【訃報】勇者アレン、死亡確認。

【訃報】勇者アレン、死亡確認。

主な登場人物

九条 蓮(レン)
九条 蓮(レン)
21歳 / 男性
ボサボサの黒髪で前髪が長く、目は死んだ魚のように光がない。服装は血と泥で汚れた実用的なタクティカルベストに、安物の作業用ズボン。背中には遺体袋(ボディバッグ)を常に背負っている。
カイラ・ステラマリス
カイラ・ステラマリス
19歳 / 女性
手入れされたプラチナブロンドの縦ロール。瞳は宝石のような碧眼。純白に金の刺繍が入った、露出度は低いが体のラインが出る高級な聖職者風ドレスアーマーを着用。
アレン(勇者)
アレン(勇者)
享年20歳 / 男性
半透明の幽霊姿。生前は輝くような金髪だったが、今は血に濡れてくすんでいる。胸には致命傷となった大きな穴が開いている。装備は伝説級のミスリルプレートだが、ボロボロに砕けている。

相関図

相関図
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第一章: 死体は語る

湿った空気が運ぶのは、腐敗臭と鉄錆の匂い。地下迷宮の最深部、光源なき闇の中を歩く男が一人。

九条蓮(レン)。洗われていない黒髪は脂ぎった束となり、額に張り付く。その奥底にある瞳は、海底に沈んだガラス玉。光を吸い込み、生気を一切反射しない虚無の眼差しだ。纏うのは幾層もの血痕と泥に塗れた安物のタクティカルベスト。そして背中には、彼自身の体積ほどもある分厚い黒色の遺体袋(ボディバッグ)が、ずしりと肉の重みを主張して食い込んでいる。

[A:レン:冷静]「……回収完了。重いな、あんた」[/A]

レンのかすれた声が岩壁に吸い込まれる。右手のスマートフォンに浮かぶ冷ややかな文字。「視聴者数:0」。

ここは煌びやかな攻略配信とは無縁の場所。死体回収屋の職場だ。

無造作に歩を進めるレン。崩落した瓦礫の陰に転がる「それ」を見つける。

伝説級のミスリルプレートは砕け散り、胸の中央には向こう側が透けるほどの大穴。かつて黄金色だったであろう髪は、凝固した血液で赤黒い塊と化していた。

国民的英雄、勇者アレン。

[Think](バカな……今の今まで、地上波でトップニュースになっていたはずだ)[/Think]

震える指先でスマホの別ウィンドウを開くレン。動画サイトのトップには、『勇者アレン、深層ボス・ケルベロス攻略中!』の文字が踊る。数千万人が熱狂するライブ配信。画面の中のアレンは、無傷の笑顔で聖剣を振るっているではないか。

ならば、目の前に転がる冷え切った肉塊は何だ?

喉が渇き、呼吸が浅くなる。その時、視界の端で揺らめく青白い燐光。

[A:アレン:悲しみ]「……嘘だ……僕は、ここにいる……」[/A]

肉体から抜け出した半透明の青年。胸の大穴から零れるのは血ではなく、儚い光の粒。

アレンの霊体は、スマホの画面の中で笑う「自分」を見つめ、目を見開いたまま凍りつく。

[A:アレン:絶望]「あれは僕じゃない……! 僕は殺されたんだ、仲間に、カイラに!」[/A]

霊体の瞳から零れ落ちる赤い雫。それは地面に触れることなく霧散した。

[A:レン:冷静]「……カイラだと? あの聖女がか」[/A]

[A:アレン:懇願]「お願いだ、回収屋さん。僕の死を、世界に証明してくれ。このままじゃ、僕は死んでからも操り人形だ……!」[/A]

レンは遺体袋を下ろす。静寂を切り裂く、ジッパーの乾いた音。

死んだ魚のような目にともる、わずかな灯。それは義憤ではない。もっと昏い、執念の火。

[A:レン:冷静]「……契約成立だ。ここからは、死んだあんたの時間だ」[/A]

カメラを死体に向け、配信タイトルを書き換える。その瞬間、スマホの画面がノイズで激しく明滅した。

『警告:不正な干渉を検知しました』

システム通知と共に迷宮の奥底から膨れ上がる、かつてないほどの殺気。レンの肌が粟立った。

◇◇◇

第二章: 嘘塗れの英雄

『同接:5人』『同接:1,200人』『同接:50,000人』

異常な速度で跳ね上がる数字。

[A:レン:冷静]「これが勇者の最期だ。よく見ておけ。あんたたちが崇める『配信中のアレン』は、精巧な魔法映像(ディープフェイク)だ」[/A]

冷徹なカメラワーク。砕けた鎧の断面、傷口の壊死具合、死後硬直の始まった指先。感傷を排し、突きつけられる物質的な事実。

だが、コメント欄を埋め尽くすのは罵倒の嵐。

『グロ画像通報』『アレン様は今戦ってるだろw』『売名乙』『死ねゴミ』『AI生成だろこれ』

[A:アレン:悲しみ]「なんで……どうして信じてくれないんだ……!」[/A]

