第一章: 結晶の森と星降る夜の邂逅
空から、硝子の破片に似た星屑の灰。舞い落ちる死の雪。
泥と灰にまみれた擦り切れた亜麻布。灰色がかった銀髪を、冷たい夜風が容赦なく打ち据える。エルマは、右腕から首筋にかけてびっしりと浮かび上がる青い鉱石の鱗片を粗末な布で隠し、空を睨んだ。どん底の生活に似合わない、爛々と燃える静かな双眸。
村の広場。充満する、錆びた鉄の臭気と泥の匂い。星石病に冒され、皮膚が鉱石へと変異しつつある村人たちの呻き声が木魂する。無言で跪き、苦しむ老人の手を握るエルマ。
[Pulse]ドクン、ドクン。[/Pulse]
老人の腕を侵食していた青い輝き。それが、エルマの右腕へと流れ込んでいく。皮膚の下で無数の鋭い棘が暴れ回るような激痛。奥歯を噛み砕くほどの力で耐え、エルマは血の滲む唇を歪めて笑みを作った。
[A:エルマ:照れ]「大丈夫、全然痛くないよ。だから泣かないで」[/A]
他者の痛みを引き受ける「泥の器」。忌み嫌われながらも、それがエルマの唯一の存在理由。
その日の夕暮れ。血のような夕焼け空を切り裂き、一筋の流星が青く輝く結晶の森へと墜落。地響きとともに巻き上がる土埃。痛む足を引きずり、エルマは森の奥へと駆け出す。
星空を反射する無機質な結晶の木々。その中心、すり鉢状のクレーター。
硝子の雨が降り注ぐ中、そこに「それ」は倒れていた。
月光のように透き通る白髪。泥だらけの地面を踏みしめる、柔らかな裸足。ゆっくりと身を起こした少女の金色の双眸。それが、エルマを真っ直ぐに射抜く。
[A:ルナリア:驚き]「あなたは……」[/A]
純白の少女が、エルマの鉱石化した右腕に触れる。
[Flash]眩い銀光の瞬き。[/Flash]
凍りつくような痛みが嘘のように引き、青い鱗片がさらさらと光る砂になってこぼれ落ちていく。エルマの喉の奥から、ヒュッと息が漏れた。世界を死に至らしめる星石病を無に帰す力。この少女は一体何者なのか。圧倒的な奇跡を前に、エルマはただ呆然と立ち尽くす。
◇◇◇
第二章: 触れ合う温度と忍び寄る影
古い木組みの小屋の中。響く、薪の爆ぜる音。
欠けた木皿から立ち上る、温かい野菜スープの湯気。根菜の甘みと微かな塩の匂い。冷え切った空気が、じんわりとほどけていく。
[A:ルナリア:喜び]「あたたかい……。エルマ、これ、すごくおいしいです」[/A]
[A:エルマ:照れ]「よかった。もっとあるから、ゆっくり食べて」[/A]
ルナリアが村に留まり始めてから数日。彼女の力は、村人たちの体を蝕む鉱石を次々と剥がし落としていく。生まれて初めて向けられる感謝の眼差し。エルマの胸の奥で、名付けようのない熱が膨張する。ルナリアが紡ぐ鼻歌。風に揺れる広葉樹のざわめき。色を失っていた世界に、鮮やかな色彩が塗りたくられていく。
だが、平穏の終わりは唐突に。
村の入り口に落ちる、巨大な影。黒銀の重厚な騎士鎧。背には身の丈ほどある大剣。無精髭を生やした男の鋭い三白眼が、ルナリアを無感情に見据える。
[A:ガウェイン:冷静]「……下らない。奇跡なんてものは、御伽噺の中だけの代物だ」[/A]
教団の特務騎士ガウェイン。ルナリアを「兵器」として回収すべく現れた死神。
エルマはルナリアを背に庇い、折れた鉄パイプを構える。しかし、エルマの背中に触れたルナリアの指先。それが、痙攣するように震えている。
[A:ルナリア:恐怖]「エルマ? どうして昨日、私たちはあの丘へ行ったのですか?」[/A]
背筋に氷柱をねじ込まれたような悪寒。昨日、二人で名もなき花に名前をつけた記憶。ルナリアの瞳から、その時間の痕跡がすっぽりと抜け落ちている。
◇◇◇
第三章: 致命的なすれ違いと忘却の代償
燃え盛る村。焼け焦げた木材の臭気と、狂い舞う火の粉。
炎の向こう側。豪奢な法衣を纏う初老の男が、優雅な足取りで歩み寄る。教皇ヴィンセント。その左半身はすでに虹色に輝く鉱石と化し、人間の輪郭をとうに喪失している。
[A:教皇ヴィンセント:狂気]「嘆くことはない。永遠の美しさこそが、我らへの絶対の救済なのだよ」[/A]
教皇が優雅に指を鳴らす。地面から無数の青い鉱石の槍が突き出し、エルマの肩を無慈悲に貫通。
[Tremble]熱い血の匂い。口の中に広がる生温かい鉄の味。[/Tremble]エルマは血反吐を吐きながら膝を折る。
