第1章:百日後の審判、あるいは瓦礫の上の宣戦布告

けたたましく、世界を破裂させるような爆音。
鼓膜を容赦なく震わせる、金属同士が激突した断末魔の悲鳴が響き渡った。
学園の権力の象徴であり、豪華絢爛を極めた大講堂の巨大なステンドグラス。それが、内側から爆発的に粉砕された。
無数の色ガラスが、きらびやかで、かつ冷酷な光を不規則に反射しながら、まるで血を吸った極彩色の雪のように降り注ぐ。
会場を支配していた、おざなりなざわめきすら一瞬で消え失せた。
そこに集まった三千人の全校生徒の視線が、ただ一点、瓦礫の中に立つ影へと縫い付けられる。
最前列。
どろりとした赤黒い血だまりの中で、ピクリとも動かなくなった黒い制服の風紀委員たち。
その凄惨な中心で、引き裂かれ、ボロボロになった制服を乱暴に着崩した一人の少年が静かに立っていた。
無造作に伸びたボサボサの黒髪。
長い前髪の隙間から覗くのは、すべてを嘲笑し、世界を呪うかのような、狂気を孕んだ鋭い三白眼だ。
首元には生々しく痛々しい火傷 of 痕、そして荒々しく無造作に貼られた剥がれかけの絆創膏。
少年――神代 零は、薄汚れた鉄板入りの靴の裏で、かつて誰も触れることすら許されなかった大講堂の演説台を、これ見よがしに、無慈悲に踏みつけた。
[A:神代 零:狂気]「よぉ、特権階級のクソエリートども。飼い慣らされたぬるま湯の味はどうだ?」[/A]
零は乾いた喉をけだるげに鳴らし、大げさに肩をすくめて、歪んだ笑みを浮かべる。
黒いネクタイは極限まで緩められ、引き裂かれたシャツの裾はだらしなくベルトの外へと放り出されていた。
彼の右手に固く握り締められているのは、純白のシルク生地に金糸で豪華な刺繍が施された、ちぎれた腕章。
この狂った学園都市において、神と同義である生徒会長、天条 瑠璃の絶対的な権力の象徴。
[A:神代 零:狂気]「そのへどが出るほど薄っぺらい常識、いまここで俺がへし折ってやるよ」[/A]
大講堂を取り囲むように配備された武装風紀委員たちが、一斉にチタン製の警棒をガチリと構え、ジリジリと距離を詰めていく。
張り詰めた静寂の中で、金属同士が擦れ合う微かな、しかし心臓を締め付けるような音が響いた。
だが、零の暗い瞳に怯えの色など一滴も存在しない。
むしろ、不敵に歪んだ口角からは、体内の熱を全て吐き出すような熱い呼気が、白く漏れ出している。
[A:神代 零:興奮]「ここからが、俺たちの本当の卒業試験だ。この狂った学園の分厚いルールブック、今日ここで俺が、残さず丸ごと燃やしてやるよ」[/A]
[Flash]パツン[/Flash], とスピーカーから何かが不気味に弾ける電子音が響き渡った。
その瞬間。
学園都市すべての人工照明が、一斉に、何の前触れもなく掻き消える。
一切の光が失われた、心臓の音すら吸い込まれそうな真の暗闇の中で、少年の低く昏い笑い声だけが、冷たい闇に深く溶けていった。
なぜ、最底辺のゴミと嘲笑された少年が、絶対の頂点にその牙を届かせることができたのか。
時計の針は、全ての始まりとなった百日前の、あの狂気的な編入式へと、血の記憶を辿りながら急速に巻き戻っていく。
第2章:深淵の底、泥水をすする家畜たち

時計の針は、百日前のあの日へと遡る。
私立エデンズ・ハイ学園。
そこは、実力至上主義という名の狂った天秤を用い、生徒たちを傲慢な「王侯貴族」と、虐げられる「家畜」に仕分ける巨大な人工学園都市。
編入生として足を踏み入れた、最底辺カースト『Z組』の教室。
そこは、重い埃とカビの鼻を突く悪臭が充満する、文字通りのスラムそのものだった。
