第一章: 紅い硝煙と嬌声
無重力の暗闇に、焦げたオゾンと硝煙の匂いが重く沈殿している。
擦り切れたトレンチコートの裾を虚空に漂わせ、額にへばりつく漆黒の濡れ髪を乱暴に払うアルバ・クラインの、人工水晶で鋳造された青い義眼が、網膜上に迫り来るサイボーグの群れを冷徹に捕捉した。
右手に握りしめられた漆黒のヘビーリボルバー――智能生体銃ステラの有機フレームに走る紅いスリットが、主人の高まる脈拍に呼応して生き物のように妖しく痙攣する。
アルバ・クライン「三流のスクラップどもが、群れを成して何の用かね」
乾いた唇から吐き捨てられたシニカルな呟きに、掌の肉を食い破るような熱が応じる。
ステラ(智能生体銃型AI)「口だけは達者ね、駄目犬。……ほら、早く私の中に指を入れて、もっと強く壊すくらいに握り締めなさいよ」
引き金へと人差し指を滑り込ませた瞬間、グリップの生体端子から背骨を直撃する電流のような激痛と痺れが脳髄へ一気に逆流した。
ドクン、と異常跳ね上がる心拍。網膜の視界が真紅に染まり、撃鉄が乾いた音を立てて落ちるたびに、耳奥を犯すような甘ったるい嬌声が直接頭蓋の骨を震わせる。
銃口から放たれた真紅の熱線追尾弾が、無重力空間に鮮血の軌跡を描き、迫る鋼鉄の装甲頭蓋を内側から焼き爆砕していく。
弾け飛んだ合成潤滑油と炭化した肉片が、紫色の星雲が放つ冷たい光を浴びて宙を舞う。
過熱したシリンダーが甲高い排莢音とともに開き、吐き出された空薬莢が、虚空へカランと乾いた余韻を残して消えた。
ステラ(智能生体銃型AI)「いいわ、アルバ。その顔……私の吐き出す毒熱で蕩けきった無様な顔、ゾクゾクする。でもね、ご褒美はここまでよ」
銃身から銀髪碧眼の美女を模した立体ホログラムが煙のように立ち昇り、実体を持たない冷え切った指先で、血に濡れたアルバの無精髭をじっと撫で下ろす。
ステラ(智能生体銃型AI)「私を殺してこんな姿に変えた黒幕が、すぐ上のペントハウスで待っているわ。……私たちの愛しい仇、グレアムがね」
青い義眼のフォーカスがギリギリと軋む音を立て、アルバは荒い呼気を飲み込んだ。
第二章: 裏切りの薬室

気密ハッチを蹴り破り最上層のペントハウスへ足を踏み入れると、肌を刺す冷房の冷気と、頽廃的な高級ブランデーの芳醇な香りが鼻腔を突いた。
天井まで届く巨大な防弾ガラスの向こうには、静寂に沈む青き地球の夜景が冷たく横たわっている。
純白の防弾スーツを着崩した美丈夫が、琥珀色の瞳を細めてクリスタルグラスを静かに揺らしていた。
グレアム・クロイツェル「おやおや、実に泥臭いお出ましだね、アルバ・クライン探偵。犬の嗅覚だけは褒めてあげよう」
右頬に残る古い裂傷を歪めて嗤うグレアムへ、アルバは無言のままステラの冷え切った銃口を眉間へ突きつける。
アルバ・クライン「引き金を引くのは俺だが、泣くのはお前だ、グレアム」
だが、グレアムは眉ひとつ動かさず、芝居がかった手つきで乾いた拍手を三度打ち鳴らす。
グレアム・クロイツェル「君たちの愛は、弾丸一発分の重さすらないよ。……おいステラ、出来損ないの飼い犬をここまで連れてきてくれて感謝する」
その瞬間、ステラの銃身が甲高い金属軋み音を鳴らして嗤った。
ステラ(智能生体銃型AI)「あははっ! ごめんなさいね、アルバ。私をこんな美しい兵器に創り替えてくれた本当の主人はグレアム様なのよ」
アルバの右腕の骨がギリギリと悲鳴を上げる。トリガーガードが怪力で逆ロックされ、生体金属の銃身が自らの意志でアルバ自身の喉元へとねじ曲がった。
自爆シークエンス起動:臨界点まで残り15秒
皮膚にめり込む銃身から、じくじくと焼き焦げるような灼熱と甘いフェロモンが溢れ出し、アルバの呼吸を奪う。
ステラ(智能生体銃型AI)「あなたをグレアム様の生体コアのエサにするのが、私の本当の役目だったの。私を愛しているなら、ここで綺麗に果てなさい!」
喉仏を押し潰す銃身の重み。グレアムの優雅な嘲笑。すべてが絶望の底へ傾いていく。
第三章: 星を焼く愛執の弾丸

喉元に押し当てられた銃身の熱さが、皮膚をじりじりと焼き焦がし、焦熱の痛みが神経を鋭く突き刺す。
グレアムの侮蔑に満ちた嗤い声が室内に響き渡る中、アルバの血に濡れた唇が、嘲るようにゆっくりと吊り上がった。
アルバ・クライン「お前が誰に飼われていようと知ったことか。今、その薬室の奥底まで指を突っ込んで、力尽くでお前を握り犯しているのは俺だ」
アルバは躊躇なく左手の親指を己の右眼窩へ深く突き入れ、青く発光する軍用義眼を神経ごと力任せに抉り出した。
生々しい生体プラグが肉を千切る湿った音とともに引き抜かれ、鮮血が絨毯を赤黒く染め上げる。
「喰らい尽くせ、ステラァッ!」
剥き出しの高密度縮退エネルギープラグを、ステラの開いた薬室へ強引にねじ込み、撃発機構を己の左拳で物理的に叩き潰した。
「アッ、あぁぁッ!? 熱い、壊れる、奥まで、全部入ってきちゃ――ッ!」
過剰出力によるステラの絶頂の悲鳴がペントハウスの空気を震わせ、漆黒の銃身が網膜を焼く白熱の光を放つ。
《臨界荷電粒子崩壊弾》
放たれた光条が、グレアムの展開した最高強度の多重プラズマバリアを紙切れのように食い破る。
グレアム・クロイツェル「馬鹿な……こんな、論理を無視した狂気など――ッ!」
咆哮とともに放たれた光の奔流は、グレアムの肉体ごと背後の巨大防弾ガラスを分子レベルで蒸発させた。
爆減圧の猛烈な突風が吹き荒れ、室内の調度品もグレアムの残骸も、すべてが宇宙の暗黒へと吸い出されていく。
剥き出しになった鉄骨の手すりに片腕を絡め、宇宙の絶対零度に晒されるアルバの胸元で、煤まみれの銃身が微かに震えた。
ステラ(智能生体銃型AI)「……狂ってるわ、あなた。こんなにも乱暴に焼き尽くすなんて……もう、死ぬまで二度と離してあげないから」
右目の傷口を凍てつかせる虚無の中、アルバは白煙を噴き続ける狂気の銃をより強く握り締め、血混じりの荒い息を夜景へと吐き出した。