第1章 死を望む贄と、生に抗う獣
[Blur]視界が紫の霧に濁る。[/Blur]
肺を灼くのは、世界樹の根元に満ちる泥のような毒の腐臭。
骨折した全身が、鉄の爪で引き裂かれるかのように軋み、悲鳴を上げる。
無造作に伸びた黒髪の隙間から、どこまでも重苦しい、粘りつくような天井を睨む。
アルス・クロイツは、血に濡れた黒い革鎧を泥濘に擦りつけながら、泥水を吐き出しつつ起き上がった。
[Think]裏切られた。あの男に、信じていた我が師ヴェノム・ガイアスに。[/Think]
命を預けたはずの男の、冷酷で端整な笑みが、泥の底で醜く歪む。
[Pulse]ドクン、ドクンと、張り裂けそうな胸が激しく脈打つ。[/Pulse]
骨の折れた右腕を庇いながら、琥珀色の双眸は未だぎらぎらとした野生の光を湛えていた。
その時、遥か数千メートル上空の、淀んだ闇が鋭く裂けた。
[Impact]真っ逆さまに落ちてくる、汚れなき純白の影。[/Impact]
腰まで届く透き通るような白銀のロングヘアが、風に煽られて美しく、あるいは残酷に夜を舞う。
金色の神聖な装飾が施された聖騎士の甲冑が、落ちていく最中にも虚しくきらめいていた。
泥に濡れた純白の神官服が、激しい風を孕んで大きくはためく。
[A:アルス・クロイツ:驚き]「っ、おい……! 冗談、だろ……!」[/A]
アルス・クロイツは、泥に沈む足を力任せに引き抜き、反射的に地を蹴った。
満身創痍の身体。軋む関節。
身の丈をゆうに超える漆黒の重い大剣を、紫色の泥濘へと深く突き刺す。
それを唯一の支えにして、千切れそうな四肢を強引に前へ踏み出した。
[Sensual]
間一髪、落下する少女の身体を、その腕で受け止める。
[Impact]ドゴォン![/Impact]
凄まじい衝撃がアルス・クロイツの両腕を襲い、胸の骨をひび割れさせる。
泥の中に二人の身体が叩きつけられ、何度も転がり、やがて密着するように重なり合った。
少女の汚れなき白銀の髪が、アルス・クロイツの頬を濡らし、かすかに擽る。
純白の鎧の下に秘められた、豊かな胸の膨らみが、彼の硬い革鎧に押し付けられた。
[/Sensual]
白く繊細な肌に走る、数本の切り傷。
その腕の中の少女、リィネ_ヴァイスは、震える碧眼をわずかに動かした。
[A:リィネ_ヴァイス:絶望]「……なぜ、私(わたくし)を助けたのですか」[/A]
リィネ_ヴァイスの唇から、血の混じった白い吐息が力なく漏れ出た。
[A:リィネ_ヴァイス:絶望]「私は、邪神を封じるための贄。ただの道具として、ここで死なねばならなかったのに……」[/A]
その深い湖のような瞳には、自分の命に対する執着が、何ひとつ見当たらない。
神殿の教えに呪われた、人形のような、あまりに平坦で冷え切った声。
アルス・クロイツの身体の奥底で、煮えたぎるマグマのような衝動が激しく弾けた。
[A:アルス・クロイツ:怒り]「死ぬのが神の意志だって? ざざけんな!」[/A]
アルス・クロイツは、泥だらけになった彼女の胸ぐらを、力任せに掴み上げた。
[Tremble]掴んだ拳が、全身の痛みに耐えるように、激しい怒気で震える。[/Tremble]
[A:アルス・クロイツ:怒り]「俺もお前も、あの裏切り者の顔面に一撃喰らわせるまで、絶対に死なせない!」[/A]
[Shout]「生きるんだよ! 泥水をすすってでもな!」[/Shout]
荒々しく、しかし泥の底に咲く炎のように生々しい生の熱。
その絶叫が、リィネ_ヴァイスの凍りついた碧眼を貫き、初めて小さく揺らした。
[A:リィネ_ヴァイス:驚き]「あ、あな、たは……」[/A]
言葉を交わした、その一瞬。
[Flash]周囲の闇の奥で、無数の赤い眼光が一斉に灯った。[/Flash]
