第一章: 壁の向こうの捕食者
雨の匂いが、コンクリートの打ちっぱなしの壁に深く染み付いている。
遠野美咲は、姿見に映る自分を冷ややかな瞳で見つめ返した。腰まで届く艶やかな黒髪、左目の下にポツンと落ちた泣きぼくろ。膝丈の純白のワンピースは、彼女を「貞淑な妻」という記号に押し込めるための舞台衣装に過ぎない。
だが、その白布一枚の下。毒々しいほどに赤いレースのランジェリーが、豊かなEカップの双丘と、手付かずの秘所をきつく締め付けていた。
[A:遠野美咲:冷静]「……涼介さん、まだ帰らないのかしら」[/A]
夫の転勤に合わせて越してきたこのマンション。デザイナーズ物件という触れ込みだったが、壁の薄さは異常だった。隣人の生活音が、まるで鼓膜のすぐそばで鳴っているかのような錯覚。
深夜二時。
寝室の壁から、湿った音が漏れ聞こえてくる。
衣擦れの音。荒い息遣い。そして、粘着質な水音。
[Sensual]
[Whisper]「……みさき……さん……ッ、美咲、さん……」[/Whisper]
心臓が跳ねた。
空耳ではない。壁の向こうの男は、間違いなく自分の名を呼んで、自身の熱い楔を扱いている。
恐怖? いや、違う。
背筋を駆け上がったのは、雷撃のような戦慄と、下腹部を焼く甘い疼き。
[/Sensual]
翌日。美咲は壁に違和感を覚える。
ベッドのヘッドボードの裏側、壁紙の継ぎ目に、針の先ほどの穴が開いていた。
近づいて覗き込むと、向こう側から光が遮られる。
[Impact]ギョロリ。[/Impact]
濁った白目。充血した毛細血管。
穴の向こうで、「眼球」がこちらを見ていた。
[A:遠野美咲:驚き]「……ッ!」[/A]
悲鳴は喉で凍りついた。だが、美咲は後ずさらない。
全身の血液が沸騰するような興奮が、理性を焼き切る。
彼女は震える手でワンピースの裾を掴んだ。
[Think]見ているのね。私が気づいたことも、全部。[/Think]
美咲はゆっくりと、スカートを捲り上げた。
純白の布が太腿を滑り上がり、赤いレースに包まれたデルタ地帯が、その「瞳」の前に晒される。
壁の向こうで、息を飲む気配。
[Sensual]
彼女は無言のまま、さらに指をかけ、赤い布を少しだけずらす。
露わになった秘裂。
穴の向こうの視線が、熱を帯びてその一点に突き刺さるのを、肌で感じた。
これは契約だ。言葉などいらない、共犯の誓い。
[/Sensual]
◇◇◇
第二章: 指先が紡ぐ背徳
一ノ瀬拓海は、死んだ魚のような目でモニターの編集画面を見つめていた。ボサボサの茶髪、猫背の背中には常に薄汚れたパーカーが張り付いている。
壁を叩く音が響いた。
『トン、トン、トトン』
合図だ。
隣室では、エリート商社マンの夫・涼介が高いびきをかいて眠っているはず。
その横で、美咲は拓海の指示を待っている。
[A:一ノ瀬拓海:興奮]「……く、狂ってる……あの人……」[/A]
拓海は壁に向かって、震える拳で叩き返す。
『トン(脱げ)』
[Sensual]
壁の向こう。
美咲は夫の背中を確認し、音もなく掛け布団を剥いだ。
スマートフォンのライトを点灯させ、その光を自身の股間に向ける。
漆黒の闇の中、スポットライトを浴びた秘所だけが、白く、艶かしく浮かび上がる。
壁の穴から差し込む微かな光が、レンズのように彼女の肢体を嘗め回す。
[A:遠野美咲:照れ]「……ふぅ……ッ……聞こえる? 私の音……」[/A]
彼女は自身の指を、蜜で濡れた蕾へと這わせた。
[Whisper]クチュ……ピチャ……[/Whisper]
