『腐敗魔法』で追放された俺、辺境で極上の発酵ライフを始める 〜捨てられた土地が、なぜか聖域化して伝説の竜が住み着きました〜

『腐敗魔法』で追放された俺、辺境で極上の発酵ライフを始める 〜捨てられた土地が、なぜか聖域化して伝説の竜が住み着きました〜

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第一章 カビ臭い男

「お前、カビ臭いんだよ」

勇者アレクの言葉は、剣よりも鋭く、そして物理的に俺の鼻を突いた。

宿屋の食堂。朝の光が差し込む中で、俺の荷物が床に散乱している。

「ええと、それは比喩表現かな? それとも物理的な指摘?」

「両方だ! お前の『腐敗魔法』のせいで、俺たちの食料はいつもすぐ痛む。装備も錆びる。もう限界なんだよ!」

僧侶のミナが、わざとらしく鼻をつまんで顔を背けた。

俺、ライズの固有スキルは【腐敗】。

触れたものを腐らせる、ただそれだけの能力だ。

「……そうか。分かった」

弁解はしなかった。

実際、昨晩のシチューが酸っぱくなったのは、俺が鍋の近くでくしゃみをしたせいかもしれない。

「路銀だ。これを持って消えろ」

投げられた革袋が、チャリと音を立てる。

拾い上げたその重さは、俺たちが共に過ごした三年の月日より、ずっと軽かった。

「元気でな、アレク。ミナも」

「二度と顔を見せるなよ、カビ男!」

扉を開けると、外は土砂降りだった。

濡れた石畳を歩きながら、俺はふと、ポケットに入っていた干し肉を取り出した。

「……ああ、やっぱり」

俺の指先が触れた部分から、干し肉が熟成され、芳醇な香りを放ち始めている。

戦闘には役に立たない。

けれど、俺はずっと試してみたかったのだ。

この力を使って、誰も知らない最高のチーズやワインを作る生活を。

「まずは、誰も来ない場所に行こう」

俺は地図を広げ、赤く「立入禁止」と記された『死の森』へと指を走らせた。

第二章 死の森という名の楽園

『死の森』は、瘴気が渦巻く不毛の地と言われていた。

だが、到着して五分で俺は確信した。

ここ、最高だ。

「うわ、このドロドロの沼、有機物の塊じゃないか」

俺は沼に手を浸す。

スキル【腐敗】発動。

ただし、ただ腐らせるだけじゃない。分解速度を極限まで早め、微生物の働きを活性化させる。

ボコッ、ボコボコッ。

猛毒の沼が、数秒でさらさらとした清水と、栄養満点の黒土へと変わった。

周囲の枯れ木にその水をかけると、見る見るうちに新芽が吹き出し、花が咲き乱れる。

「うん、予想通り。俺の魔力はこの森の瘴気を『肥料』に変換できる」

俺は適当な岩を削って家を作り、庭にはトマトや麦を植えた。

【腐敗】の応用、【発酵】を使えば、肥料作りも一瞬だ。

「ワンッ!」

作業をしていると、黒い子犬が足元にじゃれついてきた。

毛並みは漆黒で、目は血のように赤い。

「おや、迷子か? 腹が減ってるのか?」

俺は作りたての『特製熟成チーズ』をちぎって差し出した。

子犬はそれを一飲みにすると、嬉しそうに尻尾を振り、俺の足元で丸くなって眠り始めた。

「可愛いな。名前は『ポチ』でいいか」

その『ポチ』が、神話級の魔獣フェンリルであることに、俺は全く気づいていなかった。

ついでに、裏庭に住み着いたトカゲが、古竜グラン・バハムートであることにも。

第三章 勇者の末路、そして

それから数ヶ月。

俺の小屋の周りは、黄金色の小麦畑と、色とりどりの果樹園になっていた。

「ライズ……そこにいるのか?」

聞き覚えのある声。

振り返ると、そこにはボロボロになった勇者アレクとミナが立っていた。

鎧は錆びつき、頬はこけ、目は虚ろだ。

「アレク? どうしたんだ、その格好」

「お前がいなくなってから……何もかもダメなんだ。魔物は強くなるし、食料はすぐ腐るし、傷の治りも遅い……」

ああ、そういえば。

俺は無意識に、彼らの装備のサビや汚れを【分解】してメンテナンスしていたし、食材の雑菌も【殺菌】していたんだった。

「頼む! 戻ってきてくれ! この通りだ!」

アレクが土下座しようとした、その時。

「グルルルルル……」

庭の犬小屋から、ポチが這い出てきた。

いや、今はもう子犬サイズではない。

体長五メートル。纏うオーラだけで大気が震え、地面が凍りつく。

「ヒッ……フェ、フェンリル!?」

「しかも、あの後ろにいるのは……古竜!?」

ミナが腰を抜かし、アレクが剣を取り落とす。

「ポチ、グラン、ダメだぞ。お客さんを脅かしちゃ」

俺が軽く頭を撫でると、二匹は「クゥーン」と甘えた声を出し、お腹を見せて転がった。

「な、なんだこれは……お前、魔王にでもなったのか!?」

「失礼な。ただの農夫だよ」

俺は樽から出したばかりの葡萄酒をグラスに注ぐ。

「飲むか? 俺の魔力で熟成させた、百二十年モノ相当のヴィンテージだ」

香りが漂った瞬間、アレクたちの顔色が青ざめた。

その芳醇すぎる魔力の奔流は、常人にとっては猛毒に等しい。

「ば、化け物……!」

「逃げろ! 食われるぞ!」

勇者たちは悲鳴を上げ、転がるように森の外へ逃げ去っていった。

「……せっかくの最高傑作だったのになぁ」

俺は肩をすくめ、グラスを傾ける。

口の中に広がる芳醇な味。

ポチが「自分にもくれ」と鼻を寄せてくる。

「はいはい。さあ、今日はパンを焼こうか。最高の酵母が育ったんだ」

組織を追われた俺の毎日は、今日も忙しく、そして平穏だ。

ただ、たまに王国騎士団が「聖域の調査」に来るけれど、ポチが吠えるとみんな帰っていくのが不思議だけれど。

AI物語分析

【主な登場人物】

  • ライズ: 主人公。【腐敗】という忌み嫌われるスキルを持つが、本質は「循環」と「再生」の力。微生物と対話するレベルで発酵を愛するオタク気質。彼にとってフェンリルはただの「ポチ」。
  • アレク: 勇者。ライズの隠れたサポート(装備の微細なメンテナンスや食料保存)に気づかず追放した。典型的な「失ってから気づく」タイプ。
  • ポチ(フェンリル): 伝説の魔獣。ライズの作る「熟成肉」の虜になり、忠犬と化した。ライズに敵意を向ける者には殺意を向けるが、飼い主の前ではデレデレ。

【考察】

  • 「腐敗」と「発酵」の表裏一体性: 本作のテーマは視点の転換である。人間にとって有害な「腐敗」も、制御すれば恵みをもたらす「発酵」となる。これは、組織で「不要」とされた人材が、環境を変えることで「至宝」に変わるメタファーである。
  • 無自覚な超越者: 主人公が自身の力を「農業用」と認識していることで、周囲(勇者や魔物)との認識のギャップが生まれ、それがコメディとカタルシスを生んでいる。
  • 組織論としての側面: 勇者パーティの崩壊は、目に見えにくい「維持管理(メンテナンス)」業務を軽視した組織の末路を風刺している。
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