ずるり、ずるりと、巨大な肉体が引き摺られる不快な音。
奈落の最下層に巣食う魔獣たちが、生者の血の匂いを敏感に嗅ぎつけ、じわじわと迫っていた。
第二章: 極限の共闘、剥がれ落ちる仮面

[Flash]火花が闇を裂く。[/Flash]
アルス・クロイツは、大剣を泥濘から引き抜き、迫る異形の顎を容赦なく薙ぎ払った。
噴き出した緑色の酸性体液が、彼の乱れた黒髪と頬を冷たく濡らす。
背後に立つリィネ_ヴァイスの白銀の髪が、激しい戦闘の突風に煽られていた。
[A:リィネ_ヴァイス:冷静]「神の光よ、我が盾となりて仇なす闇を払わん……《ホーリー・ヴェール》!」[/A]
[Magic]純白の障壁[/Magic]が瞬時に展開され、魔獣の鋭い爪を弾き返す。
背中をぴったりと合わせ、互いの張り詰めた呼吸を感じ取っていた。
[Think]こいつ、ただ守られるだけの、柔な聖女じゃねえな。[/Think]
極限の窮地。二人の呼吸は完全に重なり、ひとつの生命体のように機能し始める。
だが、奈落の最下層に蠢く群れの、執拗な猛攻は止まることを知らない。
突如、アルス・クロイツの背後から温かい支えが消え去った。
リィネ_ヴァイスの身体が、甲冑の擦れる乾いた音と共に泥水に沈む。
[A:リィネ_ヴァイス:恐怖]「……あ、魔導回路が……魔力が、空っぽに……」[/A]
彼女の碧眼が、魔力の完全枯渇に伴う全身の痙攣に、細かく、怯えるように震える。
眼前に迫る、牙を剥いた巨大な影。
アルス・クロイツは、犬のように鋭く舌打ちを響かせた。
[A:アルス・クロイツ:冷静]「ちっ、つべこべ言わずに、俺の魔力を持っていけ!」[/A]
大剣で迫る影をねじ伏せ、アルス・クロイツは彼女の身体を強く引き寄せた。
[Sensual]
冷たく湿った洞窟の暗がりに、重い衣擦れの音だけが異様に響く。
アルス・クロイツは少女の華奢な肩を両手で掴み、その温かい胸へと力強く抱き寄せた。
聖騎士の硬い甲冑越しでも、彼女の柔らかく豊かな肉体の熱が、生々しく伝わる。
傷だらけの無骨な手がリィネ_ヴァイスの首筋に深く触れ、指先から無属性の魔力を直接流し込む。
[Pulse]二人の心臓の鼓動が、お互いの存在を確かめ合うように同調し始める。[/Pulse]
[A:リィネ_ヴァイス:絶望][Tremble]「あ、あ、熱い……。私の身体の中に、何が流れ込んで……っ」[/Tremble][/A]
[A:アルス・クロイツ:冷静]「黙って受け取れ! これが、俺の《無限の魔力変容》だ!」[/A]
[/Sensual]
注ぎ込まれる、無属性の剥き出しの魔力。
その圧倒的な生の奔流に、リィネ_ヴァイスが被っていた高潔な仮面が、音を立てて砕け散る。
耐えていた彼女의 碧眼から、堰を切ったように大粒の涙が溢れ落ちた。
[A:リィネ_ヴァイス:絶望][Tremble]「怖い……! 本当は、死にたくありません……!」[/Tremble][/A]
[A:リィネ_ヴァイス:悲しみ]「お父様も、教皇様も、みんな私を捨てたのに……! 誰も、一人の人間として私を見てくれなかった!」[/A]
[A:リィネ_ヴァイス:愛情][Shout]「あなたと……あなたと一緒に、生きたいです……!」[/Shout][/A]
泥に汚れた純白の神官服を強く握りしめ、アルス・クロイツの胸に顔を埋めて子供のように泣きじゃくる。
アルス・クロイツは、その小さな、けれど確かに生きている背中を、決して離さない強さで抱きしめ返した。
[A:アルス・クロイツ:愛情]「生かしてやる。お前が死にたくねえなら、その命、俺が全部背負ってやるよ」[/A]
[Impact]「だから、俺の手を二度と離すな」[/Impact]
二人の魔力が、絡み合い、溶け合い、ひとつの奔流へ。
