因果を喰らう奈落の亡霊〜狂愛の聖女に裏切られし元勇者は、神の庭ごとすべてを斬り伏せる〜

因果を喰らう奈落の亡霊〜狂愛の聖女に裏切られし元勇者は、神の庭ごとすべてを斬り伏せる〜

主な登場人物

ユーリ・エインズワース
ユーリ・エインズワース
21歳 / 男性
くすんだ銀色の長髪を後ろで雑に結び、かつての激戦を物語る無数の生傷が全身を覆っている。右目には漆黒の革製眼帯を装着し、左目は深淵を見通すような冷徹な深紅。服装は、奈落の魔獣の血を吸って黒ずんだボロボロのフルプレートアーマーを着用。全体的に陰鬱で圧倒的な威圧感を放つ死神のような佇まい。
アリシア・フォン・ローゼンバーグ
アリシア・フォン・ローゼンバーグ
19歳 / 女性
陽光を反射して輝く美しい極上のプラチナブロンドのロングヘア。聖なる慈愛をたたえた神秘的な碧眼。純白と黄金を基調とした、汚れなき最高位の聖女の法衣を身にまとう。非の打ち所がない美貌を持ち、その一挙手一投足が神聖なカリスマ性を放っているが、その瞳の奥には常軌を逸した狂気が宿る。
ヴァルバトス
ヴァルバトス
不詳(精神年齢は30代) / 男性
漆黒の巨大な双翼を持つ、魔族の至高にして魔王。漆黒の髪に鋭い一対の角が生えており、妖艶で整った顔立ち。服装は細かな刺繍が施された高貴な漆黒と深紅の貴族服。常に優雅な笑みを浮かべ、強者の余裕と絶対的な孤独を漂わせている。

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第1章:奈落の底へ、光が消える刻

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魔王ヴァルバトスとの死闘を終えたその瞬間、王宮の尖塔を震わせる勝利の鐘が、世界に平和 of 訪れを告げるはずだった。

だが、ユーリ・エインズワースの視界を染めたのは、黄金のまばゆい光などではなかった。

胸元を冷酷に、そして深く貫いたのは、神聖にして純白なる光の楔(くさび)だ。

くすんだ銀色の長髪が激しい衝撃でほどけ、宙に舞う。

無数に刻まれた全身の生傷から、赤黒い血が、せきを切ったように止めどなく溢(あふ)れ出していく。

[A:ユーリ・エインズワース:絶望]「……がはっ……、ア、リシア……?」[/A]

喉の奥からせり上がる、焼けるような鮮血を激しく吐き散らしながら、ユーリは左の赤い瞳を大きく見開いた。

その視線の先。

純白と黄金を基調とした、汚れなき最高位の聖女の法衣を風にたなびかせ、プラチナブロンドの髪を神聖に輝かせたアリシア・フォン・ローゼンバーグがたたずんでいた。

彼女の碧(みどり)の眼(まなこ)には、いつも民衆に向けていた慈愛の色など微塵(みじん)もない。

そこにあるのは、底の知れない冷たい平穏。

命の灯火(ともしび)が消えゆく戦友を、ただ見下ろす冷徹な眼差しだった。

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:冷静]「お疲れ様、ユーリ。あなたの役目はこれで終わりよ」[/A]

鈴を転がすような、どこまでも優しく、そこでまでも残酷な声。

彼女がそっと右手を虚空に掲げると、大聖堂の深い影から、重厚な鉄の甲冑(かっちゅう)に身を包んだ聖騎士たちが、無数の魔術の鎖を構えて現れた。

[A:ユーリ・エインズワース:絶望]「なぜ……だ……。俺たちは、世界を……」[/A]

[Impact]「魔王と通じた大罪人ユーリを捕らえよ!」[/Impact]

