第一章 残業の密室
コツ、コツ、コツ。
ヒールの音が、静まり返ったフロアに虚しく響く。
時刻は二十三時を回っていた。
東京の夜景を見下ろす高層ビルの最上階。
ここ、執行役員室の前だけが、異質な重力場を持っているかのように空気が張り詰めている。
私は手に持った書類を強く握りしめた。
手汗でクリアファイルが張り付く。
「……失礼いたします」
ノックを三回。
重厚な扉を開けると、冷房の効いた冷たい風と共に、あの人の香りが鼻腔をくすぐった。
高級な革と、微かなタバコ、そして冷徹な男の色気。
「遅かったな」
部屋の奥、巨大なマホガニーのデスクの向こうで、久我山(くがやま)専務が書類に目を落としたまま言った。
眼鏡の奥の瞳は、氷のように冷たい。
「申し訳ございません。明日の会議資料の数値に、一部誤りが見つかりまして……」
「言い訳はいい」
バサリ。
彼が手元のペンを投げ出す音が、鼓膜を揺らす。
心臓が跳ねた。
久我山専務。
四十二歳。
社内きっての切れ者であり、冷酷な合理主義者。
私、佐伯絵美(さえき えみ)は、彼の秘書になって半年。
完璧主義の彼についていくのに必死だった。
「こっちへ来い」
低い声。
命令だ。
私は震える足で、デスクの傍まで歩み寄る。
彼は椅子を回転させ、私の方を向いた。
「絵美。君は優秀だ。だが、このところミスが続いている」
「はい……申し訳、ございません」
「何故だ?」
彼は立ち上がり、ゆっくりと私との距離を詰める。
逃げ場はない。
背後はガラス張りの壁。
眼下には、宝石を散りばめたような東京の夜景が広がっているが、今の私には奈落の底に見えた。
「私のことが、気になって集中できないのか?」
「え……?」
耳を疑う言葉。
顔を上げると、そこにはいつもの冷徹な仮面の下に、獲物を狙う獣のような光が宿っていた。
彼は私の顎を強引に指先ですくい上げる。
「図星か」
「ち、違います、私は……」
「嘘をつく唇は、嫌いだ」
次の瞬間、彼の唇が私のそれを塞いでいた。
有無を言わせぬ、略奪のような口づけ。
驚きで硬直する私の身体を、彼は容赦なく自身の領域へと引きずり込んでいく。
第二章 理性の決壊
「んっ……ぁ……!」
熱い。
冷え切ったオフィスの中で、唇が触れ合っている箇所だけが、火傷しそうなほど熱を帯びている。
彼の舌が、強引に私の歯列をこじ開け、口腔内を蹂躙する。
それはキスというより、侵略だった。
抵抗しなければならない。
ここは会社で、彼は上司で。
けれど、身体は嘘のように力を失い、彼にしがみつくことしかできない。
「は、ぁ……専務、だめ、です……」
ようやく解放された唇で、酸素を求めながら懇願する。
しかし、彼は意地悪く微笑むだけだった。
「ダメ? 何がだ?」
彼の大きく熱い手が、私のブラウスのボタンに掛かる。
一つ、また一つ。
プチ、プチ、という小さな音が、私の理性を切り刻んでいく音のように聞こえた。
「ここで声を上げれば、警備員が来るかもしれないな」
彼は私の耳元で囁く。
低く、湿った声。
その吐息が耳の裏にかかるだけで、背筋に電流が走る。
「いや……こないで……」
「口ではそう言っても、身体は正直だ」
ブラウスがはだけ、冷気に晒された肌が粟立つ。
だが、すぐに彼の熱い掌が、その肌を覆い隠した。
素肌に触れる、男の手の感触。
ゴツゴツとした指先が、私の胸元を這いまわる。
「あっ……!」
思わず声が漏れた。
彼は満足げに喉を鳴らし、さらに執拗に、私の敏感な部分を指先で弄ぶ。
「いい声だ。普段のすました顔からは想像もできない」
彼は私をデスクの上に押し倒した。
散らばる書類。
背中に当たるデスクの硬さと、上から覆いかぶさる彼の重み。
その対比が、どうしようもなく私を興奮させた。
「脚を、開け」
命令口調。
抗えない。
私は震えながら、タイトスカートの裾から伸びる脚を、彼の前に晒した。
彼は私の膝を割り、その間に自身の身体を滑り込ませる。
「濡れているな」
彼はスカート越しに、私の秘められた場所を押し付けた。
「あっ、んんっ!」
熱い。
スカートの生地越しに伝わる、彼の硬い熱源。
それが私の最も弱い部分を圧迫し、擦り上げる。
「専務……お願い、許して……」
