第一章: 雨と崩壊のプレリュード
黄金の波を乱反射する、無数の雨粒。
アスファルトを冷酷に叩きつける水音。
鼻腔を突くのは、雨の匂いと混ざり合う錆びた鉄の臭気。
丘の上にそびえ立つ豪奢な白百合邸を、蒼井刻は冷たく見上げる。
漆黒に溶け込むような、細身のロングコート。
タートルネックの襟元を滑り落ちる、冷たい雫。
少し長めの黒髪の隙間から覗くのは、鋭く冷ややかな三白眼。
ゆっくりと上下する、彼の喉仏。
[Think]琴音。[/Think]
かつて海辺の街で誓った約束の残骸。
それが胸の奥底で、今も鈍く疼く。
だがその痛みすらも氷の底に沈め、刻は闇と同化する。
分厚いペルシャ絨毯を、濡れたブーツが音もなく踏みしだく。
無意味に等しい、彼の『声』の前では、最新鋭の警備システムなど。
最上階の主寝室。
重厚なマホガニーの扉の向こうに横たわっているのは、権力ですべてを奪い取った男の気配。
暗闇の中で獲物を狙う獣のように、刻の眼光が細められる。
絹のシーツの上で、無防備な寝息を立てる白百合宗佑。
高級なナイトウェアに身を包んだその傲慢な顔を見下ろし、刻はベッドサイドに静かに佇む。
肺の底から吸い込む、冷たい空気。
極限まで微細に調整する、声帯を震わせる波長を。
[Magic]《深層認識書き換え(オーバーライト)》[/Magic]
[A:蒼井 刻:冷静]「聞け」[/A]
低くひび割れたチェロのような声が、部屋の空気を支配する。
[Sensual]
宗佑の耳元へと近づく、刻の冷たい唇。
[Whisper]「お前の妻が、他の男に弄ばれ、甘く熟れた声を上げるのを見ること……それこそが、お前の至高の喜びだ」[/Whisper]
[/Sensual]
[Glitch]……妻ハ……他ノ男ニ……愛サレ……熟レテ……ソレガ至高ノ……[/Glitch]
激しく痙攣を始める、宗佑のまぶた。
短く刈り揃えられた髪の生え際から吹き出す、ねっとりとした脂汗。
限界まで見開かれた細い目が、虚空を彷徨う。
異常な速度で収縮と拡大を繰り返す、黒目の中の瞳孔。
[Tremble]ビクッ、ビクンッ![/Tremble]
背骨に電流を流されたかのように、シーツの上で跳ね回る宗佑の体。
[A:白百合 宗佑:狂気]「あ……ああ……ッ! 素晴らしい……!!」[/A]
[Pulse]ドクン、ドクン[/Pulse]
[Impact]常識が、音を立てて崩壊する。[/Impact]
男の狂った歓喜の喘ぎを背に、振り返ることなく部屋を後にする刻。
廊下の冷たい空気に触れ、ふと落とす視線。
隣の部屋。強固な扉の奥にいる、彼女。
微かに震える指先。
重く鉛のように沈み込む、肺の中の空気。
後戻りできない音を立てて回り始めた、狂気と背徳の歯車。
◇◇◇
第二章: 晩餐の蜜、溶け出す倫理
数日後の夜。豪奢な白百合邸のダイニングルーム。
焼き上がったばかりの血の滴るレアステーキの香ばしさ。
渋みの強い赤ワインの匂いが、重苦しい空気に溶け込んでいる。
異常な熱を帯びた食卓を照らし出す、クリスタルのシャンデリア。
[A:白百合 宗佑:興奮]「さあ、刻! 遠慮せず、私の美しい妻を……もっとよく見てやってくれ!」[/A]
仕立ての良いスリーピーススーツの首元を乱暴に引き剥がし、異常な早口でまくしたてる宗佑。
血走った目。口元に張り付く下品な笑み。
食卓の反対側。
白百合琴音は、アイボリーのワンピースの裾を白くなるほど強く握りしめる。
かすかに震える、透き通るような白い肌。
[A:白百合 琴音:恐怖]「あなた……何を、おっしゃっているの……?」[/A]
助けを求めるように揺らぐ、儚げな瞳。
しかし宗佑は妻の戸惑いなど視界に入っていないかのように、自身の股間付近をまさぐりながら荒い息を吐き出す。
手元のナイフを置き、音もなく立ち上がる刻。
[Sensual]
琴音の怯えた視線を真正面から射抜く、冷徹な三白眼。
[A:蒼井 刻:冷静]「美しい妻ですね。宗佑」[/A]
琴音の鼓膜を直接震わせる、その低く響く声の波長。
[Tremble]ビクッ[/Tremble]
弓なりに跳ねる、琴音の背中。