大司教の、乾いた、一切の慈悲を排した宣告が冷酷に響き渡る。

四方八方から蛇のように放たれた魔術の鎖が、満身創痍(まんしんそうい)のユーリの四肢を無慈悲に締め上げた。

そのまま、冷たい大理石の床へと叩きつけられる。

全身の骨がきしむ鈍い音が、厳かなる聖堂の静寂に響いた。

聖騎士たちは冷徹に、ユーリの身体を引きずっていく。

目指す先は、生きて戻った者は誰一人としていないとされる、最悪の流刑地――「深淵(しんえん)の奈落」の淵(ふち)だ。

大聖堂の重厚な扉の外からは、地上の民たちが聖女を称える、狂信的な地鳴りのような歓声が響き渡っていた。

自分を悪魔と罵倒し、鋭い石を投げつけてくる、かつて守り抜いたはずの人々の歪んだ顔、顔、顔。

命を、魂のすべてを捧げて守り抜いたはずの世界が、一瞬にして牙を剥き、彼を喰らい尽くそうとしている。

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:狂気]「世界を救うのが英雄の役目なら、あなたはもう十分にそのお役目を果たしました。これからは、私のものとして眠るのです」[/A]

[Shout]「うあああああああああああっ!」[/Shout]

奈落の、底知れぬ暗黒へと突き落とされる中、ユーリの絶叫が闇に吸い込まれていく。

耳を劈(つんざ)く民衆の歓声。

胸の楔から放たれる、肉体を内側から焼くような激痛。

信じていたすべてに背中から刺された、あの皮膚の冷たさが、彼の泥のように濁っていく意識の底に、消えない黒い消し炭を焼き付けた。

真っ暗闇の、奈落の底。

落下による凄まじい衝撃で全身 of 骨が砕け、内臓が潰れ、呼吸すらままならない。

それでもユーリは、千切れかけた右腕を、冷たい土の上で這(は)わせた。

生きたい。

その一念だけで動く指先が、不気味に赤黒く発光する、地に突き刺さった「一本の錆(さ)びた剣」に触れた。

第2章:深淵を喰らい、怪物と化す

Scene Image

奈落の泥は氷のように冷たく、そして鼻を突く鉄の錆びた臭いと、魔獣の腐りかけた死臭が充満していた。

ピクリとも動かない満身創痍の身体。

血の匂いを嗅ぎつけたのだろう。

闇の奥から、蠢(うごめ)く異形の魔獣たちが、無数の赤い眼光を妖しく光らせて近づいてくる。

湿った不快な呼吸音が首筋にまで近づき、鋭い牙が、ユーリの生傷だらけの肉を情け容赦なく抉(えぐ)り取った。

[A:ユーリ・エインズワース:怒り]「……消えろ……、俺は、こんなところで……!」[/A]

生存への、狂おしいまでの執念。

それが、動くはずのない右腕を無理やり突き動かした。

泥の中に深く突き刺さっていた錆びた大剣の柄を、自らの血で濡れた指先で、力強く掴み取る。

[Flash]その瞬間、錆びついた大剣が、ユーリの傷口から溢れ出る呪われた赤黒い血を、飢えた獣のように狂ったように吸い上げ始めた。[/Flash]

[System]《因果喰術(いんがしょくじゅつ):起動。宿主の肉体変革を開始します》[/System]

[Think]生きたい。

なぜだ。なぜ俺を裏切った、アリシア。

あの温もりは、交わしたあの言葉は、すべて嘘だったのか。

俺をここで見殺しにするというのなら、この奈落の闇ごと、すべてを喰らい尽くしてやる。[/Think]

錆びた剣は、おぞましい「飢餓の魔剣」へとその姿を変え、ユーリの体内に直接、悍(おぞ)ましい魔力を逆流させていく。

悲鳴を上げる暇すらなかった。

身体の細胞が一度完全に破壊され、貪(むさぼ)り食ってきた魔獣の肉片と混ざり合いながら、強制的に再構築されていく。

骨が折れ、肉が沸き立つ激痛にのたうち回りながら、ユーリは手近にいた魔獣の首を魔剣で叩き斬り、その剥(む)き出しの生肉を貪り喰らった。

[A:ユーリ・エインズワース:狂気]「はは、あはははは! 旨い、旨いぞ……!」[/A]

