第一章 廃棄された宝石
冷たい雨が、馬車の窓を叩きつけていた。
ガタガタと揺れる粗末な護送馬車の中で、エレナは自身の膝を抱えて震えていた。
「地味で何の魔力も持たない『無能』な女など、次期公爵夫人に相応しくない」
元婚約者の嘲笑が、耳の奥にへばりついて離れない。
今朝方、王城の大広間で告げられた婚約破棄。
そして、そのまま言い渡された国外追放。
荷物は、身に着けている薄汚れたドレス一枚だけ。
誰もがエレナを蔑み、憐れむことすらしなかった。
(これで、終わりなのね……)
けれど、心のどこかで安堵していた。
愛のない婚約者、冷遇される実家。
そこから解放されたのだと。
馬車が、唐突に急停止した。
馬のいななき。
御者の悲鳴。
「な、何事だ!」
扉が乱暴に開け放たれる。
吹き込む雨風と共に、闇夜よりなお暗い影が、車内に入り込んできた。
「――見つけたぞ」
低く、腹の底に響くようなバリトンボイス。
雷光が閃き、男の美貌を照らし出した。
銀色の髪に、凍てつくようなアイスブルーの瞳。
この国の第一皇太子、ヴァレリウス殿下。
「殿、下……? なぜ、ここに……」
「なぜ、だと?」
ヴァレリウスは濡れることも厭わず、エレナの手首を掴み上げた。
万力のような力。
痛いほどに食い込む指先。
「あの愚か者がお前を手放すのを、私はずっと待っていたのだ」
瞳の奥に宿る熱情は、救済者のそれではない。
飢えた獣が、ようやく獲物を追い詰めた時の、昏い愉悦だった。
第二章 逃げ場なき楽園
連れ去られたのは、王城の最奥にある皇太子の私室だった。
重厚な扉が閉ざされると、外界の音は一切遮断された。
「寒いだろう」
ヴァレリウスは、濡れたエレナのドレスに手を掛けた。
優しさなど欠片もない。
ビリス、と音を立てて、背中のレースが引き裂かれる。
「っ……! おやめください!」
抵抗しようと身を捩るが、圧倒的な体格差の前では無力だった。
彼はエレナを天蓋付きの寝台へと放り投げた。
ふかふかのシーツに沈み込む体。
覆いかぶさる男の影。
「暴れるな。傷がつく」
彼はエレナの両手首を片手で容易く拘束し、頭上へと縫い留めた。
「ずっと、欲しかった」
ヴァレリウスの冷たい指先が、エレナの喉元を這う。
脈打つ動脈の上を、愛しげになぞる。
「あの男には嗅ぎ分けられなかったようだが……お前からは、極上の香りがする」
鼻先を首筋に埋め、彼は深く息を吸い込んだ。
その吐息の熱さに、エレナの背筋が粟立つ。
「魔力を増幅させ、男の本能を狂わせる『傾国の香り』だ。お前が無自覚に振りまくその匂いが、私をどれほど焦らしてきたか」
「っ、ん……何を……」
「躾の時間だ、エレナ」
彼の唇が、耳元で囁く。
「お前はもう、自由な令嬢ではない。私の所有物だ」
第三章 暴かれる秘め事
言葉による支配は、瞬く間に感覚の支配へと変わった。
「あ、あっ……!」
敏感な耳たぶを、甘噛みされる。
舌先で輪郭をなぞられ、熱い息を吹きかけられるたびに、エレナの体はビクンと跳ねた。
「いい声だ。もっと聞かせろ」
ヴァレリウスの手が、露わになった鎖骨から、豊かなふくらみへと滑り落ちる。
直接触れられているわけではない。
薄いキャミソール越しの愛撫。
それなのに、まるで神経を直接焼かれているような痺れが走る。
「ひっ、だめ、です……そんなところ……」
「ダメ? 誰に許しを請うている?」