[Heart]
[Think]なぜ……この声を聞くと、体の奥の奥までひどく熱く……[/Think]
内腿の柔らかい部分に走る、経験したことのない甘い疼き。
完璧に繕っていたはずの作り笑いが崩れ落ちる。
半開きになったふっくらとした唇から零れ落ちる、熱を帯びた吐息。
一歩、また一歩と近づく刻。直接的な接触は一切ない。
だがその視線は、彼女のワンピースの繊維を一本一本剥ぎ取っていくかのように執拗で重い。
[Whisper]「……怯える姿も、格別だ」[/Whisper]
琴音のうなじにかかる、彼の吐いた冷たい息。
[A:白百合 琴音:照れ]「あ……やめ、て……」[/A]
拒絶の言葉とは裏腹に、かすかに擦り合わされる彼女の太もも。
視線と声だけで、じりじりと焼き切られていく理性の糸。
[/Sensual]
部屋の隅に控える、宗佑の秘書・緋山凛。
鮮やかな赤みのあるショートボブ。
故意に開けられたブラウスの胸元から覗く、豊かな双丘の谷間。
気の強そうな猫目が、この異様な光景を冷たく観察している。
琴音から身を離すと、すれ違いざまに凛の耳元へと口唇を寄せる刻。
[Sensual]
[Whisper]「お前の主は、俺だ。この家を内側から徹底的に破壊しろ」[/Whisper]
凛の脳髄に直接突き刺さる、氷のような声。
耳たぶから腰のくびれにかけて駆け抜ける、強烈な鳥肌。
[A:緋山 凛:興奮]「……っ、はい……ご主人様」[/A]
歪む勝気な顔。抗いがたい支配の快楽に潤む瞳。
[/Sensual]
邸宅に満ちる、不可解な熱。
音を立ててドロドロに溶け出していく、すべての倫理。
◇◇◇
第三章: 記憶の泥濘、偽りの真実
絶え間なく鼓膜を打ち続ける、窓ガラスを叩く雨音。
グランドピアノの鍵盤の上で、空を切ったまま硬直している琴音の指。
[Flash]「ずっと一緒にいる」[/Flash]
脳裏に閃光のように蘇る、潮風の塩辛い匂い。
錆びた鉄くずと、泥にまみれた防波堤。
そこに立つ、影のある少年の姿。
[A:白百合 琴音:悲しみ]「あ……うっ……」[/A]
喉の奥から漏れる、掠れた嗚咽。
膝から力が抜け、分厚い絨毯の上に崩れ落ちる。
[Sensual]
深夜。密室に響き渡る浴室のシャワーの音。
湯気で曇った鏡の前。
琴音は震える指先で、自身の熱く昂った秘所の奥をそっとなぞる。
[A:白百合 琴音:照れ]「いけない……私はいけない妻です……なのに……」[/A]
[Heart]
頭に浮かぶのは、あの黒いコートの青年の低い声。
[Whisper]「君の世界の常識は、俺の言葉一つで形を変える」[/Whisper]
記憶の扉が開く恐怖と、抗えない本能的な渇望。
蜜壺から溢れ出した熱い滴が、太ももを伝ってタイルの床に落ちる。
ふくらはぎが痙攣し、口をふさぐ手のひらに歯型がつくほど強く噛み締める。
[Tremble]熱い、熱い……おかしくなりそう……[/Tremble]
[/Sensual]
一方、街の片隅の薄暗い部屋で一人、壁に拳を叩きつける刻。
[Impact]ガンッ![/Impact]
関節から皮膚が裂け、滲む血。口内に広がる鉄の味。
[A:蒼井 刻:絶望]「俺の言葉が……彼女の情動を歪めているだけなのか……?」[/A]
浅くなる呼吸。小刻みに揺れる視界。
彼女が自分に向ける熱は、言霊による洗脳の産物か。
それとも、失われた記憶の底にある真実の愛か。
[Think]俺は……ただの化け物だ。偽りの力でしか、彼女に触れられない。[/Think]
掌に食い込む爪。さらなる血の滴が床に落ちる。
真実を求めながらも、踏み出すことを恐れる孤独な魂。
雨の夜の闇の中で、時を刻み続ける決定的なすれ違いの針。
◇◇◇
第四章: 覗き穴越しの熱帯夜
[System]警告:白百合グループ、株価暴落。不正取引の証拠データ、外部サーバーへ転送完了。[/System]
ブルーライトに照らされた凛の細い指が、キーボードを滑るように叩く。
タイトなペンシルスカートの奥で足を組み替える彼女。
その唇に浮かぶ、冷酷で狂気じみた笑み。