口内を満たすのは、泥と獣の脂、そして強烈な腐臭。

だが、肉が喉を通るたびに、失われた右目の代わりに、闇を見通す異様な感覚が研ぎ澄まされていく。

かつてくすんでいた銀髪は、生気を完全に失った白銀の長髪へと変わり果て、潰れた右目には漆黒の革製眼帯をあてがうしかなかった。

むき出しの左の深紅の瞳には、奈落のすべての闇を凝縮したような、冷徹な光が妖しく宿る。

それから、何年が過ぎたのだろうか。

奈落の魔獣を狩り、その肉を喰らい、その異能を一時的に肉体へと定着させる。

傷ついては再生し、また引き裂かれては魔獣の硬質な鱗を皮膚に宿す。

かつての「光の勇者」としての高潔な面影は、奈落のヘドロの中に、完全に消え失せた。

[A:ユーリ・エインズワース:冷静]「世界を救うのが英雄の役目なら、俺はとっくにそれを引退した。今はただ、這い出てきただけの亡霊だ」[/A]

奈落の最上層。

地上とを隔てる、神聖にして絶対的な封印の結界の前に、ボロボロのフルプレートアーマーを纏(まと)った死神が立つ。

ユーリは、黒ずんだ魔剣を静かに、だが絶対の殺意を込めて構えた。

[Magic]《因果両断(いんがりょうだん)》[/Magic]

[Impact]凄まじい闇の衝撃波が走り、絶対に破れないとされた結界が、ガラスのように脆く粉々に砕け散った。[/Impact]

第3章:光の楽園、偽りの救済

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再び踏みしめた地上の土は、不自然なほどに甘い、花の香りに満ちている。

だが、その空気はユーリの喉を焼くように不快極まりない。

数年ぶりに訪れた王都。

かつて彼が命を懸けて守ろうとした、活気ある素朴な街並みはどこにも見当たらない。

中央の広場には、全天を仰ぎ見るような、アリシアの巨大な黄金像が聳(そび)え立っている。

行き交う人々は一様に、汚れなき白い法衣を身にまとい、その黄金像に向かって、虚(うつ)ろな目で呪文のように祈りを捧げていた。

「救世の聖女、アリシア様。どうか今日も愚かなる我らをお導きください……」

狂信の熱。

街の片隅では、祈りの言葉を少しでも淀(よど)ませた老人が、教会の異端審問官たちによって冷酷に組み伏せられていた。

「不信仰者は神の光を濁らせる。連れて行け、聖なる炎で浄化する」

「おじいちゃん! やめて、おじいちゃんを連れて行かないで!」

少女が泥の中に容赦なく投げ出され、冷たい大剣を首筋に突きつけられる。

かつて、ユーリがその命を賭して守りたかった、小さな命の涙。

それが、今は「聖女の秩序」という綺麗事の影で、冷酷に踏みにじられている。

ユーリは静かに、ボロボロのフードを跳ね除けた。

白銀の長髪が冷たい風に揺れ、右目の黒い眼帯と、左目の紅い瞳が露わになる。

[A:ユーリ・エインズワース:冷静]「……相変わらず、胸の悪くなる光景だ」[/A]

「何奴だ! 聖女様の秩序を乱す不逞の輩か!」

審問官たちが一斉に、鋭い光の槍を構え、ユーリへと突き出す。

だが、ユーリは避ける素振りすら見せない。

ただ一歩、静かに踏み出す。

[Impact]その瞬間、ユーリの身体から立ち上る奈落の漆黒の魔力が、周囲の空気を一瞬で氷結させた。[/Impact]

「な、なんだこの魔力は……! 結界が、聖なる結界が、中から腐っていく……!?」

魔剣をただ一振り。

それだけで、大聖堂の加護を受けた聖騎士たちの強固な鎧が、錆びた鉄くずのように音を立てて砕け散る。

血を流して倒れ伏す審問官たちを冷たく見下ろし、ユーリは涙を流す少女の前に片膝をついた。

その武骨な、無数の傷に覆われた手で、少女の震える小さな手をそっと包み込む。

[A:ユーリ・エインズワース:冷静]「もういい。行け」[/A]

