追放された清掃員、実は世界最強の『掃除屋』でした〜配信切り忘れで神業が全世界にバレてます〜

追放された清掃員、実は世界最強の『掃除屋』でした〜配信切り忘れで神業が全世界にバレてます〜

主な登場人物

カナタ (Kanata)
カナタ (Kanata)
19歳 / 男性
ボサボサの黒髪で目が隠れている。常に薄汚れた灰色のツナギを着用し、背中には巨大なモップ(実は古代遺物)を背負っている。
エレナ (Elena)
エレナ (Elena)
18歳 / 女性
透き通るような金髪と碧眼。神々しい白の聖衣を纏うが、配信外では爪を噛む癖があり、指先が荒れている。
コメ欄の古参ニキ (Old Genji)
コメ欄の古参ニキ (Old Genji)
不詳(40代推定) / 男性
(アバター)サングラスをかけた犬のアイコン。
14 4617 文字 読了目安: 約9分
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第1章: 泥濘と神話の掃き溜め

鼻腔を焦がす、鉄錆と腐卵の煮凝り。

カナタは、油と煤でまだらに汚れたツナギの襟元を無造作に掴み、鬱陶しそうに鼻を擦った。ダンジョンの湿気を吸って重くなった黒髪。それが簾のように垂れ下がり、彼の色素の薄い瞳を完全に覆い隠す。背中には、身長に匹敵する巨大なモップ――柄に不可解なルーンを刻んだ古びた清掃用具――が、漬物石のように鎮座していた。

「……置いてかれた、か」

独り言一つ。それすらも、暗闇の底へ吸い込まれ、消える。

足元には、置き手紙代わりのドローンカメラが一台。レンズの赤い光が明滅している。それはまるで、これから訪れる死を記録しようとするハゲタカの瞳。

『画面映えしない』。

『君がいると、配信の雰囲気が暗くなるの』。

聖女エレナの、鈴を転がすような声。脳裏でのリフレイン。

カナタは溜息を一つ吐き、ドローンのレンズを指で小突く。配信がつながっていることなど知る由もない。ただ、これが自分の遺書代わりになればいい。抱いたのは、諦念混じりの願いだった。