彼は嗜虐的な笑みを浮かべ、親指の腹で、尖り始めた突起を執拗に擦り上げた。
「く、ぅ……んっ!」
布が擦れる音。
荒くなる呼吸音。
彼は焦らすように、ゆっくりと、しかし確実にエレナの理性を削り取っていく。
いきなり奪うことはしない。
真綿で首を絞めるように、快楽で逃げ場を塞いでいく。
「体は正直だな。こんなに熱くなっている」
彼の手が、ドレスの裾から滑り込む。
太腿の内側、柔らかく敏感な皮膚を、大きな手が這い上がる。
「や、やだ……見ないで……」
「見るさ。お前のすべてを」
彼の指が、一番熱を持っている秘所の入り口を、布越しに圧迫した。
「あぁっ!」
弓なりに反る背中。
羞恥と快楽がないまぜになり、目尻から涙が溢れる。
第四章 支配の甘い痛み
「私の指が触れただけで、こんなに濡らして……淫らな聖女だ」
ヴァレリウスは低く笑い、邪魔な下着を引き裂いた。
涼しい風が下肢に触れたのも束の間、すぐに彼の熱い塊が割り込んでくる。
「ここが、私を呼んでいる」
「ひ、ぃ……あ、あ……!」
彼の手指が、ぬるりと侵入してくる。
異物感に身を強張らせるが、彼は容赦しない。
内壁の襞をひとつひとつ数えるように、丹念に、深く。
「力を抜け。私を受け入れろ」
命令口調が、頭の中を白く染める。
逆らってはいけない。
従わなければならない。
本能に刻み込まれた『屈服』への渇望が、エレナの中で花開く。
「そ、こ……あ、あっ!」
奥の、一番感じるところを、彼の指先が掠めた。
脳髄が痺れるような甘い衝撃。
「ここか? ここが欲しいのか?」
「ほ、ほしい……です……!」
「何を、どうして欲しい?」
意地悪な問いかけ。
彼は動きを止め、ギリギリの場所で焦らす。
「殿下の……殿下の全部で、埋めて……ください……っ」
理性が崩壊し、懇願の言葉が口をついて出た。
ヴァレリウスの瞳が、暗い欲望で濁る。
「よく言った。ご褒美をやろう」
彼が身を乗り出す。
硬く熱を持った楔が、濡れそぼった入り口に押し当てられた。
最終章 永遠の愛玩具
「あぐっ、あ、あぁぁ――ッ!」
裂けるような充実感。
彼の一部が、エレナの最奥までを貫いた。
逃げようとする腰を、彼の腕が力強く固定する。
「私のものだ。心臓の鼓動一つ、吐息の欠片ひとつまで」
激しい律動が始まった。
ベッドが軋み、肉と肉がぶつかり合う音が部屋に響く。
「愛しているぞ、エレナ」
愛の囁きというよりは、呪縛の呪文のようだった。
何度も何度も、深い場所を突き上げられ、そのたびにエレナの意識は飛びそうになる。
「あ、あっ、殿下、殿下ぁっ……!」
しがみつくことしかできない。
痛みと快楽の波に揉まれ、彼に名前を呼ばれるたびに、魂まで刻印されていくようだ。
絶頂の瞬間、視界が真っ白に弾けた。
彼の熱い奔流が、体内に注ぎ込まれる。
事後。
ぐったりと横たわるエレナを、ヴァレリウスは満足げに抱きしめていた。
「あの追放劇も、すべて私が仕組んだことだと言ったら……お前は怒るか?」
耳元で落とされた爆弾。
けれど、エレナに怒りは湧かなかった。
(ああ、私は……)
この冷たい檻の中でしか、生きられない体になってしまったのだ。
「いいえ、殿下……」
エレナは潤んだ瞳で、支配者を見上げた。
「私は、貴方様のものですから」
その言葉に、氷の皇太子は妖艶に微笑んだ。
もう二度と、この腕から逃がしはしないと告げるように、彼は再びエレナに口づけを落とした。