[Think]この手の柔らかさ。

かつて、何度も握りしめた、あの温かい手の感触が、一瞬だけ脳裏を掠めて消えていく。[/Think]

その強大な闇の残滓(ざんし)は、瞬時に波紋となって、王都の最奥へと伝播(でんぱ)していった。

大聖堂の奥深く、薄暗い部屋。

かつてユーリが巻いていた、ボロボロの包帯を愛おしげに頬にすり寄せていたアリシアが、その動きをピタリと止める。

彼女の碧眼に、狂おしいほどの歓喜の光が灯った。

第4章:鎖された真実、狂った純愛

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重厚な大聖堂の玉座の間。

そこは、外の光を完全に遮断した、静寂と冷気だけが支配する空間だった。

中央の玉座に座るアリシアは、ユーリの足音が近づくにつれて、陶酔したような笑みを浮かべる。

[A:ユーリ・エインズワース:怒り]「アリシア。このときを、片時も忘れたことはなかったぞ」[/A]

ボロボロの魔剣の刃先が、アリシアの細い首筋へと容赦なく突きつけられる。

皮が切れ、一筋の赤い血が彼女の白い肌を伝い落ちる。

だが、彼女は怯えるどころか、世界で最も愛おしいものを見るように、ユーリの眼帯の顔を見つめた。

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:愛情]「ああ……、本当に戻ってきてくれたのね。私のユーリ。その傷、その荒んだ瞳……。どれほど私を想って、その奈落を荒い上がってきたの?」[/A]

[Sensual]

アリシアは躊躇(ちゅうちょ)なく進み出て、魔剣の鋭い刃が肉に食い込むのも構わずに、ユーリの煤(すす)けた胸当てにその細い体を押し当てた。

[Pulse]彼女の甘い、熱い狂気を含んだ吐息[/Pulse]が、ユーリの首筋を優しく撫でる。

耳の裏に、かつて彼女が刻んだ「光の紋章」の痕が、激しい熱を持ったように、どくん、どくんと脈打ち始める。

[A:ユーリ・エインズワース:驚き][Tremble]「……何の真似だ。俺を裏切り、奈落に落としたお前が、なぜそんな顔をする!」[/Tremble][/A]

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:狂気][Whisper]「そうしなければ、あなたは完全に消滅していたからよ。神の天秤はね、世界を維持するために、英雄ユーリの『魂そのもの』を永久の贄(にえ)として消費する予定だったの。私は、あなたが世界のためにすり潰されるのが耐えられなかった」[/Whisper][/A]

彼女の告白に、ユーリの身体が硬直する。

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:愛情][Whisper]「だから、神の目の届かない『奈落』へあなたを隠したの。私がすべての泥を被り、偽りの救世主となって、あなたの代わりに世界の管理を乗っ取るために。世界なんて、どうなってもいい。あなたが生きているのなら、私の犯した全ての罪は天上の楽園へと昇華されるのです」[/Whisper][/A]

[/Sensual]

[A:ヴァルバトス:喜び]「フハハ、実に見事な悲喜劇だ。人間よ、お前たちの神がどのような狂気でこの庭を作ったか、これで理解できたか?」[/A]

玉座の影から、漆黒の双翼を広げた魔王ヴァルバトスが優雅に姿を現した。

かつてユーリがその命を賭して討ち果たしたはずの宿敵は、不敵な笑みを浮かべて、チェスの黒い駒を弄(もてあそ)んでいる。

[A:ユーリ・エインズワース:驚き]「ヴァルバトス……! 生きていたのか……!?」[/A]

[A:ヴァルバトス:冷静]「私と聖女は、初めからこの腐ったシステムを破壊するための共犯者だ。この世界は、神という高次元の寄生虫が、輪廻の家畜として我々を消費するためだけの『箱庭』。ユーリ、お前という壊れぬ破壊槌(はかいつち)が必要だったのだよ」[/A]