静寂な寝室に、水音だけが響く。夫が寝返りを打つたび、心臓が破裂しそうなほどのスリルが美咲の脳髄を痺れさせた。
見られている。壁一枚隔てた向こうで、あの陰気な青年が、涎を垂らしてこの光景を貪っている事実。
[A:遠野美咲:興奮]「ねえ……もっと見て。私が、どう乱れるか……」[/A]
指が最奥を抉るたび、美咲は声にならない悲鳴を上げ、背中を弓なりに反らせた。
壁に押し付けた掌から、拓海の荒い呼吸の振動が伝わってくる。
冷たい壁と、熱い身体。
そのコントラストが、美咲を「見られることでしか濡れない女」へと作り変えていく。
[/Sensual]
絶頂の瞬間、美咲は壁の穴に口づけをするように唇を寄せた。
[Sensual][Whisper]「……拓海くん。明日、あなたの部屋に行くわ」[/Whisper][/Sensual]
その言葉は、破滅への招待状。
◇◇◇
第三章: 硝子の箱庭
拓海の部屋は、饐(す)えた臭いと電子機器の排熱で満たされていた。
散乱するコンビニの袋、カップ麺の容器。
だが、美咲の視線は部屋の奥にある巨大なPCラックに釘付けになった。
[A:遠野美咲:驚き]「これ……は……」[/A]
[Impact]6つのモニター。[/Impact]
そこに映し出されていたのは、美咲の寝室だけではない。
リビング、キッチン、洗面所、さらには浴室のタイル目地に至るまで。
彼女の生活の全てが、マルチアングルで監視されていた。
[A:一ノ瀬拓海:恐怖]「ち、違うんです! ぼ、僕じゃない……!」[/A]
拓海は床に這いつくばり、頭を抱えてガタガタと震えている。
美咲はモニターの隅に表示されたステータスバーに目を凝らした。
『UPLOADING TO SERVER: R_TONO_CLOUD』
R_TONO。
Ryosuke Tono。
遠野涼介。
[Flash]閃光のような理解。[/Flash]
[Think]夫が、やらせていたの?[/Think]
血の気が引く音が聞こえた。
この部屋を選んだのも、拓海という覗き魔がいるこの場所へ引っ越してきたのも、全て夫の計画。
夫は、妻が隣人と堕ちていく様を、高画質の映像として記録し、楽しむためにこの舞台を用意したのだ。
自分の背徳的な悦びさえも、夫の手のひらの上で踊らされていた道化の所作。
[A:一ノ瀬拓海:絶望]「お、脅されたんだ……借金を……バラすって……指示通りに盗撮しないと……殺されるって……」[/A]
拓海の言葉など、もはや耳に入らなかった。
美咲の中で、何かが音を立てて崩れ落ちる。
そして、崩れた瓦礫の下から、ドス黒く、強烈な炎が噴き上がった。
[Sensual]
美咲の口元が、三日月のように歪む。
その笑みは、慈愛に満ちた聖母のようであり、生贄を前にした魔女のようでもあった。
[/Sensual]
◇◇◇
第四章: 女王の覚醒
[A:遠野美咲:狂気]「あら、泣かないで。拓海くん」[/A]
美咲はゆっくりと拓海に近づき、彼が着ている薄汚れたパーカーの襟を掴んだ。
そのまま乱暴に引き寄せ、怯える彼の唇を奪う。
鉄の味がした。恐怖で噛み締めた唇から血が出ているのだろう。
[A:一ノ瀬拓海:驚き]「み、美咲……さん? なに、を……」[/A]
[A:遠野美咲:冷静]「夫が見ているんでしょう? このカメラの向こうで」[/A]
美咲はカメラの一つを指差し、冷徹な瞳で見据えた。
その瞳孔は開ききり、常軌を逸した輝きを放っている。
[A:遠野美咲:興奮]「なら、見せてあげましょうよ。彼が望む以上の、最高のショーを」[/A]
[Shout]「ひぃッ!?」[/Shout]