[Flash]黄金のまばゆい閃光が、奈落の最下層を昼間のように照らし出した。[/Flash]
放出された爆発的な魔力波が、群がる魔獣の身体を光の粒子へと変えて消滅させる。
しかし、その光が照らし出した壁面を見て、アルス・クロイツの琥珀色の瞳が険しく細められた。
[A:アルス・クロイツ:驚き]「……おい、なんだ、これは」[/A]
転がる魔獣の裂けた皮膚。そこから覗いていたのは。
生々しい肉と同化した、錆びついた帝国の魔導刻印と、剥き出しの鋼鉄の人工骨格。
それは、彼らが戦っていた魔獣の正体が、帝国が造り出した人工兵器の成れの果てだという事実を物語っていた。
第三章: 邪神の胎動、奈落からの進撃

奈落の最深部、異形の魔方陣が血のように赤く輝く祭壇。
その中心で、陽炎のように不気味に揺らめく立体映像が浮かび上がる。
長い漆黒の髪をハーフアップにし、血塗られた紅い双眸を持つ男、ヴェノム・ガイアスだった。
漆黒の鋭いトゲが幾重にもそびえる鎧を纏い、男は酷薄な唇を歪めて嘲笑う。
[A:ヴェノム・ガイアス:冷静]「生きていたか、アルス。だが、それもすべて私の計画の内だ」[/A]
[A:ヴェノム・ガイアス:狂気]「その聖女の絶望と涙こそが、邪神の封印を完全に解く、最後の触媒なのだからな」[/A]
[Glitch]ホログラムが不気味に歪み[/Glitch]、男の歪んだ笑い声が洞窟の天井に反響する。
大地が激しく揺れ、赤い魔方陣が心臓のように不気味に脈打ち始めた。
リィネ_ヴァイスの白銀の髪が恐怖に激しく揺れ、透き通る碧眼から再び生気が失われかける。
だが、その細く冷え切った手首を、泥と血に汚れたアルス・クロイツの手が、痛いほどの力で握りしめた。
[A:アルス・クロイツ:怒り]「あいつの思い通りにはさせない」[/A]
[Impact]「リィネ_ヴァイス、お前の光と、俺の闇を混ぜ合わせろ」[/Impact]
[A:アルス・クロイツ:興奮]「神がこの世界を滅ぼすって言うなら、俺たちが神を殺す剣になるだけだ」[/A]
アルス・クロイツの琥珀色の瞳が、不屈の闘志でぎらぎらと燃え上がっている。
リィネ_ヴァイスは息を呑み、そして、涙の滲む目元を、聖女の気高さではなく、一人の女としての意志で拭った。
彼女の白く、冷え切っていた顔に、すべての呪縛から解き放たれた満面の笑みが咲く。
[Sensual]
[A:リィネ_ヴァイス:愛情]「はい、アルス。私の命も、心も、すべてあなたに捧げます」[/A]
指先が固く、一本ずつ絡み合い、互いの肌がこれ以上ないほどぴったりと密着する。
極限まで高まった純白の神聖魔力と、アルス・クロイツの荒々しい無属性の闇の魔力が混ざり合う。
[Pulse]二人の身体が熱く脈打ち[/Pulse]、魂の境界線すら融解していくような心地よさに包れる。
[Magic]《無限の魔力変容》[/Magic]が、世界を揺るがす黄金の熱量へと完全に昇華した。
アルス・クロイツの手にする漆黒の大剣が、神聖な金色の烈光を纏い、凄まじい咆哮を上げながら鳴動する。
[/Sensual]
[Impact]神殺しの魔剣。[/Impact]
究極の破壊を秘めた金色の刃が、最深部の闇を完全に切り裂いた。
[A:アルス・クロイツ:興奮][Shout]「跳ぶぞ、リィネ_ヴァイス! 振り落とされるなよ!」[/Shout][/A]
[A:リィネ_ヴァイス:愛情]「どこまでも、あなたと共に!」[/A]
黄金の眩い光球となった二人は、奈落の底を爆音と共に踏み抜いた。
重力を置き去りにし、最上層の地上、帝都大聖堂へ向けて垂直に大跳躍する。
[Flash]その瞬間、帝都大聖堂の巨大な天窓が、内側から粉々に砕け散った。[/Flash]