地響き。

胃袋を直接揺さぶる重低音と共に、闇の奥から「それ」は現れた。

Sランク指定災害魔物、『深淵の巨像(アビス・コロッサス)』。

岩石と鉱物が融合した二十メートル超の巨躯。溶岩のように赤く爛れた双眸。一歩踏み出すたびに迷宮の床が悲鳴を上げ、粉砕される。

「あーあ……また床が汚れる」

カナタの口から漏れたのは、恐怖の悲鳴ではない。仕事が増えたことへの愚痴。

彼は背中のモップを引き抜く。バサリ、と空気を打つ古びた布束。

巨像の拳が、天蓋を突き破る勢いで振り下ろされた。

質量による暴力。生物としての格の違い。

だが、カナタは逃げない。ボサボサの前髪の奥、瞳が億劫そうに細められただけ。

「頑固な汚れだなあ」

迫りくる岩石の拳。触れる、モップの先端。

――刹那。

衝撃音、なし。

触れた箇所から、物理法則が剥離していく。

岩石の結合が解かれ、分子レベルまで分解され、ただの砂粒への還元。巨像の腕が、肩が、胴体が、さらさらと音を立てて崩れ落ちる。

それは戦闘ではない。清掃。

世界というキャンバスに付着した異物を、消しゴムで擦り消すだけの事務作業。

砂の山と化した「元・神話級魔物」。その前で、カナタはモップを振って埃を払った。

「……ん、ここ、まだ拭き取れてないな」

ポケットから取り出した雑巾。巨像の核だった宝石を、キュキュッと磨き上げる。

その光景を映し出すドローンカメラの向こう側。

接続されたままのコメント欄は、戦慄と理解不能の熱狂で、滝のように流れていた。

第2章: 認識の断絶

《配信コメント》

『え?』

『今のCG?』

『いや待て、あれSランクのコロッサスだろ? 一撃だぞ?』

『攻撃魔法じゃない……消えたぞ、物理的に』

『清掃員のお兄さん、何者???』

カナタは知らない。

自分が「ただの粗大ゴミ処理」だと思って行った作業が、地上では国家予算規模の討伐作戦に匹敵することを。

彼は淡々と、モップを走らせるのみ。

ダンジョンの壁にへばりつく粘液状の魔物(スライム)。

カナタにとっては「しつこいカビ」に過ぎない。

「よいしょ」

手首のスナップ一閃。魔物は悲鳴を上げる間もなく、純粋な水と酸素に分解。空気中へ霧散する。

「僕みたいな底辺は、綺麗にするしか能がないから」

モップをバケツの水ですすぎながら、カナタが独りごちる。

その背中は小さく、丸まっていた。常に誰かに謝っているような、存在そのものが恐縮しているような姿勢。

ツナギの袖口は解れ、肌には無数の切り傷。だが、彼は痛みを感じていないようだった。心に穿たれた穴の方が、遥かに深く、痛い。

《配信コメント》

『Old_Genji: お前ら、瞬き厳禁だぞ。これは神話の再現だ。三十年前に一度だけ見た、伝説の分解スキル……いや、それ以上の純度だ』

『Genjiニキが言うならマジか』

『底辺って言ってるけど、やってること神の御業なんだが』

『彼を捨てたパーティ、今ごろ顔面蒼白じゃね?』

一方、地上。

聖女エレナのチャンネルは炎上していた。

『清掃員を捨てて逃げた』という事実。カナタの映像が拡散されるにつれ、彼女の清廉なイメージをどす黒く塗りつぶしていく。

しかし、深淵にいるカナタにそんな喧騒は届かない。

ドローンに向かって、困ったように頭を掻く少年。

「……あ、電池切れそうかな。ごめんね、映えない映像で。どうせ誰も見てないだろうけど」

その自虐。世界中の視聴者の胸を鋭利な刃物のように抉る。

誰も見ていない?

違う。今、世界中の視線が、薄汚れたツナギの少年に釘付けになっている。

彼がモップを振るうたび、死が「掃除」され、静寂が訪れる。そのカタルシス。その哀愁。

画面越しに見る彼は、汚物まみれの清掃員などではない。

静寂を纏った、無自覚な守護神。

第3章: 偽りの聖女と瓦礫の王

「見つけたわ、カナタ!」

静寂を引き裂く、ヒステリックな金切り声。

弾ける転移魔法の光。歪む空間。

現れたのは、透き通るような金髪をなびかせた聖女エレナ。純白の聖衣は一点の曇りもなく、深淵の泥濘とはあまりに不釣り合い。

だが、カナタの目は見逃さない。

彼女の美しい指先。その爪が、ギザギザに噛み砕かれ、ささくれ立っている事実を。

「エ、エレナ様……? どうしてここに」

カナタが後ずさる。

エレナの碧眼、そこに渦巻く狂気的な焦燥。

「配信よ! カメラをこっちに向けなさい!」

彼女はカナタのドローンを無理やり掴み、自身の顔に向けた。

「皆様! ご心配をおかけしました! わたくし、はぐれてしまった彼を助けに戻って参りましたの! 愛が、奇跡を起こしました!」

嘘。

カナタの喉が干からびる。

彼女は助けに来たのではない。カナタの手柄を横取りし、落ちた数字(同接)を回復させるための帰還。

「さあカナタ、あの奥にいる『主』を倒しなさい。私のバフのおかげだと言ってね。そうすれば、パーティに戻してあげる」

甘い毒のような囁き。

以前のカナタなら、尻尾を振って従っただろう。

だが、今の彼には見えてしまっていた。

彼女の背後に広がる、数字と虚栄に塗れた汚泥が。煌びやかな冒険者の世界などない。あるのは、他人を踏み台にして高みを競う、醜悪なピラミッド。

「……嫌です」

「は?」

「僕は、もう誰かのゴミ箱になるのは御免です」

拒絶。

その瞬間、エレナの顔が般若のように歪んだ。

「この……役立たずのゴミ屑がぁぁぁ!!」

振り上げられる杖。暴発する過剰な魔力。

それが引き金だった。

深淵の最奥、封印されていた災厄『腐敗の王』。高濃度の魔力に反応し、覚醒する。

黒いタールのような濁流が、エレナを、カナタを、そしてカメラを飲み込もうと溢れ出した。

「きゃあああ! 何これ、汚い、嫌ぁぁぁ!」

聖衣を汚され、錯乱して逃げ惑うエレナ。

カナタは立ち尽くしていた。

「……ああ、やっぱり」

膝から力が抜け、泥の中に沈み込む。

「世界は汚れている。僕には、拭き取れない」

絶望が、冷たい泥水のように肺を満たしていく。

第4章: 汚れなき世界のために

黒く塗りつぶされる視界。

息ができない。肺が焼ける。

『腐敗の王』の瘴気は、触れたものを腐らせ、土へと還す。エレナの悲鳴さえも途絶えた。

このまま終わる。それでいい。どうせ自分は、誰からも必要とされない背景(モブ)なのだから。

――ふざけんな!