信じていた正義が、裏切りという悪意が、すべて反転していく。

自分が救おうとした世界そのものが、巨大な生贄の祭壇であったという歪んだ現実に、ユーリの脳内が激しく軋(きし)んだ。

第5章:神の粛清、逆賊たちの戦線

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[Glitch]「――不浄なる者たちに、等しく神罰を――」[/Glitch]

突如、大聖堂の天井が轟音とともに弾け飛んだ。

降り注ぐ瓦礫の向こう、黄金に輝く天の雲が割れ、そこから無数の「幾何学的な光の輪」を背負った使徒たちが降臨する。

彼らの手には、世界を初期化するための、白熱する審判の槍が握られていた。

[A:ヴァルバトス:怒り]「ふん、気づくのが少々早かったな。天上の家畜飼いどもが」[/A]

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:冷静]「ユーリ、下がっていて。あなたの代わりに、今度こそ私がすべてを焼き尽くします」[/A]

アリシアが神聖な杖を天に掲げ、絶対的な光の結界を展開する。

だが、降り注ぐ神の光線は、彼女の結界を容赦なく削り取り、その華奢(きゃしゃ)な身体を激しく震わせる。

[A:ユーリ・エインズワース:冷静]「……誰が下がると言った」[/A]

ユーリは、錆びた魔剣を両手で強く握りしめた。

全身の魔獣の紋様が、赤黒い光を放って蠢き出す。

[A:ユーリ・エインズワース:怒り]「お前たちの都合で、俺の人生を勝手にかき回すな。神だろうが運命だろうが、俺の前に立つなら斬る。それだけだ!」[/A]

[A:ヴァルバトス:喜び]「そうだ、それでこそ我が宿敵! 英雄よ、この腐った箱庭の主を叩き潰す絶好の好機だと思わんか!」[/A]

かつて血を流して殺し合った三者が、今、一つの戦線に並び立つ。

アリシアが光の魔法で敵の動きを縛り、ヴァルバトスが次元の隙間を切り裂いて道を作る。

その中心を、ユーリが漆黒の嵐となって駆け抜けた。

使徒たちの黄金の鎧が、ユーリの泥臭い、力任せの暴力の前に次々と両断されていく。

だが、上空の雲から、さらに巨大な光の鎖が蛇のように這い出てきた。

[Flash]その鎖は、ユーリの死角から急激に襲いかかる。[/Flash]

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:愛情][Shout]「危ない、ユーリ!」[/Shout][/A]

アリシアがユーリの前に身を投げ出した。

光の鎖が彼女の華奢な四肢を容赦なく貫き、強引に天へと引きずり上げていく。

[A:ユーリ・エインズワース:驚き][Shout]「アリシア――!」[/Shout][/A]

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:悲しみ]「あ……、ユーリ……、私……」[/A]

天上の雲の奥へと消えていく彼女の叫びが、虚空に悲しく消えた。

第6章:魔王の誇り、散りゆく劇の終幕

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[System]「警告:地上の全人類へ。大罪人ユーリが聖女を誘拐し、世界を破滅へと導かんとしている」[/System]

天から響く無機質な神の声が、王都だけでなく、世界中の人々の脳内に直接響き渡る。

大聖堂の周囲を取り囲む民衆の目が、一瞬にして、獣のような憎悪の色に染まった。

「あの悪魔を殺せ! 聖女様を救うんだ!」

「お前のせいで世界が滅びる! 死ね、ユーリ!」

無数の投石が、呪術の炎が、傷ついたユーリの身体に浴びせられる。

真実を知らぬ愚かな民衆たちの叫び。

かつて命を賭して守り、その幸福を祈った人々が、今は己を殺せと狂ったように叫んでいる。

ユーリが魔剣に手をかけようとしたその時、ヴァルバトスが漆黒の双翼でそれを遮った。

[A:ヴァルバトス:冷静]「気にするな、家畜どもの声など。お前が世界を救うのか、それともお前の愛する狂った女一人を救うのか、その眼で見極めてこい」[/A]

ヴァルバトスの全身から、膨大な、己の魂を薪にした漆黒の魔力が立ち上る。

彼の角の付け根が、限界を超えた魔力の過負荷で赤く発光し、皮膚が裂けていく。

[A:ユーリ・エインズワース:悲しみ]「ヴァルバトス、お前……」[/A]