蜘蛛の巣の張った割れた窓ガラスからは冷たいすきま風が容赦なく吹き込み、脚の折れかかった腐りかけの木製机が無残に並んでいる。
生徒たちの瞳は完全に濁りきり、生きるための生気を完全に失っていた。
上位クラスからの日常的な暴力と、システムによる搾取に、ただただ息を潜めて耐えるだけの日々。
この学園の絶対法則において、Z組はポイントを際限なく吸い上げられるだけの「家畜」に過ぎない。
教室の扉が、凄まじい音を立てて乱暴に蹴り開けられた。
入ってきたのは、一糸乱れぬ漆黒の制服に身を包んだ、姿勢の良すぎる男。
銀縁の細い眼鏡の奥から、虫ケラを見るような冷酷極まりない視線を放つのは、風紀委員長、御堂 筋。
彼は右手に握った除菌スプレーを、まるで害虫駆除でもするかのように教室中に撒き散らし、不快そうに眉をひそめた。
[A:御堂 筋:冷静]「あぁ……汚い。やはり、底辺の匂いはひどく吐き気がする。……さぁ、おぞましい消毒の時間ですねぇ」[/A]
御堂は一切の躊躇なく、最も近くにいた男子生徒の髪を乱暴に掴み上げ、その脳天にチタン製の頑丈な警棒を振り下ろした。
ドカッ、という鈍い打撃音。
冷たいコンクリートの床に崩れ落ち、血を流して痙攣するクラスメイト。
誰もが恐怖にすくんで目を背け、嵐が過ぎ去るのを祈る中、ただ一人だけ、気だるげに動いた影があった。
[A:神代 零:冷静]「アンタの履いてるそのピカピカの靴、泥より薄汚ぇな。権力に媚びへつらう、哀れな犬の匂いがプンプン染み付いてるぜ?」[/A]
長い前髪を指先でかき上げ、零が御堂の前にゆっくりと立ち塞がった。
その三白眼には、明確な、そして深い嘲笑の光が宿っている。
完璧にコントロールされていた御堂の額に、ドス黒い青筋がピキリと浮かび上がった。
[A:御堂 筋:怒り]「身の程を知りなさい、汚物が」[/A]
キィンと空気を切り裂き、御堂のチタン製警棒が零の脳天を目がけて一直線に振り下ろされる。
だが、避けない。
零は常人離れした動体視力でその軌道を見切り、あえてその一撃を、肉の盾である手のひらで真っ向から受け止めた。
[Impact]グシャリと、肉が破裂するような凄まじい衝撃音。[/Impact]
骨がミシミシと悲鳴を上げる音が響くが、零の表情はピクリとも、眉一つすら動かない。
まるで痛覚という機能が最初から欠落しているかのように、ニヤリと赤く染まった唇を吊り上げる。
[A:神代 零:狂気]「なんだよ、その程度かよ。蚊に刺されたほども痛くも痒くもねぇな」[/A]
御堂が予期せぬ狂気に息を呑んだ、その瞬間。
零は一歩前に踏み込み、自らの硬い額を、御堂の美しい鼻面に渾身の力で叩き込んだ。
骨と骨が衝突する強烈な頭突き。
[Flash]ゴッ[/Flash]と脳を揺らす鈍い音が響き、御堂の銀縁眼鏡が歪んで遥か彼方へと吹き飛ぶ。
ドバッと鮮血を噴き出し、鼻を押さえて無様に後退する風紀委員長を見下ろし、零は水を打ったように静まり返る教室で、冷たく言い放った。
[A:神代 零:冷静]「今日から、俺がこの掃き溜めの王だ。文句がある奴は、いつでもまとめてかかってこい」[/A]
死んだ魚のようだったZ組の生徒たちの瞳に、小さな、しかし消えることのない熱い反逆の火が、確かに灯り始めた。
底辺からの容赦なき反逆劇が、今、産声を上げたのだ。
第3章:電脳の楔、最底辺からのシステムジャック

学園最大の資金源であり、一発逆転のカースト変動を促す『創立記念祭』。
だが例年通り、Z組はイベント開始前から上位クラスによる執拗な嫌がらせを受け、天文学的な額の借金ポイントを背負わされていた。
