偽りの初夜、暴かれる蜜月

偽りの初夜、暴かれる蜜月

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第一章 身代わりの生贄

重厚な樫の扉が、軋んだ音を立てて閉ざされた。

「……逃げ場はないよ、美玲(みれい)」

低い、地を這うようなバリトンボイスが鼓膜を震わせる。

私は豪華な天蓋付きのベッドの縁で、身を小さくしていた。

着慣れないシルクのネグリジェは、肌の上を滑り落ちそうなほど頼りない。

目の前に立つのは、九条(くじょう)アキラ。

日本経済界を牛耳る九条グループの若き総帥。

そして、私の姉の「はずだった」夫。

「申し訳、ありません……姉は、その……急な病で」

嘘だ。

姉は恋人と駆け落ちした。

多額の結納金を受け取った父に泣きつかれ、地味で取り柄のない私が、かつらと化粧で姉に成りすましている。

アキラがゆっくりと歩み寄ってくる。

長身痩躯。

仕立ての良いスリーピーススーツを脱ぎ捨て、シャツのボタンを乱雑に外す指先。

その動き一つひとつが、獲物を追い詰める肉食獣のように優雅で、残酷だ。

「病、ね」

彼は鼻で笑った。

ベッドサイドまで来ると、私の顎を強引に上向かせる。

冷たい指先。

けれど、その瞳の奥には、すべてを焼き尽くすような暗い炎が揺らめいていた。

「姉の沙織(さおり)は、薔薇の香水を好んでつけていたはずだ」

心臓が跳ねる。

バレている。

「でも、お前からするのは……雨上がりの土と、甘い蜜のような匂いだ」

アキラの顔が近づく。

彼の鼻先が、私の首筋をゆっくりと擦り上げた。

「ひっ……」

思わず声が漏れる。

彼の吐息が熱い。

首筋の産毛が逆立つほどの、濃厚な色気。

「震えているのか? それとも、期待しているのか?」

「ち、違います……私はただ……」

「黙れ」

唇が、塞がれた。

キスではない。

それは捕食だった。

私の唇を割り、舌が強引に侵入してくる。

逃げようとする私の舌を絡め取り、吸い上げ、蹂躙する。

「んっ、ふ……っ!」

息ができない。

酸素の代わりに、彼の味が、匂いが、私の体内を侵食していく。

頭が真っ白になる。

抵抗しなければならないのに、身体の奥底で何かが熱く疼き始めた。

それは、私がずっと隠してきた秘密。

姉の影に隠れ、誰にも愛されないと諦めていた私の、「女」としての本能。

アキラの手が、ネグリジェの薄い布越しに胸を鷲掴みにした。

「あ……っ!」

「いい声だ。姉よりもずっと、そそる」

彼は私の耳元で囁く。

その声は、甘い毒のように私の理性を溶かしていった。

第二章 香りの支配

視界が揺れる。

アキラに押し倒され、私は広大なベッドの海に沈んだ。

天井のシャンデリアが滲んで見える。

涙が目尻を伝った。

「泣くな。お前がここに来たのは、運命だ」

彼は私の涙を舌で舐め取った。

そして、ネグリジェの肩紐に指をかける。

するり、と布が滑り落ちる。

露わになった肌に、室内の空気が冷たく触れた。

だが、次の瞬間には、アキラの熱い掌がそこを覆っていた。

「あっ、や……あ……!」

彼の愛撫は執拗だった。

鎖骨の窪み、二の腕の内側、脇腹……。

敏感な場所ばかりを、ねっとりと這い回る。

まるで、私の身体の地図を塗り替えるように。

ここはお前のものじゃない、俺の領土だと言わんばかりに。

「美玲。お前は、自分の才能を知らない」

彼は私の胸元に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。

「才能……?」

熱に浮かされた頭で問い返す。

「俺は、匂いに敏感でね。嘘つきの匂い、強欲な匂い……そういう悪臭に囲まれて生きてきた」

彼の手が、太ももの内側へと滑り込む。

ビクリ、と背中が跳ねた。

「い、いやっ……そこは……!」

「沙織は、腐った百合のような匂いがした。だがお前は違う」

指先が、秘められた花園の入り口を弄る。

じわりと滲み出した蜜が、彼の指を濡らした。

「お前からは、俺を狂わせるフェロモンが出ている。鎮静と、興奮が入り混じった、極上の麻薬だ」

「あ、あっ、んんっ……!」

快楽の波が押し寄せる。

彼の指が動くたび、私の内側から熱いものが溢れ出す。

「嘘……だ……」

「嘘じゃない。俺が結納金を弾んだのは、沙織のためじゃない。最初から、お前を手に入れるためだ」

衝撃的な告白だった。

身代わりだと思っていた。

姉の代用品だと。

けれど、彼は最初から私を見ていた?