[A:ヴァルバトス:喜び]「私とて、神の描いたシナリオ通りに死ぬのは退屈でな。私の全魔力を以て、神殿への道を抉り開く。行け、英雄!」[/A]

魔王の鋭い爪が、空間そのものを無理やり引き裂き、天へと繋がる歪んだ次元の門を作り出す。

殺到する天使の大軍と狂乱する民衆の前に、ヴァルバトスは一人で立ちはだかった。

彼の身体が、内側からの大爆発に備えてひび割れていく。

[A:ヴァルバトス:喜び]「さらばだ、孤独な英雄。お前の泥臭い抗い、最高に美しい劇だったぞ!」[/A]

[Shout]「おおおおおおおおおおっ!」[/Shout]

背後で響く、天を揺るがす漆黒の大爆発。

宿敵の壮絶な散り様を背に浴びながら、ユーリは熱い涙を振り払い、次元の裂け目へと全力で跳んだ。

第7章:因果の超越、エゴの咆哮

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天空の最深部。

幾何学的な純白の神殿の玉座には、巨大な「光の眼球」のような異形の概念――神が浮かんでいる。

その下、無数の光の棘に体を貫かれ、血を流しながら磔(はりつけ)にされているのはアリシアだった。

彼女のプラチナブロンドの髪は乱れ、碧眼からは絶え間なく涙がこぼれ落ちている。

[Glitch]「――選択せよ、泥の反逆者よ――」[/Glitch]

神の無機質な声が、ユーリの脳内を直接叩く。

[Glitch]「世界を存続させたいならば、因果の歪みであるこの聖女を自らの手で殺せ。もし聖女を生かすならば、この世界のすべての生魂を代償として徴収する」[/Glitch]

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:悲しみ][Tremble]「ユーリ……、お願い、私を殺して……。あなたが……世界の敵になるのを、私は見たくない……。あの優しいあなたが……」[/Tremble][/A]

アリシアが、涙に濡れた顔で、血を吐きながら懇願する。

彼女は最後まで、ユーリの「心」を守ろうとしていた。

だが、ユーリはただ、自嘲気味に鼻で笑った。

彼は一歩、また一歩と、神の障壁に向かって歩みを進める。

[A:ユーリ・エインズワース:冷静]「優しいあなた、だと? そんな男は、とっくにあの奈落の底で死んだよ」[/A]

彼が魔剣を構えると、錆びついた刀身が、激しい振動を始める。

かつて世界のために自分を犠牲にし、すべてを失った。

そんな安い正義など、二度と御免だ。

[A:ユーリ・エインズワース:怒り][Shout]「世界がどうなろうと知ったことか! 俺を愛して、俺を生かすために地獄に落ちたこの女一人さえ救えないなら、そんな世界ごと、神を切り刻む!」[/Shout][/A]

[Flash]その瞬間、魔剣からすべての錆が剥がれ落ちた。[/Flash]

中から現れたのは、光をも吸い込む完全なる虚無の刃。

[System]《因果反転の魔剣:完全覚醒》[/System]

[Magic]《因果反転・神殺し》[/Magic]

[Impact]ユーリは、神の絶対障壁を、ただの泥臭い執念と力任せの暴力で叩き割った。[/Impact]

ガラスの割れるような耳障りな音が響き、魔剣の刃が、神の「眼球」の核へと深く突き刺さる。

[Glitch]「――馬鹿な、因果が、世界そのものが崩壊するぞ――」[/Glitch]

[A:ユーリ・エインズワース:狂気]「崩壊したければするがいい。俺たちの地獄は、ここで終わりだ!」[/A]

