氷の城主は、偽りの花嫁を夜ごとに溶かす

氷の城主は、偽りの花嫁を夜ごとに溶かす

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第一章 凍てつく初夜

重厚な樫の扉が、軋んだ音を立てて閉ざされた。

カチリ、と鍵のかかる冷たい音が、広い寝室に響き渡る。

エレナは震える指先で、薄いシルクのネグリジェの裾を握りしめた。

月明かりだけが頼りの薄暗い部屋。

窓際に立つ長身の男が、ゆっくりとこちらを振り向く。

「……震えているのか」

低く、よく響く声。

この国の誰もが恐れる『氷の公爵』、セドリック・ヴァレンタイン。

彼は氷のように冷たい碧眼で、エレナを見下ろしていた。

「申しか訳ございません……閣下」

「なぜ謝る? 姉の身代わりとして売られた女が、怯えるのは当然だ」

心臓が早鐘を打つ。

バレていた。

稀代の美女と謳われた姉・リリアナの代わりに、地味で『出来損ない』と呼ばれたエレナが嫁いできたことなど、彼には最初からお見通しだったのだ。

エレナは床に膝をつき、頭を垂れた。

「どうか、お慈悲を……実家への報復だけは……」

足音が近づいてくる。

軍靴の音が、死刑執行のカウントダウンのように鼓膜を叩く。

革手袋に覆われた手が、エレナの顎を強引に上向かせた。

「報復? そんな面倒なことはしない」

セドリックの顔が近づく。

整いすぎた美貌は、彫刻のように無機質で、しかしぞっとするほどの色気を孕んでいた。

「代償は、お前の体で払ってもらう」

「え……?」

「俺は『リリアナ』など求めていなかった。俺が必要としていたのは、血の契約を満たすための生贄だ」

彼はエレナの手首を掴み、乱暴に引き立たせた。

そのまま天蓋付きの巨大なベッドへと放り投げられる。

ふわりと沈み込む羽根布団。

逃げる間もなく、セドリックの重厚な体が覆いかぶさってきた。

「あ……っ!」

「動くな」

耳元で囁かれただけで、背筋に電流が走る。

彼の吐息は熱い。

『氷の公爵』という二つ名とは裏腹に、触れ合う場所から火傷しそうなほどの熱が伝わってくる。

「いい匂いだ……絶望と、諦め。そして微かな期待の香り」

セドリックはエレナの首筋に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。

エレナには、特異な才能があった。

他人の感情が『匂い』や『温度』として感じ取れる共感覚。

今、彼女がセドリックから感じているのは、冷徹な殺意ではない。

もっとドロドロとした、飢餓感。

底なしの沼のような、執着の熱量。

(この人……寂しいの?)

そう思った瞬間、ネグリジェの胸元が乱暴に引き裂かれた。

第二章 支配の甘い味

絹が裂ける音と共に、冷気を含んだ夜気が肌を撫でる。

しかし、すぐにそれ以上の熱が素肌を侵略した。

セドリックの大きな掌が、エレナの腰を這い上がり、背中を鷲掴みにする。

「ひっ……!」

「声を出せ。俺にすべてを聞かせろ」

彼の唇が、鎖骨のくぼみに押し付けられる。

キスではない。

まるで獲物の味を確かめるような、執拗な愛撫。

舌先が肌の上を這うたびに、エレナの理性が少しずつ削り取られていく。

「あ、あぁ……閣下、だめ、です……」

「駄目? 何がだ? お前は身代わりの品だ。所有権は俺にある」

彼は嘲るように笑うと、エレナの両手首を片手で頭上に押さえつけた。

完全に無防備な姿。

恥ずかしさに頬を染めるエレナを見て、セドリックの瞳が怪しく揺らめく。

「その顔だ。その、支配されることへの悦びを隠しきれない顔が見たかった」

「ち、違います……私は……!」

「嘘をつくな。お前の体は正直だ」

彼の手が、太ももの内側をゆっくりと撫で上げる。

指先が際どい部分を掠めるたび、エレナの腰が勝手に跳ねた。

(違う、こんなの……私はただの身代わりなのに……)

