硝子の檻、蜜の執着

硝子の檻、蜜の執着

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第一章 雨音と鳥籠

深夜二時。

東京都心の摩天楼。

その最上階にある社長室だけが、闇の中で孤立した灯台のように光を放っている。

叩きつけるような豪雨が、分厚い防弾ガラスを揺らしていた。

「……美玲(みれい)」

静寂を切り裂く、低く、重たい声。

キーボードを叩く私の指が、ぴくりと止まる。

「はい、加賀(かが)社長」

顔を上げると、広大なデスクの向こう側から、獲物を狙う猛獣のような瞳が私を射抜いていた。

加賀 耀司(ようじ)。

この巨大コングロマリットを支配する若き帝王。

冷徹、完璧、そして無慈悲。

けれど、今の彼は違う。

その瞳の奥にあるのは、理性を焼き尽くすほどの、昏(くら)い熱。

「こっちへ来い」

命令ではない。

拒否権など最初から存在しない、絶対的な宣告。

私は椅子を押し、立ち上がる。

ヒールの音が、分厚い絨毯に吸い込まれていく。

一歩近づくたびに、空気が重くなる。

彼の放つ威圧感と、湿度を帯びた色気が、私の肌にまとわりつく。

デスクの前まで来ると、彼は手元の書類を無造作に払いのけた。

バサリ、と高価な契約書が床に散らばる。

「……遅い」

私の手首が掴まれた。

「っ……」

強い力。

火傷しそうなほど熱い手のひら。

次の瞬間、世界が反転した。

気付けば私は、彼の大理石のようなデスクの上に座らされ、その強靭な両足の間に閉じ込められていた。

「社長、まだ仕事が……」

「黙れ」

唇が、目前まで迫る。

整髪料と、微かな煙草、そして彼特有のムスクの香りが鼻腔を侵食する。

逃げ場はない。

この部屋は、彼が支配する硝子の檻だ。

第二章 嫉妬の烙印

「今日、営業の男と笑っていただろう」

耳元で囁かれた言葉に、背筋が粟立つ。

「……業務上の会話です」

「俺以外の男に、その唇を綻ばせるなと言ったはずだ」

彼の指が、私のブラウスのボタンに掛かる。

一つ、また一つ。

焦らすように、ゆっくりと。

「あ……」

鎖骨が露わになり、冷房の効いた部屋の空気に晒される。

けれど、すぐに彼の熱い吐息がそこを埋める。

「お前は誰のものだ? 美玲」

首筋に、鋭い痛み。

甘噛みされた箇所から、痺れるような快感が脳髄へと駆け上がる。

「私は……加賀さんの、秘書です……」

「違う」

彼の腕が、私の腰を強く抱き寄せた。

ギリギリと骨がきしむほどの抱擁。

肋骨が折れそうなほどの強さは、彼の愛情の重さそのものだ。

「お前は、俺の臓器の一部だ。俺がいなければ呼吸すらできないようにしてやる」

理不尽で、歪んだ愛。

けれど、私の身体はそれに呼応するように熱を帯びていく。

彼の指先が、私の背骨をなぞり上げた。

まるでピアノの鍵盤を弾くように、神経の一本一本を愛撫していく。

「んっ、ぁ……!」

声が漏れる。

それを待っていたかのように、彼の手がスカートのスリットから滑り込んだ。

ストッキング越しに伝わる、大きく、武骨な手の感触。

「熱いな……。こんなに濡らして、何を待っていた?」

「ち、ちがい……」

「嘘をつくな。身体は正直だ」

太腿の内側を、親指の腹で強く擦り上げられる。

頭の中が真っ白になる。

理性なんて、彼の前では紙切れよりも脆い。

第三章 蜜の底へ

「見ろ、美玲。お前は俺の手の中で、こんなにも乱れている」

彼は私をデスクに押し倒すと、覆いかぶさるようにして視線を絡めた。

その瞳は、底なしの沼のように暗く、深い。

「許して……耀司、さん……」

仕事中は禁じられている名前を呼ぶ。

