嫌われ者ポーター、世界中の悪意(ヘイト)を喰らい尽くす

嫌われ者ポーター、世界中の悪意(ヘイト)を喰らい尽くす

主な登場人物

雨宮カイト (Kaito Amamiya)
雨宮カイト (Kaito Amamiya)
17歳 / 男性
ボサボサの黒髪で目が隠れている。常にうつむき加減。装備は継ぎ接ぎだらけの革鎧だが、後に漆黒の有機的な生体鎧へと変わる。
星川リア (Ria Hoshikawa)
星川リア (Ria Hoshikawa)
16歳 / 女性
透き通るような銀髪に、宝石のような碧眼。常に発光エフェクトのかかった純白の聖騎士装備を纏い、戦場でも化粧が崩れない。
シノ (Shino)
シノ (Shino)
不詳(推定10代後半) / 女性
青白い肌に、度のきつい眼鏡。常に大きすぎるフード付きパーカーを被り、膝を抱えている。
11 3938 文字 読了目安: 約8分
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第1章: 処刑配信の開始

湿った石畳。肺から絞り出した呼気が、白く濁り消えていく。

伸びすぎた黒髪が、視界の半分を無遠慮に遮る。その隙間から覗く世界――極彩色の絶望。泥にまみれた革鎧、継ぎ接ぎだらけの胸元を、震える指で押さえる雨宮カイト。肋骨の軋み。鼓動の早鐘。SSランクダンジョン最深部特有の腐臭とオゾン臭が、乾いた喉にべたりと張り付く。

「残念ながら君の席はないの。でも、君の死体は最高のコンテンツになるわ」

頭上から降る、鈴を転がすような美声。

星川リア。透き通るような銀髪は、ダンジョンの燐光を吸い月光の如く輝く。純白の聖騎士装備。血の一滴、泥の跳ね返りさえ許さぬ清潔さ。過剰な発光エフェクトが演出する「聖女」の虚像。宝石のような碧眼が、ゴミを見るような無機質な光でカイトを見下ろしていた。

「待っ……て……」

伸ばした手。だが、リアの純白のブーツ、そのつま先にさえ届かない。

彼女の背後、轟音と共に閉ざされゆく重厚な扉。パーティメンバーたちは、誰一人として振り返らない。荷持ち(ポーター)であるカイトの存在など、彼らにとっては道端の石ころ以下。

『カイトwwwマジで置いてかれてやんの』

『リアたんの判断ナイス! 足手まといは消えろ』

『死ぬとこ見せてー! 投げ銭するわ』

空中に浮かぶ半透明のウィンドウ。滝のように流れるコメント。全世界へ垂れ流されるライブ映像、同接数は二千万超え。

誰も助けようとしない。

誰も、カイトという人間を見ていない。

視界の歪み。涙ではない。極度の恐怖による眼球の痙攣。

扉が完全に閉ざされる。暗闇。いや、違う。

背後。重い、あまりにも重い「何か」が、巨体を揺らして立ち上がる気配。

「あ……が……」

合わない歯の根。カチカチと鳴る不快な音。

死ぬ。ここで死ぬ。

その時だった。泥水に浸かったポケットの中、ひび割れたスマートフォンが発する異常な高熱。

『通知:禁断アプリ【アビス・ライブ】のインストールが完了しました』

『条件達成:世界規模の悪意(ヘイト)を確認』

『生存戦略を開始しますか? YES / NO』

第2章: 悪食の怪人

肉を噛み千切る音。静寂な闇に、濡れた咀嚼音が響く。

「ぐ……っ、ぅぐ……ッ!」

嘔吐感。喉の筋肉を無理やり収縮させ、押し戻す。

目の前に鎮座する、脈打つ紫色の肉塊。先ほどまでカイトを殺そうとしていたボスの死体。今は、ただの餌。

口の中に広がる生臭い鉄の味。焼けるように熱い食道。

だが、喰らうしかない。

視界の端で点滅する『アビス・ライブ』のステータス画面、弾き出される異常な数値。

『炎上指数:MAX』

『受信コメント:死ね、ゴミ、キモい、ざまぁ……』

『魔力変換効率:4000%上昇』

世界中から降り注ぐ罵詈雑言。その一文字一文字が、どす黒いエネルギーとなり血管を駆け巡る。

本来なら精神を崩壊させるはずの悪意。だが、このアプリを通して暴力的なまでの生命力(マナ)へと変換されていく。

「もっとだ……もっと寄越せ……!」

叫び、再び肉塊に顔を埋めるカイト。

血と脂でべっとりと固まり、頬に張り付く黒髪。継ぎ接ぎだらけだった革鎧は、溢れ出した魔力によって内側から食い破られる。代わりに肌を覆うのは、漆黒の、まるで生きているかのように脈動する有機的な外骨格。

