世界から消えた君を、僕のバグごと喰らい尽くす

世界から消えた君を、僕のバグごと喰らい尽くす

主な登場人物

神崎 柊夜(かんざき しゅうや)
神崎 柊夜(かんざき しゅうや)
17歳 / 男性
色白で隈の目立つ三白眼。前髪の長い黒の無造作マッシュヘア。着崩した指定のブレザーの上に、季節外れの黒いモッズコートを羽織っている。どこか退廃的で気怠げな雰囲気を纏う。
氷室 白雪(ひむろ しらゆき)
氷室 白雪(ひむろ しらゆき)
16歳 / 女性
透き通るような白磁の肌と、腰まで届く銀髪のロングヘア。感情の読めない琥珀色の瞳。ダボダボの特大サイズパーカー(萌え袖)に、プリーツスカート。首元には痛々しい傷痕を隠すための赤いチョーカー。
天音 夏希(あまね なつき)
天音 夏希(あまね なつき)
17歳(消失時) / 女性
亜麻色のボブカットに、左目の下の泣きぼくろが特徴的。清楚でクラシカルなセーラー服。常にどこか哀しげで、すべてを許容するような柔らかい微笑みを浮かべている。

相関図

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第1章:血溜まりの日常

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オレンジ色の西日が、埃の舞う教室をじりじりと焼き焦がしている。

窓際の机の上に、ぽつんと置かれた赤いフィルムカメラ。

持ち主のいないそれが、不自然に長く伸びた影を床に落としていた。

神崎柊夜の右手から、べたり、と粘り気のある赤い滴がリノリウムの床に落ちる。

握りしめたペーパーナイフは手首を引きちぎりそうなほど重く、ねっとりとした濃密な鉄の匂いを放っている。

目の前の床に広がるのは、先ほどまで「誰か」の内臓だった名残。

そして、靴底を沈めるほどのおびただしい血の海。

「ねえ、明日カラオケ行かない?」

「いいね、お前も行くよな?」

弾むような甲高い笑い声が、凄惨な血溜まりの上を無遠慮に素通りしていく。

クラスメイトたちのピカピカのローファーが赤い水溜まりを踏み荒らし、血飛沫が飛び散る。

だが、誰も足元の異常に目を向けない。

鼻を突く異臭にも、靴底の滑りにも。

さっきまでそこで一緒に笑っていた「誰か」が、理理不尽な化物に喰い殺された。

その痕跡すら、この狂った世界のシステムによって綺麗に改ざんされ、日常として上書きされている。

柊夜は長く伸びた黒の前髪越しに、三白眼で虚空を睨みつけた。

季節外れの黒いモッズコートの下で、着崩したブレザーが微かに揺れる。

色白の肌に深く刻み込まれた目の下の隈が、彼の精神がとっくに限界を迎えていることを物語っていた。

[A:神崎 柊夜:冷静]「……また、世界がバグってる。誰も気づかないなんて、狂ってやがる」[/A]

胃液が逆流する吐き気を噛み殺し、ひび割れた唇から冷たい声を吐き捨てる。

胸の奥を抉るような虚無感だけが、鉛のように胃の腑に重くのしかかる。

[Impact]その時。[/Impact]

血に塗られた窓枠に、音もなく影が降り立った。

逆光の中に浮かび上がる、透き通るような白磁の肌。

風に舞う、腰まで届く銀色のロングヘアが西日を弾いてきらめく。

特大サイズのパーカーに身を包み、長すぎる袖口から指先だけを覗かせた少女が、ガラス玉のような琥珀色の瞳でこちらを見下ろしている。

[A:氷室 白雪:冷静]「君、見えてるんだね。世界の抜け殻が」[/A]

プリーツスカートの裾を翻し、彼女は細い指先で首元の赤いチョーカーに触れる。

温度が完全に抜け落ちた声。

そのひんやりとした響きが、夕暮れの教室の狂騒を切り裂き、柊夜の鼓膜に静かに滑り込んだ。

第2章:夕暮れとジャンクフード、忘却の境界

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錆びた金網越しに吹き抜ける風が、眼下の街の喧騒と、まとわりつくような車の排気ガスを運んでくる。

