第一章: 祝福の牙
[FadeIn]世界が、反転する。[/FadeIn]
内臓を灼き尽くす業火。喉元から溢れる鉄錆の味。それが私の知る「英雄」からの、最後の贈り物だった。
勇者レオン・ブレイブハート。彼が突き立てた聖剣の感触、肋骨の隙間に残留する鈍い痛み。
視界の白濁。泥のような闇への沈殿。
……否。
肺に流れ込む冷たい大気。
私は跳ね起き、乱れた呼吸を整える。豪奢な天蓋、窓の外に広がる燃え落ちていない王都の夜景。
指先の震え。恐怖ではない。これは、歓喜による痙攣。
サイドテーブルの鏡。そこに映る、かつての私。
月光を吸い濡れたように輝く銀髪。深海ごときハイライトの消えた碧眼。純白の聖職者ローブは、冒涜的な儀式のためにあるかのように、太腿の付け根まで大胆に裂けている。
[A:エリス・サン・ルミエール:狂気]「……戻ってきたのですね」[/A]
喉の奥から込み上げる、甘い毒のごとき笑い。
明日、私たちは旅立つ。世界を救うために。そして、私が殺されるために。
[Tremble]いいえ。[/Tremble]
今回は違う。脚本(シナリオ)は私が書き換える。
音もなく廊下を滑るように進む。石造りの床の冷気が、裸足の裏を心地よく刺激してくる。
レオンの部屋の前。躊躇いなどあろうか。鍵など、魔力の糸一本で弾け飛ぶ。
部屋の中、微かに漂う男特有の汗と革の匂い。
彼は眠っている。無防備に、仰向けで。
燃えるような赤髪が枕に散らばり、閉じられた瞼の下にある金色の瞳は、今はまだ曇りを知らない。
[Sensual]
[Think]ああ、愛しいレオン様。[/Think]
ベッドの縁に腰を下ろし、指先で彼の喉仏をなぞる。熱い。脈動。
血管の下を流れる血液が、私の渇きを誘う。
[A:レオン・ブレイブハート:驚き]「……ん、う……?」[/A]
微かな唸り声。薄目が開く。
意識の覚醒より早く、私は彼の上に跨った。スリットから覗く素肌、腹筋の硬さを直に感じる至福。
[A:レオン・ブレイブハート:驚き]「え、エリス……様? な、なんで……」[/A]
[A:エリス・サン・ルミエール:愛情]「しっ。静かに、レオン様。悪い夢を見ていたのですか?」[/A]
[Whisper]「可哀想に。心臓がこんなに早鐘を打って」[/Whisper]
指が彼の胸板を這い、突起を軽く摘む。背がビクリと跳ねる反応。
[A:レオン・ブレイブハート:照れ]「あ、熱い……エリス様、近すぎ……」[/A]
[A:エリス・サン・ルミエール:冷静]「これは『祝福』です。未来の厄災からあなたを守るための」[/A]
嘘。これは首輪(マーキング)。
身体を伏せ、首筋に顔を埋める。脈動する頸動脈、ドラムのごとく耳朶を叩く音。
口を開き、白い歯を柔らかな肌へ。
[A:レオン・ブレイブハート:恐怖]「ちょっ、まっ……痛っ!?」[/A]
[Impact]食い込む。[/Impact]
鋭利な痛みが走った瞬間、傷口から自身の魔力を逆流させた。
血液と魔力の混合。神経網を焼き切るような快楽への変換。
[A:レオン・ブレイブハート:絶望]「あ゛ッ、が……あ、あ、あああッ!!」[/A]
声にならない絶叫。剥かれる白目、痙攣する四肢。
私の魔力が脳髄を侵食し、痛覚を愉悦へと書き換えていく。
[/Sensual]
[A:エリス・サン・ルミエール:狂気]「受け入れなさい、レオン様。これが私の愛です」[/A]
耳元での囁き。涎と血で汚れた口元を、彼の鎖骨で拭う。
彼はもう、言葉を発することもできない。ただ荒い息、虚空を見つめ流れる涙。
その瞳の奥、理性の光が揺らぎ、消えていく様。私は見逃さない。
◇◇◇
第二章: 冒涜の加護
旅立ちから一週間。パーティによる魔物駆逐は順調。
だが、その内実は異様。
[Sensual]
湿り気を帯びた森の奥。オークの剛腕がレオンの鎧を掠めただけの浅い傷。
本来なら唾をつけておけば治る程度のかすり傷。そこに、過剰なまでの神聖魔術を行使する。
[Magic]《聖女の慈悲(ヒール)》[/Magic]
[Flash]閃光。[/Flash]
[A:レオン・ブレイブハート:興奮]「ひっ、あ……ぅあ!」[/A]
