血塗られた純白の誓い ~私を狂わせたのは、あなたの優しすぎる嘘でした~

血塗られた純白の誓い ~私を狂わせたのは、あなたの優しすぎる嘘でした~

主な登場人物

リリア・ヴァンデレール
リリア・ヴァンデレール
20歳 / 女性
純白のウェディングドレスは赤黒く染まっている。銀色の長い髪、透き通るような青い瞳で三白眼気味。儚げだが芯の強さを感じさせる顔立ち。
レイノルド・アシュクロフト
レイノルド・アシュクロフト
22歳 / 男性
黒のタキシード。漆黒の短髪に、鋭く冷酷な金色の瞳。長身で引き締まった体躯。左目元に古い傷跡がある。
シオン・クラウス
シオン・クラウス
21歳 / 男性
ラフな白のシャツにサスペンダー。茶色の癖毛に、常に薄ら笑いを浮かべる緑色の瞳。丸眼鏡をかけている。
エリス・ノース
エリス・ノース
20歳 / 女性
タイトな黒のスーツ。深紅のボブヘアに、意志の強い灰色の瞳。常に手袋をしている。

相関図

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■ 第1章:血塗られた誓いの口づけ ■



ステンドグラスを透過した七色の光。それが純白のウェディングドレスを残酷なほど鮮烈に照らし出す。

だが、その腹部から下はすでに粘つく赤黒い染みに侵食されていた。

指先から滴る生温かい液体。大理石の床に弾け、おぞましい模様を描く。

銀色の長い髪が揺れた。

透き通るような青い瞳が、眼前の男を冷徹に射抜く。


リリア・ヴァンデレール「あなたを殺すためだけに、私は生きてきたの」

レイノルド・アシュクロフト「……知っている」


漆黒のタキシード。引き締まった胸板の中心には、銀の短剣が深々と突き刺さっている。

黒い短髪の下。左目元の古い傷跡を歪め、男は金色の瞳を細めて嗤った。



刃を握る手が、ガタガタと震える。

レイノルドは抵抗するどころか、自らの血に濡れた腕で、リリアの細い腰を強引に抱き寄せた。

熱い吐息が耳元を掠める。むせ返るような鉄の匂い。それが鼻腔を激しく焼いた。

レイノルド・アシュクロフト「俺を憎め。その憎悪だけが、お前を生かす鎖だ」

血の味が混じる唇が、無理やり重なる。

ドクン、と。

互いの体温が交じり合い、皮膚の境界が溶け出すような錯覚に陥った。



その瞬間。

ドゴォォォンッ!!

鼓膜を破る轟音。

教会の巨大なステンドグラスが粉々に吹き飛び、色鮮やかな硝子の雨が降り注ぐ。

視界が揺れる。

硝煙の奥から黒装束の武装集団が雪崩れ込み、抵抗もせず崩れ落ちたレイノルドの体を、容赦なく引きずり出していった。



■ 第2章:死臭の記憶と狂った羅針盤 ■



ドクン、ドクン。

心臓の音が煩い。泥水が跳ね、剥き出しの太ももを冷たく打つ。

引き裂かれたウェディングドレスを引きずりながら、暗い路地裏をひたすら駆け抜けた。

手のひらにこびりつく、肉を裂き骨を擦る生々しい感触。

脳髄の奥底で、何度も反響している。


……私は、やり遂げた。5年前の今日、家族を惨殺したあの男に。


シオン・クラウス「いやぁ、お疲れ様っす。見事な一撃でしたねぇ」


闇の中。丸眼鏡の奥の緑色の瞳が、不気味な三日月型に歪む。

白いシャツにサスペンダー姿。茶色の癖毛を掻き毟りながら、シオンが薄ら笑いを浮かべていた。


リリア・ヴァンデレール「……彼を連れ去ったのは、どこの組織ですか」

シオン・クラウス「座標は特定済みっすよ。まさか、あそこに逃げ込むとはねぇ」


シオンが差し出した地図の印。

それを見た瞬間、呼吸が止まる。

帝都の最下層。5年前、血の海に沈んだヴァンデレール家の廃洋館。

没落後、レイノルドに屈辱的な契約結婚を強いられ、この体を捧げることを誓った夜の嫌悪感。

胃液が逆流し、強烈な吐き気が喉の奥から這い上がってきた。



■ 第3章:忠犬の咆哮と記憶の亀裂 ■



軋む扉を押し開ける。

腐った木材とカビの匂いが肺を侵食した。

月明かりしか届かない玄関ホール。極度の暗闇に、息が極端に浅くなる。

シュガァァンッ!