屋上のコンクリートは生ぬるく、太陽に焼かれたアスファルトの匂いが鼻腔を突いた。

氷室白雪は、茶色い紙袋から取り出したダブルチーズバーガーを、ただ無心で頬張っている。

一口かじるごとに、とろけたチーズと肉汁が彼女の口元を汚す。

その細い喉が上下するたび、狂気に満ちた異質な空間が、無理やり凡庸な日常へと引き戻される錯覚を覚えた。

つい先ほど怪異を狩った存在だという彼女の言葉と、目の前で貪られるジャンクフード。

あまりにもちぐはぐで滑稽な光景に、柊夜は微糖の缶コーヒーを無意識に強く握りしめる。

ベコン、とアルミ缶が情けない音を立てた。

[A:氷室 白雪:冷静]「君の喪失感は正しいよ。さっき消えたのは、間違いなく君のクラスメイトだ」[/A]

ダボダボの萌え袖で口元のソースを拭いながら、彼女は淡々と事実を告げる。

その声音には、死に対する一片の感傷も含まれていない。

ただの現象を報告する機械のようだ。

[A:氷室 白雪:冷静]「そして……ずっと前に君の世界からバグとして消されたのは、君の幼馴染、天音夏希だね」[/A]

[Impact]その名前が、鈍器となって脳髄を直接殴りつけた。[/Impact]

[Glitch]ザザッ……ピーーッ……![/Glitch]

視界の端から強烈な極彩色のノイズが走り、視界が明滅する。

一瞬にして、屋上の風景が塗り替えられる。

夏祭りのざわめき。

手のひらに伝わる水風船の冷たさ。

夜空を極彩色に焦がす打ち上げ花火の轟音と、鼻先をくすぐる金木犀の甘い香り。

『[A:天音 夏希:愛情]大丈夫だよ。私が全部背負うから。柊夜はただ、生きていて[/A]』

亜麻色のボブカットが、夜風にふわりと揺れる。

アイロンの当てられた清楚なセーラー服。左目の下にちょこんと乗った、小さな泣きぼくろ。

振り返って優しく微笑む彼女の顔だけが、ひどいモザイク処理をかけられたように崩れて、見えない。

頭蓋骨を内側から荒いヤスリで削られるような激痛に、柊夜は呻き声を上げ、額を押さえてコンクリートの床にしゃがみ込む。

[A:神崎 柊夜:恐怖][Tremble]「っ……なつ、き……? 誰、だ……それ……!」[/Tremble][/A]

[Think]なぜ、俺は今まで忘れていた?[/Think]

[Think]俺の、世界の全てだったはずなのに。[/Think]

脂汗が首筋から背中へと不快に伝い落ちる。

あの美しく優しい日常の欠片を、この手でもう一度取り戻さなければならない。

そのためなら、裏の世界の泥水をすすり、怪異の血肉を喰らうことすら厭わない。

胃の底から這い上がるような決意と共に顔を上げる。

白雪は食べる手を止め、ただ静かに、その深淵のような琥珀色の瞳で彼をじっと見つめ下ろしていた。

第3章:交差点の死闘、剥き出しの狂愛

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深夜のスクランブル交差点。

瞬きを繰り返していたネオンサインも、行き交う人々の歩みも、宙を舞うレジ袋すらも、完全に停止している。

時間が凍りついた静止世界の中で、異形の怪異がアスファルトを粉砕しながら耳障りな咆哮を上げた。

人間の手足を無数に繋ぎ合わせたような、冒涜的な肉の塊。

[System]概念切断・実行[/System]

白雪の細く白い腕が、指揮者のように滑らかに宙を薙ぐ。

空間そのものが物理的にひしゃげ、不可視の断頭台が振り下ろされる。

怪異の巨体が、悲鳴を上げる間もなくサイコロ状に解体されていく。

だが、崩れ落ちる高層ビルの瓦礫と怪異の残骸が、逃げ遅れた柊夜の頭上へと凄まじい勢いで降り注ぐ。

[A:氷室 白雪:驚き]「……っ!」[/A]

彼女の表情が初めて動き、白雪が身を呈して柊夜の体をアスファルトへと突き飛ばした。

直後。

生き残っていた怪異の鋭利な爪が、彼女の華奢な脇腹を深く、無惨に抉り取る。

肉が裂け、内臓を掠める生々しい水音。

白磁の肌から勢いよく溢れ出した鮮血が、冷たい黒のアスファルトを毒々しい赤色に染め上げていく。

[A:神崎 柊夜:怒り][Shout]「なぜ俺を庇った! お前なら躱せただろ!」[/Shout][/A]