剣を取り落とし、泥濘の中へ膝をつくレオン。
傷が塞がる瞬間の痒みと熱量。通常の百倍への増幅。
細胞の一つ一つが再生する歓喜を、脳が絶頂と誤認するほどの出力。
[A:レオン・ブレイブハート:照れ]「だ、だめだ……身体が、熱くて……力が、入らな……」[/A]
ガチガチと鳴る歯。股間を押さえてうずくまる勇者。
オークが再び棍棒を振り上げるが、回避不能。
[A:エリス・サン・ルミエール:冷静]「あらあら、レオン様。また油断なさいましたね?」[/A]
指先一つでオークを爆散させ、震える勇者へ歩み寄る。
泥にまみれた頬を両手で包み込み、強制的な視線合わせ。
[A:エリス・サン・ルミエール:愛情]「もっと深い『治癒』が必要ですね? ここの痛みも、取って差し上げましょうか?」[/A]
視線、彼の膨張した下半身へ。
[A:レオン・ブレイブハート:恐怖]「ゆる、して……エリス様……おかしく、なる……」[/A]
[/Sensual]
拒絶の言葉とは裏腹、身体は私の魔力を求めて火照る。
その矛盾こそ、彼を壊すための楔。
◇◇◇
第三章: 公開された恥辱
夜の帳。野営地に満ちる不穏な静寂。
焚き火の爆ぜる音。そこへ、宮廷魔術師シルヴィア・ノワールが忍び込んでくる。
漆黒のドレス、知的な眼鏡の奥で光る瞳。彼女は、私の企みに気づいている数少ないイレギュラー。
[A:シルヴィア・ノワール:冷静]「……随分と悪趣味な趣味をお持ちなのね、聖女様」[/A]
[A:エリス・サン・ルミエール:愛情]「あら、何のことでしょう?」[/A]
[A:シルヴィア・ノワール:興奮]「とぼけないで。レオンの魔力回路、ズタズタじゃない。……あれじゃまるで、発情期の獣よ」[/A]
声に含まれる、非難よりも湿った好奇心。
ハーブティーを一口啜る。ラベンダーの香り、微量のアトロピンを混ぜた特製品。
[A:エリス・サン・ルミエール:狂気]「あなたも見たのでしょう? あの凛々しい英雄が、涎を垂らして私の足元で鳴く姿を」[/A]
[Think]図星ね。[/Think]
シルヴィアの呼吸の一瞬の停止。深層心理にある、勇者への歪んだ憧憬と劣等感。
[A:エリス・サン・ルミエール:冷静]「彼が誰のものにもならず、ただ『モノ』として堕ちていく様……特等席で見たくはありませんか?」[/A]
翌日。ダンジョン攻略。
世界中に映像を届ける「クリスタル通信」の配信中、私はレオンの背中に張り付いた。
[Magic]《精神感応(テレパス)》[/Magic]
[Whisper]「レオン様、みんなが見ていますよ。……我慢できますか?」[/Whisper]
脳内だけに直接響く私の声。
同時に、昨晩仕込んだ遅効性の媚薬が牙を剥く。
[Sensual]
[A:レオン・ブレイブハート:驚き]「っ……!? なんだ、視界が……揺れる……」[/A]
ダンジョン最深部、ボスモンスターであるキメラの御前。突如として剣を杖代わりに突き、荒い息を吐くレオン。
流れ落ちる滝のような汗。定まらぬ焦点。
[A:シルヴィア・ノワール:冷静]「レオン? どうしたの、敵は目の前よ」[/A]
シルヴィアの冷徹な追い打ち。
[A:レオン・ブレイブハート:絶望]「ちが、違うんだ……身体が、勝手に……うっ、くぅ……!」[/A]
虚空に向かって揺れる腰。
鎧の擦れる音、通信を通じて世界中へ響く恥辱。
勇猛果敢な勇者が、敵前で欲望に屈し自らを慰めようとする醜態。
[A:エリス・サン・ルミエール:悲しみ]「ああ、なんてこと……! これは『色欲の呪い』ですわ!」[/A]
悲痛な声を上げ、彼の身体に抱きつく。耳元での甘い囁き。
[Whisper]「いいですよ、レオン様。ここで果ててしまいなさい。世界中の人々に、あなたの情けない顔を見せてあげましょう」[/Whisper]
[A:レオン・ブレイブハート:絶望]「やめ……見ないでくれ……頼む……ッ!」[/A]
[Impact]限界。[/Impact]
口から白濁した泡を吹き、私の腕の中でビクビクと痙攣し、意識を手放す。
[/Sensual]
世界は彼を同情するか? 軽蔑するか?