しかし、零の瞳に焦りの色はこれっぽっちも存在しない。
裏庭の隅に佇む、薄暗い資材置き場の物置小屋。
山積みにされたジャンクパーツと配線コードの隙間で、小さな影が猛烈な速度でキーボードを叩き続けている。
鮮やかなピンク色のショートボブを無造作に揺らし、ダボダボのオーバーサイズパーカーから細い指先だけを覗かせた少女。
星乃 奏。
彼女は眠たげな紫色の瞳で何枚ものモニターを見つめ、小さな口に咥えたストロベリー味の棒付きキャンディを、ちろりと転がした。
[Sensual]
零は音もなく奏の背後に回り込み、その壊れてしまいそうなほど華奢な肩を、優しく抱き寄せるようにして引き寄せた。
彼の熱を帯びた硬い指先が、奏の露出した冷たい首筋へとそっと、愛おしむように触れる。
奏の細い呼吸が、一瞬だけ熱く止まった。
[A:星乃 奏:愛情][Whisper]「ゼロ先輩……ん、あったかい。……ボクのこと、絶対に置いていかないって、もう一回言って?」[/Whisper][/A]
[A:神代 零:冷静][Whisper]「置いてくわけねぇだろ。俺の背中を預けられる相棒は、世界中でアンタだけだ、奏」[/Whisper][/A]
零が低く掠れた声で囁き、彼女の柔らかい耳元へと唇を極限まで寄せる。
奏の白い頬が、一気に熱を帯び、淡い桃色へと染まっていく。
[Pulse]ドクン、ドクンと、張り裂けそうな熱い鼓動[/Pulse]が、彼女の薄い胸の奥で大きく跳ねた。
彼女はとろけるような熱い瞳で零を見上げ、愛を証明するかのように、キーボードを力強く叩きつける。
[/Sensual]
[A:星乃 奏:冷静]「ボクの電脳の目は、隠された世界の真実をすべて暴く神の目だよ。……バックドアの構築、100パーセント完了、かも」[/A]
華やかな特設ステージの上。A組の特権階級に属するエリートたちが、Z組からさらにポイントを搾り取ろうと、傲慢な笑みを浮かべてほくそ笑んでいた。
まさにその瞬間。
学園中に設置された無数の巨大電子掲示板が、激しい不協和音のノイズと共に、強制的にハッキングされた。
[Glitch]ビビッ……ジジジジッ……ザーーーッ[/Glitch]
スピーカーから嫌な音が響き、画面に映し出されたのは、A組が生徒会と癒着して過去数年にわたり行ってきた不正なポイント操作と、汚職まみれの裏帳簿のデータだった。
どよめきとざわめきが、津波のように会場を侵食していく。
パニックに陥り、顔を青く染める上位クラスの連中を遮るように、奏の放った凶悪な電脳ウイルスが牙を剥いた。
A組が保有していた莫大なポイントが、一秒ごとに、凄まじい速度でZ組の端末へと強制転送されていく。
[A:神代 零:狂気]「おいおい、偉大なる特権階級様が、そんなに青ざめてどうした? これは俺たち家畜からの、ささやかなお布施の返還だぜ。ありがたく受け取れよ」[/A]
零が右手を高く掲げた合図と共に、奪い返したポイントで武装したZ組の生徒たちが獣のような咆哮を上げた。
これまで数年間、踏みつけられ、奪われ続けてきた屈辱を晴らすように、彼らはA組のきらびやかな模擬店を物理的に破壊し、容赦なく粉砕していく。
圧倒的なカタルシス。
搾取され、ただ耐えるだけだった者たちが、初めて王をその玉座から引きずり下ろした瞬間だった。
だが、その狂乱の光景を、遥か高みのバルコニーから冷徹な氷の青い瞳で見つめる美しい影があることに、彼らはまだ、気づいていなかった。
第4章:楽園の綻び、張り裂けた信頼と裏切りの雨

嵐の前触れは、いつだって、あまりにも静かに訪れる。
突然招集された、重苦しい空気が漂う全校集会。