「許す? これは懲罰だ。最後まで受けてもらう」
第三章 背徳の契約
彼の指が、私の下着の縁をなぞる。
焦らすような動き。
直接触れられるよりも、遥かに扇情的だ。
「ほら、もっと腰を浮かせろ」
言われるがまま、私は腰をくねらせる。
恥ずかしさで顔から火が出そうだが、身体の奥底で渦巻く渇きは、もう自分では止められない。
彼は私のストッキングを、乱暴に引き裂いた。
ビリリ、という音が静寂を裂く。
露わになった太ももに、彼の唇が落とされる。
吸い付くような、湿った感触。
「ひぁ……!」
内股に舌を這わせられ、私はデスクの端を掴んで耐える。
爪が白くなるほど強く。
視界が白く明滅する。
「絵美、こっちを見ろ」
彼が顔を上げる。
その瞳は、欲情で暗く濁り、けれど射抜くような強さを持っていた。
「お前は、誰のものだ?」
問いかけながら、彼の指がついに、私の蜜の泉へと侵入する。
「あぁっ! あ、あっ!」
ぬぷ、と湿った音が、耳に届く。
彼の指は、私の内部を正確に把握しているかのように、弱い場所ばかりを責め立てる。
かき回され、広げられ、暴かれる。
「答えろ」
「ぁ、あ……く、久我山、専務の……ものです……」
「よく出来た」
彼は獰猛に笑うと、自身のベルトを緩めた。
カチャリ、という金属音が、決定的な合図となる。
「準備はいいか? もう、後戻りはできないぞ」
そんなの、最初から分かっていた。
この部屋に入った瞬間から。
いいえ、初めて彼を見た瞬間から。
私は彼に、魂ごと捕らわれていたのだ。
「……はい。……お願いします、もっと……深く……」
私の懇願に、彼は欲望を剥き出しにして応えた。
第四章 融合と溶解
貫かれる。
その瞬間、私の世界は弾け飛んだ。
「ぐ、っ……きついな……」
彼が苦悶と快楽の入り混じった声を漏らす。
私の内側が、彼という異物を受け入れ、きつく締め付ける。
熱い楔が、身体の芯まで打ち込まれる感覚。
痛みと、それを上回る圧倒的な充足感。
「あ、あぁっ! 専務、専務ぅ……!」
「名前で呼べ。……京介(きょうすけ)と」
「きょ、京介、さん……っ!」
彼は激しく腰を打ち付ける。
デスクが軋み、書類が床に舞い落ちる。
窓の外の夜景が、揺れる。
何度も、何度も。
彼は私の最奥をノックし、私の理性を粉々に砕いていく。
「いいぞ、その顔だ。もっと乱れろ」
彼は私の髪を掴み、無理やり上を向かせる。
露わになった喉元に、彼が噛みつく。
痛みと快感が同時に走り、私は獣のような声を上げた。
「ああっ! すごい、奥、溶けちゃう……!」
私の内壁は、彼の熱いロッドに吸い付き、離さない。
彼が動くたびに、粘り気のある水音が部屋に響き渡る。
恥ずかしい。
けれど、気持ちいい。
もっと、もっと欲しい。
「いく、ぞ……」
彼の動きが、一層激しくなる。
荒い息遣い。
玉のような汗が、私の肌に落ちる。
私たちは互いを貪り、絡み合い、一つの生命体のように溶け合っていく。
そして。
「あぁぁぁーーっ!」
視界が真っ白に染まり、私の身体は大きく弓なりになった。
その直後、彼もまた、私の奥深くで熱い奔流を解き放った。
ドクドクと脈打つ彼の分身から、私の胎内へと注ぎ込まれる、彼の生命。
私はそれを余すことなく受け止め、魂ごと満たされていった。
第五章 朝焼けの共犯者
「……戻れるか?」
事後。
彼は乱れた服を整えながら、いつもの冷静な口調で尋ねた。
私は床に散らばった書類を拾い集めながら、小さく頷く。
「はい。……問題ありません」
身体の奥には、まだ彼の熱が残っている。
太ももには、彼の指の跡が赤く刻まれているだろう。
けれど、不思議と心は晴れやかだった。
「そうか。……明日の会議、頼んだぞ」
彼は一瞬だけ、私の頭に手を置いた。
その手つきは、先程までの激情が嘘のように優しかった。
「はい、専務」
私は微笑んで、秘書の仮面を被り直す。
オフィスを出ると、東の空が白み始めていた。
ガラスに映る私の顔は、少しだけ艶っぽく、そして以前よりも強く見えた。
これは、私たちだけの秘密。
甘く、危険な、共犯関係。
私はヒールの音を響かせ、新しい一日へと歩き出した。
身体の奥に、消えない火照りを抱いたまま。