「俺のものになれ、美玲。骨の髄まで、魂の果てまで」

アキラの瞳が、獣のように怪しく光る。

彼は自身の熱く昂ぶった楔を、私の濡れそぼった入り口へとあてがった。

「もう、我慢の限界だ」

「アキラ、さん……っ!」

抵抗なんて、もうできなかった。

私の身体は、とっくに彼を求めていたのだから。

第三章 融合する魂

「うっ……ああっ!」

貫かれた。

鋭い痛みと共に、圧倒的な質量が私の中へ雪崩れ込んでくる。

身体が裂けそうだ。

けれど、その痛みが愛おしいとさえ感じる。

「きつい……っ、美玲、お前の中は、最高だ」

アキラが苦しげに喘ぐ。

彼の額から汗が滴り、私の胸に落ちる。

「動くぞ」

彼が腰を引く。

そして、激しく打ち付ける。

「あんっ、ああっ、あ! だ、だめっ、激し……っ!」

ベッドがきしむ音。

肌と肌がぶつかる濡れた音。

荒い呼吸。

すべてが混ざり合い、部屋中が濃密な熱気に包まれる。

アキラの動きは、乱暴でありながら、どこか慈しむようだった。

深い、深い場所まで侵略してくる。

私の存在そのものを書き換えるように。

「美玲、俺を見ろ。他の男のことなど考えられないようにしてやる」

「見てる……アキラさんだけ……見てる……っ!」

何度も、何度も。

絶頂の波が私を襲う。

視界が白く弾ける。

自分が自分でなくなっていく。

「っ、く……! 美玲……ッ!」

アキラの動きが最高潮に達する。

彼が私の奥深くまで潜り込み、熱い飛沫を解き放った。

「ああっ……んんっ……!」

私も同時に、果てた。

身体の中で脈打つ彼の鼓動を感じながら、私は意識を手放した。

そこにあるのは、屈辱でも、諦めでもない。

絶対的な「所有」による、背徳的な安らぎだった。

第四章 檻の中の幸福

翌朝。

鳥のさえずりで目を覚ますと、隣にはアキラが眠っていた。

普段の冷徹な仮面を外し、子供のように無防備な寝顔。

私はそっと、彼の手の甲に触れた。

昨夜の激しい行為の痕跡が、身体中の至る所に残っている。

キスマーク、指の跡。

それはまるで、所有の刻印のようだ。

「……起きたのか」

不意に、アキラが目を開けた。

まだ眠気の残る瞳が、私を捕らえる。

「おはようございます……アキラさん」

「アキラでいい。……それに、敬語も禁止だ」

彼は私の腕を引き寄せ、再びベッドの中へと引きずり込んだ。

「きゃっ!」

「まだ足りない。お前の匂いを嗅いでいないと、落ち着かないんだ」

彼は私の首筋に顔を埋め、深く息を吸う。

その感触に、昨夜の快楽がフラッシュバックして、身体が熱くなる。

「会社……行かなくていいの?」

「今日は休みだ。一日中、この部屋から出さない」

アキラの手が、再び私のネグリジェの下へと伸びる。

「……うん」

私は彼の首に腕を回した。

身代わり花嫁。

それは世間から見れば、悲劇のヒロインかもしれない。

けれど、この甘美な檻の中でなら。

私は喜んで、この独占欲の強い猛獣の餌食になろう。

彼の愛撫を受け入れながら、私は小さく微笑んだ。

ここは地獄か、それとも極上の楽園か。

アキラの指が秘所に触れた瞬間、私は思考を止め、ただ快楽の海へと身を投げ出した。

(了)

AI物語分析

【主な登場人物】

  • 美玲(みれい): 本作の主人公。姉の引き立て役として生きてきたため自己肯定感が低い。しかし、アキラにとっては唯一無二の「匂い」を持つ女性であり、彼を狂わせる鍵となる存在。
  • 九条アキラ(くじょう あきら): 冷徹と噂される巨大財閥の総帥。鋭敏すぎる嗅覚ゆえに世界を「悪臭」と感じていたが、美玲の香りだけが彼に安らぎと情欲を与える。独占欲の塊。

【考察】

  • 「嗅覚」というメタファー: 本作における「匂い」は、視覚的な美醜(姉と美玲の対比)を超えた、本質的な魂の相性を象徴している。アキラが美玲を選んだのは、外見という「包装紙」ではなく、中身という「真実」を嗅ぎ分けたからである。
  • 檻と自由の逆説: タイトルの「檻」は物理的な拘束を意味するが、美玲にとっては、誰からも必要とされなかった孤独な世界からの解放(=逆説的な自由)を意味する。アキラの独占欲に包まれることで、彼女は初めて自分の存在価値を実感する構造となっている。
  • 官能の描き方: 直接的な描写を避けつつ、「侵略」「熱」「溶ける」といった言葉を用いることで、肉体的な交わりが精神的な融合へと昇華される過程を描いている。
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