けれど、彼の指が与える快楽は、思考を麻痺させる毒のようだった。

厳格で冷酷だと思っていた公爵が、今はただ一人の男として、エレナを貪ろうとしている。

その事実が、虐げられて育ったエレナの心を、奇妙な形で満たしていく。

「あっ、んんっ! そこ、は……っ!」

「ここか? それとも、もっと奥か?」

彼の指使いは巧妙で、残酷だった。

焦らすように円を描き、時折強く押し込み、エレナが最も感じてしまう一点を正確に暴き出す。

口からは、自分でも信じられないほど甘い声が漏れた。

視界が涙で滲む。

「泣くな。お前を壊すつもりはない……ただ、溶かしたいだけだ」

セドリックが低く囁き、エレナの唇を奪った。

強引で、しかしどこか縋るような口づけ。

口内を蹂躙される感覚に、エレナの意識は白く弾けた。

第三章 執着の正体

それから数日、エレナは部屋から出ることを許されなかった。

食事も、着替えも、すべてセドリックが管理した。

彼は公務が終わるとすぐに寝室へ戻り、エレナを抱いた。

まるで、体温を分け合わなければ死んでしまう獣のように。

「……エレナ」

うわ言のように名前を呼ばれ、抱きしめられる。

その力は強く、骨が軋むほどだ。

ある夜、事後の気怠い空気の中で、セドリックがぽつりと漏らした。

「俺の家系には、呪いがある」

彼はエレナの髪を指で梳きながら、独り言のように続けた。

「愛を知らぬまま育てば、心は凍りつき、やがて怪物となる……だが、運命の伴侶の熱だけが、その氷を溶かせるのだと」

エレナは、彼の胸板に指を這わせた。

そこにある心臓の音は、力強く、そして速い。

「私は……その伴侶ではないかもしれません。ただの身代わりです」

「いいや」

セドリックは否定した。

彼はエレナの指を口元へ運び、甘噛みする。

「リリアナでは駄目だった。あのような飾り物の人形には、俺の闇は受け止めきれない」

ぎろり、と碧眼が光る。

「お前だ、エレナ。虐げられ、それでも他人の痛みを理解しようとするお前の魂だけが、俺を満たす」

それは愛の告白というにはあまりに歪で、独占欲に塗れていた。

けれど、エレナにとっては、生まれて初めて必要とされた瞬間だった。

「閣下……」

「セドリックと呼べ。……命令だ」

「……セドリック様」

呼んだ瞬間、彼の理性の糸が切れる音が聞こえた気がした。

第四章 蜜月の牢獄

「そうだ、その名で俺を呼んで喘げ」

セドリックは再びエレナに覆いかぶさった。

今度は、先ほどまでの優しさはない。

飢えた獣が、獲物を喰らい尽くすかのような激しさ。

「あぁっ、あ! 深い、深いです……っ!」

言葉には出せない結合の感覚。

彼の一部が、エレナの最奥を容赦なく打ち据える。

身体の芯から突き上げられるたび、魂ごと揺さぶられるような衝撃が走る。

痛みと快楽の境界線はとうに消え失せていた。

「もっとだ……もっと俺を受け入れろ!」

「ああっ、セドリックさま、おかしく、なる……っ!」

「おかしくなればいい。俺以外、何も考えられないようにしてやる」

彼の腕が、エレナの腰を高く持ち上げる。

逃げ場のない体勢で、執拗に、深く、熱を注ぎ込まれる。

エレナの視界は快楽で明滅し、指先がシーツを強く握りしめた。

(私が、彼を溶かしている……?)

冷徹公爵と呼ばれた男が、今は汗にまみれ、苦しげな表情でエレナを求めている。

その事実が、何よりもエレナを興奮させた。

内側から湧き上がる愛おしさと、背徳的な悦び。

エレナは無意識に脚を絡め、彼をさらに奥へと誘った。

「っ……! お前という女は……」

セドリックが喉を鳴らし、動きを加速させる。

部屋中に響く水音と、二人の荒い呼吸。

世界が二人の熱だけで埋め尽くされていく。

第五章 永遠の刻印

どれくらいの時間が経っただろうか。

嵐のような情事が過ぎ去り、窓の外では白々と夜が明け始めていた。

エレナは力なくシーツに沈み込み、セドリックの腕の中に囚われていた。

身体中には、彼が刻みつけた所有の証――赤い痕が散らばっている。

「……逃がさない」

セドリックが、眠気を含んだ声で呟く。

「たとえお前の家族が何を言ってこようと、王命が下ろうと、お前は一生この城から出さない」

それは監禁宣言に近い。

けれど、エレナの胸に恐怖はなかった。

「はい……セドリック様」

エレナは彼の頬に手を添え、微笑んだ。

「私も、もうここ以外で生きられる気がしません」

共依存。

あるいは、呪いの共有。

けれど、その温もりだけは確かに本物だった。

セドリックは満足げに目を細め、エレナの唇に深い口づけを落とす。

「愛している、私のエレナ。……さあ、夜明けまでまだ時間がある」

「えっ、まだ……?」

「足りない。お前の全てが、骨の髄まで俺のものだと分からせるまでは」

再び熱を帯び始めた彼の視線に、エレナは観念して目を閉じた。

それは、甘く、どこまでも堕ちていく幸福な地獄の始まりだった。

AI物語分析

【主な登場人物】

  • エレナ: 虐げられた過去を持つ、自己評価の極端に低い令嬢。しかし、その「空虚さ」こそが公爵の激しい独占欲を受け入れる器となった。感情を感覚として捉える異能を持ち、言葉よりも肌の触れ合いで相手を理解する。
  • セドリック・ヴァレンタイン: 『氷の公爵』。冷酷無比と噂されるが、内面は呪いの影響で「他者の熱」に飢えている。完璧な姉リリアナではなく、傷ついたエレナの中に自分と同じ孤独を見出し、異常なほどの執着を見せる。

【考察】

  • 「氷」と「熱」の対比: 本作の核となるメタファー。セドリックの「氷」の異名は、実は内なる「渇き(熱)」を封じ込めるための鎧である。エレナとの接触によってのみ、その鎧が溶け、本来の情熱的な(あるいは破壊的な)本性が露わになる構造となっている。
  • 支配と依存の逆転: 形式上はセドリックがエレナを「支配」し「所有」しているが、物語が進むにつれて、彼こそがエレナの温もりなしでは生きられない「依存」状態にあることが示唆される。エレナもまた、彼に求められることで初めて自己存在を肯定できるため、この関係は極めて強固な共依存として完成する。
  • 「身代わり」の真実: 通常の物語では「身代わり」は負の要素だが、本作では「完璧な姉では癒せない傷を、不完全な妹だけが癒せる」という形で、欠落こそが価値であるというテーマを描いている。
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