厳重な警備の中、壇上に現れたのは、プラチナブロンドの長い髪を美しくなびかせた絶対女王、天条 瑠璃。
純白の特注制服を一切の乱れなく着こなし、彼女の左手にはめられた黒い革手袋が、奇妙な圧迫感を放っている。
彼女はマイクを手に取り、怜悧な微笑みをたたえた。
[A:天条 瑠璃:冷静]「底辺は這いつくばって泥をすする。それがこの学園の絶対にして不可侵の法則よ。……傷ついたシステムを正し、その法則を乱す裏切り者の処分もまた、厳格に行われます」[/A]
彼女が指をパチンと鳴らすと、背後の巨大スクリーンに、ある決定的な映像が映し出された。
静まり返る大講堂。
そこに映っていたのは、暗闇の中で風紀委員と密会し、重要なデータを手渡している星乃 奏の、怯えた姿だった。
[Impact]奏は、生徒会に弱みを握られた、冷酷な二重スパイだった。[/Impact]
絶句する零を前に、さらに瑠璃の冷酷な鈴の音のような声は、零の胸の奥にある、最も深く触れられたくない血の傷跡を無悲惨に抉り出す。
[A:天条 瑠璃:冷静]「神代 零。貴様の自慢の兄は、この学園の合理的なシステムに敗北し、自ら惨めに命を絶った。……ただの遺伝子レベルでの敗北者の血筋よ。違うかしら?」[/A]
[A:神代 零:怒り][Shout]「てめぇ……! 兄貴を、あの人を汚い口で侮辱するなッ!!」[/Shout][/A]
零が理性を失い、壇上へと飛び出そうとした、まさにその瞬間。
[Glitch]ビーーーッ[/Glitch]という耳を突き刺すような高周波の電子音が鳴り響き、零のスマートデバイスが音を立ててショートし、黒い煙を吹いた。
電波を遮断する、強力な電磁パルス。
奏の手元にあるハッキング端末も完全に沈黙し、彼女たちの反証の手段はすべて一瞬で絶たれた。
[A:天条 瑠璃:冷静]「本日この瞬間より、Z組に対する全学園生徒からの『無制限の武力行使』を公式に許可します。家畜の分際で牙を剥いた相応の罰を、その骨身に刻みなさい」[/A]
冷たい、容赦のない雨が、講堂の外でぽつりぽつりと降り始める。
信じられない思いで零が隣を振り返ると、そこにいたはずの奏が、ボロボロと大粒の涙をこぼしながら、崩れるように膝をついていた。
[A:星乃 奏:悲しみ][Tremble]「ごめん……ごめんなさい、ゼロ先輩……ボク、逆らえなくて……お母さんの薬が、生徒会に止められちゃうから……ボク、どうしたら……っ」[/Tremble][/A]
信じていた相棒の崩壊。
そして、命よりも大切だった兄の尊厳を踏みにじられた、圧倒的なまでの無力感。
Z組のクラスメイトたちの顔から、再びせっかく灯った光が消え去り、かつてよりも深い絶望の泥に染まっていく。
孤立無援。
冷たい雨の叩きつける音が、彼らの無様な敗北をあざ笑うように、世界に響き渡っていた。
第5章:血塗られた王座、地獄の底で灯る反逆の火

Z組の教室は、ボロボロの机や椅子、ロッカーを積み重ねて急造された強固なバリケードに囲まれていた。
外からは、他クラスの生徒たちによる下劣な罵声と、分厚い扉を力任せに叩き割ろうとする、不快で暴力的な音が何度も響いている。
血まみれになり、ただ部屋の隅で震えるクラスメイトたち。
再び、死んだ魚のような、諦めの目が教室を支配しようとしていた。
その絶望の充満する中で、全身に生々しい傷を負った零が、ゆっくりと、しかし確かな足取りで立ち上がった。
彼の三白眼には、絶望などこれっぽっちも、微塵も存在しない。
むしろ、歪んだ、どこか楽しげな笑みがその傷だらけの表情に深く刻まれていく。