どちらでもいい。彼の尊厳は今、完全に私の掌の上で砕け散ったのだから。
◇◇◇
第四章: 蜜の檻
宿屋の一室。打ち付ける豪雨。
雷鳴が轟くたび、ベッドの上のレオンは怯えたように身を縮める。
かつての鋼のような肉体。度重なる魔力過多と精神的負荷で、驚くほど華奢に変貌していた。
[Sensual]
[A:レオン・ブレイブハート:興奮]「エリス……様……欲しい……ください……」[/A]
涙目で見上げる瞳。世界を救う意思など欠片もない。
あるのは、私の体液(魔力)への渇望のみ。
[A:エリス・サン・ルミエール:冷静]「まだ駄目ですよ。昨日、剣の稽古をサボりましたね?」[/A]
[A:レオン・ブレイブハート:悲しみ]「だって……剣を握ると、手が震えて……エリス様のことを考えると、立っていられなくて……」[/A]
這いずり、聖衣の裾に顔を擦り付ける。
[A:エリス・サン・ルミエール:狂気]「正直な子。……ご褒美をあげましょう」[/A]
指先を彼の口内へ。
赤子のように必死に吸いつく彼。濡れた部屋に響く水音。
[Heart]ドクン。[/Heart]
指を通して伝わる心臓の音。
完全に私のもの。思考も、反射も、魂さえも。
[/Sensual]
[A:シルヴィア・ノワール:冷静]「……準備が整ったわ。魔王城への転移ゲート、開いたけれど」[/A]
ドアの向こう、シルヴィアの宣告。
私はレオンの頭を撫でながら、鏡に映る自分に微笑みかける。
[A:エリス・サン・ルミエール:愛情]「行きましょう、レオン様。最後の仕上げです」[/A]
レオンはもう、魔王を倒すために戦うのではない。
私という檻の中で、永遠に飼われるために戦うのだ。
たとえその先で、彼の手足がもがれようとも、私が「治して」あげるのだから。
◇◇◇
第五章: 閉ざされた楽園
魔王の間。
玉座に座る魔王は、既に息絶えていた。
私の裏工作、暴走したレオンの暴力的なまでの聖剣技。原形を留めぬ肉塊への変貌。
[A:レオン・ブレイブハート:興奮]「終わった……終わったよ、エリス様! これで、俺のこと、もっと……!」[/A]
血塗れのまま、駆け寄ろうとする彼。
だが、私は冷たく杖を掲げた。
[Magic]《世界結界・永劫回帰(パラダイス・ロスト)》[/Magic]
[Impact]世界が、閉じる。[/Impact]
魔王の核を利用し、この空間だけを外部から切り離す。
外の世界では、勇者が魔王と刺し違えたことになっているだろう。あるいは、魔王の残党によって世界が滅びゆくかもしれない。
けれど、そんなことは些事。
[A:レオン・ブレイブハート:驚き]「エリス様……? 外へ、帰らないの……?」[/A]
[A:エリス・サン・ルミエール:愛情]「帰る場所なんてありませんよ、レオン様。ここが私たちの家です」[/A]
四肢を拘束する術式の展開。
光の鎖が手首と足首を縛り上げ、空中に固定する。
[Sensual]
[A:レオン・ブレイブハート:恐怖]「な、なに……動けな……っ!」[/A]
[A:エリス・サン・ルミエール:狂気]「もう剣を振るう必要はありません。歩く必要も、考える必要も」[/A]
ゆっくりと近づき、唇を奪う。
これまでで一番深く、濃厚な口づけ。
[A:レオン・ブレイブハート:照れ]「んんっ……ふぁ……!?」[/A]
奪われる酸素。開く瞳孔。
[A:エリス・サン・ルミエール:愛情]「あなたはただ、私の愛を受け入れるだけの器(もの)になればいいのです」[/A]
[/Sensual]
シルヴィアが部屋の隅、恍惚とした表情で記録を続けていた。
レオンの瞳から光が消え、完全に焦点が合わなくなる。
口元の緩み。幸せそうな、しかし壊れた笑顔。
[A:レオン・ブレイブハート:愛情]「あ……えりす、さま……すき……だいすき……」[/A]
[A:エリス・サン・ルミエール:愛情]「ええ、私も愛していますわ。……永遠に、ね」[/A]
崩壊する世界の外側、私たちの終わらない飼育生活(ハッピーエンド)が幕を開けた。
救世の果てにあったのは、甘く腐った蜜の檻だった。