五色のステンドグラスが、きらきらと光る硝子の刃となって、地上に降り注ぐ。
まさに儀式を完遂せんとしていた本物のヴェノム・ガイアスが、信じられないものを見るように頭上を仰ぎ見る。
煙と黄金の煤を纏い、二人は光の弾丸となって、その眼前に大激突した。
第四章: 神殺しの夜明け、そして二人は

[Flash]硝子の雨が、大聖堂の石畳に冷たく降り積もる。[/Flash]
硝子の破片が朝日の光を乱反射する中、ヴェノム・ガイアスは紅い双眸を驚愕に見開いた。
[A:ヴェノム・ガイアス:恐怖][Tremble]「奈落の底から、這い上がってきたというのか……!? あり得ん、あの深淵から生きて戻った者などいない!」[/Tremble][/A]
狂気と焦燥に染まった咆哮。
ヴェノム・ガイアスは、床からうごめく邪神の黒い触手を操り、無数の黒い棘を二人に向けて放つ。
[A:リィネ_ヴァイス:冷静]「神が私を人柱と定めたなら、私は今この瞬間、その神を否定します!」[/A]
[Magic]《アーク・サクラメント》[/Magic]
リィネ_ヴァイスの白銀のロングヘアが光り輝き、展開された極大の神聖結界が邪悪な影を完璧に遮断する。
[Impact]完全無効化。[/Impact]
激突する光と闇の余波の中、アルス・クロイツはすでに地面を鋭く蹴り、爆音と共に疾走していた。
瞬き一つの間に、ヴェノム・ガイアスの懐へと踏み込む。
その手には、眩い金色の神聖な烈光を放つ、神殺しの魔剣。
[A:アルス・クロイツ:怒り]「これが、お前がゴミのように使い捨てた俺たちの力だ!」[/A]
[Shout]「消え失せろ、ヴェノム・ガイアス!」[/Shout]
[Flash]黄金の閃光が大聖堂の広大な空間を縦に両断する。[/Flash]
アルス・クロイツは大上段から、魔剣を渾身 of 力で振り下ろした。
ヴェノム・ガイアスの堅牢な漆黒の甲冑が、紙のように易々と一刀両断される。
彼の野望と共に、肉体に宿っていた邪神の赤黒い核が、黄金の光の中で粉々に粉砕されていった。
[Glitch]「ば、かな……この私が、弱者の、はずの、お前たちに……」[/Glitch]
消滅する宿敵の背後から、大聖堂の廃墟に一筋の、どこまでも美しい朝陽が差し込んだ。
邪悪な瘴気がゆっくりと浄化され、世界が本来の透き通った空気を取り戻していく。
満身創痍のアルス・クロイツは、大剣を支えに深く、長く、息を吐き出した。
そこへ、白銀の髪を美しくなびかせた聖女が、汚れを気にもせず飛び込んでくる。
[Sensual]
リィネ_ヴァイスはアルス・クロイツの首筋に両腕を回し、壊れそうなほど強くその胸に抱きついた。
[Pulse]トクトクと、互いの生きている証が、重なる肌を通して直接伝わる。[/Pulse]
甲冑の冷たさと、それを上回る彼女の柔らかく、熱い、一人の女としての体温。
[A:リィネ_ヴァイス:愛情][Tremble]「やりましたね、アルス。私たちは、本当に……本当に生き残りました……!」[/Tremble][/A]
[A:アルス_クロイツ:照れ]「おい、痛えよ、そんなに強く抱きつくな……。まだ骨が響くんだよ」[/A]
口ではぶっきらぼうに文句を言いながらも、アルス・クロイツは傷だらけの手で、彼女の白銀の頭を優しく、愛おしそうに撫でた。
[/Sensual]
[A:アルス・クロイツ:愛情]「ああ、お前のおかげだ。これからは、二人でどこまでも行こう。誰の指図も受けずにな」[/A]
[A:リィネ_ヴァイス:愛情]「はい。あなたの行く場所が、これから私の歩む世界です」[/A]
二人は固く手を取り合い、大聖堂の瓦礫の隙間から、新しい世界への一歩を踏み出した。
差し込む朝日は、美しく寄り添い合う二人の影を、永遠を描き出すように長く伸ばしていた。