[A:神代 零:狂気]「ハハ……笑えるな。たかが底辺のゴミ一つ、いや俺たち一匹を潰すのに、全校生徒で群れをなして束にならないと怯えて眠れねぇのかよ、あの高貴な女王様は」[/A]
零は首元にある火傷の痕を、爪が食い込むほど強く、自らの皮膚を引きちぎるように激しく掻き毟る。
そこから滲み出る赤い血が、彼のボロボロの制服をさらに汚していく。
[A:神代 零:冷静]「俺の兄貴は、システムに敗北して逃げたんじゃない。この狂った箱庭の外の真実を掴みかけ、システムの根幹に触れて……だから殺されたんだ。生徒会なんてのは、本当の黒幕に飼われてるただの首輪付きの犬、番犬に過ぎねぇんだよ」[/A]
零の声が、地を這うような深い低音で、しかし確実にその場にいる全員の鼓膜を、脳を震わせる。
彼の瞳の奥で燃え盛っているのは、復讐という名の、純粋極まりない烈火だった。
[A:神代 零:興興]「ルールがクソなら、ルールブックごと全部燃やせ! 奪われた尊厳は、奪い返して初めて自分のものになるんだよ! 明日、生徒会選挙の投票箱を、俺たちの血と、あいつらの青い血で染め上げてやるぞ!!」[/A]
[Shout]「おおおおおおおおお!!!」[/Shout]
死にかけていた獣たちが、ついに腹の底から咆哮した。
魂に直接、凶悪な、しかし最も熱い火をつけられたのだ。
そこへ、バリケードのわずかな隙間をこじ開けて、泥と血にまみれた、小さな影が這うようにして入ってきた。
全身ずぶ濡れになり、愛用のパーカーを無残に引き裂かれた星乃 奏だった。
彼女は床を這いつくばりながら、零の薄汚れた靴にしがみつく。
[Sensual]
[A:星乃 奏:愛情][Tremble]「ゼロ先輩……ボク、痛いの、本当に大嫌いだけど……でも、ゼロ先輩がいない世界は、生きてる意味が全然ないの。ボクの命も、この体も全部あげるから……もう一度、ボクをゼロ先輩の、相棒にして……お願い……っ!」[/Tremble][/A]
零は粗暴に屈み込み、奏の泥だらけの細い顎を荒々しく引き寄せると、彼女の言葉を奪うように、その震える唇を深く塞いだ。
[Pulse]深く、激しく、互いの唾液と、鉄の味のする血を混ぜ合わせる接吻。[/Pulse]
彼女が背負った裏切りの傷跡を、自らの狂気的な熱量で上書きし、焼き尽くすように。
[/Sensual]
[A:神代 零:狂気]「上等だ。地獄の底の果てまで、俺の都合のいい目になって働いてもらうぜ、奏」[/A]
第6章:消毒の終焉、肉を切らせて骨を断つ狂気

運命の生徒会選挙当日。
Z組の反逆者たちは、張り巡らされた防衛線を正面から力任せに食い破り、本校舎へと怒涛の突撃を敢行した。
豪華な大講堂へと続く、大理石で作られた大階段の前に、仁王立ちで立ちはだかったのは、一糸乱れぬ黒の制服を着た男。
風紀委員長、御堂 筋。
彼は、愛用しているチタン製の警棒を不敵に指先で弄び、眼鏡の奥の細い目をさらに細めた。
[A:御堂 筋:冷静]「また這い出てきましたね、薄汚いドブネズミども。まとめて私が、一滴も残さず消毒してあげましょう」[/A]
[Flash]ヒュンと風を切る、鋭く重い音。[/Flash]
御堂の放つ警棒が、人間解剖学に基づいた最も効率的で無慈悲な軌道を描き、零の急所へと吸い込まれるように迫る。
だが、零はその凶器を避ける動作をまったく見せなかった。
あえて自らの左肩を肉の盾として差し出し、チタンの先端を肉へと深く貫かせ、骨がゴリリと軋む最悪の音を響かせる。
[A:御堂 筋:驚き]「なっ……正気ですか!? わざと、攻撃を受けたというのですか……!?」[/A]