光の核が激しくひび割れ、神殿全体が、崩落の渦の中に飲み込まれていった。

第8章:消え去る英雄、遺された約束

神の崩壊とともに、世界を縛っていた「贄の理」は完全に消滅する。

天から降り注ぐ光の破片が、地上を優しく包み込み、人々を狂信の呪縛から解き放っていく。

だが、崩れゆく神殿の瓦礫の中、ユーリの身体もまた、指先から徐々に光の粒子となって消えかけていく。

因果を書き換えた代償。

「因果反転の魔剣」の対価として、ユーリという存在そのものが、この世界の歴史から消去されようとしていたのだった。

[Sensual]

アリシアは、崩れ落ちるユーリの身体を必死に抱きしめた。

[Pulse]消えゆく彼の体温[/Pulse]を、その細い腕で必死に留めようとする。

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:悲しみ][Blur]「ユーリ……? どうして、身体が透けているの……? お願い、行かないで……。私を、一人にしないで……」[/Blur][/A]

彼女の美しい碧眼から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

だが、その瞳の中に宿る光が、徐々に「戸惑い」へと変わっていく。

ユーリという存在の記憶が、世界から削り取られていく。

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:驚き][Blur]「あなたは……だれ……? どうして、私はこんなに泣いているの……?」[/Blur][/A]

ユーリは、残された左の手で、彼女の涙を優しく拭った。

無数の傷に覆われた、しかしどこまでも温かい手。

[A:ユーリ・エインズワース:愛情][Whisper]「お前が生きて、自分の意志で歩き出せる。それだけで、俺の勝ちだ」[/Whisper][/A]

記憶から消えても、魂に刻まれた温もりは消えない。

ユーリは満足そうに微笑み、彼女の唇に、静かに最後の接吻(くちづけ)を交わした。

[A:ユーリ・エインズワース:冷静][Whisper]「もう、誰も犠牲にするなよ。アリシア」[/Whisper][/A]

その言葉を最後に、ユーリの身体は光の粒子となって、天空の風の中に完全に溶けて消え去った。

[/Sensual]

――数年後。

世界は穏やかな復興を遂げていた。

神への祈りではなく、人々が自らの手で畑を耕し、家族と笑い合う、当たり前の平和。

美しく整えられた街の片隅に、持ち主の名も刻まれていない、一本の「錆びた剣の記念碑」が佇(たたず)んでいた。

その前を通りかかったアリシアは、ふと足を止める。

彼女の胸に、なぜか締め付けられるような激しい愛おしさと、言葉にできない喪失感が押し寄せる。

[A:アリシア・フォン・ローゼンバーグ:悲しみ][Tremble]「あれ……? おかしいな。どうして、涙が……」[/Tremble][/A]

理由も分からずに、彼女の頬を涙が伝う。

それでも、彼女は記念碑に向かって、優しく微笑みかけた。

記憶を越えた目に見えない強固な約束が、彼女の胸の中で、今も静かに息づいている。

その錆びた剣の奥、誰も気づかない刀身の底で、かすかな赤黒い光が、彼女を見守るように優しく瞬いていた。

クライマックスの情景

【物語の考察】

本作は一見、復讐に燃える勇者のダークファンタジーに見えるが、その真の実態は、最も歪んだ形をした「絶対的な純愛」を描いた物語である。アリシアがユーリを奈落に突き落とした行為は、世界を維持するための生贄システムから彼の魂を守るための究極の生存戦略であり、裏切りと見えた行為こそが最大の救済であったというミッドポイントの反転が、物語全体の感情曲線をドラマチックに引き上げている。すべてを犠牲にしてでも一人を生かすというアリシアのヤンデレ的エゴと、それに呼応して神ごと世界を否定したユーリの咆哮は、美しくも苛烈な愛の証明である。

【メタファーの解説】

本作における「錆びた剣(因果反転の魔剣)」は、運命に対する反逆と、泥臭い「生への執着」の象徴である。光り輝く神の槍が「定められた理(自己犠牲の強制)」を意味するのに対し、血に塗れ錆びついた魔剣は、エゴイスティックでありながらも自らの意思で未来を切り拓く自由と愛を表現している。また、最後のアリシアの「忘却」と「流れる涙」は、たとえ歴史の因果から存在が消え去ろうとも、魂に刻まれた絆は決して消えないという不滅の約束をメタファーとして描き出している。

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