頭を抱え、激しく点滅する半透明の体躯。

その時だ。レンのスマホに強制割り込みが入る。画面いっぱいに映し出されたのは、宝石のような碧眼と、手入れされたプラチナブロンドの縦ロール。聖女カイラ。

[A:カイラ:冷静]「あーあ。見つかっちゃったか。汚いネズミが紛れ込んでると思ったら」[/A]

純白のドレスアーマーの埃を払い、汚物を見るような目でレンズ越しにレンを見据える彼女。背景には、先ほどまで「アレン」が戦っていたはずのボス部屋。だが、そこに勇者の姿はない。

[A:レン:冷静]「……本性を現したな」[/A]

[A:カイラ:嘲笑]「ねえ、底辺回収屋さん。その死体、どうするつもり? アレン君はね、視聴率が落ちてきたから『名誉の戦死』を演出して引退させる予定だったの。それを勝手にネタバレされちゃ、困るのよねぇ」[/A]

指を鳴らすカイラ。

映像の奥から現れる、黒い装備に身を包んだ数十人の男たち。クラン直属の暗殺部隊「影(シャドウ)」だ。

[A:カイラ:狂気]「全国民が私の味方よ? 貴方はただの『勇者の装備を剥ぎ取ろうとした冒涜者』として死ぬの。……さあ、殺して」[/A]

迫る足音。迷宮の通路を塞ぐように押し寄せる殺意の壁。

レンはアレンの遺体を背負い直し、タクティカルベストのポケットから発煙筒を抜く。

[A:レン:焦燥]「アレン、掴まってろ! 走るぞ!」[/A]

だが、退路であるはずの背後の壁が、轟音と共に崩れ落ちた。

◇◇◇

第三章: 奈落への追放

逃げ場はない。

追い詰められた瓦礫の山。右肩には矢が突き刺さり、作業用ズボンは自身の血で濡れて重い。

眼前には宙に浮く聖女カイラ。その掌に集束するのは聖なる光魔法。慈愛などない、焼却のための熱量。

[A:カイラ:興奮]「素晴らしいわ! 貴方のおかげで『勇者を殺した凶悪犯の討伐』という新しいイベントが組めた! 同接見てよ、一億人突破!」[/A]

彼女が指差す空中のホログラム。流れるのは、レンを「殺人鬼」と呼んで呪う無数のコメント。

[A:レン:怒り]「……ふざける、な……!」[/A]

歯が砕けるほど噛み締め、ナイフを構えるレン。だが、圧倒的な魔力の奔流が彼を襲う。

閃光。レンの左腕――遺体袋を支えていた腕が、根元から消し飛んだ。

[Shout]ぐあぁぁぁぁぁぁぁッッ!![/Shout]

脳髄を焼く激痛。視界が白く弾ける。

バランスを失った体は、背負っていたアレンの遺体と共に、迷宮の裂け目「廃棄層(アビス)」の縁へと吹き飛ばされる。

[A:アレン:絶叫]「レンさん!!」[/A]

[A:カイラ:冷笑]「さようなら、ゴミクズ。地獄の底で、誰にも知られずに腐りなさい」[/A]

嘲笑と共に放たれた追撃の爆風。レンの胸を打つ衝撃。

体が宙に浮く。支配するのは重力のみ。底なしの闇へ。

落下しながら見たもの。遠ざかる光の入り口で、カメラに向かい「悲劇の聖女」を演じ始めるカイラの姿。

そして、ちぎれた自分の左腕が、まだアレンの遺体袋を握りしめたまま、一足先に闇へ吸い込まれていく光景。

[Think](終わる、のか……? 何も、伝えられないまま……)[/Think]

鼓膜を破る風切り音。意識が闇に溶ける。

だが、その完全な暗闇の中で、レンは聞いた。

『……寒い』

『痛い』

『帰りたい』

『誰か』『誰か』『誰か』

一つではない。百、千、いや万の怨嗟。

この廃棄層に捨てられた、名もなき冒険者たちの魂の声が、脳内に直接流れ込んでくる。

[System]条件達成:生死の境界を突破しました。[/System]

[System]固有スキル『死体回収』が『死者との共鳴(ネクロ・リンク)』に進化しました。[/System]

[Think](うる、さい……いや、違う。これは……)[/Think]

暗黒の底。レンのカッと見開かれた瞳だけが、青白く、凶々しく発光した。

◇◇◇

第四章: 冥界からのハッキング

軋む全身の骨。だが、痛みはない。

レンの体にまとわりつく無数の半透明な手。それらは損傷した肉体を強引に繋ぎ止めている。失った左腕の場所には、高密度の霊気が渦巻き、青白い「義手」を形成していた。

[A:アレン:驚き]「レンさん……その姿……」[/A]

[A:レン:冷静]「……聞こえるか、お前たち」[/A]