脳内に響く、ノイズ混じりの声。

幻聴か? いや、違う。ドローンのスピーカーだ。

『立てよカナタ! お前はゴミなんかじゃない!』

『Old_Genji: 立て! その力は、消すためじゃない。あるべき姿に戻すための祈りだ!』

『死ぬな!』『お願い、生きて』『あんたの掃除、まだ終わってないだろ!』

声。声。声。

何千、何万という他者の意思が、濁流となってカナタの鼓膜を叩く。

それは罵倒ではない。嘲笑でもない。

彼が生きていてほしいと願う、悲痛なまでの「祈り」。

心臓が跳ねた。

冷え切っていた指先に、戻る熱。

カナタは泥の中で目を見開いた。前髪の隙間から、初めて世界を直視する。

汚い? 違う。

泥の下には、まだ息をしている地面がある。腐敗の向こうには、誰かが待っている明日がある。

「……うるさいな、もう」

カナタは立ち上がった。

弾け飛ぶ足元の泥。

ツナギはボロボロだ。髪は泥まみれだ。

だが、その瞳だけが、恒星のような輝きを放っていた。

「掃除の、時間だ」

構えるモップ。呼応する神器、放たれる眩い光。

それは破壊の光ではない。浄化の光。

『腐敗の王』が、黒い触手を無数に伸ばし、世界を侵食しようと迫る。

カナタは叫んだ。喉が裂けんばかりの咆哮。

「そこをどけぇぇぇぇ!! まだ拭き掃除の途中なんだよぉぉぉ!!」

一撃。

モップが空間を凪ぐ。

その軌跡が、世界を書き換えていく。

腐敗が、悪意が、理不尽が、こびりついた汚れのように剥がれ落ちる。

黒いタールは清らかな水へ。悪臭は花の香りへ。

エレナを蝕んでいた毒も、カナタ自身の心の傷も、すべてが光の中に溶けていく。

「綺麗に……なれぇぇぇッ!!」

視界が真っ白に染まった。

それは、あまりにも暴力的なまでの、純白の救済。

第5章: 名もなき英雄の朝

鳥のさえずりが聞こえる。

カナタはゆっくりと目を開けた。

そこは、あの陰惨な深淵の底とは思えない場所。

見渡す限りの花畑。天井の岩盤は消え去り(あるいは透明化し)、柔らかな朝陽が降り注いでいる。

「……やりすぎちゃったかな」

カナタは苦笑し、手元を見た。

長年連れ添った巨大なモップは、ただのボロボロの木の棒になっていた。ルーン文字は消え、神器としての力は完全に失われている。

代償としてのスキル喪失。

もう、あの神業のような《分解》は使えない。

「ま、いっか」

彼は棒を杖代わりに立ち上がる。

ドローンは地面に落ちて壊れていた。最後の瞬間、彼の穏やかな笑顔を映して、配信は途切れたはずだ。

数日後。街の大通り。

朝の喧騒の中、一人の清掃員が竹箒を動かしていた。

新しいツナギは少しサイズが合っていない。黒髪は相変わらずボサボサで、目元を隠している。

「あ、すみません」

通勤途中のサラリーマンが、飲み終わったコーヒーの空き缶を落とした。

清掃員の青年は、何も言わずにそれを拾い上げ、分別用の袋に入れる。

「ありがとうございます」

サラリーマンが何気なく言った。

その言葉に、青年――カナタは、箒を止めた。

前髪の奥で、瞳が少しだけ潤む。

彼は深く、深く頭を下げた。

「いいえ、仕事ですから」

誰も彼が、数日前に世界を救った英雄だとは気づかない。

だが、彼が通り過ぎた後の道は、塵一つなく清められ、朝陽を浴びてキラキラと輝いている。

街を行き交う人々は、その清々しい空気を胸いっぱいに吸い込み、今日という一日を歩き始める。

静かで、当たり前で、何よりも尊い日常が、そこにあった。

クライマックスの情景

AI物語分析

【物語の考察:清掃という名の「秩序」】

本作において、主人公カナタが行う「清掃」は単なる衛生管理ではない。それは、エントロピー(無秩序・腐敗)に対する「秩序の回復」のメタファーである。冒険者たちが暴力(破壊)によって魔物を倒すのに対し、カナタは「あるべき姿に戻す(分解・還元)」というプロセスを経る。これは、世界を傷つけることなく救済する唯一の手段であり、彼が「聖女」以上の聖性を帯びていることの証明となっている。

【メタファーの解説:モップと聖杖】

カナタの「汚れたモップ」とエレナの「煌びやかな杖」は、対比的な象徴として機能している。杖は権威と虚栄の象徴であり、最終的に持ち主を破滅させる。一方、モップは「誰にも見向きされない底辺」の象徴だが、汚れを吸い取る献身の証でもある。最終的にモップがただの木の棒に戻る描写は、カナタが「英雄」という役割(重荷)からも解放され、真に愛する「日常」へと帰還したことを示唆している。

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あなたのアイデアをAIに与えて、この物語の続きや、もしもの展開を創作してみましょう。

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