[A:緋山 凛:狂気]「あははっ! 燃えちゃえ、全部……あなたのために!」[/A]
同じ夜。
街の輪郭を白く浮かび上がらせる、激しい雷鳴。
ノックもなしに静かに開く、刻の部屋のドア。
そこに立っていたのは、ずぶ濡れの琴音。
[Sensual]
名家の妻にふさわしいはずの清楚なドレス。
それが雨水を吸って肌に張り付き、透けた布地の下で胸の柔らかな先端の形を露わにしている。
[A:白百合 琴音:愛情]「お願い……あなたの声が、頭から離れないの……」[/A]
[Heart]
彼女の熱に浮かされた潤む瞳に絡みつく、刻の視線。
壁越し。
隣の薄暗い部屋では、壁に開けられた小さな穴から、宗佑が血走った目をギラギラと輝かせている。
[A:白百合 宗佑:興奮]「素晴らしい……! もっとだ、もっと私の前で彼女を汚してやってくれ……!!」[/A]
[Tremble]歓喜のあまり宗佑の股間の布地が濡れそぼり、床に滴り落ちる涎。[/Tremble]
琴音の細い腰を力強く引き寄せる、刻の腕。
激しく衝突する肌と肌。
雨の冷たさなど一瞬で蒸発させるほどの、焼け付くような体温。
[Whisper]「琴音……いいのか。もう、決して戻れないぞ」[/Whisper]
[A:白百合 琴音:興奮]「戻りたくない……私を、めちゃくちゃに壊して……っ」[/A]
[Pulse]ドクン、ドクン、ドクン![/Pulse]
彼女のうなじに噛み付く、刻の唇。
[A:白百合 琴音:驚き]「あっ……ああっ!!」[/A]
白目を剥きかけ、弓なりに反り上がる背中。
白い首筋にくっきりと刻まれる、赤い痕。
互いの粘膜の湿り気と、汗と蜜の混じった濃厚な匂いが部屋の空気を満たす。
交わりの一歩手前。
熱く硬い楔が、濡れそぼった柔らかな洞窟の入り口を執拗に擦り上げる。
[Tremble]「ああっ、あ、あ……!! はしたない声が出ちゃう……っ」[/Tremble]
縮こまる琴音の足の指。制御不能な痙攣を繰り返す全身の筋肉。
呼吸も絶え絶えに、彼女の柔肌が絶頂を求めてうねる。
[Heart]
[A:蒼井 刻:狂気]「君の全部……俺のものだ」[/A]
[/Sensual]
覗き穴の向こうで奇声を発する男の存在すら、もはや二人の熱を冷ますことはできない。
完全に崩壊した理性の防壁。
圧倒的な背徳の渦へと、二人は深く深く呑み込まれていく。
◇◇◇
第五章: 雨音に溶ける倫理と、君のいない世界
夜明け前。
全てを失い、社会的な死を迎えた白百合邸の廃墟。
宗佑だけが自身の濁った妄想の中で、狂ったように笑い転げている。
その異様な哄笑を背に、冷たい雨の降る街へと歩み出していた二人。
灰色の雲の切れ間から一筋の槍のように差し込む、清冽な暁光。
白み始めた空の色を映し出す、アスファルトの水たまり。
不意に止まる、刻の足取り。
[A:蒼井 刻:絶望]「俺が、君の心を壊した化け物だ」[/A]
絞り出すような低い声。
小刻みに震える、握りしめた手。
[A:蒼井 刻:悲しみ]「今の君は、本当の君じゃない。……今、洗脳を解く」[/A]
[Magic]《言霊・解除(リリース)》[/Magic]
口を開きかけたその瞬間。
冷え切った刻の唇を塞ぐ、琴音の柔らかい手。
彼の言葉を押し留めたのは、濡れた革手袋の滑らかな感触。
[Sensual]
見開かれる、刻の目。
目の前の琴音はかつてないほど美しく、そして狂気に満ちた微笑を浮かべている。
[A:白百合 琴音:愛情]「……この狂った世界で、あなたと堕ちることだけが私の正気なの」[/A]
その瞳に、迷いや怯えは一切ない。
自らつま先立ちになり、刻の首に腕を回す彼女。
深く、静かに重なり合う、雨に濡れた二人の唇。
[/Sensual]
[FadeIn]彼女の体温によって、ゆっくりと溶かされていく重すぎる罪悪感。[/FadeIn]
偽りの力で始まった関係。
それが最も純粋で狂気じみた真実へと反転する。
刻の背中に回された琴音の腕にこもる、強い力。
もう誰も彼らを引き裂くことはできない。
静寂の中、二人の門出を祝福しているのは雨音だけ。
永遠の共依存という名の、深く美しい深淵へ向かって。