それが、私の降伏の合図。

彼は満足げに口角を歪めると、私の唇を塞いだ。

「んんっ……!」

優しいキスではない。

酸素すら奪い取るような、貪るような口づけ。

舌が絡み合い、唾液が混じり合う音が、静かなオフィスに響く。

恥ずかしい。

けれど、その背徳感がたまらなく甘美だ。

彼の手が、私の秘められた最奥へと伸びる。

「あっ、あぁっ! だめ、そこっ……!」

「ここが欲しいんだろう? 疼いて、泣いているじゃないか」

巧みな指使い。

焦らし、弄び、そして核心を突く。

彼に触れられるたび、私の内側から熱い蜜が溢れ出す。

「あ、あ、耀司さん、おかしく、なる……!」

「おかしくなれ。俺のことだけ考えて、壊れてしまえ」

彼の指が、蕾をこじ開け、濡れた粘膜をかき回す。

波のように押し寄せる快楽。

足の指が縮こまり、シーツの代わりに書類を握りしめる。

「イクときは、俺の名前を呼べ」

命令は絶対だ。

「よう、じ……さんっ! 愛して、もっと、壊してっ……!」

視界が弾けた。

本能が理性を食い破り、私は彼の腕の中で痙攣し、果てた。

第四章 共犯者の夜明け

嵐が過ぎ去った後のような静寂。

乱れた服を整える気力もなく、私は彼の胸に顔を埋めていた。

「……愛しているぞ、美玲」

彼は私の髪を梳きながら、うわごとのように繰り返す。

その声には、狂気じみた執着と、幼児のような依存が見え隠れする。

冷徹な社長。

完璧な支配者。

でも、本当は違う。

私がいないと、彼はネクタイ一本選べない。

私の淹れたコーヒーでなければ、口にすらしない。

彼は私を支配しているつもりで、その実、私という存在に寄生されているのだ。

「はい……私もです、耀司さん」

私は彼の背中に腕を回し、シャツ越しに爪を立てた。

逃がさない。

この歪で、重苦しくて、窒息しそうな愛の檻から、一生出さない。

窓の外、雨脚は弱まるどころか、強さを増していた。

私たちは共犯者だ。

朝が来るまで、いや、朝が来ても、この泥沼から抜け出すことはないだろう。

「さあ、まだ終わりじゃない」

彼が再び、私を押し倒す。

重なり合う影が、オフィスの床に長く伸びていた。

AI物語分析

【主な登場人物】

  • 美玲(みれい): 完璧な実務能力を持つ秘書。表向きは加賀の「お飾り」や「被害者」に見えるが、実は彼が自分なしでは生きられないように環境をコントロールしている。加賀の狂気的な愛を受け入れることで、自身の存在価値を確認する共依存的な性質を持つ。
  • 加賀 耀司(かが ようじ): 巨大企業の若き冷徹な社長。他者を寄せ付けない傲慢さを持つが、美玲に対してのみ、幼児退行に近い執着と独占欲を見せる。彼女を支配していると信じているが、精神的には彼女に生かされている。

【考察】

  • 「硝子の檻」の二重性: タイトルの「硝子の檻」は、社長室という物理的な空間だけでなく、二人が作り出した「他者が入り込めない精神的な閉鎖空間」を指す。外からは華やかに見えるが、内側は酸素が薄く、互いの呼気だけで呼吸しているような状態である。
  • 雨のメタファー: 激しい雨は、外界との遮断を意味すると同時に、二人の内面で渦巻くコントロール不能な情動(独占欲、性愛、不安)を象徴している。雨が止まないことは、この関係が終わらないことの暗示である。
  • 支配と被支配の逆転: 表面上は加賀が美玲を蹂躙しているように描かれるが、美玲がその「重い愛」を甘受し、彼を精神的に依存させている点で、実質的な支配権は揺らぎ続けている。
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