虚空への問いかけ。闇の奥から浮かび上がる無数の青い瞳。

剣を折られた戦士、毒に冒された魔術師、裏切られた盗賊。何千という死者たちが、レンを「希望」として見つめる。彼らはレンの「視聴者」であり、同時に最強の「サーバー」だった。

地上では、カイラによる「勇者追悼・涙の謝罪会見」の最中。

巨大なスタジアム、数億人が見守るモニターの中、喪服に身を包んだカイラが嘘の涙を拭う。

[A:カイラ:悲しみ]「アレンは……卑劣な回収屋レンの手にかかり……うっ……でも、私は負けません! 彼の遺志を継いで……!」[/A]

『カイラちゃん頑張って!』『スパチャ¥50,000』『レンを許すな』

その完璧な独演会を、地獄の底から見上げる男がいた。

霊気で構成された左手が、虚空に浮かぶ不可視のキーボードを叩く。死者たちの怨念が、莫大な演算能力となって回線を食い破る。

[A:レン:狂気]「時間だ。全員、起きろ。特等席を用意してやる」[/A]

[Magic]《ゴースト・サーバー・オーバーライド》[/Magic]

[Shout]接続開始(コネクト)ォォッッ!![/Shout]

一斉に砂嵐に包まれるスタジアムの巨大モニター。

世界中のスピーカーから鳴り響く不快なノイズ。

驚愕に顔を引きつらせるカイラ。その瞬間、ノイズの向こうから、地を這うようなレンの声が響き渡った。

『――聞こえるか、生者ども。』

切り替わる画面。

映し出されたのは、真っ暗な闇の中、青白い鬼火を背負い、死者たちの軍勢を従えたレンの姿。そして、その隣には、血の涙を流す「本物」の勇者アレンが立っていた。

『ここからは、死んだ奴らの時間だ。』

◇◇◇

第五章: 鎮魂の歌

「な、何なのこれは!? 放送を切りなさい! 今すぐ!!」

マイクを通して響くカイラの絶叫。だが、モニターの映像は微動だにしない。

レンが構築した『死者回線』。現世のネットワーク物理層を介さない、霊的な干渉によるジャックだ。電源を抜こうが、ケーブルを切断しようが、その映像は人々の網膜に直接焼き付けられる。

[A:レン:冷静]「カイラ・ステラマリス。お前が『廃棄』した証拠を、すべて見せてやる」[/A]

レンが指を振るう。

次々と展開される映像の数々。

アレンの背後から剣を突き立てるカイラ。

「視聴率が落ちたから」と笑いながら仲間を毒殺するカイラ。

そして、裏の実行部隊にレンの抹殺を命じる音声データ。

それらは全て、廃棄層に彷徨っていた死者たちの記憶(アーカイブ)から抽出された、紛れもない真実。

「ひ、ひぃ……! 違う、これは合成よ! 偽物よ!」

髪を振り乱し、ドレスの裾を踏んで転倒するカイラ。その醜態もまた、全世界への配信素材。

コメント欄の流れが変わる。

『え、マジ?』『合成にしてはリアルすぎる』『アレンの幽霊、本物じゃね?』『人殺し』『詐欺師』

賞賛の嵐は、一瞬にして憎悪の濁流へと反転した。

[A:アレン:決意]「カイラ。僕は君を恨まない。でも、もう二度と、誰の命も踏みにじらせはしない」[/A]

スタジアムのホログラム装置を乗っ取り、巨大な姿となってカイラを見下ろすアレンの霊体。その神々しくも悲しい光に照らされ、カイラは腰を抜かし、失禁しながら後ずさる。

築き上げられた虚構の城。それは音を立てて崩れ去ったのだ。

◇◇◇

騒動から数日後。

カイラはクランを追放され、詐欺と殺人教唆の罪で捜査の手が入った。かつての栄光は見る影もなく、彼女はインターネットの歴史における最大の汚点として記録されることとなる。

だが、レンが地上に戻ることはなかった。

廃棄層の片隅。

瓦礫の下から新たな遺体を見つけ出すレン。まだ若い、駆け出しの魔法使いの少女だ。誰にも見つけられず、冷たくなっていた彼女。

[A:レン:優しさ]「……見つけたぞ。怖かったな」[/A]

霊気でできた左手で、彼女の乱れた髪を優しく撫でる。

周囲には、アレンをはじめ、数え切れないほどの霊たちが穏やかな光を放って浮遊していた。

スマホを取り出すレン。圏外の表示が出ているが、彼独自の回線は生きている。

視聴者は、たった一人。この少女の帰りを待っている、故郷の母親だけだ。

[A:レン:冷静]「……配信開始。お母さん、聞いてくれ」[/A]

レンの声は、以前のような乾いた響きではない。静かな体温を帯びていた。

[A:レン:優しさ]「君の大切な人は、最期まで立派に戦ったよ。……ここからは、彼女が生きた証の話をしよう」[/A]

暗闇の中、レンは語り始める。

誰にも看取られず死ぬ冒険者の、その最期の輝きを。

それは、彼にしかできない、世界で一番優しい弔いの物語だった。

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