[A:神代 零:狂気]「あぁ、痛ぇよ。めちゃくちゃにな。だがな……お前らのその温室で育てられた、薄っぺらい痛みとはなぁ、重みが比べ物にならねぇんだよ!」[/A]
零は自らの左肩に深く突き刺さった警棒を、骨を軋ませながら右手でガッチリと掴んで固定し、さらに一歩、御堂との距離をゼロへと詰める。
御堂の端正で冷徹だった顔が、初めて本物の恐怖に歪んだ。
零はゴブッと喉の奥に溜まった生温かい血を、至近距離にいる御堂の純白の顔面目がけて、勢いよく吹きかけた。
[A:御堂 筋:恐怖][Shout]「……っ!? ひっ、汚い! 汚物が、ドブネズミの汚物が、私の、私の顔にぃぃぃッ!!」[/Shout][/A]
重度の潔癖症。
完璧なエリートとしての仮面が、自らの返り血と零の吐き出した血でドロドロに汚された瞬間、彼の理性は完全に崩壊した。
狂乱し、パニックを起こして顔を掻き毟りながらのけ反る御堂。
その完全に無防備となった首筋へ、零は全身のバネと体重を乗せた、泥臭く、しかし破壊力に満ちた回し蹴りを叩き込んだ。
[Impact]バキッ、という鈍い、硬い骨の破壊音。[/Impact]
御堂の細い身体は、大階段の頑丈な壁を激しく叩き割るようにして崩れ落ち、そのまま白目を剥いて失神した。
[A:神代 零:冷静]「お前が作った安物の消毒液じゃ、俺たちのドロドロに汚れた、だが熱い魂は絶対に洗い流せねぇよ」[/A]
零は失神した御堂の身体を踏みつけ、ついに最上階にある、生徒会室の重厚な装飾扉を豪快に蹴り破った。
その広い部屋の奥。
まるで玉座のような巨大な椅子に、天条 瑠璃が静かに、威然と腰掛けていた。
氷のように冷たい青い瞳が、全身血みどろで立つ零を、静かに見つめていた。
第7章:偽りの支配者、仮面の裏に隠された悲痛な涙

静まり返る生徒会室。
西側のステンドグラスから差し込む赤い夕日が、対峙する二人の影を、長く、赤黒く引き伸ばしていた。
じっと視線を交わす二人。
瑠璃はゆっくりと立ち上がり、黒い革手袋をはめた左手をゆるやかに、隙なく構えた。
[A:天条 瑠璃:冷静]「ここまで這い上がってきた執念だけは、褒めて差し上げますわ。ですが……ゴミが本物の王に勝てるなどという、子供じみた甘い幻想は、ここで捨てなさい」[/A]
[Flash]極限の、目にも留らぬ速さの肉弾戦。[/Flash]
完璧な帝王学と、あらゆる格闘技を極限までマスターした瑠璃の打撃は、精密機械のように正確無比で、零の肉体を容赦なく削り取っていく。
零の驚異的な耐久力をもってしても、一撃を喰らうごとに、脳の意識が遠のくほどの凄まじい衝撃。
しかし、零が全てを賭けた最後の一撃を放とうとした、まさにその瞬間。
[System]警告:中央エレベーターシャフトのロックが強制解除されました。地下最下層への強制移行シーケンスを開始します。[/System]
突如として、頑丈な大理石の床が地響きと共に真っ二つに割れ、底なしの闇へと沈み込んだ。
二人の身体は、制御を失ったまま、暗黒の地下世界へと急落下していく。
激しい衝撃と共に辿り着いたのは、冷たい鉄格子に四方を囲まれた、巨大な円形の地下闘技場だった。
その不気味な空間の中央に、一つの影が揺るぎなく立っている。
ボサボサの黒髪。首元の特徴的な火傷の痕。
そこにいたのは、零と、寸分違わぬ外見を持つ男――しかし、その瞳には光が一切なく、ただの冷徹な殺戮機械のように、虚空を見つめて佇んでいた。
[A:神代 零:驚き]「……兄貴? いや、違う。なんだよ、これは……いったい何の冗談だ……!」[/A]
