第一章 凍てつく眼差しと契約
「おい、カメラの位置ずらすなよ。映っちまうだろ」
低い、地を這うような声が鼓膜を震わせた。
私は震える手で、浮遊型ドローンの画角を調整する。
『S級ダンジョン・深淵の回廊』。
国内最高難易度を誇るこの場所に、私は立っていた。
「す、すみません……レンさん」
「謝る暇があるならバフをかけろ。……視聴者数が減る」
私の目の前にいるのは、国内トップの探索者(シーカー)にして、登録者数一千万人を超えるカリスマ配信者、レン。
冷徹な美貌と圧倒的な実力。
『氷の王』と呼ばれる彼は、画面の向こうの何百万という人間を熱狂させている。
そして私は、多額の借金を背負った落ちこぼれの支援職(エンチャンター)、エナ。
今日の配信の「捨て駒」兼「荷物持ち」として雇われただけの存在。
『コメント:今日のゲスト、動きトロくね?』
『コメント:レン様だけでよくない? 足手まといw』
『コメント:でもあの子、なんかエロくない? 服破れてるし』
視界の端に流れる辛辣なコメントが、胸を刺す。
モンスターの奇襲を受け、私の装備はすでにボロボロだった。
白い肌が露わになり、恐怖と疲労で荒くなった呼吸が、マイクに乗っているかもしれない。
「……チッ。休憩だ」
レンが舌打ちをし、配信ステータスを『休憩中(映像オフ)』に切り替えた。
ふいに、世界が暗転する。
ダンジョンの安全地帯(セーフエリア)。
ドローンの赤いランプが消えた瞬間、場の空気が一変した。
「……来い」
「えっ?」
抵抗する間もなく、強い力で腕を引かれる。
背中が冷たい岩肌に押し付けられた。
「レ、レンさん!? まだマイクが……!」
「切ってない。……だが、映像は映らない。それだけだ」
彼は私の耳元で囁き、逃げ場を塞ぐように両手を壁についた。
至近距離にある端正な顔。
だがその瞳は、獲物を前にした獣のように昏く、熱く濁っている。
「魔力(マナ)が枯渇してるな。……震えてるぞ」
「だ、だって……こんな……」
「契約条項、第三条。『ダンジョン内での魔力補給は、雇用主の指示に従うこと』」
彼は私の顎を強引に上向かせると、冷たい指先で首筋をなぞった。
ぞくり、と背筋に電流が走る。
「俺の魔力は、濃いぞ。……耐えられるか?」
拒絶の言葉を紡ごうとした唇は、次の瞬間、彼の熱い唇によって完全に封じ込められた。
第二章 不可視の侵食
「んっ……ぁ……!」
呼吸すら許されない、略奪のような口づけ。
彼の舌が強引に私の口内を割り開き、唾液と共に濃厚な魔力が流し込まれる。
それは「補給」なんて生易しいものではなかった。
熱い。
血管の中を、溶岩が駆け巡るような感覚。
「んぐっ、ぁ……や、め……!」
抵抗しようと胸を叩くが、彼の体は岩のように動かない。
むしろ、その抵抗を楽しむように、彼は私の腰を強く引き寄せ、自身の硬質な下腹部に押し付けた。
衣類越しの接触。
なのに、そこにある「凶暴な熱」が、私の芯を直接焼き焦がすように伝わってくる。
(だめ、これ以上は……おかしくなる……!)
「……いい声だ。マイク、拾ってるぞ」
唇を離した彼が、意地悪く囁く。
私は慌てて自分の口を押さえたが、漏れ出した吐息は止められない。
ドローンのインジケーターが、音声を拾って明滅している。
『コメント:ん? なんか変な声しなかった?』
『コメント:マイク切り忘れてる?』
『コメント:エナちゃんの喘ぎ声助かる』
『コメント:レン様? 何してるんですか……?』
コメント欄が加速する。
けれど、彼は止まらない。
「視聴者(リスナー)も期待してる。……もっと深く、混ぜてやる」
彼の大きな手が、ボロボロになった私の装備の隙間から、素肌へと滑り込んだ。
「ひぁっ!?」
冷たい指先が、熱を持った肌を這い回る。
脇腹から、胸の膨らみへ。
そして、敏感な突起を執拗に指の腹で弾いた。
「あっ、あぅ……! そ、こ……!」
脳髄が痺れるような快感。
魔力の奔流と、彼の手技が同時に襲いかかり、私の理性を粉々に砕いていく。
「膝、笑ってるぞ。……支えてやる」
彼は私の太ももに手を差し入れ、強引に片足を持ち上げた。
無防備に晒された秘所(コア)が、彼の熱源に近づく。
直接的な結合はない。
けれど、互いの魔力がショートしそうなほど高まり、衣類越しに擦れ合う摩擦だけで、私は何度も絶頂(イキ)かけた。
「……濡れてるな。俺の魔力が、そんなに欲しいか?」
「ちが、う……うぁ……!」
「違わないだろ。体は正直だ。……ほら、もっと奥まで受け入れろ」
彼は私の耳たぶを甘噛みしながら、さらに深く、重く、腰を押し付けてくる。
硬く張り詰めた楔(くさび)が、私の柔らかい場所をぐりぐりと抉る。
快楽の波状攻撃。
私は彼の肩に爪を立て、あられもない声を上げるしかなかった。
「あッ、アッ、あーーーーっ!」
その声は、確実に全国の視聴者の耳へと届いていた。
第三章 共犯者たちの熱狂
「はぁ、はぁ……っ」
頭の中が真っ白になり、私は彼に寄りかかるようにして崩れ落ちた。
全身が火照り、汗で肌が張り付く。
魔力補給は完了した。
いや、許容量(キャパシティ)を超えて、満たされすぎてしまった。
レンは涼しい顔で私の乱れた服を整え、何事もなかったかのようにドローンの映像をオンにした。
「休憩終わりだ。……行くぞ」
画面が明るくなる。
そこには、頬を紅潮させ、潤んだ瞳で立ち尽くす私と、どこか満足げな表情のレンが映し出されていた。
『コメント:エナちゃん顔赤すぎwww』
『コメント:今の休憩時間、絶対なんかあっただろ』
『コメント:スパチャ10万投げます。詳細求む』
『コメント:レン様がツヤツヤしてる件』
滝のように流れるコメントと、鳴り止まない投げ銭の通知音。
「……行くぞ、エナ。お前の強化(バフ)、最高だった」
レンが私に手を差し伸べる。
その瞳の奥には、「お前はもう俺のものだ」という絶対的な支配の色が宿っていた。
私は震える手で、その手を取る。
抗えない。
この快楽と、背徳感と、彼という劇薬に、私はもう依存してしまっている。
「……はい、マスター」
私の小さな呟きは、探索の喧騒にかき消された。
だが、握られた手から伝わる熱だけが、逃れられない契約の証として、いつまでも私を焦がし続けていた。