美咲は拓海を突き飛ばし、彼の上に馬乗りになった。
清楚なワンピースの前ボタンを引き千切り、白磁のような肌を露わにする。
[Sensual]
[A:遠野美咲:狂気]「私を犯しなさい。今すぐ、ここで。夫が見ている前で、彼の大切な妻を、泥のように汚して!」[/A]
彼女は拓海の手を取り、自身の豊満な胸へと押し当てた。
拒否権などない。美咲の狂気は、拓海の矮小な理性を粉々に粉砕した。
レンズの向こうの夫への憎悪が、最高純度の媚薬となる。
[Whisper]「いい? もっと激しく。獣みたいに。あの不能な夫じゃ絶対にできないくらい、深く、激しく……!」[/Whisper]
肉と肉がぶつかり合う音が、無機質な部屋に響き渡る。
[Sensual]パンッ! パンッ![/Sensual]
乾いた音。混じり合う汗と体液の匂い。
美咲はカメラを睨みつけたまま、あられもない姿で腰を振り続けた。
被害者? いいえ。
今、この瞬間、彼女はこの空間を支配する女王であり、夫の尊厳を食い荒らす捕食者だった。
[/Sensual]
◇◇◇
第五章: 虚無のシャッター
玄関のドアが開く音がした。
遠野涼介が帰宅したのだ。銀縁眼鏡の奥の瞳は、期待と嗜虐心に濡れているはず。
だが、リビングで彼を出迎えたのは、全裸でソファに座る美咲と、その足元で震えながら跪く拓海だった。
[A:遠野涼介:怒り]「……なんだ、これは。どういうつもりだ!」[/A]
涼介の声が裏返る。
美咲は優雅に足を組み替え、テーブルの上に置かれた一枚の診断書と、USBメモリを指差した。
[A:遠野美咲:冷静]「『心因性勃起不全』の診断書。そしてこっちは、あなたが会社のサーバーを使って個人的に収集していた盗撮データのバックアップ」[/A]
涼介の顔から、さっと血の気が引いていく。
完璧なエリート。その虚飾に満ちた人生が、妻の指先一つで崩壊する瀬戸際にあることを悟ったのだ。
[A:遠野美咲:冷静]「会社にバラされたくなければ、座りなさい。涼介」[/A]
美咲は拓海に目配せをした。
拓海は怯えながらも、もはや美咲の「犬」として完全に調教されている。彼は主人の命令に従い、涼介にカメラを手渡す。
[A:一ノ瀬拓海:恐怖]「……と、撮ってください。ご主人様が、そう望んでます」[/A]
[A:遠野涼介:絶望]「やめろ……俺は、俺は……!」[/A]
[Impact]「撮るのよ」[/Impact]
美咲の声が鞭のようにしなる。
[Sensual]
涼介は震える手でカメラを構えた。
ファインダー越しに見えるのは、他の男に抱かれ、蕩けるような表情を浮かべる妻の姿。
かつてはモニター越しに安全圏から楽しんでいた光景が、今は暴力的なまでの現実として彼を打ちのめす。
[A:遠野美咲:興奮]「あっ……そう、そこ……! 涼介、ちゃんと撮れてる? あなたの妻が、こんなに気持ちよくなってるのよ……!」[/A]
涙が涼介の頬を伝い、高価なスーツの襟を濡らす。
屈辱。嫉妬。そして、認めたくないほどの強い興奮。
彼の股間にある役立たずの肉塊は、皮肉にも妻が他人のものになる瞬間、微かに熱を持ち始めていた。
[/Sensual]
歪な家族の肖像。
愛も、尊厳も、倫理も失われたこの部屋で、三人は奇妙な共犯関係を結んだ。
妻は快楽を貪り、愛人は崇拝し、夫は涙を流しながらその瞬間を記録し続ける。
[System]Recording Started...[/System]
部屋に響くのは、粘着質な水音と、虚しいシャッター音だけ。
カシャッ、カシャッ、カシャッ。
それは、彼らの魂が抜け落ちていく音のようだった。