上部の、分厚いガラス張りの監視室から、耳を塞ぎたくなるような、狂気に満ちた老人のおぞましい笑い声がスピーカーを通じて降ってきた。
この学園のすべての元凶、最高権力者である理事長の声だ。
[System]「素晴らしい、最高の人体実験データが揃った! 用済みの生徒会長、天条 瑠璃も、ついにその役目を終える時が来たな」[/System]
そこで、瑠璃のきつく結ばれた唇から、せきを切ったように悲痛な真実が溢れ出た。
彼女の美しい顔が、初めて、耐え難い苦痛に激しく歪む。
[A:天条 瑠璃:悲しみ][Tremble]「私は……この学園に集められた無力な生徒たちを、理事長の、あの狂った人体実験のモルモットにさせないために……! あえて自ら悪役を演じ、この歪んだ秩序を保つしかなかったのよ……!」[/Tremble][/A]
彼女が誰にも言えず、たった一人で抱え続けていた「嘘」。
自分が絶対的な恐怖の女王として君臨しなければ、ルールを外れた生徒たちは全員、理事長の暗い実験室で無残な屍にされていた。
その極限のストレスから重度の味覚障害になりながら、一人で、深夜の部室で激辛のジャンクフードを啜り、ただ孤独に耐え続けていた一人の少女の姿。
[A:天条 瑠璃:悲しみ][Blur]「私が悪役を演じ続けなければ……この学園は、とっくに無残な死体置き場になっていた……っ!」[/Blur][/A]
氷の女王の瞳から、一筋の熱い涙が、その黒い革手袋の上に、静かにこぼれ落ちて弾けた。
第8章:エデンズ・フォール、昨日までの宿敵と交わす絆

[A:神代 零:冷静]「……一人で何でもかんでも背負い込んで、本当にバカな女だ。そんなだから、深夜に激辛ラーメンばっか食うような、酷い味覚オンチになるんだよ」[/A]
零はゴホリと赤い血を吐き出しながらも、いつものように肩をすくめて、瑠璃の隣へと静かに並び立った。
瑠璃は慌てて涙を拭い、驚愕にその青い瞳を揺らす。
[A:天条 瑠璃:照れ]「貴様、なぜそのことを……! 本当に、どこまでも最悪な男ですわね」[/A]
[A:神代 零:狂気]「最悪同士、お似合いだろ。あのガラスの向こうにいるクソジジイに、俺たちの極上の辞表を叩きつけてやろうじゃねぇの」[/A]
昨日までの宿敵が、今は最強の背中を預け合う唯一無二の相棒となる。
理事長の手によって放たれた、零の兄のクローン兵が、猛然たるスピードで襲いかかってきた。
その常軌を逸した圧倒的な攻撃に対し、零の泥臭い耐久力と、瑠璃の完璧に磨き上げられた格闘術が、奇跡的な連携となって爆発する。
スピーカーから、奏のノイズ混じりの、しかし必死な声が強引に割り込んできた。
[A:星乃 奏:喜び][Glitch]「ゼロ先輩! システム、完全にハッキングして乗っ取った、よ! ボクの、大好きなゼロ先輩に、これ以上その汚い手で触らせない……ッ!!」[/Glitch][/A]
奏の神業的なハッキングにより、地下闘技場の防衛レーザーシステムが、クローン兵の動きをピンポイントで阻害し始める。
今、この瞬間、最底辺と絶対の頂点、そして電脳の悪魔が、確固たる一つの絆で繋がった。
[A:神代 零:興奮]「瑠璃! かつて兄貴が完成させられなかった、あの技、いくぞ!!」[/A]
[A:天条 瑠璃:興奮]「ふん、言われなくとも! 遅れずについてきなさい、零!」[/A]
二人は、互いの血に濡れた手を強く、壊れるほどに握り締め、体内の運動エネルギーを限界を超えて同期させていく。
かつて、零の兄が夢見て完成させられなかった、すべてを破壊する伝説の合体技。
[Magic]《エデンズ・フォール》[/Magic]