血の海に力なく倒れ込む白雪の肩を引き寄せ、柊夜は我を忘れて声を荒らげる。

圧倒的な力を持つ彼女が、自分の命をここまで粗末にする理由が、全く理解できない。

[Sensual]

だが、腕の中の彼女は、傷口を押さえようともせず、痛がる素振りすら見せなかった。

普段は無機質な琥珀色の瞳が、今はとろけるような異常な熱を帯び、柊夜の顔を真っ直ぐに射抜いている。

彼女自身の血で濡れた冷たい指先が、這うように伸び、柊夜の頬をねっとりとなぞる。

[A:氷室 白雪:狂気][Whisper]「ふふ……私の存在意義はね、君を守ることだけ。君の綺麗な血が一滴でも流れるくらいなら、こんな世界、全部消えちゃえばいいの」[/Whisper][/A]

血の気の引いた赤い唇が、恍惚とした弧を描く。

狂気的なまでの溺愛と執着が、夜の闇に甘く、重く溶け出していく。

その常軌を逸した熱量に当てられ、柊夜の呼吸が急激に浅くなる。

[Pulse]ドクン、ドクンと、自身の心臓が早鐘を打つ。[/Pulse]

自らの内臓がこぼれ落ちそうな状態でも、ただひたすらに柊夜を見つめて微笑む彼女の姿。

それはひどく痛々しく、そして、吐き気がするほどに圧倒的な美しさを放っていた。

[/Sensual]

やがて、怪異の残骸が風化する砂のようにサラサラと崩れ去る。

その灰の山の中から、カラン、と乾いた音を立てて転がり落ちたものがあった。

塗装の剥げた、古い赤いフィルムカメラ。

それは、世界から消されたはずの夏希が、いつも首から下げて持ち歩いていた宝物だった。

第4章:概念喰いの遊園地、暴かれた罪

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ギイィ……ギイィ……。

完全に赤錆びた観覧車が、風に揺れて不気味な軋み音を立てている。

たどり着いた異界の最深部、廃遊園地は、胃がひっくり返るような甘ったるい腐臭と、視界を遮る濃密な灰色の霧に包まれていた。

かつて子供たちの笑顔で溢れていたメリーゴーランドの残骸の上。

そこに、巨大な肉のタワーのような「概念喰い」が鎮座している。

ドクン、ドクンと嫌なリズムで脈打つ肉の塊。

その醜悪な核の中心に囚われているのは、他でもない、天音夏希の変わり果てた姿だった。

下半身は半ば肉塊と同化して溶け落ち、虚ろに濁った瞳でただ虚空を見つめている。

[A:神崎 柊夜:興奮][Shout]「夏希……! 待ってろ、今、助ける!」[/Shout][/A]

泥だらけのアスファルトを蹴り、無我夢中で手を伸ばす。

そして、彼女の冷たくなった指先に触れた、その瞬間。

[Flash]脳髄を、極彩色のノイズの槍が容赦なく貫いた。[/Flash]

[Glitch]エラー。記憶の不整合を検知。精神プロテクト、強制解除。[/Glitch]

濁流のように、無理やり脳神経に流し込まれてくる「真実」。

夏希をこんなおぞましい怪異に変えたのは、外部の敵などではない。

過去。極限のストレス。絶望。

そして何より――暴走した、柊夜自身の異能『存在の簒奪』。

彼の体から溢れ出した黒い波紋が、夏希の存在概念を無惨に喰い破り、歪な異形へと強制的に変質させていく鮮明な映像。

彼女の悲鳴。血の涙。

[Think]俺が……被害者?[/Think]

[Think]違う。違う。俺が、彼女を殺したんだ。[/Think]

自分を守るために信じ込んでいた無意識の嘘が、ガラス細工のように粉々に砕け散る。

最愛の幼馴染を、己の力で終わらせたという絶望的な事実。

膝から完全に力が抜け、柊夜は汚悪な冷たい泥の中に崩れ落ちた。

両手で顔を覆い、喉の奥から、言葉にならない獣のような嗚咽が漏れ出す。

[A:神崎 柊夜:絶望][Tremble]「ああ……あ、あああ……っ! 俺だ……俺の、せい……!」[/Tremble][/A]