『うわなにこれグッロ』

『人間じゃねーだろこいつ』

『吐き気するけど見るのやめらんねえwww』

美しく整えられた表の配信界隈では決して許されぬ、原初的な「生」への執着。

血に塗れ、汚辱にまみれ、それでも生きようと藻掻く姿。安全圏から高みの見物を決め込む視聴者たちの、グロテスクな好奇心を鷲掴みにする。

「全部、喰ってやるよ」

顔を上げるカイト。

露わになる瞳。かつての怯えた色は消え失せ、そこには底なしの深淵が口を開けていた。

第3章: 英雄の帰還と社会的な死

地上への帰還。だがカイトを待っていたのは、安息ではなく、より冷酷な地獄。

「嘘だ……!」

街頭ビジョンの前、立ち尽くすカイト。

画面の中、宝石のような瞳から大粒の涙をこぼす星川リア。その姿、悲劇のヒロインそのもの。

「カイト君が……貴重なドロップ品を盗んで逃げたんです。私たちは彼を助けようとしたのに……っ!」

美しい嘘。

完璧な照明、計算された角度、そして揺れる銀髪。

大衆の熱狂。リアを擁護し、カイトを断罪する声が都市を揺らす。

『最低だなカイト』

『住所特定したわ。今から燃やしに行く』

『死んで詫びろ』

震え続けるスマホ。止まらない通知。

実家へと走るも、すでに遅い。

紅蓮の炎。木造のアパートを舐めるように包み込む熱波。崩れ落ちる屋根の下、聞こえた気がした誰かの悲鳴。祖母の姿は見えない。

膝から抜ける力。アスファルトに手を突く。

割れる爪。指先から滲む血も構わず、地面を掻きむしるカイト。

正しさなんて、どこにもない。

あるのは「映え」だけ。力とは「好感度」のこと。

「……バカね。計算通りよ」

不意にインカムから響く、ノイズ交じりの声。

路地裏の影。青白いモニターの光だけが漏れる一角。

膝を抱えた少女がそこにいた。目深に被った大きすぎるフード、血管が透けて見える青白い肌。分厚い眼鏡の奥の瞳だけが、カイトを真っ直ぐに捉える。

「シノ……」

「ログは全部洗った。あんたの婆ちゃんは、病院に運ばせたわ。意識はないけど、生きてる」

カイトと目を合わせることなく、高速でキーボードを叩き続けるシノ。

焼け落ちる家を見上げ、ゆっくりと立ち上がるカイト。

かつて「誰かに愛されたい」と願った少年の顔は、もうどこにもない。

炎の照り返しを受けて、ぬらりと輝く漆黒の生体鎧。

「人間、辞めるわ」

カイトの唇が描く、歪な孤。

「あいつらが望む通りの、最強の悪役(ヒール)になってやる」

第4章: 絶望のレイドジャック

「きゃああああああッ!!」

戦場を引き裂く悲鳴。

星川リアの引退記念レイド配信。華やかなフィナーレになるはずだったその場所は、今や阿鼻叫喚の地獄絵図。

制御不能となった神話級モンスター『黄昏の巨神』。その圧倒的な質量。リアの自慢の聖騎士鎧は紙屑のようにひしゃげ、泥と煤で薄汚れている。

崩れる化粧、乱れる銀髪。無様に這いずり回るかつての聖女。

「助けて! 誰か! 嘘でしょ、死にたくない!!」

その様子を、戦場の瓦礫の上から撮影する影。

特等席に座るカイト。漆黒の生体鎧が、周囲の闇と同化している。

『カイト何してんの!? 助けろよ!』

『人でなし! お前それでも人間か!』

『殺すぞクズ!』

コメント欄を埋め尽くす憎悪。秒間数万件の罵倒。

カイトの視界、鳴り続ける限界突破の警告音(アラート)。

全身の細胞が沸騰するような高揚感。血管の一つ一つにマグマが流し込まれる感覚。

「もっとだ……! 足りねえぞ、お前らの憎悪はそんなもんか!?」

哄笑。

腹の底から込み上げる、獣の咆哮のような笑い。

「もっと憎め! 俺を呪え! それが全部、俺の糧になるんだよぉぉぉッ!!」