[Flash]凄まじい、視界を真っ白に染め上げる光の奔流。[/Flash]
限界を遙かに突破した二人の渾身の打撃が、クローン兵の屈強な重装甲を、内側から木っ端微塵に粉砕した。
その凄まじい勢いのまま、二人の重なった身体は防弾ガラスを突き破り、理事長が狂った笑みを浮かべていたコントロールルームへと一直線に突っ込む。
[A:神代 零:狂気][Shout]「これが、俺たち家畜と、孤独な悪役女王からの、痛烈な辞表だァァァァァッ!!!」[/Shout][/A]
零のすべてを乗せた拳が、理事長の醜く歪んだ顔面に炸裂した。
中枢サーバーが激しい火花を散らして完全に沈黙し、エデンズ・ハイを支配していた狂ったシステムが、今、完全に崩壊した。
第9章:朝焼けの残響、血染めの腕章に誓う再会
理事長は倒れ、狂ったシステムによる呪縛から、ようやく解放された学園。
しかし、暴走した地下実験施設の自動崩壊シーケンスは、もはや誰にも止めることはできない。
地響きのような轟音と共に、天井から巨大なコンクリートの塊や鉄骨が、次々と容赦なく降り注ぐ。
[A:天条 瑠璃:驚き]「施設が……もう、もたないわ……!」[/A]
瑠璃の頭上めがけて、数トンの巨大な鉄骨が高速で落下してくる。
戦いの負傷で足が動かない彼女の前に、一瞬の迷いもなく割り込んだのは、血まみれの黒髪の少年だった。
[Impact]ドスッ、という鈍く、重い、肉と骨が容易に潰れる音が響く。[/Impact]
[A:天条 瑠璃:絶望][Shout]「……零っ!!! 嘘……嫌よ、お願いだから目を開けなさい!!」[/Shout][/A]
零は、瑠璃の純白だった制服を、自らのどくどくと溢れ出る赤い血で染め上げながら、彼女の頭をポンポンと、いつも裏路地の野良猫を撫でるように乱暴に、しかし愛おしそうに撫でた。
その三白眼は、今まで見せたことがないほど、ひどく穏やかだった。
[A:神代 零:愛情][Whisper]「もう泣くなよ、女王様……。そんな顔、お前には全然似合わねぇぜ。……外の世界に出たら、美味い本物のラーメンでも、奢って……やるよ……」[/Whisper][/A]
その言葉を最後に、零の腕からふっと力が抜け、激しく崩落する床の裂け目へと、彼の上半身は深い、深い暗闇の底へと滑り落ちていった。
必死に手を伸ばした瑠璃の指先を、冷たい風だけが、むなしくすり抜けていく。
――数時間後。
澄み切った朝焼けの、どこか寂しげな赤い光が、瓦礫の山と化したエデンズ・ハイを静かに照らしていた。
生き残った生徒たちが、呪縛からの解放の喜びに涙を流し、互いの生存を確かめ合うように強く抱きしめ合っている。
その喧騒から遠く離れた、瓦礫の頂で。
天条 瑠璃は一人、泥だらけの地に力強く立ち尽くしていた。
彼女の細い左手には、血に染まり、ボロボロに引き裂かれた、神代 零の風紀委員の腕章。
プラチナブロンドの髪を、冷たい朝の風に揺らしながら、彼女はこぼれ落ちる涙を拭うこともせず、狂おしい、獰猛な笑みを浮かべた。
[A:天条 瑠璃:狂気][Tremble]「……ええ、約束よ、零。地獄の果てまで、世界の果てまで……どこに堕ちていようと、私が、絶対に見つけ出してあげるから……。待っていなさい、バカな男」[/Tremble][/A]
奈落の底へ消えた少年の生死は、誰にもわからない。
しかし、残された少女の瞳に宿る、狂気的なまでの執着と愛の火は、世界が滅びようとも、決して消えることはない。
燃えるような朝焼けの赤い光が、二人の新たな始まりを告げるように、静かに、そして残酷なまでに美しく、世界を照らし続けていた。