真実の重圧に心が完全に圧壊した柊夜を見下ろし、怪異と化した夏希の巨大な触手が、容赦なく振り上げられる。

空気を引き裂く鋭い風切り音が、彼への死の宣告のように廃遊園地に響き渡った。

第5章:透き通る命、反逆の黒炎

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抵抗する気力すらなく、死を受け入れるように柊夜は静かに目を閉じる。

だが、彼の頭蓋を粉砕するはずだった凶刃は、直前で激しい火花を散らして弾き飛ばされた。

[Magic]《絶対防壁・概念置換》[/Magic]

淡く温かい光の結界が、柊夜の体をすっぽりと包み込んでいる。

目を開けると、目の前に立つ白雪の細い背中が、ゆらゆらと夏の陽炎のように不自然に揺れていた。

彼女の足元から、肉体がノイズ混じりの半透明に透け始めている。

[A:氷室 白雪:愛情]「いいんだよ、柊夜。君の罪も、過去の絶望も、私が全部、綺麗に食べてあげる」[/A]

振り返った白雪は、出会ってから今までで一番、人間らしくて優しい顔をして微笑んでいた。

自らの「存在概念」を盾として消費し、代償として、世界から『氷室白雪』という存在が物理的に剥がれ落ちていく。

柊夜のコートのポケットの中で、スマートフォンが激しく明滅する。

待ち受け画面に設定された二人のツーショット写真から、白雪の姿だけが、ザーッというノイズと共に砂のように崩れ去り、消え失せていく。

[Think]ふざけるな。[/Think]

[Think]夏希だけじゃない。こいつまで、俺の前から消えるっていうのか。[/Think]

[Think]俺のせいで。また、俺のせいで。[/Think]

冷え切っていた血液が、一瞬にして沸点に達する。

理不尽に奪い去ろうとする世界に対する激しい怒りが、真っ黒な炎となって全身の血管を暴走しながら駆け巡る。

痛覚の完全遮断。精神リミッターの全解除。

[A:神崎 柊夜:怒り][Shout]「ふざけるな……ふざけるな! 俺の罪は、俺が背負う!」[/Shout][/A]

[Pulse]ドクン、と空間そのものが心臓のように脈打つ。[/Pulse]

[A:神崎 柊夜:怒り][Shout]「もう誰も……絶対に、俺の前で消えさせやしない!」[/Shout][/A]

雄叫びと共に、柊夜の三白眼に、漆黒の異能の光が禍々しく宿った。

周囲の霧が、その凄まじいプレッシャーによって一瞬で吹き飛ぶ。

第6章:終わらせるための儀式

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[System]警告:存在の簒奪・臨界突破。肉体の自己崩壊の危険。[/System]

空間を黒く侵食する波紋が、周囲のアスファルトやメリーゴーランドの残骸を触れる端から塵に変えていく。

己の寿命と肉体を削り、深く封じ込めていた異能を極限の底まで引き出した柊夜は、弾丸のような速度で地を蹴り跳躍する。

迎え撃つように無数に襲い来る鋭利な触手が、黒のモッズコートを引き裂き、柊夜の脇腹や肩の肉を容赦なく貫通する。

だが、彼の歩みは止まらない。

口から大量の血を吐き、肉が千切れ飛ぶ激痛を、狂気じみた意志の力だけでねじ伏せる。

血まみれの単身で、怪異――夏希の懐へと深く飛び込んだ。

[A:神崎 柊夜:悲しみ][Whisper]「ごめんな、夏希。俺が、お前を終わらせる」[/Whisper][/A]

血と泥に塗れて震える右手で、彼女の胸の奥、核である心臓部を力強く鷲掴みにする。

冷たくて、石のように硬い、呪縛の塊。

それに触れた瞬間、ノスタルジックな記憶が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

二人で歩いた、オレンジ色に染まる通学路の夕焼け。

放課後の音楽室から聞こえる、彼女が弾く下手くそなピアノの音色。

金木犀の香りと、少し照れたような、彼女の柔らかい微笑み。

怪異の顔面が苦痛に微かに歪み、一瞬だけ、かつての夏希の優しい瞳が戻った。

[A:天音 夏希:愛情][Whisper]「……ありがとう、柊夜。やっと、終わらせてくれるのね」[/Whisper][/A]

