第一章: 星降る廃駅と白雪の幻影
空が割れている。
ひび割れたステンドグラスのような天空からこぼれ落ちる、きらきらと光る砂。星屑雨。
風に煽られ、少し長めで無造作な黒髪が頬を打つ。虚無を溶かしたような灰色の瞳で仰ぐ、絶望の天。退廃的な黒いコートの襟を立て、首元に巻いた色褪せた赤いスカーフをきつく引き絞った。
氷のように冷たいガラスの破片のような雨粒。頬に触れ、溶ける。肺の奥まで凍りつくような、オゾンと錆びた鉄の匂い。
廃駅の錆びた線路の上。彼女は立っていた。
光を反射する、雪のように白い長髪。星空をそのまま切り取ったような、深く澄んだ青の瞳。
純白のドレス風の修道服が風に揺れ、澄んだ音を立ててぶつかり合う銀の装飾品。
圧倒的なまでの美しさ。周囲の荒廃した世界から、そこだけが切り離されたかのよう。
[A:シラユキ:喜び]「あなたを、ずっと待っていた気がするのです」[/A]
儚く、丁寧な響き。
喉仏が上下に動く。無意識に一歩、後ずさる。
自分が存在するだけで、この美しい何かを汚してしまうのではないかという恐怖。胃袋を冷たく締め付ける、極度の自己肯定感の低さ。
[A:ハル:冷静]「……人違いだ。俺は、何者でもない」[/A]
[A:シラユキ:愛情]「いいえ。あなたは、ハルですよね」[/A]
[Think]どうして、俺の名前を。[/Think]
瞬きを繰り返す。赤いスカーフにそっと触れる、彼女の冷え切った白い指先。
強烈な既視感。頭の奥で鳴る、微かなノイズ。
[Glitch]ジリッ……[/Glitch]
[A:ハル:照れ]「ここは危ない。崩落するかもしれないんだ」[/A]
[A:シラユキ:喜び]「ふふ。優しいのですね」[/A]
始まる、二人の不器用な共同生活。
ガラクタから拾い集めた機械時計の歯車を磨く音。静かな雨の音。
だが、時折シラユキの青い瞳の奥に宿る、世界すべての重圧を背負ったような痛切な光。それを見逃すことはできなかった。
時計の針が進むたび、短くなっていく不可視の時限爆弾の導火線。
[Pulse]トクン、トクン。[/Pulse]
第二章: 炎の記憶と琥珀の刃
熱い。
肉が焦げる匂い。視界を埋め尽くす紅蓮の炎。
[Tremble]世界が、燃えている。[/Tremble]
肺に吸い込む空気が喉を焼き、ひび割れていく皮膚。
[Shout]やめろぉぉぉ!![/Shout]
跳ね起きる。
冷たい床に落ちる、額から滴る汗。止まらない荒い息。
口の中に広がる、鉄錆のような血の味。無意識に唇を噛み破っていた。
[A:シラユキ:愛情]「ハル。大丈夫ですか」[/A]
鼻腔をくすぐる、温かいスープの香り。
彼女が差し出す木彫りの椀を受け取る。指先が微かに触れ合い、流れ込む体温。
その温もりを失うことが、何よりも恐ろしい。
[Impact]バンッ![/Impact]
吹き飛ぶ、廃駅の重い鉄扉。
土煙の中から現れた巨躯の影。
くすんだ金髪を無造作に後ろで縛り、他者を射抜くような琥珀色の三白眼。ボロボロの騎士の軍服を纏い、背中には身の丈ほどある無骨な大剣。
[A:クロウ:怒り]「見つけたぜ。魔王の器」[/A]
空間をビリビリと震わせる、ぶっきらぼうで威圧的な声。
咄嗟に両手を広げ、前に立つシラユキ。鋭い音を立てる銀の装飾品。
[A:シラユキ:怒り]「この人は違います! 手を出さないで!」[/A]
[A:クロウ:冷静]「どけ、巫女。世界を天秤にかけりゃ、迷う余地なんざねぇはずだろ」[/A]
抜かれる大剣。鼓膜を打つ鈍い金属音。
眉間が跳ねる。自分の中に眠る、得体の知れない熱の塊。
これが目覚めれば、すべてが終わる。
[A:ハル:冷静]「……やめろ。彼女に剣を向けるな」[/A]
漏れる、静かな、だが確かな語気。
琥珀色の刃を真っ直ぐに見据える灰色の瞳。
胃の腑の底で渦を巻き始める、黒い炎。
第三章: 臨界点の空、千年の嘘
空のひび割れから降り注ぐ、星屑の暴風雨。
鼓膜を劈くような風の咆哮。
黒雲を引き裂くように落ちる星の砂。世界の輪郭を青白く削り取っていく。
肌を打ち据え、容赦なく体温を奪う冷たい雨。
鼻先数ミリでピタリと止まる、大剣の切っ先。
クロウの腕の筋肉が隆起し、雨粒を弾き飛ばす。
[A:クロウ:怒り]「テメェの魂の奥底にこびりついてる炎の臭い。間違いねぇ」[/A]
[A:ハル:驚き]「俺が……魔王の生まれ変わり……?」[/A]
止まる呼吸。
頭蓋骨の内側を駆け巡る、無数のフラッシュバック。