リアの方へ振り下ろされる巨神の拳。

その瞬間、掻き消えるカイトの姿。

ドォォォォォンッ!!

大気が破裂する音。粉々に弾け飛ぶ神話級モンスターの巨腕。

砂煙の中から現れたのは、膨れ上がった魔力で禍々しく変貌したカイト。人助けではない。獲物の横取り。

「どけよ、羽虫」

腰を抜かしたリアの顔を踏みつけ、巨神へと跳躍。

黒い閃光。

たった一撃。

世界最強と謳われた怪物が、断末魔すら上げられずに霧散する。

圧倒的な暴力。

理不尽なまでの強さ。

止まるアンチのコメント。

罵倒の嵐が沈黙へと変わり、そして戦慄へ。やがてそれは――恐怖と畏敬の入り混じった、歪んだ「いいね」へと変貌していく。

第5章: 孤独な王座

世界の反転。

星川リアは失脚し、雨宮カイトは世界ランキング1位の探索者として君臨した。

莫大な富。数億のフォロワー。街を歩けば誰もが道を譲り、畏怖の眼差しを向ける。

だが、画面の向こうにあるのは虚無。

煌びやかなペントハウス。巨大なモニターに映る「同接数:500,000,000」という数字。

その中に、カイトという人間を見ている者は一人もいない。彼らが見ているのは「最強の悪役」というコンテンツだけ。

「……どうせ、誰も見てないだろ」

呟き。配信の終了ボタンではなく、設定画面を開く指先。

『アカウント削除』の項目。

迷いはない。

承認への渇望? そんなものは、あのダンジョンの底で食らい尽くした。

「俺が見てほしかったのは、数字じゃない」

クリック音。

部屋に響く虚しい音色。

ブラックアウトする画面。数億の悲鳴と混乱が、一瞬にして闇に消える。

立ち上がり、分厚いカーテンを開けるカイト。

そこには、大きすぎるパーカーを着た少女。

シノ。

モニター越しではない。初めて肉眼でカイトを見る彼女。震える手が、カイトの方へ差し出される。

「……バカね。本当に行っちゃうの」

「ああ。ここにはもう、俺の席はないからな」

有機的な鎧を脱ぎ捨てた生身の手で、シノの冷たい手を取る。

その温もりだけが、この世界で唯一のリアル。

二人はカメラのない、スポットライトの当たらない静寂の闇へと歩き出す。

そこには、フォロワー数も、いいねの数も、炎上も存在しない。

ただ、二人の足音だけが、確かなリズムを刻んでいた。

クライマックスの情景

AI物語分析

【物語の考察:承認欲求の怪】

本作の核となるのは、現代社会における「承認」の歪みである。主人公カイトは、最初は「愛されたい」と願う無力な存在だったが、システムは彼に「憎悪」を糧とすることを強いる。これは、炎上商法や誹謗中傷が最も効率よく「数字」を稼いでしまう現代のネット社会への強烈なアイロニーだ。

【メタファーの解説:鎧とスマホ】

カイトが纏う「漆黒の生体鎧」は、彼に向けられた悪意の具現化である。それは彼を物理的な脅威から守る最強の盾だが、同時に他者との温かい触れ合いを拒絶する「心の壁」の象徴でもある。対して、最後まで手放さなかった「ひび割れたスマートフォン」は、彼を地獄へ繋ぎ止める鎖であり、唯一の外部との接点(へその緒)でもあった。ラストシーンで鎧を脱ぎ、スマホの電源を落とす行為は、デジタルな虚像からの脱却と、生身の人間としての再生を意味している。

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あなたのアイデアをAIに与えて、この物語の続きや、もしもの展開を創作してみましょう。

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