その赦しの言葉とともに、天音夏希の巨大な体は、無数の温かい光の粒子となって夜空へと砕け散った。

指の隙間から、膨大な存在エネルギーがこぼれ落ちようとする。

柊夜は歯を食いしばり、それを一つ残らず全て喰らい尽くした。

そして、そのエネルギーを、消滅の縁で透けかけている白雪に向けて、黒い波紋を通して強引に、強制的に移植していく。

[Impact]世界を騙し、法則をねじ曲げる。[/Impact]

自分の存在がどうなろうと、代償など知るものか。

命の譲渡。

爆発的な眩い閃光が、死に絶えた廃遊園地を真昼のように白く照らし出した。

第7章:透明な僕らと、永遠のバグ

翌日の放課後。

オレンジ色の西日が、再び埃の舞う教室をじりじりと焼き焦がしている。

部活に向かう生徒たちの喧騒と笑い声。黒板を消すチョークの粉の匂い。

だが、柊夜の席に向かって歩いてくるクラスメイトは、彼を避けることもなく、まるでそこにある空気をすり抜けるように、彼の体を透過して通り過ぎていく。

教卓の前でプリントを整理する教師の視界にも、彼の姿は一切映っていない。

過剰な異能の行使と、他者への命のエネルギー移植の代償。

彼は「世界観測の枠組み」から完全に弾き出され、誰の記憶にも残らない、存在しない透明人間となった。

もう二度と戻らない、平凡で美しい日常の光景。

胸を締め付けるような強いノスタルジーが教室を満たしていく。

しかし、その絶対的な孤独の静寂を破る足音が一つだけ、彼のもとへと迷いなく近づいてきた。

[Sensual]

ダボダボのパーカーの袖から伸びた白い指が、柊夜の右手を強く、ひどく強く掴む。

骨が軋むほど痛い。もう絶対に、死んでも離さないと宣言するように。

見上げると、白磁の肌に銀色の髪を揺らした白雪が、鼻先が触れ合うほどの至近距離で彼を見つめていた。

[A:氷室 白雪:狂気][Whisper]「ふふ……世界中が君の存在を忘れても、私だけは、君の全部を覚えているし、持ってる。……これで、君は永遠に私だけのものだね、柊夜」[/Whisper][/A]

ガラス玉のようだった琥珀色の瞳の奥で、今や狂おしいほどの純愛と、完成された真っ黒な執着がドロドロに溶け合っている。

社会的な死。

誰にも認識されず、誰とも関われない牢獄のような世界。

だが、彼女のこの細い指先から伝わってくる体温と、甘い吐息だけは、間違いなく本物だ。

柊夜は微かに目を細め、気怠げな声で、誰もいない教室の空中に向けて吐き捨てる。

[A:神崎 柊夜:冷静]「……ああ、世界は今日も最悪にバグってる。でも――悪くない」[/A]

[/Sensual]

窓の外の夕闇が、身を寄せ合う二人の歪な影を、ゆっくりと黒く塗りつぶしていく。

誰にも見えないまま、誰にも邪魔されないまま。

彼らの狂った永遠が、静かに幕を開けた。

クライマックスの情景

【物語の考察】

本作は、他者の記憶と存在が失われる「バグ」に直面した主人公が、自己の罪と対峙し、最終的に「社会的な死(透明化)」を受け入れるプロセスを描いた、極めて退廃的で美しいダークファンタジーです。神崎柊夜が抱いていた「被害者としての嘘」が暴かれ、「加害者としての真実」が露わになるシーンは、人間の自己防衛本能と罪悪感の葛藤を見事に表現しています。最後に救済として描かれる白雪の狂信的な愛は、倫理的な正しさではなく、絶対的な関係性の肯定を求めた人間の究極の帰結です。

【メタファーの解説】

作中に登場する「赤いフィルムカメラ」は、失われた天音夏希との、かつて実在した「切り取られた美しい一瞬」の象徴です。また、白雪が貪る「ダブルチーズバーガー」というジャンクフードは、命を削る怪異との戦いや存在の消失といった「生と死の極限」に対比される、俗世的で凡庸な日常の象徴であり、歪な現実と日常を繋ぎ止めるアンカーの役割を果たしています。最後に二人が透明人間となり、世界から遮断される結末は、他者との関わりを失う恐怖ではなく、二人だけの閉じられた楽園の完成を意味しています。

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