[Glitch]燃え盛る王都。ひざまずく人々。血溜まりの中に倒れる白い人影。[/Glitch]
[A:クロウ:絶望]「そうだ。そしてそこの巫女はな、自分の命と現代の記憶を削って、空を縫い合わせてるんだよ!」[/A]
向かう視線、シラユキへ。
雨に打たれる彼女の白髪は透き通り、今にも消え入りそう。
激しく揺らいでいる、青い瞳。
[A:ハル:絶望]「嘘だ……。君は、自分の命を部品にして……?」[/A]
[A:シラユキ:悲しみ]「泣かないで。これは、私が望んで選んだ道だから……」[/A]
前世の俺は、彼女を救うために世界を壊そうとした。
そして今、彼女は俺を生かすため、自らをすり減らしている。
乾ききる口の中。言葉が出ない。
ただの少年と少女でいたかった。
温かいスープを飲み、機械時計の針が進む音を聞いていたかった。
だが、そのささやかな願いすら、この運命は絶対に許さない。
第四章: 星降る夜の終焉、引き裂かれる魂
[Sensual]
薄暗い廃駅の片隅。
外では、世界を滅ぼす暴風雨が吹き荒れる。
震える両腕で、細く華奢な体を強く抱き寄せる。修道服越しに伝わる、彼女の微かな鼓動。純白の髪から漂う、雨と微かな甘い花の匂い。
[A:ハル:愛情]「シラユキ。俺は、もう迷わない」[/A]
冷たい頬を両手で包み込み、そっと額を合わせる。交じり合う吐息。睫毛の震えが直接肌に伝わってくる。青い瞳に浮かぶ涙の粒が、光を乱反射した。
[A:シラユキ:絶望]「だめ、です……。あなたがいなくなったら、私は……!」[/A]
[A:ハル:冷静]「ごめん。でも、君が笑ってくれるなら、それでいいんだ」[/A]
重なる唇。
絶望的なほどに甘く、微かな血の味。互いの魂を確かめ合うような、深く痛切な口づけ。彼女の指が、背中のコートを強く握りしめる。
[/Sensual]
離れる温度。
二人の間を通り抜ける冷たい空気。
胸の奥で鎌首をもたげる、魔王の魂。
これを道連れに、俺という存在ごと消滅する。
[A:シラユキ:狂気]「させません……! たとえあなたが私を忘れても、私があなたを見つけるから!」[/A]
シラユキは自らの唇を血が滲むほど噛み破り、叫んだ。
[Flash]眩い光が、彼女の全身から溢れ出す。[/Flash]
[Magic]《星天縫合・白糸》[/Magic]
残された全生命を燃やし、空のひび割れを強引に修復しようとする光の奔流。
[Tremble]世界が、きしむ音を立てる。[/Tremble]
空が砕け散る絶望の空へ向け、容赦なく目前まで迫り来る別れの時。
第五章: 星屑の空が割れるとき
重力が消える。
数億の星の砂が、光の奔流となって天へ逆流していく。
圧倒的な光彩。空がガラスの破片となって舞い上がり、広がる美しい万華鏡。
青、紫、黄金。極彩色の宇宙の瞬きが、廃墟の街を照らし出す。
宙に浮く瓦礫を蹴り、空高く舞い上がる。
天段を切り裂くように振り下ろされる、クロウの大剣。
避ける気はない。
両腕を広げ、その刃を真っ直ぐに迎え入れる。
[A:ハル:興奮]「頼む、クロウ……! これで、すべて終わらせてくれ!」[/A]
[A:クロウ:絶望]「……っ! バカ野郎が!!」[/A]
[Magic]《絶空・琥珀断》[/Magic]
[Impact]肉を断ち切り、魂を砕く感触。[/Impact]
熱い血の飛沫が、無重力の空間に赤い花を咲かせる。
白く染まっていく視界。
痛覚は、もうない。ただ満ちる、不思議なほどの安堵感。
[A:シラユキ:絶望]「ハルッ!!」[/A]
光となり消えゆく体を、強く抱きしめる血まみれの小さな腕。
彼女の指先の震え。頬に落ちる、生温かい涙の感触。
前世の業火が浄化され、ほどけていくすべての因縁。
最後に触れ合ったのは、魔王と巫女ではない。
ただの、少年と少女。
[A:ハル:愛情]「……ありがとう。シラユキ」[/A]
[FadeIn]光の粒子となって、俺の存在は世界から溶け落ちる。[/FadeIn]
◇◇◇
やむ、星屑雨。
澄み切った、青い空。
吹き抜ける風が、廃駅の錆びた線路を優しく撫でる。
彼女は一人、そこに立っていた。
誰を待っていたのか、もう思い出せない。
砂のように崩れ落ちていく記憶の輪郭。
けれど。
頬を伝う一筋の涙。
そして、きつく握りしめた掌の中に残る、かすかな温もり。
そこにあった、光の欠片。
確かに深く愛し合った記憶だけが、胸の奥で静かに脈を打つ。