頬の横を、見えない熱の塊が通り過ぎた。

背後の壁が、粉々に弾け飛ぶ。


エリス・ノース「あの方の覚悟を、あなたごときが穢すな!」


暗闇から躍り出たのは、タイトな黒いスーツに身を包んだ女。

深紅のボブヘアを振り乱し、意思の強い灰色の瞳が強烈な殺意を放つ。

黒い手袋に握られたタクティカルナイフ。それが、真っ直ぐに喉元へ迫った。


リリア・ヴァンデレール「っ……!」

咄嗟に隠し持っていた護身用の刃で弾き返す。

だが、すさまじい衝撃で右腕の感覚が完全に消失した。


エリス・ノース「あの方は……あなたを生かすためだけに、全てを捨てたのに……っ!」


血を吐くようなエリスの叫び。

ガガ……ピーッ……

その言葉が脳髄に触れた瞬間、視界に激しいノイズが走った。

5年前のあの日。血溜まりの中に立つレイノルド。

だが、彼の背後に……。

見知らぬ、笑う男の影。

リリア・ヴァンデレール「何を……言っているの……?」



■ 第4章:反転する世界、嘲笑の黒幕 ■



エリスの猛攻を間一髪で躱し、床が崩落した地下室へと転がり落ちた。

全身を打ち据える鈍痛。

だが、視界に飛び込んできた光景に、痛みすら意識から吹き飛ぶ。

そこは、埃を被った膨大な資料の山。

ランプの微かな光が、机の上の書類を照らし出している。

巨大犯罪教団の極秘ファイル。そして、そこに添えられたリリア自身の写真。


『被検体:リリア・ヴァンデレール。周囲の物質を崩壊させる異能の素養あり』

『対象の無力化には、強固な憎悪のアンカーが必要。実行者:レイノルド・アシュクロフト』


血の気が引く。

指先から急速に熱が奪われていく。

レイノルドは、犯人ではない。

私の暴走する異能を封じ、教団の目から守るために。全ての罪を被り、自らを的へと仕立て上げていたのだ。


リリア・ヴァンデレール「嘘……よ……。そんなの、嘘……」

シオン・クラウス「いやぁ、愛って本当に素晴らしいっすよね」


パン、パン、パン。

暗闇の奥から、乾いた拍手が響く。

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緑色の瞳をひどく濁らせたシオンが、醜い笑みを浮かべて見下ろしていた。



■ 第5章:崩壊の果て、血濡れた盾 ■



シオン・クラウス「壊れる瞬間が、一番綺麗だ。君の記憶を弄った甲斐がありましたよ」

飄々とした口調が、どろりと剥がれ落ちる。

ひび割れた声が地下室に響き渡った。

本性を現した情報屋の手。そこから、空気を歪める見えない波動が放たれる。


エリス・ノース「シオン……貴様ァッ!!」

満身創痍で追ってきたエリスが銃を構える。

だが、シオンは指を弾いた。それだけで、彼女の体はボロ布のように壁へ叩きつけられた。

骨が砕ける鈍い音。エリスが大量の血を吐き、意識を失って崩れ落ちる。


シオン・クラウス「さあ、底なしの沼で異能を暴走させなさい。教団の最高の兵器として」


動けない。

呼吸の仕方も忘れた。

後悔と己の愚かさが、見えない刃となって内側から臓腑を切り刻む。

私は、私を世界で一番愛してくれた人を、この自らの手で……。

誰か、私を殺して。

祈るように瞳を閉じた。


ドバァァァンッ!!

