぎます……。私には、この檻の中が一番温かい」

自らの手でチョーカーを撫で、うっとりと目を細める。

「お願いです、ご主人様たち。私を捨てないで。私は一生、あなたたちの愛玩人形(ペット)でいたいのです」

その言葉を聞いた瞬間、三人の男たちの顔に広がる安堵。そして、底知れぬ暗い歓喜。

恭弥が屈み込み、美月の頭を優しく撫でる。

「……愚かな女だ。だが、愛している」

「俺もだ。もう二度と離さねぇ」

烈が背後から抱きつき、伊織が嬉しそうに薬瓶を取り出す。

社会的には「行方不明」となった月島美月。

しかし、その表情は聖女のように満ち足りていた。

自由を捨て、堕落を選んだ女と、それを永遠に愛でる三人の捕食者たち。

閉ざされた部屋の中、背徳的で甘美な共依存の物語は、永遠に続いていく。

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