[A:ガウェイン:怒り]「巫女の浄化は、己の感情と記憶を代償に灰を無害化する呪いだ!」[/A]
大剣で鉱石の槍を粉砕しながら、ガウェインが吠える。世界を救えば、ルナリアの心は完全に消滅する。その残酷な真実。エルマの脳髄を、絶望が叩き割る。
[A:ルナリア:悲しみ]「わたしが、やらなくちゃいけないの。それが私の生まれた意味だから」[/A]
ルナリアがヴィンセントに向かって歩み出る。その白足を止めるため、エルマは血まみれの右手を伸ばす。彼女に呪いを背負わせるくらいなら、自分がすべてを喰らってやる。他者の痛みを転移させる「泥の器」の力。そのリミッターを、命ごと引きちぎる。
[Magic]《全浄化・星屑の身代わり》[/Magic]
[Shout]ぐあぁぁぁぁッ!![/Shout]
肉体が軋み、骨が爆ぜる音。エルマの全身から青黒い鉱石が凶暴に突き出し、人間の姿を内側から破壊していく。吹き飛ぶ理性。巨大で醜悪な「星屑の獣」への成り果て。視界が真っ赤に染まり、エルマの意識は底なしの泥濘へと沈没する。
◇◇◇
第四章: 反逆と最後の記憶
大地を揺るがす獣の咆哮。
星屑の獣と化したエルマ。周囲の木々を、紙屑のように薙ぎ倒していく。その圧倒的な破壊を前に、ガウェインは柄を握る手に力を込めた。かつて星石病で死んだ妹の、氷のように冷たい手。脳裏をよぎる安っぽい紅茶の香りと、最期の微笑み。組織に盲従し、心を殺してきた己への悍ましいほどの罪悪感。
ガウェインは、教皇ヴィンセントに向けて大剣を構え直す。
[A:ガウェイン:怒り]「心を持たない神などクソ食らえだ!!」[/A]
血しぶきを上げながら、ガウェインが単身で教皇の刺客たちを食い止める。泥臭い剣戟の音。その死闘の傍らで、ルナリアは獣の眼前に立ち塞がる。
[Sensual]
ルナリアの柔らかな両手。それが、獣の鋭く冷たい鱗を包み込む。
[A:ルナリア:愛情]「もう、一人で抱え込まないで」[/A]
ひんやりとした無機質な肌越しに流れ込む、ルナリアの脈打つ体温。重なり合う息遣い。甘い果実のような香りが鼻腔をくすぐり、荒れ狂う獣の意識の深淵へと、純白の少女が溶け込んでいく。
深い精神の海。暗闇の中で膝を抱えるエルマの魂。ルナリアがそっと歩み寄り、その額を合わせる。鼓動の重なり。エルマが抱え続けてきた「誰にも必要とされない孤独の痛み」を、ルナリアの熱が甘く優しく溶かしていく。
[/Sensual]
[FadeIn]ゆっくりと、エルマの瞳に理性の光が灯る。[/FadeIn]
だが、時すでに遅し。天空を覆い尽くすほどの分厚い雲。そこから、致死量の星屑の灰が雪崩のように地上へと降り注ごうとしている。
◇◇◇
第五章: 光の奔流と石像の春
空が、落ちてくる。
世界を滅ぼす星屑の灰の津波。
正気を取り戻したエルマ。己の命がすでに灰と化しつつあることを悟る。ルナリアの記憶を守るため。この美しい世界を残すため。エルマは、己の存在すべてを砕く決断を下した。
[A:エルマ:愛情]「君の心が砕ける前に、この空に優しい雪を降らせよう」[/A]
[Impact]星屑の獣の肉体が、内側から限界まで膨張する。[/Impact]
世界に降り注ぐすべての灰。それを、エルマは自らの身一つに貪り食うように吸収していく。限界を超えた質量。エルマの魂を、不可逆の美しい鉱石へと作り変えていく。
[Flash]光の奔流が天を衝く。[/Flash]
炸裂する圧倒的な光彩。空を覆っていた死の灰が、きらきらと光り輝く無害な雪へと姿を変える。
風に揺れる緑の草原。どこまでも高く澄み渡る青空。湿った土の匂い。頬に触れる雪の冷たさが、世界に生命の息吹を告げる。
光が収まった丘の上。
青く透き通る美しい鉱石の彫像。エルマが、そこに立っている。空を見上げるその顔は、酷く穏やかな笑みを浮かべていた。
記憶を失うことなく生き残ったルナリア。雪が降り積もる彫像に歩み寄り、冷たい石の頬にそっと両手を添える。
[A:ルナリア:愛情]「いつかあなたが目覚める春まで、ここで待っているね」[/A]
冬の澄んだ空気。二人の間を静かにすり抜けていく。
永遠の沈黙に沈んだ少年の石像。それに寄り添う純白の少女。奇跡の予感を孕んだ清冽な雪が、輝く世界を優しく包み込んでいく。