厚さ数十センチのコンクリート壁が、外側から爆砕される。

もうもうと舞う粉塵の中。

胸から止めどなく血を流し、漆黒のタキシードを赤黒く染め上げた男が、そこに立っていた。


レイノルド・アシュクロフト「……俺の女に、勝手に触るな」



■ 第6章:愛憎の銃弾と狂気への引鉄 ■



金色の瞳が、燃え盛るような光を放っている。

痛覚遮断の異能を持つとはいえ、心臓を掠めた傷だ。立っていられるはずがない。


リリア・ヴァンデレール「どうして……っ! どうして私を騙したのよ!!」

震える手でナイフを構え、シオンの放つ波動を切り裂きながら叫ぶ。

取り繕った令嬢の言葉が剥がれ落ち、本来の少女の口調が溢れ出した。


レイノルド・アシュクロフト「お前は俺を憎んでいればよかったんだ! それだけで、お前は生きられた!」

口から赤黒い血を吐き出しながら、レイノルドが二丁拳銃を乱射する。

硝煙と血の匂いが混ざり合い、密室の温度を極限まで引き上げていく。

互いの殺意と愛憎。すれ違い続けた二人の魂が、今ここで正面から激突した。


シオン・クラウス「ふざけるな……っ! 予定調和のゴミどもがぁっ!!」

顔を醜く歪めたシオン。彼は懐から、黒い起爆装置を取り出した。


自爆シーケンス、起動。

無機質な警告灯が、洋館全体を不吉な赤色で点滅させる。



■ 第7章:純白の終焉、暴食の閃光 ■



瓦礫の雨が降り注ぐ。

シオンの全身から、どす黒いエネルギーの刃が全方位へと放たれた。

逃げ場など、どこにもない。

瞳を強く閉じる。

ドスッ。

だが、肉を深く裂く鈍い音と共に、私を覆い隠す巨大な影があった。


リリア・ヴァンデレール「レイ……ノルド……?」

背中を無数の刃に貫かれた彼が、力強く私を抱きしめていた。

その美しい金色の瞳から、急速に命の光が失われていく。

だめ。この人だけは。絶対に。


細胞の奥底で、何かが根元から千切れる音がした。


《アブソリュート・ディケイ》

純白の閃光。


透き通るような青い瞳が、極光の如く輝きを放つ。

周囲の物質が、重力が、酸素すらもが連鎖的に崩壊していく。

圧倒的な力の奔流。それは真っ直ぐにシオンを呑み込んだ。


シオン・クラウス「ア、アァァァァァァァッ!!」

断末魔すら光の中に溶ける。

全てを嘲笑っていた男は、塵一つ残さずこの世界から消滅した。



■ 第8章:愚かなる君への永遠の鎮魂歌 ■



粉塵が収まった洋館の跡地。

崩れ落ちた瓦礫の上に、レイノルドの体が静かに横たわっている。

リリア・ヴァンデレール「死なないで……っ! お願いだから、目を覚ましてよ……っ!」



泥と血に塗れた私の頬を、彼の手が力なく撫でる。

ひどく冷え切った指先を両手で包み込んだ。傷だらけの首筋に、熱い涙がボロボロと零れ落ちる。

レイノルド・アシュクロフト「……泣く、な……。君が生きているなら、俺の人生は……完璧、だ……」

初めて見せる、ひどく甘く、穏やかな笑顔。

微弱な脈動が、指先から消えていく。

私は彼の首の傷跡に顔を埋め、声を殺して咽び泣いた。


その夜、一人の不器用な男が、静かに息を引き取った。


それから、数年の月日が流れる。


冷たい雨が降る、帝都の丘の上。

喪服のような漆黒のドレスに身を包んだ女が、一本の傘の下に立っている。

銀色の長い髪を揺らし、三白眼気味の青い瞳は、どこまでも冷徹で気高かった。

傍らには、深い忠誠を誓う深紅の髪の秘書、エリスが静かに控えている。


黒百合の押し花を、冷たい墓石にそっと置いた。


リリア・ヴァンデレール「あなたを愛するためだけに、私は生きていくの」


振り返ることはない。

彼が遺した巨大な財閥を率いる若き総帥は、ただ前を見据え、この泥濘む世界へと歩き出した。

クライマックスの情景

【物語の考察】

本作の根底に流れるのは、「愛と憎悪の表裏一体」というテーマです。主人公リリアの生存動機であった「憎悪」は、実はレイノルドの狂気的な「自己犠牲と愛」によって意図的に植え付けられたものでした。偽りの記憶と仕組まれた復讐劇が剥がれ落ちたとき、憎悪の連鎖が極限の愛へと反転するカタルシスこそが、この物語の最大の魅力となっています。真実を知ることで世界が反転し、傷つけ合うことでしか守れなかった不器用な魂の激突が、読者の心を強く揺さぶります。

【メタファーの解説】

冒頭の「純白と赤黒い血」の色彩の対比は、無垢な少女の精神が復讐によって侵食されていく様を象徴すると同時に、偽りの誓いが真実の愛(血を流す自己犠牲)へと至る伏線となっています。また、レイノルドが自ら進んで刺された直後に「教会のステンドグラス」が粉々に砕け散る描写は、二人の間に存在していた予定調和の嘘の世界が崩壊し、残酷な真実の光が差し込む瞬間を見事に表現しています。最後にリリアが供える「黒百合」は、『愛』と『呪い』の両方の意味を持ち、彼女の生涯をかけた狂おしい決意を表しています。

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